勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
602 / 681
連載

世界会議の後に5

しおりを挟む

「さて、お主が何を不安と言っているのか……見当もつかんがのう」
「簡単だ。アルヴァ共は、何故この状況を静観している。神出鬼没の連中ならば、この世界会議の動きとて把握しているはず。なのに、鉱山の一件以降動きは無い。私はそれが不気味でならんのだ」
「……ふむ」

 確かに、今は襲撃するのに実に最適なタイミングだ。
 何しろ、この場には世界中の「代表者」が揃っている。
 殺せば即座に世界中の政治経済が滞るというわけでもないが、相応に混乱と打撃を与える事が可能だろう。
 それをしない……ということはアルヴァの狙いから外れているか、どうでもいいと思われているという事になる。
 そして、その事がシャイアロンドに不安を抱かせているのだろう。
 世界会議……ひいては次元の狭間への侵攻戦すら、アルヴァは問題視していないのではないか。
 世界が力を合わせて行おうとしているこの大作戦に対し何らかの策があり、それ故に放置されているのではないか。
 そう、考えてしまっているのだ。

「中小国の連中を遠ざけたのも、こんな弱気な発言は聞かせられんからだ。聞かせたが最後、連中は自国の首都に全戦力を集めて閉じこもるだろうからの」
「まあ、そうじゃろうのう……」

 中小国を強気にさせているのは集団の真理……つまり、皆でやればどうにかなるという根拠の無い理由である。
 ちょっとした不安を投げ込むだけでしり込みしかねない彼等には、こんな事は聞かせられないだろう。

「……そうじゃのう。お主の懸念は理解できる。アルヴァ共が今大きな動きを見せんのに何かしらの理由があるというのも、その通りじゃろうと思う」

 だが、だからどうしたというのか。
 アルヴァが何かを企んでいる。そんなものは最初から分かっている事だ。
 
「それ自体が奴等の手でもある。何をするか分からない。神出鬼没で正体不明、規模すらも不明。いつでも、どこでも、何かを出来る。「こうされたらどうしよう」「こうだったらどうしよう」と思わせるだけで、こちらを混乱させうる。漠然とした「不安」で、こちらの手を幾らでも封じ得る」
「考えすぎである、と?」
「そうは言わん。思考停止程愚かしいことはないからの。むしろ、あらゆる相手の手を考えるべきじゃろう」

 だが同時に、不安のあまり一つの手が半端になってしまえば全てが無意味になる。
 そうなれば、「やらないほうがマシ」という結果になることさえあるのだ。

「……まあ、わしには何ともいえんよ。何の不安も感じないよりはマシじゃろう、程度の事は言えるがの」

 結局のところ、「やるか」「やらないか」の選択肢しかありはしない。
 やらなければアルヴァの問題は永遠に片が付かないし、やったところでアルヴァの問題が片が付く保証は無い。
 ただ、それだけの話なのだ。

「そうじゃろうな。結局は、私が弱気になっているだけの話ではある」
「そこまでは言わんよ。何もないと言うのは簡単じゃが、保証などできる話ではないしの」

 肩をすくめるアルムにシャイアロンドはふうと溜息をつくと、ワインを一気に飲み干す。

「……いやはや、これは参った。貴女は実に誠実だ。こんな一言で切って捨てられる話に、ここまで真面目にお付き合いいただけるとは」
「ふん、お主のようなタイプは「分かっている事」を他人の言葉で確認したがる。どうせ最初から結論は出ているくせに、難儀な事じゃ」
「これは手厳しい」

 手元のグラスをクルクルと回すと、シャイアロンドは何か思いついたようにその動きを止める。

「ふむ。どうせなら私の息子と見合いでも如何かな? この戦いさえ終われば、両国の関係は更に深まる……その象徴にもなろうというもの」
「そういうのは全部終わった後にやればよかろう。気が早すぎるというものじゃ」

 勿論お断りじゃがな、という言葉を飲み込みながらアルムが言えば、シャイアロンドは面白そうに笑う。

「くくっ……お断りだという台詞が顔に書いてあるのう」
「さて、何の話かのう」
「まあ、こちらとしても強要するつもりもない。これから幾らでも出来る話でもある」

 まあ、確かにその通りではある。
 静かに進んでいるサイラス帝国との交渉も、この大規模侵攻が終わりさえすれば一気に進むだろう。
 世界を蝕むアルヴァの問題を共同で片付けたという事実さえあれば、二つの国が親交を深めるのに何の障害も無い。
 結局のところ、中小国が見込んでいる利益もそうしたものなのだ。
 もっと言えば、アルヴァを生贄に世界は纏まろうとしている……ということだ。
 それはかつて世界が通ってきた道と何も変わりはしない。
 だがそれでも、これが全てを丸く治める最善手であることは間違いない。

「あら、二人で何のお話ですか?」
「おお、エリア王女様。楽しまれておいでですかな?」
「ええ、おかげさまで。それより私も混ぜてくださいまし」
「はは、なに。たいした話などしておりませんよ」

 やってきた聖アルトリス王国のエリア王女が話に混ざってくると、流石にもう話をするタイミングを逃したと悟ったのか遠巻きにしていた中小国の代表者達も別の場所へと散っていく。
 そうして、様々な思惑を秘めたパーティは表面上は……少なくとも、表面上だけは和やかに過ぎていくのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。