うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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その夜、オレは奇妙な夢を視た。

帰宅し瀬来さんと外食をしながら打ち合わせ内容を聞かせてもらい、さらに瀬来さんからもマッサージを受けつつ「旅費のほうはなにとぞ♪」と念押しでお願いされた。そんな夜の夢。

いわゆる明晰夢というヤツだ。どういうことかというと、自分で夢であると自覚している夢。

そんな夢の中で取り留めもない日常を過ごしていると、突如吸い上げられるかのようにして天へと昇り始めた。それに「ハァ~。これはまるで、UFOキャッチャーの景品になったみたいだなぁ~」なんて考えている間にみるみる高度は増していき、遂には雲を越え辺りは真っ白な世界へ。

うむ、白い。本当になにも視えない真っ白な世界だ…。

鳴人なきひと…、鳴人なきひとよ…」

するとそんな真っ白な世界で、オレの名を呼ぶ声が。で、声のしたほうに振りかえると、そこには白い髭をたくわえたちっさな老人が浮いていた。

(アッ、まさか…!もしやこれが神との邂逅というやつか?!)

今までに蓄えたオタ知識が、すぐさま今の状況をファンタジーあるあるに結びつける。

だがオレの知るファンタジー知識では、こういう時に現れる神さまはたいてい間の抜けた女神さまとか、いかにもゴッドといったテイストの存在なはず。しかしオレの目の前に現れたのは、なんだかUFOキャチャーの景品みたいなサイズのちっさい老人…。

「だれが景品じゃ!」
(おわ!もしや心を読まれた…?)

「あ、あなたは神さまですか?」
「あんだってぇ~??」

あれ、なんだか耳は遠いようだ。心は読めるのになして??

「あーなーたーはーッ!かーみーさーまーでーすーかーッ!!」
「…とんでもね!アタシゃ神さまだよッ!!」

『ズコーッ!』

するとなぜか盛大にズッコケねばならぬ気がして、膝から崩れ落ちた。

「うむ、鳴人よ…。よくぞ塩の精霊たちと心を通わせた。その働き真に見事である!」

しかしちっさな老人の神さまは、オレががんばってズッコケたことには一切触れず話をすすめた。なんだかズッコケ損である。

(しかし…塩?ああ!もしかして塩サウナで聞こえた、あの塩の粒たちの声のことか…)

「よっておぬしには褒美をとらせよう…。それぃ!」
『きゅわ~ぱわわぁ~!』

宙に浮かぶちっさな老人の神さまがその手に持つ杖をかざすと、迸った光がオレを包み込む。

「こ、これは…!?」
「これからも精進するが良い。鳴人よ、ソルトと共にあらんことを…」

(え、そんな純和風な出で立ちなのに、なに決め台詞っぽいトコだけ横文字使ってんの??)

そんな事を思っている間に、ちっさな神さまは光り輝きながら白い世界の彼方にフェードアウトしていったのだった。


………。


チュンチュン。

「ハッ…!ゆ、夢か…!?」

細部まで、実にリアルな夢だった。でもどうせならちっさな老人ではなく、瑠羽ともっとイチャイチャするような夢だったら良かったのに。

(鳴人よ、ソルトと共にあらんことを…)

そうだ!あれが何かの啓示だとするならば。

           現在    前回
レベル        37      36
種族:       人間

筋力        212      200
体力        218      201
知力        215      202
精神力       240      220
敏捷性       220      208
運         133      103
器用さ       221      200

加護:
【塩の加護】

技能:
【強酸】1.1・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】2・【空間】2・【強運】1.3・【足捌】・【瞑想】・【塩】5

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】


ステータスを確認してみると、唐突に加護なんて項目が増えていて【塩の加護】なんてものが追加されていた。とすると…やはりあのちっさな老人は、本当に塩の神さまだったのか。

