うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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塩サウナ

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ものすご~く小さい時。

テレビのこわ~い心霊番組に、布団を頭から被ってローアングルでビクビクしながら観ていたオレ。そして大きくなりコスプレしている可愛い女の子をローアングルで激写するカメコたちを羨ましく思いながらも、その余りの恥ずかしさに怯んで真似できなかったオレ。

そんなオレの前で、腰を抜かした三人のDQNがゴーストに取り囲まれてアヘアヘになっていた。

「ア…、アァ…!?ま、まさかオレの九字刀印が通用しないなんてッ…!?」

なんてな。それはまぁ半ば予想していた事なので、大した動揺はない。驚愕して見せたのは、単にこういう時のお約束だからだ。

「ぐひぃ…!ぐ…ぐるじ…ぃ…」

おお!あれは物理攻撃力が無い筈の幽霊に、なぜか首を絞められるというヤツじゃないか!アイツめ、いいなぁ。今度怪談話をする機会があったら、今の状況を体験談として語ればきっとその場のヒーローになれるぞ。うむ、なんとも羨ましい奴だ。

そして、オレは今なお冷静にDQNとゴーストたちを観察していた。

まぁDQNに対して特に語ることはない。イキッて調子づいた若者の末路。なので、ソレで生きようが死のうがオレの知ったことではない。そう、人生とは非情なのだ。

そしてオレに必要のなのはダンジョンモンスターのデータ。ゴーストという、未知のモンスターのデータなのだ。

ふむ…、まずゴーストは靄のような不定型な存在。DQNたちが振り払おうと必死に手足をバタつかせている。が、それで弾かれるでも散るでもなく、一切影響のないように見える。うむむ、つまりは物理攻撃無効ということか。

一方でゴーストたちはDQNらを取り囲み、顔をその手で『てろりてろり』と撫ぜているように見える。そしてその度にDQNたちは、ギャーだのヒーだの言いながら苦しんでいる。

(なるほど、あれがゴーストたちの攻撃方法なのだな…)

ゲームなんかでは相手の生命力を奪い取る攻撃を、エナジードレインなどと呼ぶ。しかしDQNたちはすでにゴーストに取り囲まれて5分は経っているだろうに、未だ死ぬ様子もなく元気に叫びのたうっている。

とするとこれは、ゴーストの攻撃力が低いせいだろうか…??

いや、そうではないな。ゴーストたちはDQNたちがもがき苦しむ様を見て、愉しんでいるのだ。うむ、どうせ幽霊だから特段やることもないし、暇なのだろう。そんなところに美味しそうなご馳走が転がり込んできたならば、長くじっくり味わいたいという気持ちにも頷ける。

そして彼らの攻撃方法は、恐らくは精神力を削り取るような攻撃。精神吸奪(メンタルドレイン)とでもいった攻撃手段のようだ。

だが、さりとてオレが視る限りでは、ゴーストたちから受けるプレッシャーは低い。

これならばここにいるゴーストたちよりも、うちの冷蔵庫ダンジョンにいる格闘蛙の方がよほど殺気と圧に満ちている。故に、このゴーストたちは大して強くはない部類のアンデッドモンスターなのだろう。

なるほど。それらの事象から推察するに…、言うなれば彼らは下級霊レッサーゴーストとでも呼ぶ存在のようだ。

「ぐひぃ!ぐるじ…だじげ…で…」

DQNのひとりが口から涎と泡を吐きながら、助けを求めている。やれやれ、まったくなんという醜態か。数刻前まではイキりまくった毒まで吐いていたというのに。まぁそんなDQNは放っておいて、オレは重要なデータ取りを進めるだけだ。

「ゴーストめ…。ならばこれはどうだッ!ソルトスプラッシュ!」

DQNを取り囲むゴーストたちに向け、思い切り塩を投げつけてみる。

え、なぜ塩なんて持っているのかって?ああ、これはうちの冷蔵庫ダンジョン地下4層にいる巨大ナメクジを倒すのに、いったいどれだけの塩が必要なのかっていう実験を行った時の残りよ。

巨大ナメクジの粘液が付着して袋がドロドロだったから、キッチンに置くのも躊躇われてずっと空間庫の中に入れっぱなしだったのだ。ちなみに巨大ナメクジを倒すのには、約3.5kgもの塩が必要だった。さらに粘液を頻繁に出す個体にはもっと塩が必要になるため、非常に採算の合わない攻撃手段だという事がこの実験から解った。

「むぅ、効果はなしか…」

そして今回も、下級霊レッサーゴースト達に攻撃は効かなかった。

「「「………(プイッ)」」」

一瞬だけはこちらを向いた、だがそれでもDQN達を解放するまでには至らない。

「あばぁあ!だじげでぇ!」
「うぶっ!(えろろろろろ……ッ!)」
「ぎゃああ!ひぃ!ひひぃいい!」

おい、なんか吐いてるのがいるな、きったないからやめろよな。

「よぉし、ならばこれはどうだッ!(じゅばッ!)」
『スカッ…』

スキル【強酸】による酸弾攻撃。だがこれも狙ったレッサーゴーストの身体を通り抜けてしまう。スキル【強酸】による攻撃も、物理攻撃判定だったよう。しかしスキルによる攻撃はレッサーゴーストの注意を惹いたようで、攻撃されたレッサーゴーストが遂にこちらへと向かってきた。

白い靄のようなレッサーゴーストが眼前に迫る。だが…まだだ。

「閃け!エクスカリバール!」
「GAHHHHHH-ッ!」
『ビシャアア!(…ぼふんっ)』

コートの下から取り出したエクスカリバールを一閃。すると白い靄のようなレッサーゴーストは縦一文字に切り裂かれ悍ましい悲鳴をあげ、滅した。

「フッ、やはりそうか…ッ!」

オレのエクスカリバールはケロ太君への寄せ書き―じゃなかった武器強化スクロールによって強化されている。その為うっすらとだが魔力を帯びているのだ。故にその攻撃には魔力的な攻撃力も有していると考えたが、どうやらその読みは当たっていたようだ。

