うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョン攻略準備Ⅱ

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金も無く…彼女もおらず…そのうえ無職にもなった。今ここに、無職ひきこもりニートの爆誕である。

こう書くと自分で自分がひどく情けなくなるが、決してそうではない。無職はダンジョンで自身を磨き高める為、そしてひきこもるのは自室ではなくモンスター蔓延りし過酷なるダンジョンだ。

こんな時にはオタ友の声でも聞いて気を紛らわせたくなるモノ。だがそんなことをすれば気が緩んでしまい、ついダンジョンの事を口にしてしまうかもしれない。

故にオレは独りでダンジョンに挑む。大丈夫、孤独はずっとオレのトモダチさ。

とはいえ収入源を失ってしまったことで節約を余儀なくされるのは致し方ない。今までのようにコンビニ弁当や外食を重ねていては、すぐに僅かな貯金すら食い潰してしまう。ならば自炊だ、自炊をしなければ。と早速バイクを走らせ、食品量販店で積めるだけの食糧を買い込むと自宅に戻ってきた。山籠もりならぬ、ダンジョン籠りの為に…。

………。

11時。普段朝飯を摂らないオレが自炊するには良い時間だ。早速米を研いで電子ジャーをセットすると、料理を開始。

今日のメイン食材は鳥胸肉。とってもヘルシーで低脂肪高たんぱくな食材。マッチョになった今、オレにもこういった高たんぱくな食べ物が必要なのだ。まずは鳥胸肉に塩をすり込み、薄く水を張った器に入れてレンチンする。するとどうだ。素晴しい、鳥の蒸し料理だ。高周波による振動で熱されたのだ。うむ、これにはかなり高度な技術が使われている。

レンジから取り出してみるとしっかりと熱が通り、器の中に入れた水も白濁している。おお、これはアレだな、白湯スープに違いない。うむ、別の器に移しパパッと塩コショウで味を調えてやれば白湯スープの出来上がり。すごいぞ。

そして蒸した鳥胸肉もただの塩味だけでは物足りないので、チューブのにんにくおろしをのせてみた。よし、ニンニクの香りが漂ってきて一層食欲をそそる一品に仕上がったぞ。

最後にご飯をよそり、生卵をふたつ落として醤油を垂らせば、贅沢鳥尽くし定食の完成だ。

「では早速食べよう。いただきます!」

まずは蒸した鳥胸肉をかぶり…。うん、塩とにんにくの味しかしない。あれ…おかしいな、もっと美味いと思ったのに。では白湯スープはどうだ?うん、こっちも薄い。どこまでも平坦でフラット…まったく味に深みを感じさせない。そこで参ったなと卵かけご飯を口にかっ込む。

「カッカッカッカッ…(もぐもぐ)…うん、美味い!」

やはりTKGは最強だ。

どんなに雑に作っても裏切られることがないのだから。ま、普段外食や弁当で済ませている男が、急に自炊をしても上手くいかないということか。能力値が上昇したからといって、なんでもできる訳じゃないんだな。うむむ、これは少し料理についても勉強しておこう。

昼飯を食べながら観たニュースでは、各大手企業が魔石の活用法を研究する為に魔石の買取を始めるといったことが報じられていた。なぜか解らないが、みなダンジョンから齎される魔石に注目している様子。その一方で、国はダンジョンを法律で規制しようと新たな法律の制定に乗り出していた。

ただ、これも難しいだろうね。

海外なんて国土が広すぎるからダンジョンをまるで把握できていないみたいだし。アメリカみたいに銃を規制していない国は、銃を持った一般市民がダンジョンでヒャッハーしてる動画が度々ニュースに取り上げられている。

ここ日本でもオレのような無職ひきこもりの持っている冷蔵庫がダンジョンになったなんて、誰にも解ろうはずもない。黙っていればいいのだから、これでは規制のしようもない。

………。

昼食後は涼しいダンジョンの前室で、みかんのダンボール箱を机にペンを走らせる。そう、なにも無闇矢鱈にダンジョンに潜って、ひたすらモンスターを狩ればいいという訳ではない。何事も計画的に…だ。

そう、今日は身体を休める日。

というのも筋肉をしっかりと鍛えた後は、超回復で以前よりも筋肉が太くなる為の回復時間が必要。だから毎日カラダを目一杯に鍛えるというのは、回復時間が足りずに逆効果となってしまう。

そこで休息日は身体をしっかりと休めつつ頭を働かせる。例えばこうしてダンジョンの事を纏めながら、今後の計画を考えるのには良い時間の使い方だろう。

そういえば唐突だが、ダンジョンでレベルがあがっても全回復なんて現象は今まで一度も起きなかった。

うん、ゲームでは定番のアレだ。レベルが上がったことによるボーナスで、消耗した生命力や魔力が、レベルアップ時にすっかり回復するというヤツ。

しかしこのことから、ダンジョンでのレベルアップにはある法則性があると考えられる。

それはダンジョンに、もしくはステータスにオペレーティングシステムというようなものがあるとするならば、能力値は主でありレベルアップが従であると考えられる。オレ達がよく知っているRPGではこれが逆で、レベルアップすることで能力値があがる。つまりレベルアップが主で、能力値が従だ。