技能には【塩】5というのが追加されている。ておい、いきなり5かよ!すごいな。…でも塩。これはちょっと喜んでいいのかどうかよく解らない。

そして、称号にも変化が。

【ソルトメイト】は親友ソウルメイトにかけてるんだろうけど、【しょっぱい男】ってなによ。称号に軽くディスられてるんだけど。

ま、いいか。

ただ寝ていただけなのに、こんなにも色々と頂けた訳だし。何も損はないのだから。


…。


で、今朝も瀬来さんをバイト先にバイクで送っていく。

背中に感じる柔らかな感触が、今日も朝からオレの心も弾ませる。気分爽快なエロといった感じか。ふむ、これも瞑想によりオレの精神が安定してきた影響だろうか。

そしてもやは定番となりつつあるファストフード店での朝食。二人掛けのテーブルに瀬来さんと向かい合って座ると、朝食セットのハンバーガーの包み紙を剥いていく。

(あ、そういえばスキル【塩】ってどんな感じなんだろう?)

ふとそんな事を思いついて、ハンバーガーのバンズを外しスキル【塩】の発動を念じてみる。

(かぁるく…かぁるく…、パラパラ~ってな感じで…)
『パラパラ~(キラキラ)』

おぉ、出た出た。ここのハンバーガーもこれはこれで美味しいけど、もうすこし塩気が欲しいと思ってたんだよね。うん、神さまっぽい老人から頂いたスキルだから、食べても特に問題はないだろう。

「(バクリッ…じゅわ~~)んんぅ?!…美味ぁい!!」

なんだこの塩ッ!すごい美味いぞ。ただの塩じゃない、ピリリとしたパンチのある強い塩気の後には旨味が追い撃ちを掛けて来るような…うぅむ、言うなれば、これはまるで一袋で千円とか二千円もするような塩の味だ。

「なぁに師匠?子供みたいに大袈裟に喜んじゃって。いつも食べてるじゃない?」

向かいに座っている瀬来さんには、スキル【塩】を使っているとは解らないようバンズで指先を隠していた。だからその反応も無理はない。

しかし、指先から塩か。ふふふ…なんだかどこかの聖人みたいだぞ。きっと山奥の未開の村なんかに行ったら、ホントに聖人扱いしてくれそうだ。

「ふふふ、瀬来さん。ちょっとした手品を見せるから、そのハンバーガー貸してみて」
「えぇ~?そんなこと言って私のハンバーガー食べないでくださいよぉ~?」

「だいじょうぶだいじょうぶ…(ぱか…ぱららぁ…ぱふ)、ハイ、どうぞ召し上がれ」
「え…それだけですか?なにが手品だったんです…??ただハンバーガーを開いて、閉じただけですよね?」

「まぁまぁ、いいから食べてみて」
「んぅ~??なんか怪しいなぁ…。急に激辛になってたりなんかしたら、怒りますからね(ぱく…もぐもぐ)」

そんなことを言いながらハンバーガーを口にした瀬来さんが、しばらくして眼を大きく見開いた。

「んんん~~っ!!なんでッ!?師匠、いったい何をしたの!?」
「ハハハ、だから手品だって言っただろ。どうだ、美味いだろう」

「…スッゴイ美味しい!(むぐむぐ…)なんだろうコレ?塩…?塩を足したの!?」
「ご名答!ちょっといい塩を頂いたから、試しに使ってみたんだ。でも想像以上だったな」

目を丸くしながら美味しい美味しいとハンバーガーをぱくつく瀬来さん。そんな彼女を周囲のお客さんが、『なんでそこまで?』と不思議そうな表情で見ている。そんなとても美味しそうにハンバーガーを頬張る瀬来さんを前に、オレもちょい足しソルトのハンバーガーに嚙り付く。

『(じゅわぁ~~)』

ファーストフード店のさして厚くもないハンバーグから、なぜかたっぷりと旨味を含んだ肉汁が口の中に溢れ出てくるような。だがこれはパンチの利いたスキル【塩】により、唾液の分泌が活発になったせいなのだろう。しかしまぶされた塩が、肉の旨みを引き出しているのもまた事実。それらが合わさってこの『美味いぞ~!』に繋がっているのだ。

「や~ん!すっごく美味しい!もうバイト行きたくないッ!」

いやいや、バイトには行ってくださいよ瀬来さん。せっかくここまで送り届けたんだから。
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