うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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スキル【女】と帰ってきた左足

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「ごほっ!ごほっ!ごほっ…!」

喉が渇き、乾燥し過ぎで咽て目が覚めた。なんだか酷くデジャブー。

「む、なんでスーツのまま寝て?…ハッそうだ!美少女はどうした!?」

ムクリと起き上がって首を巡らす。

するとあんなに大勢の美少女達がッ!!…っておい、アレはアニメのポスターや美少女フィギュアじゃないか。いったいオレの美少女はどこに消えた?

スキル【女】の発動は、成功したハズ…。

かなりの魔力を籠めて発動したからな、うん。きっと召喚の衝撃で弾き飛ばされて、気を失ってしまったのだろう。あの衝撃だ。もしかしたら、超絶可愛い悪魔美少女でも召喚できてしまったんじゃなかろうか。

「お~い、オレの美少女ちゃ~ん。隠れてないで出ておいで…って、あれ?」

立ち上がり、人が隠れられそうなキングゴキの外殻が置かれている方に声を掛けながら近づこうとして、ふと違和感に気付いた。おかしい。オレの声、なんか変じゃね?

「あ~あ~。あッ!なんだこの声ッ!」

寝起きでありかつ蟲王マスクを被っていたせいで解り難かったが、明らかに自分の声がおかしい。て、これじゃあまるで…、女の声みたいじゃないか…。

「そ、そんな馬鹿なッ!(ダッ…むぎゅうッ!)ぐぅ!?」

部屋に戻って鏡で自身の姿を確認する為、慌ててダンジョンの真っ黒に飛び込んだ。が、いつもならスルリと抜けられるはずなのになぜか途中で詰まってしまう。


「そんな、なんでだ…!むおっ!?」

気付けば蟲王スーツの胸部が異様に膨らんでいる。そのせいでダンジョンの真っ黒を通り抜けられなかったのか。

『しゅおん…がぽっ』

マスクを外し、恐る恐るマジックミラーのようになっている眼に自身の顔を映してみる。するとそこには…、なんかアマゾネスなマッチョが映り込んでいるではないか。

「…チガウッ!違う!ち~が~う~!そうじゃ、なぁ~~~いッ!!」

悲しみの余り、オレはダンジョンの冷たい床を両手で力いっぱい打ち据えた。

「こんなの…、こんなのあんまりだぁ~~~!!」

…。

ああ…、なにが悲しくて自分が女にならねばならないのか。

欲しかったのは理想とする美少女であって、断じてオレ自身が女性になる事ではない。オタのなかには好きな女性キャラとシンクロし過ぎて男の娘と化してしまう者も少なからずいる。が、オレはそういう方向性は持っていなかったハズ。それなのにどうしてッ!?

「ハッ…!もしやあのスキル【女】のせいでッ!?」

床に転がる蟲王マスクには、驚き困惑しているアマゾネスマッチョの表情がありありと映り込んでいる。もはや見間違いでも、勘違いでもなさそうだ。

「な、ならば解除だ!スキル【女】…解除ッ!(ぎゅゆゆゆ…デヒィン!)バッ…弾かれただとッ!?」

アマゾネス状態を解除するためにと魔力をスキル【女】に籠めてみるが、モノの見事に弾かれてしまった。

「そんな馬鹿な…!とするとスキル【女】は、一定の時間が経過しないと元には戻れないのか!?」


確かにゲームでも変化系統の魔法やスキルは、そういった時間に左右されるモノが多かった。ならスキル【女】も、一定の時間が経過しないことには元に戻れないという事か。

「それにしても、オレがイメージした美少女とは程遠いにも程があるぞ…。ハァ」

蟲王マスクの眼に映る自身の顔を見て、溜息を吐く。せめて自分が女性になるにしても、もうちょっと美少女だったのなら許せただろうに。

「…う~む、どっからどう視てもマッチョなアマゾネスだ。いや…でも…、見様によってはマッチョになった〇ガニー・ウィーバーに視えなくもない、か…う~む、それは言い過ぎか?」

