勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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魔王というもの5

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「……そう、ですか」

 過去の話を聞いていて、レルスアレナにも「それ」は充分に想像できた。
 恐らくは神殿騎士が出ようともダグラス自身が出ようとも、あの時の人類は止まらなかっただろう。
 そしてそうなれば、もたらされる結果は「最悪」に至る。
 そんな理屈は充分過ぎるほどに理解できている。
 だが、感情では納得できない。
 世界なんかよりも、自分達を救って欲しかった。
 そんな言葉をぐっと飲み込み、レルスアレナは次の疑問を投げかける。

「ダグラス様は……レプシドラの、エレメントの現状はご存知ですか?」
「あの「モンスターのエレメント」と呼ばれるモノのことならば知っている」

 ダグラスがそう言って指をパチンと鳴らすと、空に何処かの風景が浮かび上がる。
 それはどうやらレプシドラの街中のようであり……ファイアエレメントらしき人型の炎がぼうっと立ち尽くしている。

「あれはファイアエレメントと人類に呼ばれるモノだが……そもそも人類に属していたエレメントはあのようなモノではない」

 そう、人類に分類されるエレメントはああいうものではなく、青白く半透明の人型のようなものだ。
 何かの自然的現象を想起させるような姿をしているものなど、一人もいなかった。

「そして魂の話でいえば……お前の姉のような例外を除き、全てのエレメントの魂は命の流れへと帰っている。故に、今世界中にいる「モンスターのエレメント」達は本来の意味で言えば人類のエレメントとは全く関わりの無い生命体だ」

 それを聞いて、レルスアレナはあの日モンスターエレメント達がイクスラースに言った言葉を思い出す。

 我等の身体は、すでに滅びたり。
 我等の魂は、すでにここには在らず。
 貴方の知る我等は、すでに知らぬ何者かになれり。
 身体は滅び、魂は消え、この身は世界を巡る呪いと成り果てた。

 それをその言葉通りに理解するのであれば、確かに彼等は「人類のエレメント」ではない。
 だが、すでに居ない彼等には確かに「人類のエレメント」としての意思があった。

「俺にも正確なところは分からぬ。あのモンスターエレメントは「人類のエレメント」とは違うが、限りなく似ている存在とでも言うべきか……。いや、そもそも「モンスターエレメント」という呼称すらも適当ではないな。アレは単なる現象なのだから」

 モンスターであるならば、そこには魂が存在する。
 しかし、モンスターエレメントには存在しない。
 ならばモンスターエレメントは「生命」ではないということだ。

「……そうだな。言ってしまえば、アレは人類から見たエレメントの姿といったところか。いわば、エレメントを滅ぼしつくすほどの強烈な想念が世界の魔力に呼応し、そうしたモノを顕現させたのだ」

 つまり、歪神ウェンタスと同じだ。
 それでも、歪神ウェンタス程の強さは持っていない。

「……意思があったモノもいたようだが?」
「それは、この地に残留していたエレメント達の魔力から成った個体だったからだろう。それでも奇跡的なものと言えるがな」

 問いの答えに、ヴェルムドールは成る程と頷く。
 そもそも全ての生命体には命の種を中心とした魂があり、その魂は肉体に強く影響を与えている。そして肉体もまた、魂に影響を与えている。
 つまり肉体には魂、そして魂の記録する記憶や感情といった情報がどの程度かは分からないが存在するということになる。
 そしてエレメントのような魔力体の場合、その伝達率はダイレクトになる分高くなる。
 更に言えば魔力体であるエレメントが死んだ際は、その身体を構成する魔力は周囲へ散らばるが……その魔力は元々エレメントの身体であり、そこには先述した「情報」が保存されているということになる。
 それは本人とは言い難い「欠片」ではあるが……それをモンスターエレメントが取り込んだ時、その中には確かに死んだエレメントの記憶や感情が一部でも存在することになる。
 そこからあのように「人格といえるものを持ったモンスターエレメント」になる可能性は……決して高くはないだろう。
 だが、それでも彼等は其処に居た。
 それはダグラスの言うとおり、「奇跡的」なものであったのだろう。

「魔力の淀みというもの自体は、世界から消えることは無い。故に、それから生まれるアレ等も消えることは無い」
「……ダグラス様にも、どうにも出来ないのですか」
「先程も言ったが、アレはお前の同胞であったエレメント達とは違うモノだ。エレメントと呼称されること自体が間違いではあるのだが……それはもはやどうにもなるまい。たとえば各地で神の言葉として新たな呼称を告げた所で、それは定着するまい」

 定着した名称とは、中々に変え難いものだ。
 たとえばここで、モンスターのエレメントはマジックソウルである……と決めたとしよう。
 当然、公式名称はそれに切り替わる。神の言葉である以上、それは速やかに行われるだろう。
 しかし定着はしない。違いすぎるからだ。
「いわゆるエレメント」だとか、「エレメント」などという名称が結局人の口には言いやすく、新たな名称は違和感しか招かない。

「……さて、他に聞きたい事はあるか」
「で、では。以前、領域に踏み込んだ時にお姿を見せてくださらなかったのは……」

 レルスアレナの質問に、ダグラスは一瞬だけ凶悪な笑みを浮かべる。

「ああ、アレか。あの勇者はダメだ。ああいうタイプは俺の試練には耐えられん。故に必要最低限のものを与えた。それに……何も知らぬ馬鹿に大上段でモノを言われて、うっかりブチ殺してしまったら困るだろう?」

 それは、ダグラスが「元魔王」であった事を伺わせる……実に獰猛な笑みであった。
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