うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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織田信長

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なんだかんだで、金曜の夜がきた午後6時。

その間オレも整体師になるため学校で学んだり、ホームセンターに細々としたモノを買い足しに行ったり。そうそう、何年かぶりに海水パンツも買ったよ。女の子達と海に行くのだって、オレにとっては人生初。なんなら四人のうちで、一番ワクワクしているのはオレかもしれない。

そんなオレは夕方レンタカーを借りに行き、ようやく戻ってきたところ。宿泊の予定は一泊二日。だが女子大生三人が旅行を満喫したいということで、金曜の夜から集まり出発することになったのだ。

借りてきたレンタカーはワインレッドの色鮮やかなミニバン。これは仁菜さんが予約を入れておいてくれた。四人のうちで車の免許を持っているのがオレと仁菜さんということで、途中で運転も代わってくれるらしい。ほんと仁菜さんはソツがないというか、なんでもできるな。

「おかえり~、じゃあ出発しようか♪」
「いやいや、ちょっと一息入れさせてよ」

部屋に戻ると、準備万端の瀬来さんが待ち構えていた。

今か今かと待ちわびていたようで、オレの顔を見るなりすぐに部屋から出ようとする。もう、節約の為にバスと徒歩でレンタカー借りに行ってたんだから、少しくらい待ってよね。

うん、常人の能力20倍を使えば車並みの速度でだって走ることもできる。が、こんなマッチョがそんな速度で走ってたら一発でダンジョンで鍛えた奴だってバレてしまう。故にそんな悪目立ちはしたくないのだ。

「むぅ~ッ!じゃあ先に荷物積んでおくから鍵貸して!」

そう言う瀬来さんの頭には、すっかり日も暮れているというのにしっかりとサングラスが装備されている。ふふふ、瀬来さんもどれだけ愉しみなんだか。でも、そうやって皆が愉しみにしてくれる旅行に出かけられるのは、嬉しいものだ。

そして、そんな瀬来さんの今日の上半身装備は、胸元空きのアイボリーニット。

(ゴハっ!そ、それはとある界隈では〇〇殺しと呼ばれる幻の装備…!)

そんなモノを惜しげもなく装備するとは…、この旅行にかける瀬来さんの意気込みがまざまざと感じられる。

「どう?決まってるでしょ♪」
「ああ、最高だ」

だが両腕をあげてポーズを決める瀬来さんに、サムズアップでにこやかに返答。邪な感情は、決して表情には出さないオレなのだ。

……。

午後8時。仁菜さんを住んでいるアパートまで拾いに行き合流。

瀬来さん曰く「シズがここに住んでるって言われても、すぐには信じられないよ」との事だった。が、仁菜さんの住んでいるアパートは路地の奥まった所にあるらしく、残念ながら目視での確認はとれなかった。

「よろしゅうコォチ。車もシャツも、よぉ似合っとるねぇ♪」
「ありがとう。仁菜さんも素敵だよ。どこの避暑地のお嬢様かと思ったよ」

オレも今日は、旅行に合わせアロハシャツなんかを着ちゃったりしている。こんな派手な柄のシャツは、まず買ったこと無かったのに。でもヒョロなオタでは似合わなくても、マッチョとなった今のオレならば派手柄アロハシャツも似合うのだ。

対して仁菜さんは、フリル遣いの素敵な白のロングワンピース。

仁菜さん自身が持つ色っぽさと、白のロングワンピースの持つ清楚さが相まって、なんとも少年が遠い夏の日に憧れた初恋のお姉さんといった雰囲気がピッタリ。

ああ、こんなお姉さんと暑い夏のある日に偶然出会って、なんだがいい感じに展開が流れて嬉し恥ずかしな初体験に…って、ああ、ごめん。これはオレの持っているエロ漫画だった。

