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1巻
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10
首が据わって早数ヶ月。あと少しで一歳になるそう。
発音練習の成果もあり、何とか話せるようになった!
それに、無事掴まり立ちを覚え、俺は結構この世界のことが分かってきた。
まぁ、分かったといっても、あくまで文字を通してだけど。
この世界自体には名前はないらしい。考えてみれば、前世だって地球にいたって認識はあるが、あくまでそれは星の名前なのであって世界の名前ではない。
とすると、この世界に名前がなくてもおかしくはないだろう。
それともう一つ、この世界には魔法がある!
母さんに最初に読んでもらった絵本、支離滅裂な話だと思っていたが違った。実はあれは結構有名な童話らしい。
つまり、この世界では魔法が存在していて、誰でも使える! 魔力量に個人差はあるみたいだが。
これを知ったとき俺のテンションは鰻登りに上がった!
キター!! と叫びそうになった俺に、地球にいる誰もが賛同してくれるに違いない。
こうなったら、使ってみるっきゃないよな!
だって魔法だぜ! 魔法!
子供のころ誰でも一度は憧れただろ!
と、いうわけで今日はこれから実験です。
いつもの通り、ベッドから抜け出した俺は書庫に来ていた。
たぶんメイドさんたちが駆けずり回って俺を探しているけど、そんなの知らないもん!
俺には今、大きな使命があるのだ。
「よっしゃ」
床にぺたんと座ったまま一人で気合いを入れて、本を手に取った。
『魔法 サルでもわかる基本編』
捻っているんだかいないんだか、よく分からないタイトルだが、人を馬鹿にしたようなこの名前の本に魔法という夢がつまってるってのは、すごいもんだ。
興奮しながらも、じっくり読んでいく。
「ふむふみゅ」
噛んでなんかいないぞー。
『魔法の基本
一、魔力を感じましょう:魔力は常にあなたの体内および周囲に存在しています。
二、魔力を操ってみましょう:魔力を感じられたら、流れを作ってください。慣れてきたら、手の上などに集めてみましょう。
三、魔法を使ってみましょう:魔法には詠唱と魔力が必要です。詠唱に関しては、次ページからの[詠唱編]で!』
ふむふむ……オーソドックスだな!
ファンタジーだ!
ていうか、俺が読んでたネット小説とかのまんまだわ。
……地球人の想像力……恐るべし。
早速、本の通りに練習してみることにした。
前世の記憶があるからか、一に関してはすぐに分かった。
身体の内側と外側から感じる温かい何か。前世では感じることのなかったもの、これが魔力という奴なのだろう。
まるで器官が増えたみたいだ。腕がもう一本生えてきた! みたいな。
えーと……次は、流れを作る、か……。
魔力は身体の内外を漂っているのだが、不思議なことに俺の一部という感覚がある。
う……う……うごけぇ……。
四苦八苦していると、不意に脈を打つような感覚で魔力が動いた。
よしキタ!
動かす感覚が掴めればこっちのものである。
「ぬぬぬ……」
初めての、くすぐったいような柔らかいような不思議な感覚に唸りながら、魔力を手に集めた。
ほのかに温かい気がする。魔力って生命力のようなものなのだろうか? 生命力って温もりっぽいもんがありそうな気がするし。
いったん溜まった魔力を散らしてから、ページをめくる。
『詠唱編
魔法を発動させるには、詠唱か魔法陣が必要です。無詠唱でもできますが、消費魔力が馬鹿高い!
干からびたくなかったら、真面目に詠唱を覚えましょう。ただし詠唱をする際にはイメージが大事! ここ、試験に出ますよ!(笑)
魔法陣も対応させて書いておきました。暇ならやってみたらいいと思う。
でも書き順むずいし、書く暇あったら口で言った方が早いから、やっぱ詠唱がオヌヌメかな☆
実際に詠唱してみると自分の属性適性もわかるから、試してみるのが重要よ!』
なんだこの導入。ノリ軽いな、つーかオヌヌメって……と視線を隣のページに向けたときだった。
……え?
《火》……?
