うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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3つのシモベと幽世からの来訪者

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「猿!(ドン!)」
「カエル!(ババン!)」
「ナメクジ!(でろ~ん…)」

今、オレの目の前には3体のモンスターがいる。

「……」
「「「………」」」

いや、巨大カマドウマの肉を手に入れるのにダンジョン潜ってたら、今日は偶々コイツらのカードが揃って手に入ったのよ。

「う~む…しかし、どいつもこいつも見事なまでにヌルヌルだな…」

カエルやナメクジの表面がヌルヌルなのは言うに及ばずだが、猿についてもなんか毛がタールのような油でベタベタとしている。まぁそのおかげでコイツは酸の攻撃が効き難かったんだが。

そんな3体が並んで揃い踏みすると、実にシュール。どうしてウチの冷蔵庫ダンジョンは、こんなモンスターばっかりなんだか…。

「まぁいいや、丁度スライム狩り要員が欲しかったところだし。では諸君、おしごとだ。スライムを倒してドロップを集めておいで」

そう指示を出すと、ノロノロペタペタといった足音をさせながら3体のモンスターは前室から地下1層へと移動していった。カード化したモンスターとはパスのようなモノが繋がり、簡単な意思疎通なら可能になるので、こうして指示もだせる。

そうしてしばらく様子を窺っていたが、3体とも問題なく言いつけた仕事をこなしている様子。

3体ともカードの色は赤銅。レアリティとしては恐らくコモンといったところだが、スライム相手には余裕で戦える。ウンコ猿はウンコ投げるのを禁止したので引っ掻き攻撃で。格闘蛙は水かきのついた張り手でスライムをパァン!巨大ナメクジは圧し掛かっての圧殺だ。

やはり体格差がモノをいうのだろう。地下5層にいるスケボーゴキをスライムと戦わせた時には、レベル差もあったろうに簡単にやられちゃったもんな。

「さて、次は植物の世話をするか…」

地下1層からダンジョン前室に戻ると、並んだプランターに如雨露で水をやる。

これは吸血人参や邪悪林檎魔物の落としたタネを埋めてみたモノ。まだ何も芽を出していないので土が濡れていくだけだが、今からどんな芽が出るのか楽しみでもある。で、ダンジョンで育てているのは安全の為。

ほら、モンスターの落としたタネを外で育てて何か遭ったら不味いしさ。

そう、二度目の植物ダンジョン遠征から、すでに三日が経った。そしてオレは、ポーションを5本手に入れていた。

植物ダンジョン遠征から戻った翌日、また真田薬品へとドロップ納品に行くと田所さんがくれたのだ。紙袋をカチャカチャ言わせながら渡してくるので、ねぎらいの栄養ドリンクでもくれたのかと思ったら、なんとそれが回復薬だった。

『あの江月さん、よかったらコレどうぞ』
『あ、栄養ドリンクですか、ありがとうございます』

『いえ、うちで開発した回復薬ですよ。コレは色素なんかの検品ではじかれたモノですが、効能が劣るということはありませんから』
『おおっ!!』

そうして頂いた回復薬は、茶色い瓶に入ったまんま栄養ドリンクな感じ。

それでもまだ自衛隊にしか卸しておらず、市場には全く出回っていないシロモノだ。オレ達の働きがかなり貢献できているらしく、そのお礼にと特別に頂けた。とすると、これは清算もかなり期待できそう。ぐふふ…。

な~んてことがあったので、今度会ったら4人に分けようと考えている。瀬来さんに仁菜さんに瑠羽、それにシャークとオレで分ければ、丁度5本がそれぞれにいき渡る。

「しかし、一日一本か…」

回復薬の注意書きには、そう記されていた。田所さんから受けた説明でもそれ以上飲んでも効果がないどころか、却って身体を傷めてしまうとか。

『回復薬はカラダの再生能力を飛躍的に高める薬なので、誤解されやすいですが時間が巻き戻ったようにして傷が塞がる訳ではありません。それどころか過剰に摂取すると細胞分裂が追い付かずに、組織が自壊してしまう恐れがあります』

と、いうことだった。うん、言われてみれば尤もだ。

回復薬に『なんでも魔法的なアレで解決』みたいな補正はないらしい。だから回復薬を使ったからといって『な、傷が消えた!?』とはならずに、普通に治癒痕も残るという。まぁファンタジー漫画みたいに、そう上手くはいかんということか。

それでも綺麗な傷ならすぐに塞がってくれるというので、実にありがたい。

自分で左足を切断した時には、泣きながらファイヤーワンドで傷を焼き止血したのだ。あの時の痛みといったら、何度も意識が遠のきそうになった。それでも『今気を失ったら出血多量で死ぬ!』と、死ぬ気で歯を食いしばった。

