うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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雨の日の女子高生来訪

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今日は結構な雨が降っている。

そしてオレはここ数日をのんびりと過ごしていた。とはいっても各国の情勢は相変わらず物騒だし、ま、それでも世界は回っているといった感じだ。

ただ、こうしていられるのも真田薬品に大量の植物モンスターのドロップを納品出来たおかげ。これがなければ無職のオレなんて、またこの先の不安でモヤモヤとしていたことだろう。

シャークのSOSから始まったドタバタはなんやかんやで植物モンスターのダンジョン発見に繋がり、サバゲーマーたちの協力を得て大量の植物モンスタードロップを獲得するに至った。見事なまでの災い転じて福となす的な転がり方で、実に有意義な週末となった。


などと部屋の掃除をしながら、先週末の出来事を思い返す。

うん、掃除。クリーニングだ。さほど部屋を汚す方でもなかったが、もう自分の部屋だからといって汚く散らかしておくことはできない。なぜならばそれは、オレが堂々たる彼女持ちとなったからだ。

そう、女性が頻繁に部屋に訪れるとなれば、男も部屋の綺麗さに気を使うというモノなのですよ。

だってさ、部屋が散らかってたり汚れてたりすれば「ヤダなに?この人の部屋キッタナ~イ!」とか思われちゃう訳。そしたら幻滅されて、また寂しい非モテに逆戻り。

うん、ソレだけは…ソレだけは断じて阻止しなければならないでゴザル!

『おっはよ~!あ、まだ寝てるの!?もう学校始まるよ!起きて起きて!もぉ~、こんなに散らかして…。昨日も夜遅くまでゲームしてたんでしょ~』

な~んて言いながら勝手に部屋に上がり込んできては、優しく起こしてくれつつ部屋を片してくれるような超絶フレンドリーかつ可愛い幼馴染なんてのは、ライトノベルの中にしか存在しないのだ。

「ふ、まぁそれはともかく、今のオレにかかれば掃除などは造作もないこと。さぁ出でよ粘液ッ!」

そう、びゅばば!っと生み出した粘液でぺったんぺったん。コロコロする粘着シートのローラーなんかよりもフレキシブルで、隅々まで綺麗に埃や汚れを吸着できるぞ。そうして室内や窓のサッシまでピカピカにすると、今度は水回りへと移動する。

「うむ、ここもだいぶ水垢で汚れているな…。ならばコレを喰らえ!塩散撃ソルトブラストッ!!」
『ジュババババ…ッ!(ばちばちばち…!)』

ふふふ、解説しよう。諸君はショットブラスト、またはサンドブラストという機械をご存じだろうか?それはブラストとも呼ばれ、投射材と呼ばれる粒体を対象物に衝突させて加工を行うモノ。ま、簡単に言うと、砂粒みたいなモノを強力に吹きつけて対象物の塗装を剥がしたり、研磨を行なう機械の事。これを行なうと、金属製品なんかはピッカピカになる。

『キラーンッ!』
「…うん!実に良い輝き。使えるなこのソルトブラストも」

塩粒撃を浴びて水垢の綺麗に落ちたキッチンの蛇口は、新品の如き輝きを取り戻した。よし、この調子で浴室の蛇口も綺麗にしよう。


(しかし、瑠羽にスキル【簒奪】が伝授されてしまうとは、思ってもみなかったなぁ…)

まさかスキル【簒奪】がコピーされてしまうとは…だ。

これには酷く驚いたが、なんとなく納得もしている。だってほら、オレにはてんで合ってないけど教師なんてジョブを持っていて、瑠羽はその特待生。その関係性から、ボスモンスターを倒した時の生命エナジーの伝播を通じて、オレのスキルが瑠羽に伝授されてしまったという仮説が立てられるから。

あの時オレと直接手を繋いでいたのは瑠羽だったし、瑠羽にその時の事を訊いてみたところ、『戦闘の後で急に呼ばれてびっくりしたけど、コーチと一緒で嬉しい!と思って手を繋ぎました』と話していた。

つまるところ、オレと一緒で嬉しいと思った感情がなにかしらのシンクロを生み出して、このような結果に繋がったと。

無論というか、瑠羽だけがレアっぽいスキルを手に入れたことにブー垂れた瀬来さんや仁菜さんもまたオレにその伝授をねだった訳だが、その実験は失敗に終わっている。

どうもスキルの伝授には、濃厚な生命エナジーの流れと共に行う必要があるようだ。

ふたりはその結果をひどく残念がっていたが、オレは内心ホッとしている。だって、彼女たちの成長は著しい。そしてオレのレベルは、色々あって下がってしまった。その差はもう大差のない所まで縮んでいる。

