うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ストーカー撲滅!ドキッ♡ほろ酔い美女の帰宅囮大作戦!

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計画は実行に移された。

夕方。瀬来さんと仁菜さんはストーカーをおびき寄せるため艶やかな格好で出かけ、瀬来さんの普段の行動範囲をねり歩いた。最寄りの駅に移動すると、駅前の居酒屋に入り夕飯とお酒を愉しむ。

これらの情報を、オレは瀬来さん達からのメッセージで確認する。なぜならばマッチョでいかついオレには、隠れての護衛任務など光学迷彩でもなければ無理だからだ。

故に、その任にはシャークが就いてくれている。

シャークへの報酬は、今後もダンジョンコーチを続けてやる事の約束と、少額のおこづかいだ。その時になにやら『報酬はスイス銀行に振り込んでくれ』とか言っていたが、おまえそんな口座持ってないだろ。なに世界一流のスナイパー気取ってんだ。

『こちらシャーク。護衛対象は未だ飲食中。護衛対象が周囲の注目を集めすぎていて危険人物を特定できない。送れ』

『シャーク、面倒をかけるな。だが瀬来さん達の周りは、いつもそんなモンだ。居酒屋にいる客は無視して、店を出た後も追跡してきた者に警戒せよ』

『了解。潜伏警護を続行する』

う~ん、シャークの苦労が偲ばれる。なにせ今日の瀬来さん達はストーカーをおびき寄せるために、かなり挑発的な服装で出かけている。

瀬来さんはタイトな赤のミニスカートに、上もヘソ出しの黒キャミソール。さらにその上には、透け透けなサマーカーディガンを着ているという念の入れようだ。

女子大生のファッションとしては攻め過ぎであり、どちらかというと水商売系のお姉さんのファッションに近い。可愛くてお胸の大きな瀬来さんがそんな恰好をすれば、周囲の注目を集めてしまうのは無理からぬことだろう。

しかもその場には、瀬来さんよりもさらにそんなファッションの似合う大人の色気たっぷりの仁菜さんまでいるのだ。うむ、その破壊力は計り知れない。

そんな仁菜さんは、タイトな深い藍色のロングワンピース姿。赤などの明るい色ではなく、敢えて暗い色で攻めている所が如何にも大人っぽい。画像を送ってもらったけど、ピアノの傍でバラードでも歌いだしそうだった。

『ふたりともぉ。もうすぐ店出るから、護衛よろしゅうなぁ』
『了解』
『了解』

オレ達は全員参加型のグループチャットで連絡を取り合っているので、情報はすぐさま全員に共有されるのだ。

…。

『ヒュォォ…オォォォ~…』

「了解、か…。ふふふ、便利になったものだ(テロン)」

声に出した言葉によって、音声入力で文章が打てるのだから。蟲王スーツを着込んだ指先で通信端末を操作し、仕舞い終える。

場所は瀬来さんの住む3階建てアパートの真正面。通りを挟んだココが周囲で一番見晴らしがよく、瀬来さんの部屋も見張りやすい。オレはそんな風の強く吹く4階建てマンションの屋上に身を隠していた。

その理由は、もし瀬来さんをつけ狙うストーカーがダンジョンで力を身に着けた能力者だったら、という最大の懸念の為。

スライムは結構どこのダンジョンにもいるモンスター。それ故に【酸】のスキルを持つダンジョン探索者はそれなりにいる。と、オレはみている。なので怖いのは、相手もオレと同じように【酸】持ちで同キャラ対戦のような戦いになってしまう事だ。

そうなった場合、蟲王スーツを着ておらねば間違いなく相打ちになってしまう。その為こうしてコソコソと蟲王スーツ姿でマンションの屋上に潜み、周囲を見張っているという訳だ。

ま、間違いなくこの地域で一番の不審者は、怪人蟲男なオレだな。

……。

初日、ストーカー撲滅!ドキッ♡ほろ酔い美女の帰宅囮大作戦!の結果は空振り。ストーカーと思しき人物は、姿を現さなかった。

……。

二日目…、同じく空振り。

千鳥足で部屋に帰ってきた瀬来さんと仁菜さん。

酔ってハシャいだ雰囲気をふんだんに撒き散らして帰って来たので、撒き餌は充分。仁菜さんの酔った演技も秀逸。フラフラと瀬来さんの部屋の扉を開けたまま廊下に出ると、階段を下り酔いに身体を支えきれない態でエントランスのオートロック扉にももたれ、開けた状態にする。そしてまたフラフラとその場を後にして駅に向かうのだ。