せめてもの慰めにと、女になった自分に美女っぽさを探してみる。

まぁマスクを被っていないと胸は下を向かなくても視界に入るほどにデカい。スーツの上から視ても、男でいる時と変わらぬ肉体美を誇っているのは間違いないだろう。

だからマッチョな肉体派…美女ではあるかも。

うん。こんな〇プリーなら、〇イリアンともガチンコで殴り合いができそうだ。あとはそうだな、ちょっと前にやってたアニメにこんなマッチョな女性キャラがいたな。

「まぁいい!もう深く考えても仕方がない!うん、時間が経てば元に戻るだろう!ともかく腹も減ったし着替えてメシにしよう!あぁ…、元気の出るニンニクギョーザとか食べたいなぁ~」


…。


驚愕の新事実。

なんとオレの新たに取得したスキル【女】は、女性を召喚できる素敵スキルではなくて、自身が女性に変身してしまうというとんでもスキルだった。

そしてそんなスキルでマッチョなアマゾネスとなってしまったオレは、地下1層で巨大カマドウマの肢を燻製にしながら、ボンヤリそれを齧っていた。

「ハァ…、どうしてこんな事に…。(がぶりっ、もぐもぐ…)」

どうして地下1層で巨大カマドウマの肢を燻製にしているかというと、ひとつには何時女性化が解除されるか解らない為。一時間なのか、三時間なのか、それとも丸一日かかるのか。ともかく外に出ていて人前で変身が起きては堪らない。

それに、変身時にはショックで気を失っていた。もしそれがバイクに乗っている時にでも起きたなら、大事故を起こしてしまう。

ふたつには乱獲したせいで、巨大カマドウマの肢が大量に余っていた為。

なのでこのまま放置したのでは、そのうち腐ってしまう。そこで少し前になんだか自宅で燻製というのが流行った時に、自分でもやってみたくなって買い求めたさくらチップが使われずに放置されていたのを思い出した。

なのでこうして、ダンジョンの地下1層で燻製作りを行なっているという訳。

「(がぶっ、くっちゃくっちゃ…)」

だがそんなオレは下半身はスーツで、上はおっぱい丸出しである。

うん。さっき確認の為に、上を脱いでみたのだ。だがそこには、やっぱりデカデカとしたおっぱいがついていた。当然、触れてもみた。でも触り心地は硬くてパンパン、なんかバレーボールでも触ってるみたいだった。

なのでふんわりもっちりとしたオレのイメージするおっぱいとは、似ても似つかぬシロモノ。

形は見事なまでにおっぱい。だが、コレジャナイ感がハンパない。どう考えても大胸筋の延長線上にある存在とでも言えばいいのだろうか。

ともかくそんな自身の胸を触ってもチットもうれしくも愉しくなかったので、拗ねてそのままで過ごしている次第である。

『ぷるぷるぷる…てぃんてぃんてぃん…』
「ん、肉が欲しいのか?ほら、屑ならやるよ(ぽいっ)」

『ぷるぷるぷる…ぷるぷるぷる…』

いつもなら何か落ちていれば、どういう理屈でだかすぐに知覚して近づいてくるスライム。でも今日は火があるせいか、遠巻きにこちらの様子を窺っている。

その自家製燻製装置の熱源は、ファイヤーワンド。

これにチョロチョロと下火で火が出るように魔力を籠めて、床に置いてある。その他の自家製燻製装置の素材は、巨大カメムシの外殻だ。非常にカメムシ臭いのだが、火で焙ったらその臭いも飛んだのでそれを使っている。