俺は目を疑った。詠唱と対応して書かれた魔法陣は、どう見ても漢字の「火」だったのだ。
いや、まさか、と思い、次に書かれている詳しい説明を読み進める。
『《火》:読み方 ヒ
火が発生します。使う魔力で大きさが変わる。初心者ならまずはコレ! ちょっとだけ魔力を使って早速やってみよう』
うん、マジだった。日本語わらわらわら。漢字わらわらわら。
なんだ、このご都合主義な展開。
しばらく固まっていた俺だったが、まあ立ち直りが早いのは数少ない俺のいいところだ。
気を取り直して、先を読んでいく。
『あ、詠唱する前に注意! 個人にはそれぞれ適性属性があります。属性は基本ひとり一個だけ。もし二個以上の属性の魔法を使えたら、王宮へレッツゴー! 魔法の天才として大物になれるわよ!
もし詠唱しても発動しない、とかでも落ち込まないで! 他の属性がある! この本の詠唱間違ってるとかケチはつけてくんなよ』
だから、このテンションは何なんだろう。激しくうざい。
おお、火、水、土、風の属性魔法が多くてー……その他に光、闇、空などもある、と。未確認のもあるらしいが、研究所とかでやってるクソむずいことだからサルには関係ない、と。
……おい、作者。何やってんだ、読者にサルとかひどいだろ。確かにタイトルに『サルでもわかる』とか書いてあるけどさ! ねえ!
まぁいいや……。とりあえずやってみよう!
本のテンションに振り回されてちょっと疲れてしまったが、何だかんだ言って俺はわくわくしているのだ!
無駄に咳払いとかして、かっこつけてみる。
手を前に差し出し、ピンポン球大の魔力を集めた。
魔力の塊を見ながら、ぼんやりと魔法を使う俺を夢想する。
オラ、わくわくすっぜ。
そして、詠唱。
「《火》」
ボッと音を立てて、空中にピンポン球大の火の玉が現れた。
キターーーーーー!!
おめでとう俺! ありがとう俺!
魔法使っちゃったよ!
上がりまくるテンションのおかげで、思わず火の玉を落としそうになった。
……あっぶね……。
冷静になって、分析してみることにした。
とりあえず、俺には火の属性があるみたいだ。
安心。魔法が全然使えなかったらどうしようとか、ちょっと思ってたし。
そういえば、イメージが大事だと書いてあったな。
もう一度ピンポン球大の魔力を手の上に集め、今度は詳細にイメージする。
想像するのは、燃え盛るキャンプファイヤー。
……前世の俺は、同学年の全員でキャンプファイヤーを取り囲んでいるのにもかかわらず、ぼっちというむしろすごい奴だったけど。
当日はミニゲームをするから、と先生に練習させられて、本番で隣の女の子と手を繋いだときに、周りからすごい視線を向けられてさ。
炎に照らされてじゃなくて、ガチで顔が真っ赤になってる女の子と手を繋がなきゃいけないとか……もう泣きたかったよね。あれ、絶対怒ってたか羞恥心に耐えてたかだって。
だってミニゲームの相手決めのとき、クラスの女の子たち必死な顔でじゃんけんしてたしね。
教室でこそこそやってたけど、そのとき俺の名前も時々漏れ聞こえてたからさ。
きっと罰ゲームだったんだ……。
……と、今はそんなことどうでもいい! 何考えているんだ俺!
今は、過去・現在・未来の全部の俺が憧れに憧れていた、あの! 夢の! 魔法に対面しているんだぞ!
脱線してどうする。
よし、気を取り直して、と。
俺の魔力は燃料になって空間の温度を上げ、周囲の酸素を取り込みながら真っ赤に燃え上がるのだ。
そして、その炎が塊となり、宙に浮かぶ。
俺の魔力を燃料にしているのだから、宙に浮くのは当然のことだ。同じように球体を取るのも当然のこと。
パチパチとゆらめく炎を確かなイメージとして頭に描くことができて、ようやく俺は口を開いた。
「《火》」
ボフッと大きめの音がなり、バレーボール大の火の玉がでてきた!
「のぁっ」
驚いて、慌てて火の玉を消す。
だってさ、この身体まだ一歳程度なんだよ、手の上にバレーボールなんて載ったら顔に近いって!
それにしても、やっぱりイメージは大事なようだ。
納得して、今度は手じゃなく空中に魔力を集めてから詠唱することに。
もしかしたら、赤じゃなくて、青い炎も出せる?