「ならば!ダブルエクスカリバールブーメランッ!!」
「「GAHHHHHH-ッ!」」
『ズブビシャー!(ぼふんっぼふんっ)』

あ、ヤベ…。

手に持ってないと効果が無かったらどうしよ。と投げてから気がつき焦ったが、ダブルエクスカリバールは見事に下級霊(レッサーゴースト)達を引き裂いて滅ぼした。ちなみにブーメランと叫んで投げてはみたものの、本当に飛んで戻ってはこない。

で、勝った。オレとエクスカリバールの勝利!下級霊レッサーゴースト、恐れるに足りず!!


………。


その後、腰が抜け精神の錯乱してしまったDQNたち。

ハイハイしか出来ない彼らの尻を蹴りながら誘導し、地下3層までは避難させてやった。モンスターとの貴重な戦闘データ取りに付き合ってもらったのだ。命だけは助けてやろう。

「ぽ…ぽぽぽぽ…」
「う…ヒィ……(がくがくぶるぶる)」
「チョウチョ…うひひ…チョウチョ…」

ただ三人ともだいぶ精神力を下級霊レッサーゴースト達に吸奪ドレインされたらしく、それぞれ混乱・恐慌・幼児退行などの症状がみられる。

「ふぅむ…、まぁ元気でな。精々コボルドにボコられないよう気を付けて帰れよ」

というわけでオレが面倒をみるのはここまで。後は彼らの運次第だ。


……。


私は大層穢れてしまった…。

黄泉の国から立ち戻った日本の創生神・伊弉諾尊イザナギノミコトはそう言って水に入り、その身を洗い清めたという。

そしてオレもまたダンジョンで下級霊レッサーゴーストなんかと戦ったせいで、なんだかひどく穢れを負ってしまったような気がする。今もなんだか穢れたモノが憑いてきているような…。うむむ、これは気になる。オレはこういう事を物凄く気にするタイプなのだ。

「ヨシッ!そうだ風呂に行こうッ!」

自身の浴びた穢れを払う為、早々にダンジョン調査を切り上げるとスーパー銭湯へとバイクを走らせる。そう、あそこにはアレがある!

スーパー銭湯に着くとすぐさま身体を洗い、ナノ炭酸泉の湯船に浸かりホッと一息。ふぅ…、ここは瑠羽たちも連れてくるお気に入りのスーパー銭湯。

「よし、ではそろそろ行くか…(ざばぁ)」

穢れを払うというのは、大変だ。

なにせ日本の創生神・伊弉諾尊イザナギノミコトですら黄泉の国から帰ってきた穢れを払うためには三度も身を清め、その度に神がポコポコと生まれてしまったというほど。なので普通の人間でしかないオレは、よほど念入りに身を清めなければならないだろう。

そうして向かった先は、塩サウナである。

平日の昼間ということもあり、客の入りも疎らだった浴場。なので塩サウナも貸し切り状態。そう、身体を清めるにはお浄めの塩!これを全身に隈なく擦り込んで、穢れをごっそり祓ってやろうという算段よ!

「こうして、足先から念入りにやっておくか…」
『(わしッ。…ごしごし…ごしごし…)』

積まれた塩の山からたっぷりと手に取ると、念入りに身体へと擦り込んでいく。足、ふくらばき、ひざ、ふともも、おしり、腰、腹部、胸、背中、肩、首…と、そうだ、耳なし芳一にならぬようしっかり耳にも擦りこまないとな…。

『~~~♪~~~♪』

むむ、どうもスピーカーから流れているリラックスミュージックが少々邪魔だな。耳栓代わりに、耳の穴にも塩を詰めておくか。

「(ごしごし…ごしごし…。モリッ…てんてん)うむ、完璧だッ!」

顔にも髪にも塩を擦りこみ、仕上げにでっかいお灸のようにして頭のてっぺんにも盛り塩をした。これで完璧。オレはこれから、この塩サウナで穢れを祓う為の瞑想、塩瞑想ソルトメディテーションを行なうのだ。

胡坐をかいて、膝の上に手の平をうえにして置く。

呼吸は鼻で、ゆっくりと、長く…。そして在るか無きかの如くゆったりと…。塩が滲みて金玉の裏側がヒリヒリとしてきても、我慢…我慢…。

すると…。

『…パィーーーーーーーン…』

キタ。耳鳴りだ。オレは瞑想状態が近くなると、かなりの確率で耳鳴りが起こる。よし、これならばいい瞑想に入れそうだ…。

(…………)

うむ…もうここには誰もいない。在るのはただ無だけ…。



こうして時間の流れすらも感じなくなった瞑想状態のなか。

(((…ッ……ッ……)))
(なんだ…?)

おや、何かがオレに呼びかけて来るような…。

(((…ッ……ッ……)))

ハッ、これはもしや、身体に擦りこんだ塩の粒たちの声?

(塩…?キミが塩で、ボクが塩?小さなことから大きなことまで…?とすると、オレもまたただ一粒の塩に過ぎないということか…?)

『ピシャーーーーーン!!』

そう思った刹那、突如瞑想により全開になったチャクラ同士が直列で繋がった。そして体内で練られていた気が一気に魔力へと変換され、天頂部から炎のように立ち昇っていく。

頭のなかは真っ白。

ただただ魔力が天頂部から、天に向かい立ち昇っていく。それがなぜだか、物凄く気持ちいい。

ああ…オレはこのまま…、どうなってしまうのだろうか…。。。
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