うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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クソザコナメクジ

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「このクソザコナメクジがぁ!!」
「ミビャ~~!」

怒りの酸弾(アシッドショット)が巨大ナメクジに直撃し、白煙を上げながら死に至らしめる。

オレは怒っていた。もうプンプンだ。ネット上の書き込みではゴブリンが出たコボルドが出たとファンタジーしているのに、うちのダンジョンは不衛生害虫のオンパレード。これで地下5層も蛆とか蠅とかだったら、もう泣いてしまうかもしれない。

そんな怒りを巨大ナメクジ、オシャレに英名で言うならばジャイアントスラッグにぶつけていた。

だがダンジョンでは冷静でいなければ生き残れない。それでも調子に乗っているのは、ここがまだ地下4層の入り口だからだ。そして調子に乗っているのも、ある程度巨大ナメクジの特徴が掴めたから。ではそんな巨大ナメクジの分析結果を紹介しよう。

まず外見が気持ち悪い。なんだよこいつキメェ!に尽きる。

しかもそれが人の大きさほどもあるのだから、気持ち悪さ百倍だ。ふざけるなと言いたい。そしてその特徴はなんといっても静けさだろう。酸で攻撃されると悲鳴のような鳴き声をあげるが、それ以外は全く音を立てない。

これは身体全体を覆っている粘液の働きによるものらしく、全て包み込んでしまうので全く音がしない。

さらに力も相当強い。なにせ人ほどもある重そうな身体なのに、壁や天井に張り付いたまま移動できるのだから。これも粘液で身体を密着させ、筋肉を使って真空状態を造り出して張り付いていると推測できる。

その為、身体の表面は全て粘膜だ。人間でいえばまぁ鼻の中とか口の中と一緒。粘膜は浸透性が高いので、粘液を分泌するのに非常に都合が良い。

だが粘膜で覆われているからといって、防御力が低いという訳でもなさそうだ。試しにバットや槍で攻撃してみたがバットは水袋を叩いたような感触で手ごたえがいまひとつだったし、槍で突いてみてもさして怯んだ様子は見せなかった。

ただ酸での攻撃は効果てきめんで、普通に戦えば苦戦するだろうがオレにとってはただのクソザコナメクジでしかなかった。

「オラァ!出せやぁ!スキルオーブ出せやぁ!」

酸弾ですっかり参って後は死にゆくだけのナメクジに向け、非情の槍攻撃を見舞う。とても他人には見せられない極悪ムーブ。でもボッチなら気兼ねなく出来るよ。やったね。

そんなオレのひたむきな願いが通じたのかスキル【簒奪】が仕事をしたのか、巨大ナメクジはスキルオーブをドロップした。ちなみに巨大ナメクジの他のドロップは『ドロドロした液体』と魔石だった。ドロドロした液体は回収のしようがないので放置している。そのせいでさっきは足が滑りそうになって危なかった。

ナメクジの落としたスキルオーブを拾うと、上へと戻る階段まで下がり安全を確保。そこでスキルオーブにどんな力が封じられているか調べてみた。

「ふ~む。あ…これはもう考えるまでもないわ。ドロドロでベタベタするイメージしか伝わってこない…このスキルオーブは【粘液】のスキルだろ!」
『きゅわわぁ~…ぱぁ~!』

技能:
【強酸】・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】

やっぱりか。にしてもエグくて変なスキルばっかりだなオレ。【俊敏】と【病耐性】くらいじゃん真面そうなの。

「まぁいいや、【粘液】ッ!」

手をかざしスキル【粘液】の発動を念じてみると、空中に粘液が生まれボタボタと床に垂れた。

「お、一発で使いこなせるとは。うむ、相性は悪くなさそうだ」

粘液なんて何に使うんだよって声が聞こえてきそうだが、オレはスキル【粘液】が手に入って嬉しい。そうだな、例えば【火魔法】と【粘液】どちらか選べと言われても、オレは【粘液】を選ぶだろう。だって攻撃魔法にはすでに【強酸】があるし、【粘液】は【強酸】との相性も良さそうだから。


「酸弾(アシッドショット)!酸弾(アシッドショット)!酸弾(アシッドショット)!」

先に進むと次々と巨大ナメクジに酸弾を見舞う。

「からのぉ~…オラァ!さっさとスキルオーブ出さんかボケェッ!!(ぶっしゅ!ぶっしゅ!)」

まさに外道。でももっと【粘液】が欲しいんじゃ、欲しいんじゃ~い!


………。


レベルも上がってキリが良いので前室に一度帰還。下の階層に潜る度に帰りの行程も考えなくてはならないので、早め早めの帰還が大切だ。

    現在   前回
レベル 24    23
種族:人間

能力値
筋力: 88    81
体力: 90    84
知識: 93    88
精神力:108   99
敏捷性:100   94
運:  3    3
器用さ:94    86

くぅ、遂に能力値が夢の三桁に!もうめっさ強くなっているはずだけど、独りでダンジョンに籠ってモンスターと戦っているだけなので余り実感が湧かない。もうとっくに月の重力すら超えているというのに。だがそれよりもダンジョンを攻略し、工夫してモンスターを如何に効率よく倒していくかが愉しくて仕方がない。

うむむ…オレはダンジョンに魅了されてしまったのだろうか。

だが愉しいのであればそれで充分だ。こんなに愉しいのはいつ以来だろう。もしかしたら初めてかもしれない。思い出せないという事は、つまりダンジョン最高ということだ。

「とはいえダンジョン攻略の為にも、良質の食事と良質の睡眠は不可欠。今日はもう部屋の方に戻ってゆっくりするか」

装備を解いて簡単に手入れをすると、アパートの部屋へと続く真っ黒へと潜り込んだ。

「さぁて、シャワーを浴びたら飯にするか。…お?」

這った姿勢から立ち上がると、テーブルの上に置かれた通信端末がチカチカと点滅しているのに気付いた。確認してみるとオタ友からメッセージが入っていて『夏のイベントどうするんだ?』という内容だった。

「んぅ~夏イベかぁ…」

そういえばもうそんな季節か。去年の暮れは仕事で行けなかったんだよなぁ。オタ友たちと手分けして目当ての本を買いに回り、コスプレイヤーの写真を撮って、商業ブースで限定オタグッズを手に入れる。

『悪い。大きな仕事に取り掛かってて無理そうだ』

オタ友にはそう返事を返した。

すまん智代、いや友よ。詳しい事は言えないが、オレは今無職なのだ。こんな状態で夏イベになんか行ったりしたら、残り少なくなった貯金すら失ってしまうことになるだろう。だから行けないのだ。

「ふぅ、一時は夢中になって参加していたけど、仕事だなんだでだいぶ遠のいてしまったな。だが今、オレにはダンジョンという楽しい世界がある。それを慰めに明日も生きて行こう」

ダンジョンではクソザコナメクジをボコボコに出来るオレも、地上では無職のひきこもり。虚しい…。この虚しさを乗り越えるためにも、もっとダンジョンで強くならねば。
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