思いついたら即実行。
コンロの火を思い浮かべながら詠唱すると、思った通り青い火の玉。
「しゅごい」
思わず呟いた。か、噛んでなんかいないぞ。
これ動かしたりできるのかな、と思ってやってみると、魔力を動かすように火の玉も動かせた。
遊園地のお化け屋敷にいそうだな。
楽しくなって色々魔法の実験をしてたら、時間的にヤバくなってきた。そろそろ部屋に戻らんとメイドさん達に本気で心配されてしまう。
最後には調子に乗って、火で龍とか造形しちゃったんだぜ。
火龍とか……中二病くさいとか言わない、そこ!
窓の外を見ると、太陽が高い位置にあるのが確認できた。昼飯昼飯ー!
扉をそっと開いて隙間から覗き、廊下に人がいないことを確認して書庫を出る。
あ、勝手に書庫と呼んではいるが、ここも家の部屋の一つだ。
まぁ、天井まで届く本棚が部屋いっぱいにあるんだけど。
これからしばらくはベッドから抜け出さなくてもいいかもな。寝室で特訓だ!
◆ ◆
「あら、ウィル! もういつもどこかに行ってー!」
メイドさん達に見つからないよう、寝室の隣の部屋を通って戻ろうとすると、その部屋には母がいた。
母は俺を見つけるなり、駆け寄ってくる。
「全く……似なくていいところが、あの人に似ちゃったわね」
溜め息をつきながらも、楽しそうな目をしてますが母さん。
「かぁしゃん」
気を取り直して話しかける。
「なぁに? ウィル」
「かあしゃん、まほ、ちゅかえう?」
たどたどしくて馬鹿っぽいしゃべり方になってしまうが、これでも頑張ってるんだぞ!
そこは見た目一歳児ということで勘弁してくれ。
「あら? どうしたの急に」
少し驚いた様子の母さん。
「だってね、えほんでちゅかっちぇらの、まほ」
書庫でガッツリ魔法の本を読んで気になったから、とは言えず、適当な理由をつける。
「あらら、それで外に出ていたのかしら?」
しゃがみ込んで楽しいことを見つけたように、ニヤリと俺の顔を見てくる。
……やはり我が母ながら美人だ。
動揺がバレないよう、俺はこくんと頷いた。
「そうなの。さすがウィルね!」
満面の笑みを浮かべた母に頭を撫でられる。
この前まで高校生だった俺には気恥ずかしいのだが、とても嬉しいので、いつもへにょっとした情けないにやけ顔で、なされるがままになっているのだ。
「えへへ」
俺が照れ隠しに笑うと、突然母さんは撫でていた手を頭上に上げた。
「《水》!」
詠唱した。っていきなりぃぃ!
「わあああ!」
純粋に感動して叫ぶ。
母のいきなりさ加減はいつものことだから置いとこう。
それより、綺麗だったのだ。
魔法で生み出された水が、細かいしぶきになってキラキラと宙に浮いているのだから。
「驚くのはまだ早いわよ」
そんな俺を見て、不敵に笑う母。
「お父さんはもっとすごいんだから」
へ……マジ?
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とっても綺麗な笑顔です。お母様。
……って、そうじゃなくて!
父さんがすごい!? あの親バカで平凡顔なあの父が!?
「……ほんちょ?」
思わず訝しげな表情をしてしまった俺を責めないでほしい。
だって、俺のところに来る父さんと言えば、常に親バカ全開でニコニコ笑っていて、無精髭をこすりつけてくる平凡顔の青年なのだ。
「疑ってるのね? ウィル、もうこの子は」
あ、バレた。
えへへ、と笑って誤魔化しておく。
「お父さんはダブルなのよ?」
「……だぶゆ?」
聞き覚えのない単語に疑問の声を一応あげた俺だが。
まあー、さっき読んだ本の内容から、なんとなく察しはついてしまった。
しかし、あの父さんがな……ありえるのだろうか。
と、失礼なことを考えていると、背後でいきなり扉が開いた。
父さんの意外な一面に驚いているうちに身体が持ち上がって、更にびっくりする。
「おうとも。父さんはすごいんだぞ」
そう言って頬擦りしてきたのは、父さん。
あ、髭そってあるね。
この前ひげいたいって目を潤ませて言ったからかな。そこ、狙ってやっただろとか言わない。
これは身を守るための行為であり、つまりは正当防衛なのである。ブリッ子ではないのだ。
「あら、執務室にいたんじゃなかったの?」
「あぁ、もう今日の仕事は終わった。と言っても、今日は珍しく軽い書類仕事しかなかったんだが」
「あらぁ。珍しいこともあるのねぇ」
「神様がウィルと遊べと言っているのかもしれないなぁー、うりうりうりぃ」
そんな両親の会話が頭上で行き交う。
抱き上げた俺に頬擦りし続ける父さん。
……この親バカがだよ……すごいの? まじすか?
