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連載
今こそ、今だからこそ5
しおりを挟む「この……っ、離しなさい!」
「これが一番安全なんだ! もう少し、もう少しで一番安全な場所に……」
暴れて何とかエドの腕の中から逃れようとするイクスラースだがエドの力は想像以上に強く、しかも抱えられた状態では有効な打撃すらも与えるのは難しい。
それに……エドがイクスラースを抱える力には、遠慮が無い。
ギリギリと締め付けるような力の強さにイクスラースは顔を小さく歪めつつも、なんとか逃れようと暴れ続ける。
だが、それはやはり無駄な抵抗だ。
階段を駆け上がり、扉を開けて。
何かに突き動かされるかのようにエドは走る。
まるで、本当にそうするのが正しいと信じ込んでいるかのような狂気。
「……まさか、貴方」
唐突に、イクスラースはその可能性に気付く。
……ありえない、と否定する。
ありえないわけではない、と肯定する。
だが、「まさか」と心がその可能性を拒否しようとする。
「あそこだ。あそこに行けば……!」
蹴破るようにして、エドが次の扉へ向かって走る。
他の扉とは違う、大きく立派な扉。
そこへ向けてエドは走り……しかし、突如足を止める。
此処が目的地というわけではない。
目的地は、あの扉の先。
しかし、それでもエドは止まらざるをえなかったのだ。
ギイン、と。
エドが先程通ってきたばかりの扉から、甲高い音が響く。
「な、なんだ……?」
ギイン、ギイン、と。
少しずつ感覚の短くなる音は、やがてギギギギイン、と絶え間ない音に変わっていく。
そして、その音が止んだかと思った瞬間……扉が、バラバラと崩れていく。
続いて響くのは、次元城の床を踏みしめる靴音。
カツン、カツンと響く音はそれ以外の音を許さぬかのように響き、先程まで何かに突き動かされるかのように走っていたエドが後ずさる。
そこにいたのは、ハーク……だけではない。
その前に立つのは、一人の男。
短めの金の髪と、強い意志を感じる青い目。
均整の取れた身体を包む濃紺のシンプルな衣装と、飾り気の無い鎧。
そして、その手にある一本の剣。
彼が誰であるか、西方軍所属であるならば知らないはずが無い。
「サン、クリード様……」
エドの口から、呟きが漏れる。
そう、そこにいるのは西方将たるサンクリードに他ならない。
その後ろにはハークが控えているが……自分ではどうにも出来なかった扉をなんでもない事であるかのようにバラバラにしてしまったサンクリードの手際に尊敬の眼を向けている。
「何故此処に、とでも言いたげだが」
「え、いえ、そんな……」
「別に驚くべき事ではない。通常の監視報告体制とは別のものが存在する。ただそれだけの話だからな」
当然の話ではある。
次元城の重要度もそうだが、前回のクロード襲撃時に警備の西方軍兵士が倒されたことに関連し、「緊急時の体制」の見直しが行われた。
この他にも「アルヴァ憑依体」の事も考え、各軍の将の直下となる特殊部隊の設立がなされていた。
その結果、動物型になれる魔人を中心に特に重要な現場を監視する役目を持つ部隊が出来たのだが……この次元城も、当然その範囲内であった。
故に、エドもハークも知らないのは当然であるがサンクリードにはイクスラースが来た時点で第一報が飛んでいる。
これは別にイクスラースを疑っているというわけではなく、元城主であったイクスラースと何らかの反応をするかもしれない……という予測に基づくものだ。
そしてそれは、結果的にサンクリードの現場到着を間に合わせる結果となった。
とはいえ、開かなかった入り口はすでに斬り飛ばしているのだが……修復されるというならば別に問題は無いだろうと考えて居たりもする。
「で、安全だのどうのと言っているようだが。俺が来た以上、俺の側が一番安全だ。ソレを渡してもらおうか」
「し、しかし……」
「どうした。俺の命令以上に優先するものなど、何処にある」
じりじりと後ずさるエドに、サンクリードが迫る。
明らかに気圧されているエドだが、その瞳に映る色は反抗ではなく困惑に近い。
「渡せ、エド。お前にはアルヴァ融合体の容疑がかかっている。そうでないというならば、渡せ」
「う、うう……で、できません。それに、俺はアルヴァなどでは……」
「何故できない。アルヴァでないならば俺に従えるはずだ。そして俺の側が安全だというのも理解できるだろう」
エドは息を荒くし、持っていた黒薔薇の剣を落とす。
それでもイクスラースは離そうとせず、むしろ力を強めて絶対に離すまいとする。
「違うんです。この先が一番安全なんです。だから連れて行かないと」
「それを実行する必要は無い。西方将である俺の命令だ。イクスラースを渡せ」
「出来ません……出来ません!」
「何故だ。理由があるなら言ってみろ。俺の命令に逆らう具体的な理由は何だ」
エドは、自分の頭を押さえる。
何かに苦しむかのように……苦悩するかのように。
「命令……そう、俺は命令通りに……そうだ、行かなきゃ。連れていか」
最後まで言い終わるその前に、サンクリードの拳がエドの鳩尾に叩き込まれる。
死なない程度の手加減をされて叩き込まれた拳の衝撃にエドはぐるんと白目をむき、その場に崩れ落ちる。
それでも最後までイクスラースのことは強固に離さず、エドが崩れ落ちた衝撃で「うっ」と小さな悲鳴をイクスラースがあげる。
しかし流石に、気絶したエドの身体からは僅かながら力が抜ける。
それでも無意識下での意地なのかイクスラースが抜けられない程度の力で抱えてはいたが……駆け寄ってきたハークの手によって、ようやくイクスラースはエドの手から逃れて立ち上がることが出来たのだった。
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