そしてその上に燻製用のさくらチップを敷き詰め、巨大カマドウマの肢をさらにその上で組体操させ、燻煙を充満させる空間用にそれらをカメムシの大きな外殻で覆った。

なので肉がぶら下がり巨大カメムシの外殻から煙が立ち上る様は、なんだか怪しい儀式のようにも見える。

にしてもニンニクギョーザ、食べたかったな~。

でも食材を無駄にしてしまうのももったいない。そんなもったいない精神のもと、かれこれ三時間はボーッと燻製肉作りを続けている。ま、現実逃避ともいうかもしれないが。

しかも燻製といっても、一度火を通したカマドウマの肢を燻煙装置のなかで軽く燻して匂い付けしているだけの、なんちゃって燻製肉だけどな。

「(ぽいっ…ぽいっ…)ん、おまえも肉が欲しいか?あれ…?」

と、集まってきたスライムの中に、なにか一匹だけ違う色をしたのがいた。

「ああ…。もしかしておまえ、オレの足を喰ったヤツか。どうだ、美味しかったか?(ぽいっ)」

巨大蛆の消化酵素で、溶けてしまった左足。

その足先だけが溶けずに残っていたのだが、それだけ残っていてもどうすることも出来ない。

なのでそのまま地下1層に捨てたのだった。それを偶然、このスライムが食べたのだろう。そのせいかこのスライムだけが、他とは違う色になっている。

まぁ足先とはいえ、オレの足はスライムに何か変化が起きてしまうほど上等なエサだったのだろう。赤いスライムは他のスライムとは違って火を恐れずにすぐ傍まで来ると、なにかを主張するように『ぷるぷる』と身を震わせている。

「ハハハ、食いしん坊め。まだ欲しいか」

まるで魚を焼いていたら集まってきた野良猫みたいだな。モンスターなのにどこか可愛げがある。

「おっと、こいつめ。味をしめたからってまたオレを喰えると思うよ(けんっ!)」

そんな赤スライムに気を許していると次第に近づいてきて左足にとりついたので、足を振って蹴っ飛ばした。すると思った以上に軽く飛び、頭を越えてそのまま開け放っていたダンジョン前室の扉の中へと飛び込んでいってしまった。

「エッ!?」

そんな馬鹿な。ダンジョンのモンスターは、ダンジョン前室には侵入出来なかったハズ。

かつて何度も安全なダンジョン前室でモンスターを分析しようと、持ち込みを試みた。でもいずれも失敗。ダンジョン前室の扉や階層を隔てる階段には視えない魔力の壁があり、モンスターはそこを通過出来なかったのだ。

なのになぜ、あの赤スライムだけが…??

恐る恐る立ち上がって赤スライムが消えた先を覗くと、弾みながらダンジョン前室の扉を越えて戻ってきた。

「エッ!おまえちょっとまて!」
『ピタッ』

赤スライムが捕まえようと手を伸ばしたオレの前で、ピタリと止まる。なんですと?

「え~と…気をつけ!」
『ピッ!』

「休め!」
『へにゃ…』

「むむむ…これは!」

顎に手を当てて考える。どうやらこの赤スライムは、オレの言う事が解るらしい。しかしこれは一体どういう事だろうか。

う~む、そうだな。

そういえば臓器移植を受けた人が、なぜか臓器を提供してくれた人の趣味嗜好や、性格的な影響を受けるといった話を聞いたことがある。移植前はとても肉好きだった人が移植後は急に肉から野菜好きになったり、臓器を提供してくれた人とは全く面識もないに、なぜか次第に性格も似通ってきたりとか。

うむむ…。まぁ解らないモノは解らない。なので赤スライムに直接問うてみた。

「おまえ、もしかしてオレの左足なのか…?」
『てぃんぴょん!てぃんぴょん!てぃんぴょん!!』

おおそうか!おかえりオレの左足、こんなにスライムそっくりになって。

様子を観察しているとどうもこの赤スライム、オレの左足を吸収したことで、『自分は左足だ』という自覚が芽生えてしまったようだ。しかもどういう理屈でだかモンスターが縛られているであろう制約からも解放され、自由にダンジョン内を行き来できるらしい。

なら、試してみるか。

『しゅおん…がぽっ。しゅか…!』

蟲王スーツの左足パーツを脱いで、黄金の左足こと義足の粘液注入口を開く。そうして中を空にした義足を赤スライムに向けると、赤スライムは興奮したようにてぃんぴょん!しながら粘液注入口からにゅるりと義足のなかに入りこんだ。すると。

「痛っ!」

左足にピリッ!とした痛みが走った。

なんだ、無い筈の左足に痛みが。そして自由に動く。魔力でもないが、単なる気力でもない。魔力と気力の中間、いうなればオーラによって膝下と義足のなかの赤スライムが繋がったのか。

「動く!それに感覚まであるぞ!ハハハッ!」

なんだか、涙がちょちょ切れるほどに嬉しい。

一風変わった形ではあるが、オレの左足が帰ってきた。スライムになって!
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