うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
184 / 660

オーラマッサージ

しおりを挟む
「よし、では景色でも眺めながら座って話すか」

そばに生えていた枯れススキを寝かせ、敷物代わりに尻に敷いて並んで座るようシャークを促す。

「………」

するとその枯れススキに、何事も言わず座るシャーク。

うむ、第一段階成功。どうも人に目を見て話されるのが苦手なんだよ。特にシャークは、睨むようにして目を見てくるからな。そういうとこは早いうちに直さないと、オレみたいに余計な敵をつくっちゃうぞ。

その点、瀬来さんは目が合えばニコリと笑うし、仁菜さんも柔らかに微笑んでくれる。そこが彼女たちのモテる大きな要因のひとつでもあるだろう。ふたりもただ美人だからって、モテてる訳じゃないんだぞ。

「……」

シャークが口を開かないので、オレは景色に目をやって話し出すのを待ってやる。こういう時には自分のペースで話したいはずと、口下手なオレは知っているから。

「あのさ…」
「ん…?」

「どうしてジャングはそんなにうまくスキルが使えるんだ?」
「ふむ…」

その返答を端的に述べるならば、『オタだから』というのが正鵠を射ているだろう。

『ダンジョン、モンスター、魔法やスキル』、こんな単語をいい歳をした大人が日常会話で使っていたら、今までの常識ならばダメな社会人として鼻で笑われていた事だろう。

が、その常識が壊れてしまった。

ダンジョンは発生し、頻繁に地下鉄を運休させライフラインに支障をきたしている。モンスターは地上に現れ、大勢の人が襲われてパニックも起きた。それらの騒動の中で魔法やスキルといった力を手にした人が活躍し、人命を救って表彰されたりといったこともあった。

そう、もはや常識が変わってしまったのだ。

だが今までの現実にしっかりと向き合って暮らしていた人にとっては、『ダンジョン、モンスター、魔法やスキル』などといったモノは、理解しがたい異物。受けとめ難い存在として、無意識に拒絶する気持ちが働いてしまうのではなかろうか。

しかし、オタは違う。

今までの現実にあんまりしっかりと向き合って暮らしてこなかったオタは、『アニメや漫画、小説やゲーム』といったモノで夢想し『ダンジョン、モンスター、魔法やスキル』などといったモノにずっと慣れ親しんできた。

故にこんな状況になった世界でも、『うん、知ってた』とばかりにそれらを素直に受けとめられてしまうのだ。すると意識下でも魔法やスキルといったモノも確かに在るとして肯定的に認識し、なんら不都合なくパスが繋がっていく…と。

そんな感じ故に…、それが理由だ。

「それはまぁなんとなく…だが、そういった答えが聞きたいんじゃないだろう?」
「うん…」

結局のところ、そこは理解度とか、心の信用度の違いになるとは思う。

なんの効果も無い偽薬でも、『コレはとても良く効くクスリです』と優秀な医者から渡されると、なんの効果も無い偽薬のはずなのに効果が現れてしまったりとかね。

イワシの頭も信心ではないが、その点日本人てのは唯一神を信仰してる国の人達よりも色々と柔軟に理解、対応できると思うけど…。

とはいえ一言で『オタだから』と言わずに、女子高生のシャークが理解できるよう落とし込んで説明してやるというのも、説明下手なオレにはなかなかに難しい。『子供の頃、魔女ッ子アニメとか観てただろ?それ思い出してやってみろよ』と言って、『なるほどそうか!』とはならないだろう。

ま、オレは二十歳過ぎても現役で観てたけどな。


…。


「瞑想しろって言われたり、魔力だオーラだなんて言われても、そんなの全然解かんねぇよ…!」


うん、シャークはオタでもミリオタ、現実派だもんな。

でも今日、その力の程を知ってしまった。間近でオレがバンバンスキルを使ってボス級モンスターを倒したんだ。他のモンスターならともかく、ボス級にはかすり傷程度しか与えられない自分の実力に気付いて、またショックを受けてしまったのだろう。

「ふむ…例えばだ。気という言葉は、日本語にたくさんあるよな?勇気、元気、弱気、強気…こんな風にたくさん気とつく言葉があるということは、日本人てのはそれだけ自然と気というモノを在るモノとして、認識してるって訳だ」
「うん…」

「じゃあ気というモノが在ると認識したうえで、それが空気…気体として存在しているとイメージできるか?」
「うん…」

「ではそんな空気を圧縮したら、何になる?」
「…水?」

「正解だ。空気を圧縮したら水になった、それがオーラだ」
「うん…?」

ごめんよ説明下手で。空気の7割がたは窒素だから、ほんとは液体窒素になるかもだけどそこは気にするな。

「その水をさらに圧縮、凝縮して固体化したなら、それは氷。しかしここで言う氷とは…魔力のことだ」
「水がオーラで?氷が魔力??」

「まぁ概念的な話だから、そう難しく考えるな。単純に『気を圧縮すればオーラになる、オーラを圧縮すれば魔力になる』と覚えておけばいい」

「じゃどうしてアタシには、そのオーラも魔力も感じられないんだ?」
「ん~、それはおまえが元気すぎるからかな」

「元気ッて…、気がたくさんある状態なワケだろ?なのにどーしてダメなんだよ!」
「落ち着けって。おまえは元気で、気をたくさん持ってるという所までは合ってる。でも今のおまえはナベの蓋も無しにガンガン湯を沸騰させてるようなモンで、それがちっとも圧縮されていないんだ。だからそんな状態で、気がオーラになる訳ないだろ?」

「…むぅ」
「瞑想して気を練るっていうのは、自分の意志の力で気を集中…圧縮させると言い換えてもいい。そうやって気の濃度をどんどんと濃いモノにしていくと、やがてはオーラへと変化する。ちょうど空気が冷やされた事で結露して、液体になるみたいなイメージだ…」

「で、そこからさらに圧縮し…集めた液体を固体になるまで凝集凝縮していくと、オーラはやがて魔力へと変化していく。理屈はそれだけで、あとは心を静めて気をきちんと感じ取るのを心掛けること」

う~む、今までもこういった説明はずっとしてきたんだけどな。でもその都度シャークは瀬来さんに茶化されたりして、集中してなかったからなぁ。それに、シャークとは週末くらいしか会って話さないもんな。

しかしまさかそれが、ここまで尾を引いていたとは…。

「と、そうだな。じゃあ手、手の平をうえにして出してみろ」
「ん?」

シャークが出した右手の上にオレの手を持っていき、生み出したオーラだけでその手をハンドマッサージをしてやる。

「あッ!?」
「そうだ、解るか?これがオーラだ…」

普通には視えないが、オーラ視が出来る様になればオレの手から伸びたオーラがシャークの手をスライムのように包んで揉んでいるのが解るはず。これは決して、質量を伴った残像ではないぞ。

「オーラはこうして普通には目に視えない。が、魔力よりも濃い生物そのものが持つ生命エナジーの状態なら、普通の眼にも視る事も出来る。イービルアポォトレントの生命エナジーの光、ちゃんとおまえも視ただろ…?」
「なんだか、ポカポカしてる…」

ん、なんだせっかく説明してるのに、シャークはオーラマッサージの方に気がいっててうわの空だな。まぁいいや。

「このまま続けてやるから、オーラがどんな感覚なのか、良く覚えるんだぞ…」
「あ…うん…」

穏やかに晴れた空の下、風に吹かれて静かに揺れる枯れススキ。そんな景色を眺めながら土饅頭の上に並んで座ったシャークの手を、オレは陽の傾くまでオーラマッサージしてやったのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

処理中です...