あ~あれはホント、痛かったモンなぁ~…。

そんな事を思い返していると、注入口から顔を出したレッドスライムがてしてしと膝をたたいているのに気付く。

「ああ、解ってるよ。おまえには助かってるって」

『今は自分がいるだろう』とでも言いたかったらしいレッドスライム。感謝を告げると満足したのか、またもにゅもにゅと義足の中へと納まっていく。

まぁなんだかんだで今日も元気にやっていられる事に、感謝だな。


……。


『コンコン…』

昼寝をしていると、玄関の扉がノックされているのに気がついた。

平日の午後に仮睡、ニートかお金持ちでなければ出来ない贅沢。で、今のオレがどちらかというと、それはまぁ微妙なところではあるが。

「は~い…」

友人のいないオレを訪ねてくるのは、彼女である瑠羽たちくらいもの。他はたいてい宗教の勧誘やら保険のセールスに、あとは受信料の取り立てといった感じ。

もしそんな連中だったらオレの優雅な仮睡を邪魔した事を後悔させてやろうと扉を開けると、そこにはなぜか鬼っ娘とニホンオオカミ娘が立っていた。

「なぬっ!?」

おまえたちはオレの夢に出てきた存在…、いったいそれがなぜ??

ズゴゴゴゴゴゴゴ…。

…。

「あ、すいません通りまぁす。どうもぉ宅急便です」

と、そこに宅配業者が扉を開けたオレにことわりの声をかけ、そのまま通り過ぎてふたつ隣の部屋のチャイムを押す。その間、微動だにしないふたりに宅配業者は重なって通り過ぎた。

それはまるで、宅配業者には何も視えていないようにして…。

「……」

え、なにこのミステリー。この真昼間からホラー?そう困惑していると、鬼っ娘が口を開いた。

「ぬし様、上がらせてもうろても宜しいか?」

なに、ぬし様とな?どうも『ぬし様』とはオレのことらしい。そしてオレは、夢と現実の区別もつかないヤベェ奴になってしまったのだろうか?

「え~と、どちらさま…?」
「あ、すいません通りまぁす。どうもぉ宅急便です」

その問いかけに荷物を渡し終えた宅配業者さんが爽やかに答え、去って行った。いや、そうじゃなくて。

「ニホンオオカミ!」

と、今度は元気な声でケモミミ少女が口を開いた。ああキミね、たしか夢の中でもそう言ってたね。

「鬼婆…ぢゃ」

で、続けて額の両端に小さな角を生やした鬼っ娘が言い難そうにそう告げる。

うん、なんか肉襦袢みたいなのを纏ってたんだっけ?もう巨大鬼婆の姿じゃなくて、小柄な鬼少女だけどね。それにしてもキミ、おでこ綺麗だね。

まぁともかくこのふたりは他の人間には視えないらしく、このままだとオレが独りでくっちゃべってるアレなヤツになってしまう。なのでここはひとまず、ふたりを部屋に上げることにした。

…。

「さぁどうぞ。お酒はないが、燻製肉をたんとお食べ。ああ、良ければカニもあるよ」

で、どうしたかというと、オレは妖怪娘たちを部屋に招き入れ歓待した。

ウチに来たからには、なにかしら要件があるのだろう。が、まずは歓待だ。ふふふ…なにせオレはファンタジー方面に強いオタだからして、例え妖怪的なモノが相手だとしてもその取扱いには心当たりがあるのだ。

そこで、お食事だ。

日本の神々を生み出したゴットマザー・伊邪那美命イザナミノミコトですら死んだら黄泉の国から戻ってくることが出来なくなってしまった。

これは黄泉竈食よもつへぐいという黄泉の国の穢れた食べ物を食べてしまったから。そう、これはそこの世界の食事を摂ると、強制的にそこに帰属してしまうという謎システム。

だがこの謎システムは日本の神話だけではなく、ギリシャ神話の『ペルセポネの冥界下り』でも登場する。なのでその効果は折り紙つきだろう。ちなみにペルセポネは冥界の王ハデスに死者の国の食べ物をちょっぴり食べさせられただけで、一年のうちの四ヶ月を冥界で暮らさなければならなくなってしまったそうな。

だからこそ、ここでお食事タイム。

コイツ等がオレの思う通りの妖怪ならば、そういったシステムやルールにはきっと縛られるはず。雪女の『決して正体を誰かに言ってはいけません』とか、鶴の恩返しの『決して覗いてはいけません』とかね。

そうすればオレがどこかへ連れて行かれる心配は無くなり、文字通りホームで戦うことが出来るというもの。でもそんな訳の解らんヤツらを懐に入れて危なくはないのかって?うん、まぁ訳の解らなさ加減でいったら、オレもどっこいどっこいよ。

オレもアマゾネスマッチョになったりニューハーフになったり、ましてや今も片足はスライム。

そしてウンコ投げつけてくる猿や格闘蛙に巨大ナメクジですら使役している。なのでもはやというかすでにそんな感じなので、今さら妖怪娘のひとりやふたり増えたところで、どうということはないのである。

と、そんなことを思いつつ見やれば、ニホンオオカミ娘はハグハグと美味そうになんちゃって燻製肉にかぶりついているし、鬼っ娘もカニ食って頬に手を当て肩を竦めている。ははは、そんなに美味かったか。

さて、このふたり。いったい何しに来たんだか?
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