そこに来てスキル【簒奪】まで手にしたなら、彼女らの強さは留まる事を知らなくなるだろう。

とはいえ、スキルを伝授する方法を思いつかない訳でもない…。うん…それはスキル【女】でオレが再び女性化する事。そうなるとまた男に戻るため、彼女らに胸を吸ってもらわねばならず、また生命エナジーも同じく吸われることになるはず。

それによりスキルの伝授も可能かもしれないという訳だ。まぁ、それはオレが精神的にも肉体的にもシンドイから、まずやらないけどね…。


…。


そんなこんなで平日を休日のように過ごしていたオレのもとに、ふと一本の電話がかかってきた。

「(プッ)はい、もしもし…?」
『ジャング、アタシだ』

すると電話の主はシャークだった。

歩きながら通話しているのか、雨なんかのノイズが多い。うん、シャークの電話番号は登録してなかったんだ。いやほら、オレももう彼女がいるからさ。女子高生の連絡先とか通信端末にあるのって瑠羽が嫉妬しないかなって、気にしてたのよ。

「どうした?今日は学校行ってたんだろ?」
『うん…、今日そっち行ってもいいか…?』

すこし聴き取りにくいシャークの声は、どこか鼻声。それに平日にうちに来るというのも珍しい。ダンジョンに潜るのは、大抵は土日になるからな。

「まぁ、家にいるから構わないぞ」
『じゃ、あとで行く…』

と、相変わらずのぶっきらぼうな調子で電話は切れた。ふむ、なんだろうな?

それからしばらくして、部屋の片付けを続け正月の残りの餅なんかを発見しているとシャークがやってきた。

が、玄関の扉を開け眼にした顔は、涙目で瞼を赤く腫らしている。

雨に濡れた透明のビニール傘を差し、髪の毛先も雨に濡れた制服姿。そのいつもとは全く違う様子に、思わずドキッとしてしまう。

「い、いったいどうしたんだ…?」
「………」

雨の日に女の子が、こんなに瞼を腫らして部屋を訪ねて来るなんて…。ギャルゲにそんなシチュエーションのシーンが無かったかと咄嗟に脳内検索。

…ダメです!該当ありませんッ!なにっ!ではこんな時どうすればッ!?

「入って良いか…?」
「あ、ああもちろん!いまタオル出すよ」

鼻声でも、涙目でも、シャークはシャークだった。気丈に目を合わせて話すし、言動もハッキリとしている。なんだかシチュエーションにドギマギとしてしまったオレの方が恥ずかしい。


外はけっこう降っているらしく、シャークは渡したタオルを使って丁寧に髪や制服を拭いていく。

相変わらず紺地にアイボリーの継ぎを当てた、アイドル風味な制服だ。目立ってしょうがないだろうに、着ている当人はまったく気にする様子もない。まぁ戦闘の結果の継ぎ当てだから、シャーク的にはコレもまた勲章とでも思ってるのかもしれない。

その間にオレは湯を沸かして、温かい珈琲を淹れてやる。仁菜さんが勉強する合間に飲むから、今はうちにも珈琲が常備されているのだ。

「どうぞ、濡れて寒くなっただろ。すこし熱めに淹れたから気を付けろよ」
「………」

ちいさなガラステーブルの向かいに座ったシャークに珈琲をすすめ、オレも超薄く淹れたアメリカンな珈琲に口をつける。それでもシャークは座って俯いたまま…。

うむ、なにか話したいことがあるんだろうが、どう口にすればいいのか悩んでるのだろうか。コミュ障で口下手だから、オレもそういった気持ちは理解できるぞ。ならばここは年上の人間として、どっしりと構えて―

「くやしい…ッ!」
「…ん?」

「悔しいッ!もっと強くなりたいッ!!(ばんっ!)」
「熱ッ…!あっつ!おま…、珈琲こぼれただろっ!」

急に感情を爆発させたシャークが勢い余ってちいさなテーブルごとカップをひっくり返し、オレに熱く淹れた珈琲を浴びせるという暴挙に出た。なにヤダ、この人怖い。

あ~あ、せっかくどっしりと構えようと思ったのに、ぜんぜんダメでした。
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