うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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悪夢

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「ふんふんふん~」

軽快にフライパンを振りながら、ネットでレシピを調べたチキンライスを作っていた。うちのキッチンに備わっているのは一昔前の電熱コンロ。なので別段ここまでフライパンを振る意味はまるでないのだが、それはまぁ気分の問題。

米、卵、鶏肉、それにミックスベジタブル。調味料は塩コショウにケチャップ。全てうちにあるモノだけで作れるので非常に助かるレシピだ。

「よし出来たぞ。さぁ食べるとしよう、いただきます」

皿には盛りつけず、フライパンから直にチキンライスを頂く。

うん、この方が後片付けが楽なのだ。テーブルにフライパンを置き、テレビの音を聞きながら通信端末で表示した内容に目を通しつつ口にチキンライスを運ぶ。そうして耳、目、口と、3つのチャンネルから同時に情報を入力していく。

それでもなんら問題なく、それぞれに入力された情報を充分吟味できるのはダンジョンで成長出来たからだろう。それでいくともしかしたら、聖徳太子はダンジョン探索者だったのかもしれないな。

まあそれはともかくとして、オレの知らないうちに世界は動いていた。

「へぇ、ダンジョンを一部一般開放か。随分大胆な方策を打ち出したもんだ」

それは国の方針を報じたニュース。ことダンジョンに関しては様々な意見がぶつかり合っていた。

まぁ色々とあるが、極端なのはダンジョンなんて埋めてしまえ支持者、訳の解らないモノはとりあえず埋めてしまえ。臭いモノには蓋をしろの論法で、意外とこういった意見を持つ人は多い。そう支持しているのは、主に年配の人達ばかりだけど。

次に真反対のダンジョンを開放しろ支持者、これは圧倒的に若者が多い。そしてそれを主張する誰もが、自分が勇者になれると思っている節がある。と、そんな事を思っているが、オレもどこに属するかといえばここになるのだろう。なにせすでに潜ってるし。

後はまぁ、本当に色々かな。

自衛隊にすべて駆除させろとか、民間事業としてうんたらとか。とにかくひとつだけ共通していることは、皆自分の都合しか考えていないという事だ。テレビのワイドショーなどを観ていても、解答のない問題について、あーでもないこうでもないと言っている。

こういうのを視ると、人間て脆いなぁと感じる。

直に触れても視てもいないモノが解るはずもないのに、それをアレコレと語るのもまたおかしな話なのだがそんなことはポイと棚にアップ。皆自分の意見がいちばん正しいと堅持し、その意見を通そうとしているように見える。

今なぜダンジョンが地球上のあちこちに現れるのかなんて、解ろうはずもない。ならダンジョンに潜って、その答えを探すしかないのではなかろうか。

だがそうは思うが主張はしない。なにせオレだけの秘密のダンジョンでお愉しみ中だから。

「ふぅ、ごっそさん。自分で作ったメシだけど美味かったなぁ。ふぅむ、器用さが増したからかな?さて、ではではお愉しみのスキルアップタイムといこうじゃない!」

前回の攻略でクソザコナメクジ、じゃなかった巨大ナメクジからスキルオーブをもう1個ゲットしていたのだ。スキルオーブをダンジョンの外で使うのは初めてだけど、こうして持ち出せているし問題はないだろう。

「カモン!オレの【粘液】ちゃん!」
『きゅわわぁ~…ぱぁ~!』

技能:
【強酸】・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】2

「うむ、大成功だ。地上でもスキルオーブは問題なく使えるな」

失敗した時のために獲得しやすい【酸】ででも試せばよかったのだろうが、これは魔石なんかも普通にダンジョンの外に持ち出せていたので、問題ないと踏んだ次第だ。



食後はゆっくりと録画していたアニメを視聴しながら、片手間に通信端末でもダンジョンの情報を漁る。パソコンを立ち上げたほうが情報収集能力は高まるのだが、最近は情報の出だしが通信端末で扱うコミニティアプリが多いので、新鮮な情報は通信端末の方が早い。

(お、また魔石の買取金額があがってる。コレいくらまで上がるんだろ)

人によって今が売り時だとか、今はホールドしておくべきだとか、それぞれに言う事が違うから混乱するよな。まぁオレはかなり魔石が溜ってるから、そろそろ少し売りに行ってもいいかもしれない。

他には自称、穴(ダンジョン)に潜った者の体験談を拾っていく。嘘か本当かは真偽眼が試されるところだが、いかんせんそれは実物を見てみないことには解らない。

例えばゴブリンが空を飛んだと言われても、ただファンタジーの通説と照らし合わせて嘘か本当か判断するのは難しいからだ。知識の浅い人間には空飛ぶゴブリンに視えても、もしファンタジーに詳しい人間が視れば、それはガーゴイルだと解るだろう。

同様にゴブリンが火を噴いたと言われれば、オレもオタなのでそれは小悪魔(インプ)の類ではないかという推測ぐらいはできる。

まぁ大事なのは、どんなモンスターがいるのかを大凡でも把握しておくことだ。それならいざ自分がダンジョンで遭遇した時に、慌てないで済む。

オレも這いずる半分溶けた人間みたいなモンスターは、ジャイアントスラッグだと情報をネットに上げようと思ったが、やめた。書いている途中で、その内容が酷く嘘臭く感じられたから。アレは実際に視てみないと、決して解らない衝撃だ。




「う~、う~ん…ゴ、ゴキが迫ってくるぅ!ハッ!?」

夜半、悪夢にうなされて眼を覚ますと、全身にびっしょりと汗をかいていた。

「はぁ…なんだ夢か」

ダンジョンで戦っていて、突然ありえなくらい大きなゴキブリに襲われる夢を視た。キッチンで水を飲み寝床に戻ってきたが、なんとも神経が昂ぶってしまい眠れそうにない。そこで、ふと思いついてネットでゴキブリが出てくる夢と検索してみた。

すると、ゴキブリはあなたのストレスを表しているもので、大きければその分ストレスも大きいと書かれていた。

「うむむ、ストレスか。確かにダンジョンでの精神的負荷は大きい。だがその分オレは精神力も増しているからな。でもまだ続きがあるぞ。なになに…夢の中でゴキブリが逃げればストレスが解消できないことを意味し、もしも大きなゴキブリを仕留めることができればストレスも解消されるということを意味しています。か…」

そもそもオレはゴキブリが苦手だ。だからそのせいで変な夢を視たんだろう。なにせ怖いモンスターなら、病鼠もそうだし、巨大ナメクジなんてダントツで不気味だった。

「むぅ…しかしそんな事を考えていたら、ますます眠気が薄れてしまった。暑くて寝苦しいし、ここはひとつダンジョンの前室にでも行って横になるか」

オレは冷蔵庫の前に行くと、扉を開けて頭を中に突っ込んだ。すると『とぷり』と真っ黒が波打ち、ダンジョン前室の景色が眼前に広がる。真っ黒から這い出て、ぺたぺたと裸足でダンボールを敷いただけの簡易拠点に向かう。

『ビュッ!ビュッ!』

途中でたてかけておいたカツオくんバットを握り、二度ほど振ってみる。確かな威力を感じさせる風音を鳴ると、少しだけ安心できた。

(そうだ、オレは強くなっている…。ダンジョンのモンスターになど負けはしないぞ)

ダンボールの上に横になるとカツオくんバットを小脇に挟んで腕を組み、ただ眠気が訪れるまでオレはジッと目を閉じていた。
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