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連載
しあわせですよ2
しおりを挟む「まあ、とりあえず……着替えるか」
「はい、私はバッチリです!」
水晶珠の中では、一瞬にして黒いカッチリした服に早着替えしたサシャの姿がある。
相変わらずどういう理屈かは分からないが、魔力体故にそういう融通がきくのだろう。
だが、それを見てヴェルムドールは微かに眉をひそめる。
「……その服はなんだ?」
「はい、王様に合わせました!」
なるほど、ヴェルムドールの着ている黒い服に合わせるとそうなるのだろうか。
だが、正直あまりサシャには似合っていないとヴェルムドールは思った。
それに、この如何にも「魔王だ」と主張した服のまま出かけるわけにもいかないだろう。
「……お前は、いつものような格好の方がいいと思うぞ」
「はい、王様がそう仰るなら!」
言うと同時にサシャの格好は可愛らしいワンピースになり、くるくると水晶珠の中で回って見せている。
時折止まってじっと見上げてくるサシャに気付いたヴェルムドールは少し考えた後、「似合っているぞ」と言ってぽんと手を置く。
「えへへー」
嬉しそうにふよふよと空中を漂うサシャを眺めながら、イチカにでも適当な服を持ってこさせたほうがいいだろうか……などと考えて、そこで感じる視線を無視しきれずに少しだけ開いた扉へと振り向く。
「で、お前は何をしている?」
扉からひょっこりと半身を出して覗いている赤いメイド……ここまでくると覗いているのかも隠れているのかすらも不明だが、とにかくそこにいるクリムへと呆れ気味にヴェルムドールは声をかける。
「いえ、サシャちゃんのお水を取り替えに来たんですけど……楽しそうで割り込めなくて。でもそれも寂しいので気分だけでも一緒でいようかなっと」
「そうか。よく分からんがよかったな」
「よくないです! 寂しいです!」
部屋の中に勢い良く入ってきて抗議の声をあげるクリムにヴェルムドールは「そうか」などとやる気の無い答えを返し、ふと気付いたようにクリムへと視線を戻す。
「そうだ、クリム。お前、服については詳しいか?」
「へ?」
「俺が街に出ても問題の無い服を用意して貰いたい。出来るか?」
「うえっ!?」
勢い良く後ろに下がったクリムは、おそるおそるといった様子で自分の顔を指差す。
「え? 私が? 魔王様の服をですか?」
「そうだ。お前ならアークヴェルムを歩いていて違和感の無い服装が分かるだろう?」
「え? え? その服じゃダメなんですか?」
「この服では、俺が俺だとバレバレだろう」
「ええー……」
確かにヴェルムドールの服は特徴的な服だ。
金糸や銀糸を贅沢にあしらった豪奢な服は存在感を際立たせ、ヴェルムドールの魔王たる風格を示すのに相応しい服である。
しかし、それ以外の服を着ているヴェルムドールというものがクリムにはあまり想像できなかった。
「うーん……」
「難しいか?」
「ちょっと……ちょっと待ってください!」
そう言うと、クリムは執務室の外へと駆けていく。
その背中を見送って、ヴェルムドールと……その隣にやってきたサシャは顔を見合わせる。
「なんだったんでしょう?」
「さあな」
待てと言うからには少し待ってみるか……などと考え始めたヴェルムドールの耳に、キャーという甲高い声が聞こえてくる。
なにやら聞き覚えのある声だったが……いや、聞き覚え以前に「キャー」などと可愛げのある叫び声をあげる者は、サシャを除けば魔王城には一人しか居ないのだが。
「ちょっと、何するのよっ」とか「いいから来てくださ……いったあい!」とか「いいから離しなさい!」とか叫ぶ声とバタバタと走ってくる足音……が途中からガシャガシャという足音に変化して近づいてくる。
「おまたせしましたあ!」
そうしてやってきたのは、真っ赤な全身鎧と……その脇に抱えられた紫色のメイド姿のイクスラースである。
どうやら、今日は仕事のようだが……イクスラースはヴェルムドールを見つけると、クリムの腕の中でバタバタと暴れだす。
「ちょっとヴェルムドール! 貴方が主犯なの!?」
「なんのことか分からんが、違うとだけ言っておこう」
「えー! 魔王様の服選べそうな人を連れてきたんじゃないですかあ!」
クリムが抗議するように声をあげ、その拍子にイクスラースがクリムの腕の中からころんと転げ落ちる。
そのままコロコロと転がったイクスラースはヴェルムドールの足にぶつかって止まり……仰向けになったイクスラースが、恨みがましい目でヴェルムドールを見上げる。
「……やっぱり貴方のせいなんじゃないの」
「俺のせいではないと思うが」
「貴方のせいなのよ」
「そうか、すまん」
すっかり服も乱れているが、直す気力も無いらしいイクスラースをとりあえず助け起こそうとして……ヴェルムドールは、イクスラースの頭にふと視線を向ける。
「む、頭のアレがないな」
「アレって……ヘッドドレスのこと? 散々振り回されたから何処かに落ちたんじゃないかしら」
ヴェルムドールの手を借りて床にぺたんと座り込んだイクスラースは辺りを見回し……水晶珠がヘッドドレスをつけて浮遊しているのを見つける。
「わーい、可愛いです!」
嬉しそうに浮遊している水晶珠……サシャを疲れた目で見ると、イクスラースはヴェルムドールの服の裾を掴んで見上げる。
「……服だったかしら。見繕ってあげるから、これ以上余計なのに見つかって余計なことになる前にでかけなさい。いいわね?」
魔王城にヴェルムドールの命を狙って攻め込んできた時よりも更に凄味を感じる目に見上げられ、ヴェルムドールは返す言葉も無く黙って頷いた。
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