うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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【瞑想】

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塩サウナから出た。

「(ざばぁ~ッ…ざばしゃ~ッ!)ふぅ~~~ッ!」

頭から冷水を何度も被り、のぼせを散らす。

うん、気付けば1時間半も経っていた。普通なら死ぬで。良い子は決して真似しちゃいけない。

そうして塩サウナから出てすぐの水瓶風味のかけ湯甕から、手桶で水を汲んでは汗と解けあった塩のぬめりを洗い流す。ふぅ、これでスッキリさっぱりだ。ダンジョンで受けた嫌な気配も、もうすっかり消え失せている。

「ああ、でもこのままでは脱水症状に陥ってしまうな」

だがこのスーパー銭湯の浴場入り口には、素敵なオアシス冷水器が据えられている。その冷水器に向かいガブガブ水を飲むと、その後は屋外に並んでいるリクライニングチェアに身を横たえてゆったりと自然放熱。。。

(はぁ~~~~~、心地良い…)

暑い夏の陽射しを全身に浴びつつも、通り抜ける風のなんと心地良いことか。

さらにこの平日の昼日中から、スーパー銭湯でだらだらと過ごせている事そのものが至福。オレは生まれついてのお金持ちではないので、これ以上の贅沢はちょっと想像できない。

(………)

じりじりと肌を灼く陽射しが心地良く、そよそよと吹き抜け身体の火照りを冷ます風の清涼感。

(でも、さっきのはいったい何だったのだろうか?)

ふと、塩サウナで瞑想していた時の衝撃を思い出してみようとするも、どうも記憶が曖昧。鮮烈でありつつも夢現。現実だったのか、はたまた夢でも見ていたのか…。

しかしそんな事を思いながらステータスに意識を向けてみると、なんと新たなスキルをみつけた。


           現在    前回
レベル        37      36
種族:       人間

筋力        212      200
体力        218      201
知力        215      202
精神力       240      220
敏捷性       220      208
運         133      103
器用さ       221      200

技能:
【強酸】1.1・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】2・【空間】2・【強運】1.3・【足捌】・【瞑想】

称号:
【蟲王】


(なに!【瞑想】ですとッ!?)

塩瞑想ソルトメディテーションで、スキル【瞑想】を獲得とは。

たしかにオレは、以前からスピリチュアルなことにも関心の深いオタではあった。が、そう年がら年中瞑想をしていたわけでもない。そもそも仕事や日々の些事に忙殺されて、瞑想をゆっくりとしようなんて気にもならなかった。それがここ最近の生活リズムの変化で、たまたま瞑想を摂り入れただけなのに…。

だが、なんにせよコレは有難い。

瞑想は、強キャラなヤツが自身のコンディションを常にハイレベルな状態で維持するのに日常的に行っている事と相場が決まっている。それをオレも摂り入れられるのであれば、実に素晴らしいことだ。効果については不明だが、きっとイイモノであると期待しよう。

…。

で、風呂を出た。塩サウナに1時間半もいたので、入り過ぎだ。その為いつもなら直ぐに会計を済ませて退館するところを、ソファーでドリンクなんか飲みつつ休憩を入れている。

このスーパー銭湯の男湯女湯の入り口は向かい合っており、その中央にはドリンクやアイスなどを売っている売店が。普段はまず利用はしないのだが、今日は特別。ドリンクはいずれも美容や健康に良いという謳い文句のジューズが並んでいたので、目に優しいというブルーベリーベースのフルーツミックスをチョイスし渇いた喉を潤していた。

(さて、楽しみだなぁ~。【瞑想】か~、どんなスキルなんだろう。回復系だといいなぁ)

などとそんな事を考えながら寛いでいると。

「あら?」

ソファーに座るオレに向け、背後を通りかかった女性が声を発した。しかもその声には聞き覚えがあったので、こちらも反応し振り返る。

「ん?」
「あ、こんにちは。今日はおひとりですか?」

身体を捻り振り返った先には、ちょっとした荷物を手にしたマッサージ店のお姉さんスタッフさんがオレを見下ろしていた。道理で聞き覚えがあったわけだ。

「あ、どうも。そうですね、今日はひとりです」

挨拶と共に質問されていた事柄には、ひとまず答えておく。だからどうということもないのだが、まぁサラリーマン時代に培った社交辞令的なやりとりが自然と口から出た感じといえばいいか。

「あっ、なら!今日もマッサージされていきませんか?」



と、前屈みに顔を寄せ、営業アピールをしてくるお姉さんスタッフさん。

「ん~、どうしようかな~」

とはいえ早く帰って、スキル【瞑想】のことも調べたいんだけど。

「あ、あ!もしお時間無いようでしたらクイックコースで!20分ですから早いですよッ!私が担当しますし、今なら待たずにすぐ出来ますからッ!ど、ど…どうですか!?」

お、お姉さんスタッフさんの圧が強い。

でもオレ、こんな風にグイグイくる感じもキライじゃないんだよなぁ。

頭は金髪に染めたソバージュで、一見するとイケイケっぽい。だけど仕事は丁寧で、一本筋の通った職人気質みたいなモノを感じる。オレに声を掛けたのも、単に営業熱心だからなんだろう。けどそういうのが、基本ボッチな男のハートを揺り動かすのもまた事実。

「え~と、じゃあそのクイックというのでお願いしようかな」
「ハイ!ではこのまま一緒に下まで行きましょうね」

にこやかにスマイル浮かべるお姉スタッフさんに左の腕を抱かれ、女性に免疫のないオレなんかはもうそれだけでドキッとしてしまう。ハッ!これが世にいう同伴か。って、違うか。階段下りるだけだもんな。

