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連載
しあわせですよ
しおりを挟む話し合いが終わり、サシャに構いたくて渋るモカをアルムが一緒に連れて行った後。
静寂の戻った執務室で、ヴェルムドールは目を閉じて小さく息を吐く。
アルムは旧魔王軍の頭脳だっただけはあり、その気になりさえすれば優秀だ。
そしてどうやら、多少の不安はあるが「その気」になってくれるようであった。
とりあえずこれで懸念の一つは片付き、次の仕事に移ることが出来る。
そう考えヴェルムドールが目を開き机に視線を落とすと、一旦書類を隅に片付けていた机の真ん中に水晶珠……いや、サシャが鎮座して珠の中からヴェルムドールをじっと見上げている。
何か期待を込めるようなその目に少し気圧されつつも、ヴェルムドールは「どうした」と問いかけてみる。
「お仕事、終わりですか?」
「……」
終わりではない。
アルムとモカへの用事が終わっただけで、仕事は終わっていない。
今机の上にあるものが仕事だが、まあいつも大体似たような量が積んであるので分からなくても仕方がない。
まあ、終わっていないと答えればサシャは素直に退くだろうと考えて、ヴェルムドールは口を開いて。
「お仕事終わりなら私、王様とお出かけしたいです!」
開いて……言葉を紡ぐ前に、その言葉を飲み込む。
お出かけ。
いつも魔王城の中でやっている冒険ごっこだろうかと考えてヴェルムドールは聞き返す。
「お出かけ、か?」
「はい!」
「何処へ行きたいんだ。裏庭か? もうしばらくは近づかないほうがいいと思うが」
何故なら、きっと裏庭にはアウロックとかオルエルとかが埋められている。
頭だけ地面から出している姿は、中々にホラーだろう。
サシャが辿り付く前にゴーディ辺りが掘り出して片付けておいてくれればいいのだが……などと考えているヴェルムドールに、サシャが目を輝かせながら手をブンブンと振る。
「私、街に行ってみたいです!」
「……街?」
「はい! 楽しそうだなー、と思ってたんです!」
そういえば、城の外には行かないように……と言っていたな、とヴェルムドールは思い出す。
なにしろ、サシャは今後の為に重要な客人だ。
何かあったら大問題であるが、魔王城の中であれば完全に安全を保証できる。
そして逆に言えば、外を出歩かれてしまっては何があるか分からない。
そう最初に考えて言い含めておいたのだが……どうやら、律儀にそれを守っていたようだ。
「俺とか?」
「はい、王様と行きたいです!」
両手の拳をぐっと握ってみせるサシャに、ヴェルムドールはふむと頷いて考え込む。
正直に言って、仕事は終わっていない。
出来れば仕事を片付けたいし、サシャにそれを伝えれば納得するだろう。
どうしても外に行きたいのであれば、イチカをつければ安心だろう。
そう伝えようとして、ヴェルムドールは机の上のサシャが驚いたような顔をしているのに気付く。
「あ……ひょっとして、お疲れでしたか!? そうですよね、いつも働いてますもんね! お昼寝します? お昼寝しましょう! そうだ、私よく眠れるように歌を」
「昼寝はしない。疲れてもいない。だから歌も気持ちだけ受け取っておこう」
「そ、そうですか……?」
「そうだ」
ほっとしたような顔をするサシャを見ながら、ヴェルムドールはすっかり言い出すタイミングを逃したと内心で溜息をつく。
とはいえ、やはり言わねばならないだろう。
しかし、それを言う前にヴェルムドールを不安げなサシャの視線が射抜く。
「あ、あの。ひょっとして、迷惑でしたか……? そうですよね、王様だって自分のご趣味だってありますものね。折角のお休みなのに私……えうっ」
「待て。俺は趣味は無い。休みだからと何かに興じる事も無い。安心しろ」
「で、でも……」
目をうるうるとさせているサシャを見て、ヴェルムドールは軽く眉間を指でおさえ……行くか、と少しばかりの苦悩を滲ませる声で呟いた。
「え?」
「とりあえず仕事は終わりだ。少しばかり半端な時間だが、行きたいと思った時が行き時だろう」
椅子から立ち上がるヴェルムドールを、サシャは驚きの表情で見上げる。
「え、で、でも」
「なんだ。行きたくないのか?」
「ご迷惑じゃ。もしそうだったら、私」
「ふむ」
ヴェルムドールはサシャを掴み上げると、自分の視線の高さまで持っていく。
そうしてサシャと目を合わせると、わざとらしく困ったような表情を作ってみせる。
「今言ったばかりだが、仕事が終わって暇が出来たからな。俺は趣味も無いし、時間が余って困っているんだ。だからお前が街に行きたいと言うなら暇潰しにもなって助かるんだが……行きたくなくなったのか? そうなると暇で困ってしまうな?」
その言葉に、泣きそうになっていたサシャは即座に笑顔に変わり、ヴェルムドールの胸元に飛び込んでいく。
中に居るのは極小サイズの少女でも、その周りにあるのは硬い水晶珠のような代物だ。
高速でぶつかってくるソレにヴェルムドールは小さく「ぐっ」と呻くが、サシャには聞こえていなかったようだ。
「えへへ、王様が困っちゃうなら仕方ないですよね! 私が助けてあげます!」
「そうか、サシャはいい子だな」
「はい、サシャはいい子です!」
ぐりぐりと自分の胸元に身体を押し付けてくる水晶珠……もといサシャを軽く引き剥がしながら、何処へ行ったものかとヴェルムドールは軽く頭を悩ませた。
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