転生しちゃったよ(いや、ごめん)

ヘッドホン侍

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こつこつ学徒編

◆23.僕の趣味3(カルシウス視点)

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 ジルコさんとウィル君が家でお茶を飲んでさあ帰ろうとなったときに、回転床が作動して、床下に落っこちてきてしまったらしい。
 それで、この隠し通路はなんだと探索してきたみたいだけど、ここが学園に通じる隠し通路だと判明したので、ジルコさんは屋敷に撤収していった。
 僕はウィル君とともに学園に引き返すことにした。
 ジルコさんがいるのなら、屋敷の掃除を僕がする必要もないからね。

 寮のロビーにたどり着いたところで口を開く。
 これまでは天井裏や壁のなかの隠し通路を通って来たので、無言でいたのだ。

「やっぱ父さんと行ったんだねー?」

 面白くなってウィル君をつつくと、彼は年に似合わない溜息を吐いた。

「……まあ、そうなんですけどね? 何故カルシウス先輩がそれを知ってるのかって俺ものすごい動揺したんですから」
「アハハ。困ってるの、楽しくてー」

 思わず本音をこぼすとウィル君は肩を落とした。

「そうは言ってもさ、父さんが嬉しそうに家を出て行ったから『あ、陛下からの密命なんだな』って思ってたら、ウィル君がサボりだって言うじゃない? ウィル君の性格からしてサボりはなさそうだし、公爵家のウィル君が話せない用事なんだなあーって考えたら、これは二人とも密命で行ったんだなって分かっちゃうじゃないか」

 一応言い訳のように気が付いた理由を教えると、ウィル君はやっぱりジルコさんのその欠点に気が付いていたのか、あちゃーというように片手をおでこにあてた。
 
「情報部隊として表情に出やすいのが父さんの数少ない欠点だよね」

 僕の言葉に、ウィル君は同意をこれでもかと示すように、何度もコクンコクンと首を縦に振った。

「それはそうと、先輩は普段からここは使っているんですか?」

 ウィル君の質問に首を傾げる。
 ここは、ということは今まで通ったみちってことなんだろうけど、天井裏のことだろうか? それとも壁の中の空間? いや、僕とウィル君が出会ったニンジア家に続く隠し通路のことかな?

「それはどっちのことかな……んー家から学園ってことかな? そうだったら週一くらいで使ってるよ。なんせあの家、仕掛けやら罠やらがわんさかだからね。掃除とか管理するにも母さんじゃできないんだよ」
「大変そうですね。あの屋敷も結構広そうじゃないですか」

 あれれ? 首を傾げながらウィル君の質問に答えようと質問を重ねたのだけど、ウィル君自体にそのことに対する興味はもともとあまりなかったみたいだ。
 流されてしまった。
 たぶん、話題を転換しようとしただけなのだろう。まあ僕もそんなに語りたい内容というわけではないから、会話を続ける。

「わかるー?おかげで風の魔法もお掃除全般ばっかり得意になっちゃうから困ったものだよー。まぁ、魔力動かす技術は上がるからいいんだけどねー」

 しかし、僕が『家の掃除』の話題で話を続けようとしたのに、ウィル君はなぜか突然固まって、僕を不思議そうに見つめて来る。
 なんだ?

「あの、どっちの、ってさっき……」

 ウィル君はきょうみがなかったわけではなかったらしい。
 ただ流してしまったようだ。

「あぁ! そうそう、僕の趣味は観察だからねー」

 ウィル君の目が、ぎょっとしたように見開かれる。
 慌てて誤解を訂正する。

「あ、大丈夫だよー僕には特殊な性癖もないしさすがに個室とかプライベートな空間には行かないからせいぜい教室とか廊下とかロビーとか後は職員室とかでやってるだけだしー」

 僕は他人の着替えを覗くような変態行為として観察を行っているわけではないのだ。
 すべては学園内の情報を握るため。
 これでも、結構父さん――ジルコさんに情報を提供したりとか、過去に何度かしている。
 僕は一応、ニンジア家の人間として情報収集にほこりを持っているのだ。