…。

「では、こちらにお座りください」

案内されたマッサージ店。その行く手には、なんだかフィットネス器具みたいな椅子が。ふぅむ、これに座るのか。

「こうですか…?」
「はい。そう、俯せになる感じで、それでココに顔を…」

どうやらクイック20分コースでのマッサージは、このフィットネス器具チックな椅子に俯せになり肩や背中をマッサージしてもらうコースのようだ。座面に腰かけ、腕と胸の部分に当たるクッションに身体を預ける。顔も同じくクッションに当てるが、顔だけは紙のシートで衛生面に配慮してくれている。

(へぇ、こういうのもあるのか…)

座った状態で受けるマッサージ。ただ座っているだけよりも、身体を椅子にもたれかけているので非常に楽ちんな感じがする。そんな風にしてマッサージ用チェアの座り心地を愉しんでいると、不意に背中にあたたかい感触を感じた。

『(ひしっ…ふよん、ぎゅうぅッ…)』
(こ、これは…ッ!?)

いや、騙されるなオレ。相手はプロのマッサージお姉さんだ。ただ背中に抱きついてきているようにしか思えなくても、きっと何か意味があるはず…。

(ハッ!そうか!!)

なるほどわかったぞ!さすがはプロのマッサージお姉さんだ。さてはこのお姉スタッフさんも、相当なチャクラの使い手のようだ。そうだよな、マッサージというものを生業にしているお姉さんだ。自分でもヨーガなんかをしていても、決しておかしくはない。むしろそのスタイルの良さからそれを見抜けなかったのは、オレの未熟さ故か。

そうとは知らずに背後から抱きつかれて、ついドキドキとしてしまった。これは恥ずかしい。

「(くんかくんか…すぅ~はぁ~ッ…ああ、逞しい…)」
(ムムッ…なにやら独特の呼吸法!?…)

なるほど。ヨガはスクリット語で『つながり』を意味している。このお姉スタッフさんは、オレの背中に額を密着させることも厭わずグリグリすることで額にある第6チャクラ:アージュニャ・ブラウチャクラと、胸にある第4チャクラ:アナハータ・ハートチャクラにより直感的に対象のコンディションを感じ取り、施術前の診察を行なっているのだな。

「こ、これはすごいですね…」
「ハイ…とってもスゴイです(ハァハァ)」

やはりそうか。ハッ!もしかして。普段は1階のマッサージ店にいるお姉スタッフさんが今日に限って2階にいたのは、オレの塩瞑想(ソルトメディテーション)によるチャクラ全開バーストを感じ取って原因を調べに来ていたのではなかろうか。

おお、すごいぞお姉スタッフさん。そんなにもすごいチャクラの使い手だったなんて。

「ハァハァ…そ、それじゃ施術をして参りますね(ぎゅううぅぅ!)」

うぉぉぉ、キタキタ!いきなりの肩のツボに刺さるダイレクトアタック。四本の細い指が僧帽筋を捉え、親指が肩甲骨の合間にあるツボに深々と突き刺さる。しかもお姉スタッフさんは指圧に体重を掛けるのに神経を集中しているらしく、自身のお胸がオレの背中にぴったりと密着し、すりすりと擦れているのに全く気が付いていないようだ。

『すりすりすりぃ…こすこすこすぅ…』

うぅ…マッサージの刺激と共に感じられるお胸の感触が…。それでなくても最近は瀬来さんをバイクに乗せる機会が多くて、オレの背中の感受性が急成長しているというのに…。

「ハァハァハァ…(ぎゅううぅぅ!)」

ああ、オレはなんと情けない男だろうか。お姉スタッフさんはこんなにも一生懸命にマッサージをしてくれているというのに。エッチなことばかりに意識が向いて。

「ハァハァ…。そういえば、今日はいつものお連れの方たちはどうされたんですか?」

「え、はい。今度の土日に伊豆まで海水浴旅行に行くことになりまして。今日はその打ち合わせに―」
「海水浴ですかッ!?(ガタッ!)」

おわ、なにやらお姉スタッフさんが海水浴ネタに食い付いてきた。

「え…?ええまぁ。最後の夏を満喫したいということで、せがまれまして」
「どどど…!どちらにお泊りになるんですか!?」

「え~と、確か伊東の辺りだったかと」
「ちょ!ちょっとお待ちくださいね!わ、私伊豆には詳しいんですッ!」

そう言い残すと、お姉スタッフさんはオレを椅子に残しその場を離れてしまった。が、2~3分ほどで戻ってくると、伊豆でお勧めの海水浴場というのを事細かに教えてくれた。こんな事にまで親身になってくれるなんて、なんてお客さん想いのスタッフさんだろうか。

…。

今日のマッサージも実に気持ち良かった。ただ途中オレの邪な思いが邪魔をしたせいで、しっかりとその技術を学べなかったのは失点だったな。

「ハイ、こちらが会員カードになります。ここを訪れた時は、ぜひまたうちにも寄ってくださいね江月さん」

頻繁に利用をするようなら是非会員カードを作った方がいいと勧められ、作ったマッサージ店の会員カード。それをお姉スタッフさんが手を握るようにして渡してくれる。どうやらこのお姉スタッフさんも、瀬来さんと同じくフレンドリータッチの使い手らしい。

オレも瀬来さんで慣れてなかったら『この女性、もしやオレに気があるのではッ!』な~んて勘違いに陥ること請け合いだ。まったく、参っちゃうね。
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