うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
106 / 660

初宝箱

しおりを挟む
『ギリギリギリ…ぺぐしゃ!(ぼふんっ!)』
「こふぅぅ……!(ビコォーン!)」

地下9層で巨大カメムシの頭部を片手で握りつぶした江月が、蟲王スーツに身を包んだ恐怖の殺戮マシーンが、モンスターが倒れた後に生じる煙の中から赤い瞳を輝かせて姿を現す。

「「「ギュチチィー!ギュチィ!!」」」
『ずびゃりらぁー!(ぼふぼふふんっ!)』

そんな江月に飛びかかる化け物じみた顎を持った巨大カマドウマたち。だが江月が右手に持ったエクスカリバールが閃かせると、たちまち空中分解し煙となって消える。失恋の八つ当たりで殺されまくるモンスター…まさにとばっちり以外の何ものでもない。

だがまさに無双。しかしそんな江月のカラダにもモンスターから受けた傷が無数に刻まれ、棘や牙といったモノが刺さったまま。蟲王スーツには真っ赤な血が滲んでいた。



人間はどんなに精神力が高くなろうとも、その心は愛情を欲するもの。

故に生まれて初めて出来た恋人を失った喪失感は、尋常ではなかった。そしてその喪失感を埋めるように湧いた怒りが、江月という男を狂わせていた。

「ふしゅるるぅ~ッ!(ビコォーン!)」

呼気強く、さらには蟲王スーツの目玉をビカビカと赤く光らせながら次の獲物を探して首を巡らす。完全なる八つ当たり。だがそのあまりの威圧感に、恐怖などおよそ感じないであろう虫型のモンスター達ですら、怯んだ様子をみせる。

しかしそれもそのはず。江月はレベルアップしさらに強まっていた。

      現在   前回
レベル   38    37 
種族:人間
職業:教師

能力値:
筋力    245   212
体力    250   218
知力    246   215
精神力   271   240 
敏捷性   248   220 
運     166   133 
やるせなさ 356    -

加護:
【塩の加護】

技能:
【強酸】2・【俊敏】・【病耐性】6・【簒奪】・【粘液】5・【空間】4・【強運】1.4・【足捌】・【瞑想】・【塩】5

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】


当初は怒りにまかせダンジョンで暴れまわっていたが、その怒りが冷めてくるにしたがい今度は次第に冷徹な殺戮マシーンの如く、冷静かつ容赦なくモンスターを狩り始めた。

しかも自身の持つスキルを底上げするべくスキルオーブも狙って狩りを続けたので、スキル【強酸】は1.1から2へ。【病耐性】は5から6。【粘液】も1つ上がり4から5に。さらには『ウンコ投げつけてくる猿が馬鹿にしてるようでムカつく』と執拗に狩りまくり、【空間】も2から4へと上がっていた。

しかし能力値が今まで以上の伸びを見せ30前後まで上昇したのにもかかわらず、心はいまだ晴れないままだった。

「む…腹が減った。メシにするか…」

休憩をとるために比較的安全な階段付近まで戻ると、周囲を粘液ネットで防備し階段に腰かける江月。そして空間庫から取り出したのは、よく焼いた巨大カマドウマの肢。それに塩を振って勢いよくかぶりつく。

『がぶり!くっちゃくっちゃ…がぶり…』

当初こそ食べるのを忌避していた巨大カマドウマの肢。だが失恋を機にダンジョンに籠るようになると、すぐに手持ちの食料が尽きたことで巨大カマドウマの肢をも食べるようになっていた。

『職もなく彼女のいないオレなんか、カマドウマの肢を喰ってるのがお似合いだ』などと自嘲していたが、巨大カマドウマの肢は海老の風味を持つ鶏肉のようで案外と美味く、また昆虫食は高たんぱく低脂肪で強くなろうとしている江月にとっては、まさに理想的な食事といえた。

なにせ巨大カマドウマの肢一本でもヤギの後足ほどのサイズ。腹いっぱいに食べたとしても、肢一本で三食は浮いたのだった。

『がぶり…くっちゃくっちゃ…。がぶり…』

蟲王マスクの口部分だけを魔力で開放し、その状態で焼いた巨大カマドウマの肢を喰らう。その為とても人には視えず、誰かがその姿を見たならば蟲人間なモンスターとしか思えない。

だがそんな事には構わずに、江月は無心で空腹を満たす。ダンジョンに籠り早三日。ここに人間は誰もおらず、自分もダンジョンにいるモンスターと同じだと江月は思い始めていた。

『ガツガツ…むしゃむしゃ…』


……。


ダンジョン前室。

「寝るか…」

怒りにまかせ何日も寝ずに戦い続けた蟲王スーツ姿の江月が、どさりとダンボールの敷かれた上に身を横たえる。さすがにダンジョン内で寝るのは危険すぎる為、前室まで戻ってきたのだ。

『しゅわわ~…ガポっ。グボンッ!』

魔力を注ぎ蟲王スーツを弛緩させると、ひとつずつパーツを外していく。横着して寝たまま、パーツは適当に放り投げる。そうして露わになった江月の身体には、無数の傷。決して深手ではないものの、無数の痣や傷がその身体には刻まれていた。