「あ、でも前ウィル君が入学したての頃校内で迷子になってるのは見ちゃったよーふふふっ」

 それを証明するためににも、情報の強みを主張する。
 ウィル君がぴしりと固まった。

「まあ、将来の為の修行だよ。でも一番には楽しいからなんだけど」
「ま、迷子……?」

 震える声で尋ねてきたウィル君に、おもわず笑い声が漏れてしまう。
 ふふふ。

「そう、それ。観察は楽しいよねー」

 がっくりと肩を落とすウィル君に、少しばかり大人げなかったかな、なんて思ったりしたけど、やっぱりそれ以上に年齢に見合わないその動作に笑みが溢れた。





「はあ……」

 寮の廊下を歩いているところ、ウィル君が深ーい溜息を吐いた。
 その様子は非常に疲れているような、呆れかえっているような感じもするけれど、何かに悩んでいるようにも見える。

「どうしたの?」

 心配になって問いかけると、ウィル君は口を開きかけてはたと何かに気が付いたように閉口した。
 あー、きっと僕相手、というよりは、他言できないような内容で悩んでいるんだな。
 僕は気が付いた。そういえば、ウィル君はジルコさんと一緒にやってきていたじゃないか、と。
 たぶん今の今まで、国王陛下の密命とやらにかかわる仕事をしてきたのだろう。ならば、ウィル君が頭を悩ませているのも、その仕事関連のことに違いない。
 
「僕も早く情報部隊に入りたいよ……いいなーウィル君は」

 悩んでいる様子のウィル君には悪いけど、ついうらやむ言葉がでてしまう。
 すると、ウィル君は焦った様子で首と手を横にぶんぶんと振った。
 あれ?
 僕の勘違いなのかな?

「いえ、言えないわけじゃないんですけど、その」

 言えないわけじゃない――ってことは、陛下の密命関係で悩んでいたわけではない?
 ちょっと考える。
 ウィル君のことだから、意味もなくこんな話になるような行動をすることはないだろう。情報部隊長の父さんと行動をするくらいだ。きっと表にだす感情くらい制御しているはず。じゃあ、この悩みは別に隠さなきゃいけない機密とかいうわけではなく、ウィル君の個人的な悩みということなのだろう。
 でも、悩みを相談するなら、普通仲のいい友達とかにするよね?
 友達には相談できないようなこと?
 あーそうか。その友達に関する悩みなら、友達じゃない、そして頼れそうな先輩にするのがふつうだよね!
 キオロは寮長だけど、あの通りおバカで熱血だから、相談事をするにはちょっと向かない。

「あ、分かったよ。じゃあ僕の部屋に来て。先輩として相談に乗っちゃうからね! 今の時間だったらちょうどキオロは食堂に行ってるはずだし、居ても締め出せばいいから、うん」

 その点、僕は学園内の情報を牛耳っていると言ってもいいくらいの存在だからね!
 不謹慎なことに、――ウィル君がいままさに悩んでいるというのに――自分の情報が役立ちそうな予感に沸き立つ感情があった。
 うん。
 僕も結局は、ニンジア家の人間ということらしい。


 結局、ウィル君の悩みを聞いてみると、やっぱり友人関係の悩みであったようだ。
 なんでも、帰ってから親友のサン君が時々俯いて話を聞いていなかったり、と明らかに様子がおかしいのだという。
 僕は事前に入手していた『図書館に行くたびサン君の様子が沈んでいった』という情報を渡しておいた。きっと、勉強で行き詰ったりしていて、それでサン君も悩んでいるのだろう。話によると、サン君は真剣に飛び級を狙っているということだったから。
 ウィル君は僕がそんな情報まで入手していたことに驚いた様子であったが、晴れやかな表情になって部屋を出て行った。

 これで僕も副寮長だからね。それっぽい仕事ができたんじゃないだろうか。

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