「シズ決まってるねェ♪」
「おおきに♪万智もだいぶ攻めてるやん♪」

「へへへ♪」

「よし、仁菜さん忘れ物はないかな。なら瑠羽を迎えに行こう」
「「おー!」」

ご機嫌なふたりは声を合わせ、笑顔で腕を掲げた。

……。

午後9時。瑠羽の住んでいるマンション到着。前もって瀬来さんがメッセージを送っていたので、瑠羽もマンションの玄関先までおり待っていてくれた。

「ほらほら、愛しの彼女になんて声掛けるんやコォチ?」
「瑠羽ッ迎えに来たよ。さぁ!僕といっしょに伊豆の海に行こう!(キリッ)…はい師匠!さんはい!」

「いやいや、普通に迎えに行かせてくれよ(バタムッ)」

仁菜さんも瀬来さんも車から降りないので、オレが瑠羽を迎えに行く。

「瑠羽、おまたせ」
「コーチ、よろしくおねがいします♪」

基本真面目な瑠羽が、実に真面目な受け答えで頭を下げる。その出で立ちは白い提灯袖のシャツにグレーのキャミワンピと言えばいいのだろうか。旅行に出かけるというよりも、ちょっと近くに買い物に出かけるマタニティウェアといった雰囲気。でもそんなところも大人しい性格の瑠羽らしくて、とても好ましく思う。

「よく似合ってるよ」
「あ…ありがとうございます(ポッ…)」

うむ、なにがどうとは言わない。具体的なファッションについてのアレコレなど、オレにはとうてい語れないのだから。

ともかくこれで全員集合。さぁ冒険のはじまりだ。


……。


と、合流を終えたオレ達は、揃って遅めの夕食をファミリーレストランで摂るとそのまま首都高に乗った。

旅の行程には『みんなで海から登る朝日が見たい』というリクエストがあった為、オレは深夜の高速を駆ける車のハンドルを握っていた。

揃ったことでハシャいでいた三人も、お腹が膨れたのと深夜にさしかかったことで次第にうつらうつらとし始めた。そんななか海老名サービスエリアで休憩の際に、瑠羽と助手席を交代したのは仁菜さんだった。

「コォチ、疲れたら遠慮なく言うんやでェ。うちが運転代わったるからなぁ~♪」
「ああ、ありがとう」

深夜の高速。どこまでも続く白線と暗い景色の中を流れていく照明。そんな静かな世界で聞く仁菜さんのまったりとした口調は、どこか心をホッと和ませてくれる。

「すぅ~…すぅ~…」
「んぅんぅ~…にゃむにゃ…」

瑠羽と瀬来さんは後ろのシートですっかり夢の中。夢を視るなら、ちんまい老人の出てくる夢がオススメだぞ。オレはそれでスキル貰えたから。

時々、高速ですれ違う対向車線を走る車との空気のぶつかり合いで、わずかに開けている車の窓からは鋭い音が響いてくる。

「ねぇ、コォチ」
「ん…?」

そんななか、仁菜さんがふたりを起こさぬよう小さな声音でオレに話しかけてきた。



「コォチは尊敬する人とかって、おるん?」
「尊敬する人か、過去の偉人とかでも?」

「うん、ええよ」

どうやら仁菜さんは、眠気覚ましに話題を振ってくれたらしい。

「尊敬する人か…。ふぅむ、こんな風に生きたいって憧れる人は、やっぱり織田信長だなぁ…」

うん、オレは織田信長が大好きだ。

というかオタで織田信長が嫌いなヤツがいるのだろうか。歴史上の当人そのひとだけでなく、さまざまにそのキャラクターは千変万化、美少女にだって何度もなっている。それがオタで織田信長が嫌いなヤツがいないという論拠だ。無論、異論は多分に受け付ける。

「へぇ…有名やねぇ。どのへんが好きなん?」
「ん~、決して自分を曲げずに、その才覚だけで一直線に突き進んだところかな。一見デタラメの型破りに思われる性格だけど、実際は実に合理的に考えてるし。また日本中を敵に回すような状態になっても一歩も引かずに戦う所なんかも、その心根がカッコイイと思う」

とまぁ戦国モノもよくアニメや漫画の舞台になるので、オレもそれなりには歴史が語れるのだ。

「男の子はみんな信長が好きっていうよねぇ~」
「それは仕方ないよ。ザ・スゴイ男っていう生き方の見本みたいな人生なんだから。男なら誰だって、大なり小なりあんな風に生きてみたいと思うんじゃないかな?」

「ふ~ん、そういうもんなんやねぇ。じゃあ二番目は?」

おっと、二番目ときたか。じゃあお次は、あの人物をあげようかな。
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