さすがに地下9層のモンスターともなると、蟲王スーツの防御力を貫いてダメージを与えてくる。もっとも江月がもっとスキルを多用し慎重に戦えばそんな手傷も負わないのだが、自身の耐久力を高めるためにも敢えてそういった乱暴な戦い方をしていた。

『どぷぷ…メリメリメリ…』

そして今度はスーツを着ていた際に身体を覆っていた潤滑粘液の粘性を高め、それを身体から剥がしていく。

汗や皮脂も粘液に混じっている。なのでこうして粘性を高めた粘液を身体から剥がせば、すっかり綺麗になりベトつくこともない。吸着性の高い粘液が、肌から出た老廃物といったモノを取り除くパックのような働きもしてくれていたからだ。

『しゃこしゃこしゃこ…(ぽいぽいぽい)』

最後は全裸で歯磨きをしながら、身体から剥がした粘液を地下1層に捨てておく。

こうしておけば後はダンジョンが勝手に吸収するか、スライムが見つけて食べている。なのでゴミ捨てに関しては、なんの心配もいらなかった。

「……」


歯を磨き終えた江月は全裸のままゴソゴソと古びた寝具に潜り込むと、そうして眠りにつくのだった。


………。


そうして昨日と同じように、再び地下9層へと下りてきた江月。

体力はすでに常人の約25倍。それはたとえ全治10日の怪我を負ったとしても、わずか半日ほどで治ってしまう驚異の回復力。しかも患部をスキル【粘液】で生み出した疑似浸出液で覆ってやれば、その回復速度はさらに早めてやることが出来た。

故に昨晩身体にあった傷や痣などは綺麗に消え、もう幾ばくかの切り傷の跡が残っている程度にまで回復していた。

『ガコン!すごごごご…!』
「ムッ!?これは…」

そんな江月が、ダンジョンで初めて隠し部屋を発見した。ダンジョンの壁に違和感のある模様をみつけ、それを押したところ突然壁が動き出したのだ。

「………(ちらちら)」

通路から部屋のなかを覗く。縦横10メーターほどの部屋、特に変わった様子はない。一番奥まった場所に、これ見よがしに宝箱が置かれている以外には…。

「フン甘く見るなよ…粘液領域ミューカスフィールド!」
『きゅばばばぁ~!』

しかし彼はオタとして宝箱を発見した際の対応は、とうに想定済みだった。

まずスキル【粘液】により、部屋全体をそこそこ厚みのある粘液で覆ってしまう。床も、天井も、壁も全て。そう、これによりもう大抵の罠は無力化できたはず。鋭い槍が勢いよく突き出ても粘液によって阻まれる。飛び出た矢も飛ばず、毒ガスが吹きだしたりパカリと底の抜ける落とし穴だって、粘液に部屋全体が覆われていては無駄だろう。

(だからあとは、件の宝箱自体の罠を警戒して開けてやればいいだけ…)

「ゆけ、ミューカス・スライム!」

(そして宝箱を開けるのだって、粘液を魔力で操作しスライムのように動かしてやればカンタンだ)

『うにゅうにゅうにゅ…ぱかっ!もてててて…』

粘液スライムは難なく宝箱を開けると、なかから棒状の物品を取り出して戻ってくる。

「ん…なんだコレは、ワンド??」

粘液スライムが持ってきたモノは杖と呼ぶには短すぎ、しかしステッキと呼ぶには少し太い棒状の物体。さりとてバットや棍棒などではなく、30センチほどの四角錘だった。

外観は象牙のように白い。きっと石、もしくは何か生物の骨だろう。形はテントが風に飛ばないように地面に打ち付ける樹脂製のペグに似ている。なによりこのアイテムをワンドと思ったのは、先端にまだ傘の開く前の松ボックリみたいな大きさの赤い宝石が据えられていたから。

うん、大きく飛び出ているし、『填めこまれている』というよりは『据えられている』といった方が表現的には合っているだろう。

しかし、なんにせよダンジョンの初宝物。

呪いがついていたり爆発する危険もあるが、それを気にしていてはキリがない。なので粘液に包まれた状態で赤い宝石のついたワンドを左手で握ってみる。もしコレが呪いや爆発物であったとしても、不味いと思ったら即片腕一本切り落として済ませる計算。

こうしてダンジョンに潜って戦っている以上、とうにそのくらいの覚悟は出来ている。

「うむ、爆発も呪われた気配もなし。とすると見た目通り魔法のワンドという事か?よし、試してみるか。まぁオレの能力自体がスキルか魔法なのかもよくは解らんが…」

周囲を覆っていた粘液を取り払い、先端から粘液弾が発射されるイメージでワンドに魔力を送り込んでみる。

『ブワッ、ボヒュ~!』

すると一拍遅れてワンドの先端に炎が現れると、火の球となって飛んで行った。

「ッ!?もしかしてこれは、注入した魔力に応じて炎の出せるファイヤーワンドなのか!」

いくつものゲームを熟してきた知識が、手にしたアイテムがファイヤーワンドであろうことを告げている。

(スゴイな…。売ったら幾らになるだろうか)
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

処理中です...