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アルム、頑張る4
しおりを挟む「なんだ、モカかよ……何してくれやがんだ」
うえー、と言いながらもリンゴを飲み込んだオルエルに、モカは明るく笑いながら答える。
「えー? 何って。オルエルの貧しい舌に人気の甘味を味わわせただけじゃないですか」
「うーるせぇよ。甘いの食ってりゃ最先端ってわけでもなかろうが」
「それはどうかなー。輸入モノで構成されたこの果実盛り合わせこそ、今ザダーク王国の最先端を突っ走る食べ物ですよ? まあ、向こうじゃ珍しくも無い食べ物ですけど」
言いながらモカは木匙でオレンジ色の果物をすくうと口に入れる。
何処か懐かしそうな……そんな遠い目をしているモカに、オルエルはモカの成り立ちを思い出す。
「ああ、そうか。そういやお前、人類共の文化知ってるんだっけか」
「んー、まあ昔のですけどねー」
モカはそもそも、「動く絵」とも呼ばれるタイプの魔族だ。
漂着した暗黒大陸で生を終えることになった芸術家の青年が遠い恋人を想って描いた「ただの絵」だったはずが魔力を吸収して変異、魔絵画へと進化したものだ。
青年の知っている「恋人」に関する知識がコピーされたモカは、当然青年が知る範囲や想像する範囲で「恋人」が知っている人類社会の知識を持っていた。
文化に関しては当時と今では大分違う。
たとえばモカの着ている服は「当時」のものであり、今となっては骨董品といってもいいようなデザインや仕立てだ。
しかし、果物は長い年月がたとうと簡単に変わるものではない。
「ま、こうしてこっちの大陸にもこういう果物が入ってきて、普通に食べられるんだもの。凄い時代ですよね」
「まあなあ……て、そういやお前今日仕事は休みか?」
「そですよー」
この時間であればいつもならモカは観光案内で忙しくしているはずだが、此処で暇そうに果物を食べているということは聞かずとも「そういうこと」ではある。
最先端などといったところでそれは「ザダーク王国で」の話なのだから、観光で連れてくるはずも無い。
観光とは自分の土地にはない文化を求めて来るのであって、自国にもあるモノを求めているわけではないからだ。
故にモカがこんな所にいるという事は、それすなわち非番ということなのである。
「今日は観光はお休み。ていうか例の大侵攻の話もあるでしょ? あれが本格化してきたら、しばらく観光も中止になるんじゃないですかねー」
「あー……まあ、仕方ねえだろうな」
別に市民生活に影響を及ぼすようなものではないが、大陸規模での大きな軍事行動だ。
当然普段通りというわけにもいかないし、色々と人類側でも自粛の動きが広がるだろう。
そんな中、ザダーク王国だけ「うちは安全だから観光においで」とアピールするのも実に空気を読めていない話である。
そうなるとモカも自動的に暇になってしまうわけである。
「そのせいですかねー。なんか魔王様に話があるって言われてるんですよねー」
「お前もかよ……なんでウチの女共はどいつこいつも図太ぇんだ」
「いやいや、私はアルムさん探してただけですし」
「あ?」
わかがわからん、と呟くオルエルにモカは木匙をびしっと突きつける。
「たぶんルモンかアルムのどっちかが来ると思うから、一緒に来いって言われてまして。で、魔王城で待ってたんですけど。暇してたらイチカさんにすっげえ睨まれたんで居心地悪くて。仕方ないからこっちでご飯食べながら待ち構えてました」
「そぉか。全く納得いかねえが上手くいってよかったな。ルモンとかいう奴の方が来てたらどうしてたんだよ。奴ぁ、確か男だぞ?」
オルエルの指摘にモカは悩むように首をコテンとかしげた後、リンゴをしゃくりと口に入れて咀嚼する。
「そぉですねー。でもどっちにしろ此処は通るでしょうし。見つかってたんじゃないですか?」
「ん……あー、まあな。屋根の上行くんでなきゃ此処通るか」
「お、なんじゃオルエル。ナンパかえ?」
「あ、こんにちはアルムさん。私も魔王様に呼ばれてるんですよー」
モカと同じようなものを持ってきてシャリシャリと食べているアルムが歩いてくるのを見つけ、モカが元気に手を上げる。
それにアルムはおざなりに手を振って返すと、再び木匙で果実をすくう。
「ほー、お主もか。国際協調がどうのこうのっていうやつを、本気でやるみたいじゃのう」
「こくさいきょーちょー? 何の話ですか?」
「んー?」
アルムは蜜をたっぷりかけた果物を幸せそうに飲み込むと、モカへと振り返る。
「わしも詳しくは知らん。だがまあ、人類と少しでも仲良くなっとこうって話じゃの。お主は確かに適任じゃろうて」
「ええー……そうでもないんですけど」
「そぉかあ?」
「そうですよー」
疑り深そうに言うオルエルに、モカは出来の悪い生徒を目の前にするような顔をする。
「私はですね、そもそも博愛とかそういうのじゃないんです。どっちかってーと故郷に帰れなくなったせいで世界丸ごと恨んだ「彼」の想いの方が強く篭ってますからね。「彼」のおかげで人類に偏見とかはないですけど、その程度ですよー?」
分かってないですねー、と言いながらモカは木匙を振ってみせるが……そんな不安要素満載な話を聞かされても、オルエルとしてもアルムとしてもどうしようもない。
「まあ、とにかくそれ食っちまえよ。で、コイツも連れてさっさと行こうぜ」
「そうじゃの」
頷き合うと、アルムは少しだけ食べる速度を速めるのだった。
************************************************
前にも載せたことのあるモカのデータはこちらです。
名前:モカ
種族:魔人(魔絵画)
ランク:D
職業:魔法使い
装備:
幻想具(D相当)
技能:
形態変化
貴方には笑顔が似合う
世界の全てに呪いあれ
ミニデータ:
「動く絵」とも呼ばれるタイプの魔族。
漂着した暗黒大陸で生を終えることになった芸術家の青年が、遠い恋人を想って描いた絵。
ただの絵だったはずが魔力を吸収して変異、魔絵画へと進化した。
青年との偽りの恋人関係を演じ、青年の死以降もたまに迷い込む人類を保護していた。
モカというのは、絵のモデルである青年の恋人の名前でもある。
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