思わずジト目になる。
信じたくはないが、思考停止していても何も始まらない。ということで気を取り直して。
「……だぶゆってなぁに?」
生まれたての頃は叶わなかったが、今は父さんの顔に手が届く。顔を掴んで遠ざけながら、俺は口を開いた。
まだ名残惜しそうにしている親バ……父さんだったが、俺をソファまで運んで座らせると、嬉しそうに話し始めた。
「もう魔法に興味を持つとは! さすがは俺の子だなー!」
「私の子でもあるわよ!」
まぁそんな感じで夫婦のよく分からない言い合いが始まったので、話は脱線しまくり、本題に入るまでしばらく時間がかかった。
◆ ◆
話をまとめると、こんな感じだ。
さっき読んだ本の通り、魔法には属性があって、基本的には一人一つの属性適性がある。魔力量が多いと他の属性も少し使えたりするが、適性のない属性の魔法は魔力の消費量が馬鹿にならないらしい。
しかし、俺の予想通り、父さんは二属性の適性を持つダブルというエリートさんだというのだ。
ちなみに父さんの適性属性は、一番適性人口の多い火と、もう一つは風。
父さんの父さん――つまりは俺の祖父の知人のもとで、父さんは冒険者として修業してたそうな。その時に大仕事を成し遂げて、国の騎士団にスカウトされ、いまや騎士団長の地位にあるらしい。
……なに、このチート野郎。
顔は俺と同じ平凡なのに、なにこの差。
でも、それ以上に自分の父親がすごい人で、国で認められるほどだと聞いたら、嬉しくないはずがない。
それに、「冒険者から騎士団に入った」とか、なんのファンタジー。
俺の脳内は、そんな異世界ワード達に刺激されて、フィーバー状態である。
「とぅしゃん、しゅごーーい!」
「ははは! そうだろう、すごいだろう!」
そんな俺のリアクションに嬉しそうな父。
明らかに機嫌がいい。なんだか今、いけそうな気がするー!
俺は調子に乗って、攻撃魔法『上目遣い』を使うことにした!
「とぅしゃん、ぼくもまほやりちゃい」
「そうかそうか、父さんみたいになりたいか、偉いなウィルはー」
「とぅしゃん、ぼく、まほーやりちゃいの!」
「んー、ウィル。今はまだ魔力量が足りんだろうから、大きくなったらな」
そう言って俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
……えー? いや足りるんだけどな……。
もしかして、あんな程度じゃ、しょぼいから魔法と呼べるレベルじゃないってことかな……。
「なんれ、できにゃいにょ?」
めちゃくちゃ噛んだが気にしない。気にしないって精神は、結構大事だ。
「ウィルは良い子だからやらせてやりたいんだが、一歳では魔法を使えても小さな火種を作るほどの魔力量はないんだ。大きくなるにつれて魔力は大きくなるから、せめて十歳になったらな」
そう言って諭す父。
……ん? 今、何て言った? 小さな火種の魔法を発動させるにも魔力量が足りない?
父さんに限って嘘は言わないだろうから、これは世間では当たり前のことなのだろう。
……でも……いや……さっき使えたぞ……?
はっとして、自分の手を見る。魔力は、今も感じられる。
もしかして、俺……すごい?
ばっと父さんを見上げて、俺はにぱっと笑った。
「あい。じゃあ、まちゅ」
ふっふっふっ……びっくりさせちゃる! こうなったらひとりで魔法マスターしてやるぜ!
その後、ソファから逃げ出すも、また父さんに捕まって頬擦りされたのは言わずもがなである……。
うぅ……。
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