が、入れ違いで帰ってきたアパートの住人に、ピシャリとオートロックの扉を閉められてしまった。蟲王スーツなオレが扉を開けに行くわけにもいかず、さりとて瀬来さんがわざわざ開けに行くのも如何にも不自然。よってこの日も空振りとなった。

……。

そして迎えた三日目。だがここで事件が起きた。

なんと、シャークが補導されてしまったのだ。

『こちらシャーク。警官にみつかった!大佐、大佐ッ!指示を乞う!』

というメッセージのあとで、こちらからメッセージをいくら送っても連絡がつかなくなってしまったのだ。

と思ったら、『いま交番、説教タイム。ストーカーに狙われてる友達を助けるためって言ってるのに、ぜんぜん話きいてくんない…><』というメッセージが送られてきた。

参ったな。今どき高校生くらいの子が夜にうろついていたって別に不自然じゃないとタカを括っていたが、とんだ誤算だ。とりあえずシャークを補導した警察官には、グッジョブと言っておこう。オレ達のミッションにおいてはマイナスだったが、日本の平和の為にはプラスだった。

『なら、今日はもう諦めて私たちで迎えに行くよ』

そんな状況に瀬来さんがミッションの中止を提案する。が、今はステージ③、すでに居酒屋を出て帰宅途中なのだ。もしこのタイミングで不審な動きをとれば、ストーカーに罠である事を警戒されてしまうかもしれない。それは不味い。

『いや、瀬来さん達は作戦を続行してくれ。シャークなら大丈夫、おじさんが警察官とか言ってたし。仁菜さんは瀬来さんの部屋を出たら、その後でシャークのピックアップを頼む』

『ええでぇ。なんや今日のコォチは、カッコえぇねぇ』

そうかな?いや、そうか。

そういうハードな戦闘系ゲームの世界に没入して、主人公キャラになりきって演技しているような感覚はある。シャークもなんかノリノリだったし。オタはどうしたってそういうとこあるよな。

…。

声が聞こえる…OK、視認できた。

瀬来さんと仁菜さんが肩を寄せ合い、酔った態でフラフラと帰ってくる。あれ…、演技だよね?人の金だと思って結構飲んでない?



まぁそれはともかく、意識を拡張させ周囲の気配を探ってみる。が、瀬来さん達の後を歩いてくる帰宅途中と思しき若いサラリーマン以外には、特に気配は感じられない。

(ふむ…あのサラリーマンがストーカーってことは…、ないよな)

瀬来さん達がアパートのエントランス前にある階段をあがるのにモタモタしているのを避けて、若いサラリーマンは通信端末を弄りながらつまらなそうに通り過ぎて行った。

(ふぅ…。どうやら今日も空振りの―、ん!この気配…!)

何かねばつく視線のようなモノを感じる。なんだこのプレッシャーは…?

瀬来さん達はフラフラと酔った感じで、肩を抱き合いながら階段を登って行く。そんな彼女たちに向けられる視線があるような…。

(と…あった!ビンゴだ!あのT字路っ!)

改めて念入りに周囲の気配を探っていると、以前瀬来さんの部屋に荷物を取りに行った時にも不審な人物が隠れていたブロック塀。その影に何者かが潜んでいる気配を感じる。

そこで部屋に入っていった瀬来さんにすぐ電話をかけた。

『あ、師匠?』
「ああ、瀬来さん、ヒットだ。ストーカーが現れたぞ!」

『エッ!ウソ…ほんとにッ!?』
「本当だ。うまく釣れたようだ。仁菜さんに代わってくれ」

するとしばらくガサゴソわーきゃーした後で、仁菜さんが電話口にでる。

『あ、コォチ?うまくいったん?』
「ああ、ふたりの演技力のおかげだよ。あとは仁菜さん、自然な感じで扉を解放したままアパートを出てくれる?」

『オッケーや。うちにまかしとき~』

それから二分ほどして、部屋から出てきた仁菜さん。

「あ、ハァ~ン…」と真面に立って歩けないほどに酔った態で扉に持たれたり、廊下の手すりにもたれる。そしてこちらにこっそりと笑顔を向けると、パチリとウインクをしてみせた。

いやはや、なんとも演技派。

あんまり色っぽ過ぎて、瀬来さんのストーカーが仁菜さんについて行ってしまいそうで心配だ。だがこれなら、演技とバレることはないだろう。

よし、お次は大捕物といこうじゃないの!
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