うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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Dungeon lecture at the ceremony 3

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思わぬ質問者が現れた為に、非常に空気の悪くなってしまった会場。これでは次の質問をするのに手をあげるのも躊躇われる。それでも進行させねばならない司会者は、声を震わせつつも観客に挙手を促した。

「え、え~では、次の質問を…」

しかしこんな空気の中で、いったい誰が手をあげられようか。観客たちがそう互いの動きを探り合うなか、小さく白い手がピッと真っ直ぐにあげられた。

これにホッとした司会者は、すぐ質問者のもとへと移動する。

「おや、次の質問者はずいぶん可愛らしいお嬢さんですね。今日はどちらからいらしたんですか?」
「都内だよ。でもそういうのも個人情報だろ」

場を和ませようと口にした言葉がビシリと叩き落とされる。またしても厄介な質問者か。ゴールドインセクトの講演に集まる観客は礼儀を知らぬ問題児ばかりなのか。司会の男性はそう笑顔を引き攣らせつつもマイクを向けた。

「そ、そうですね。これは失礼しました。では質問をどうぞ」
「ゴールドインセクト選手が仲間に求めるモノってなんですか?」

利賀るりはそう言って輝く瞳を壇上に立つ江月に向けた。

「ゴールドインセクト選手が仲間に求めるモノとは?というご質問をいただきました。如何でしょうゴールドインセクト選手」

これに江月はマスクの下で苦笑する。

(あいつ…)

次の質問者は基本クチが悪く、戦場の荒みに憧れる火の玉女子高生シャークだったのだ。確かに奴ならこの空気を物ともせず行動するだろう。が、ここで質問をしてくるとは思わなかった。

ともあれこの質問に答えるべく、ゴールドインセクトが顔をあげる。

「戦闘力」

と、一言だけ発する。これに観客たちは『あ~、やっぱりゴールドインセクトってそういうタイプだよね』といった呆れの表情を浮かべる。しかしこれは単に言葉を区切っただけで、先を続けた。

「―というのは無論重要だが、ダンジョンに潜り戦い続けていればそれは嫌でも改善されていく。では戦闘力より重視するモノは何かというと、これは理解力だ」

話について来ているかを確認する為、ゴールドインセクトは観客席を一度見回す。

「理解力。言葉の通り理解する力。これを判断力と言い換えてもいいが、適切な判断を下すにはまずこの理解力が必要となるので、ここでは理解力で統一をする」

長くなるから質問者を座らせるようにと司会者へ手で示しつつ、ゴールドインセクトは続ける。

「ダンジョンの環境。味方の状態。そして敵の勢力。そうした事柄を加味した上で自分はどう動くべきなのか。その判断の土台となる現状認識。それが理解力だ。これに仲間との間で齟齬が生じている様では、大きな過失を招く危険を秘めている」

その姿とは似合わぬ真面目な語り口に、観客たちも次第に引き込まれていく。

「分かりやすい所で、先ほどの件を例にとってみよう。先の質問者が地上に出てきたモンスターだったとする。思わぬところで遭遇し、敵意を向けられた。これに私は、ややズレた話を返した。言わば、距離を空け間合いをとったと言えよう。そのまま離れるのであればよし。それでもなお踏み込んでくるのなら抗戦の構えだ。

今度は逆に、私がモンスターで質問者がこれに遭遇した立場だったとする。相手が距離を空け間合いをとったことを、単に弱気ととるのか、それとも何か別の意図があると読むのか。こうした状況を読み解く力が、理解力だ。私は無用な戦闘を避ける為に、敢えてややズレた返答をした。気付けた者もいるだろうが、そこに逃げ道を用意したのだ。だが彼はそれに気付けず、死地にむざむざと飛び込んだ。あとはご覧の通り。頭からガブリといかれる。

―感謝すべきであろう。
彼は公衆の面前で赤っ恥をかいた。しかし一週間もすればその気持ちも薄れ、また日常を取り戻していく。だがダンジョンのモンスター相手に同じ真似をしたなら、二度と陽の目を拝むことはない。諸君らはそういった場に臨もうとしているのだと、もう一度認識を改めてほしい」

利賀るりが礼を述べ着席すると、空気が変わったことで観客からはまたチラホラと手が上がるようになった。そしてその中にはトーナメント参加者の姿も。司会者は話題性からも、その女性を次の質問者に選ぼうと近づいた。

「おっと、ここでスキルトーナメントに出場された方からもご質問の手が上がっています。では次は、水の巫女の堀田さんに伺ってみましょう」

司会者からマイクを向けられると、堀田美奈は丁寧にお辞儀をしてから口を開いた。

「理解力についてのお話、たいへん興味深く聞かせていただきました。それに関連してなのですけど、逆にゴールドインセクト選手が組みたくはないと思う仲間の特徴などはありますか?教えていただけると嬉しく思います」

この質問を聞き、その意図を読み解こうと江月は考える。

(ふ~む、やはり本当にオレを仲間に取り込みたいようだな…)

彼女らの持つ火や水のスキル。そうしたオーブをドロップするモンスターは当然これに耐性も持っていよう。つまり彼女たちは自身の手にしたスキルで戦おうにも、耐性に邪魔され思うように狩り効率が振るわないのだろう。女性であればなおの事。武器を振り回し力で敵を圧倒するのは苦手とするのが普通。

一方で塩のスキルはかなり優秀。風や火なんかと違い、生み出せばしばらくは存在し続けるので武器や盾にも使える。しかも土と違いハナから強い毒性と刺激も持っているので、耐性を持っている存在がほとんどいないというのも凄い点。これが単独でも強くなれた理由ともいえる。

だがまたしても厄介な質問。さて、これにはなんと答えようか。
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