これでいくと、ダンジョンかステータスか何某かのシステムが対象の能力値を読み取り、能力値が一定の基準を満たした際にレベルが上がる…という事。だがそれも不整合が生じてしまう為、どうも手にした生命エナジーの量がレベルに大きく関わってくるらしい。

ともかくも別段レベルが上がったからといって高らかにファンファーレが鳴るわけでもなく、はたまた全回復が起きるでもなく、ただただ淡々と数値のレベルが上がるのみ。

ま、どちらかといえばゲームと同じ仕様のほうがお得だし生存確率もあがるのでありがたい。だがとはいえそうではないのだから、これはもうそういうモノだと受け入れるより他にない。実際問題、人が造り出したゲームだから演出としてそうなっているのであって、それを現実にも当て嵌めようとしてしまう意識の方が毒されているということか。

……。

17時。じっくりとノートに向かい終え、アパートの部屋へと冷蔵庫から這い出してくる。

するとテーブルの上に置いていた通信端末がチカチカ光っていた。履歴をみると会社からの電話とメール。まぁ内容は文句と苦情以外にはないだろう。オレのやっていた仕事の引継ぎならパソコンのデータでも見て勝手にやってくれ。

わざわざオレの為にあんな盛大なヤリ玉つつき大会催してくれたのだからコッチも知ったことかだ。

夕飯には昼よりもう少しマシな料理を作ろうとお料理サイトを覗き、照り焼きチキン丼なるメニューを作って食べてみた。やはりレシピは大切だと、改めて教えられたよ。


………。


翌10時。今日は朝からホームセンターに買い出しに。勿論ダンジョンで使うモノを買う為だ。

まず必要だと感じたのが盾。スライムをバットで撲殺する時にポリバケツの蓋を盾代わりに持ってみたりしたが、あれは飛沫を防ぐのには使えても物理攻撃を受けとめるには使えない。巨大ゴキと近接戦闘した時も、躱すのではなく盾で受けとめられていたら…、という場面が何度もあった。

なので薄い木材を加工して、四角い盾を作る予定。

外側に薄い鉄板でも張りつければ、そこそこ使える盾が出来上がるだろう。そんな訳でお求めやすい価格の木材と薄い鉄板を…と見てまわっていたらバーベキューなんかに使う鉄製のグリルプレートが丁度良さそうだったのでそれを買うことにした。木材と合わせても¥3000程度なので、自作でも盾を¥3000で買えたと思えば、充分安いだろう。

お次に向かったのはドライバーやペンチなどが置いてある工具コーナー。

ここで欲しいのは、丁度いい大きさの投げる武器。オレはスキルとして【酸】を使う。これは非常に便利で強力な攻撃手段。ではあるが同時にオレ自身もその危険を蒙る。普通に酸の臭いを嗅いで喉が痛くなったりするしね。

なのでメイン武器の鉄製竹槍やバットで攻撃が届かない…。でも酸で攻撃するには近すぎるといった時には、敵が近づいて来てくれるか離れてくれるかしないと攻撃手段がなかったのだ。そんな時に投擲武器があれば、この問題を解決してくれる。

今持ってるナイフを投げるという手もあるが、それをするとナイフが傷んでしまう。そもそも買ったナイフは投げるようなタイプではない。もし狙いを外して刃でも欠けてしまったら、めっちゃ落ち込んでしまうだろう。オレはそういうのを酷く気にしてしまうタイプだから。

だからそういった意味でも、投げて傷ついても全然気にならないような武器が良い。

そういう観点で工具類を視ていくと、小さなバールが目に留まった。15センチほどのミニバールで、握りやすくほどほどに重さもある。重さがあるという事は、威力があるという事。うん、手裏剣と苦無の中間といった感じでこれは投げるのに良さそうだ。値段もひとつ¥1000もしないので、非常にお買い得。うむ、ちょうど左右の腰に差しておけそうなので、これは4つくらい買っておこう。

その他には防毒マスクとシールド付のハーフヘルメットを買った。

これが今回一番高くついて、ふたつで¥10000。ただ今持っているフルフェイスのヘルメットでは、被ったまま防毒マスクが装着できなかったので致し方ない。自分の生み出した酸で参ってしまっていては、ダンジョン攻略どころではないもんな…。

そんな感じでなんやかんやと¥20000ほどホームセンターで買い物をして、帰路についた。

そしてまたせっせと加工して盾を作り、新たな装備も装着して動きやすさを確認。盾には内側にベルトで腕を通す輪と握り手を付けてみた。うむ、これなら持ちやすい。グレー地のハーフヘルメットは軽くて視界良好だし、いっしょに装着する防毒マスクも問題はない。ただ少しだけ息苦しいかな…。でもま、それも体力を向上させるための負荷だと考えれば、まったく苦にならないだろう。

そう。オレはオタで、オタとは夢中になったことには真摯かつひたむきに向き合えるのだ。

こうしてニュー装備を身に付けてみると、心は躍った。

ツギハギだらけのライダージャケットと塩ビパイプを加工して作った部分鎧の貧相さがなんとも目立つようになってしまった感はある。が、現状では十分な装備と言えるだろう。

さて、今日はゆっくりと休んで、いよいよ明日から本格的なダンジョン攻略に乗り出すぞ。
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