うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 移動

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ダンジョンスタンピードの第二波が起きてしまった日本。

一回目の事を考えれば、きっと世界でも同じことが起きているだろう。玄関の扉を開ける前から聞こえてくるサイレンの音に、胸がざわつく。

『ウウゥゥゥウウウゥゥゥウウウゥゥゥウウウゥゥゥ~ッ!!』

扉を開けると独特の抑揚を持ったサイレンの音が、街に響き渡っている。

それはまるで空襲警報のよう…。普段は『気を付けて、おうちに帰りましょう~』なんてのんきな時報を流しているスピーカーからこんな音が出ているのを聞くと、今が異常事態なのだという事をひしひしと感じさせる。

「じゃ、気をつけて進んでいこう」

振り返って顔を向けると、顔の見えない完全武装の瑠羽たちがコクリを頷く。返事がないのは彼女らのマスクにも防毒マスクをセットしたので、少し息苦しいのかもしれない。

こうしてアパートを出てひらけた通りまで進むと、人気はないものの車は普通に走っていた。そして、モンスターの姿も見受けられない。ふむ、この辺りにはダンジョンがなかった為だろう。

ま、在るには在るが、そこはオレがちゃんと管理している。

「なんや、ウチらの方が浮いてへん?」
「そうね、モンスターなんてどこにもいないじゃん…」

むぅ…そう言われると確かにその通り。

今のオレ達は、金ぴか蟲男と金ぴかないし真っ黒の甲冑ガール姿。そんな連中が街中をウロついていれば、目立って仕方がない。

「あの…車のひと、すごくコッチ視てます…」

む、瑠羽の声に視れば、信号待ちの車内から戸惑いの視線をこちらに向ける男性の姿。で、マスク越しに目が合うと、めっちゃくちゃ驚いている。なのでとりあえず何も持っていない方の手を振って『なんでもないよ~』とアピールしておいた。

なにせおかしな恰好をした連中が、手に手にバールや金テコを所持しているのだ。油断すれば即『おまわりさん、アイツ等です!』などと、通報されてしまう事待ったナシである。

「ふむ、この辺はまだ安全そうだ。ではジョギング程度に駆けて距離を稼ごうか」
「それが良さそうやねぇ」

金ぴか集団が、怪人蟲男を先頭に走り出す。


赤い目玉を光らせた怪人蟲男の右手には、紫色をした不気味な鉄の棒。それに続く甲冑ガールたちの手にもバールやバットが握られ、エメラルドに輝くカメムシ盾まで構えている。

その不穏な姿を目にした者達は、『あれがダンジョンから現れたモンスターか!』と震え上がって身を隠した。


……。


人気もなく、モンスターとも出くわさず、すれ違うのは車くらいのもの。チラと背後を確認しても、瑠羽たちも遅れることなくついて来てくれている。

(ふむ、滑り出しは順調だな…)

瑠羽たちは武器と盾を持ったままでも、問題なく走っている。背中に荷物などを背負っている訳でもないので、快走といえよう。

誓いの話し合いの時に、空間庫を所持していることも3人に明かした。なので荷物は全部、オレの空間庫の中なのだ。

そして空間庫、それはスキル【空間】によって生み出したアイテムボックス。

ウンコ猿がその身体のサイズには合わないような量のウンコをひりだしては投げつけてくるので、『アイツいったいどういう身体の構造してるんだよ!?』などと思ったら【空間】のスキルオーブをドロップしたのだ。それで『ああ!なるほどコレがカラクリか』と、自分でもアイテムボックス的なモノを生み出せないかとスキルを発動させてみたら、出来た。

具体的には、『ここに3メートル四方の空間があると仮定し…、そのなかにはモノがしまえて常時出し入れ可能。かつ自身の移動に追従するとした場合、必要な魔力量をXとしてその値を求めよ…』みたいな感じだ。

そしたら常時最大魔力量の1/10をそちらに持って行かれるが、便利な空間庫ができました。

なので今その空間庫には4人分の着替え&お泊りセットの他、地下1層で今朝駆除した巨大カニがたんまりカメムシコンテナBOXに入れられ保管されている。あとなんちゃって燻製肉がすこしだけ入ってたはず。

いや、ゲームのインベントリーみたいに便利な表示機能とかはないからさ。時々忘れるのよ。

「3人とも、このペースで平気?」

「うん、余裕~」
「だいじょうぶです!」
「せやね」

よしよし、大丈夫そうだ。

でも懸念は、地上だとスーツに熱が籠ってしまうことだな。蟲王スーツも蠅女王スーツも、火に強く断熱性が高い。蠅女王はドラム缶爆弾で致命傷を負っていたが、あれは大爆発の衝撃に因るモノ。さらにぴっちりとフィットしていて非常に動きやすいものの、反面それ故に排熱が難しい。

ダンジョンは少し寒いくらいに感じる涼しさなので、普段はそう気にしなくてもいい。が、地上だとスーツの排熱問題が起きてくる。

「熱くなってきたら遠慮せずに言うんだよ。すぐに粘液を交換するからね」
「「「は~い」」」

そのため注入した粘液を冷却水代わりに、こまめに交換してやる必要が生じる。

そう、オレ自身であれば好きな時に自分で粘液交換を行なえるが、彼女たちにはそれが出来ない。なので注意してみてあげる必要があるのだ。

だが軽いジョギング程度では、彼女らも汗ひとつかかない程に強くなった。まだまだ大丈夫そうだ。

それに…なんなら彼女らも跳躍につぐ跳躍で、忍者のように移動できなくもない。だがそんな慣れない真似をさせ足でも挫いてしまったら大変だ。捻挫で計画が頓挫してしまっては、目も当てらないしな。

う、捻挫で頓挫…ブフッ!


…。


ときに、オレは災害興奮体質とでもいうべき精神構造なのか、地震や台風がくると異様にテンションがあがってしまう。お祭り気分というか野次馬根性というか、なんだなんだと心が沸き立ってしまうのだ。

普通の人ならば不安を覚えるような状況でも、そんな精神状態なのだ。

もしそれを人に知られれば『なんだコイツ?』と思われてしまう事だろう。だがそういった状況下で血が騒ぐというのも、血筋のせいかも。ウチも元を辿れば武家の出身。ご先祖さまも戰の度にテンションがブチあがってたのかもしれない。

てな事を考えながら走っていると、瀬来さんがオレを呼ぶ。

「江月さん、アレ…」
「うん」

そうして駅も近づいてくると、人の姿もモンスターもちらほら見かけるようになってきた。

ふむ…目立つモンスターは獣鼠にハイエナか。たしかライトウルフとかリトルウルフと呼ばれてたはず。だが、あれはどう見てもハイエナだろう。ただゴブリンみたいに地上に出てきて悪さをするようなモンスターは自衛隊で重点的に間引きされていたようなので、その姿は見受けられない。間引きの効果があったようだ。

そして、この時分にうろついている人達はアレだな…。

出掛けたもののスタンピードが発生してしまい、なんとか帰宅しようとしている人達。もしくはオレ達と同じく誰かの元へ向おうとしているか、だな。

ただ、その区別はカンタンにつく。

なんとか帰宅しようとしている人達はよく見かける運動には向かない一般的な服装で、どこかへ向おうとしている人達は、ある程度身を守る防具を携えている。ま、オレ達みたいな完全武装の人はまず見かけないけど。

「(ただいま電車は運休しておりまぁす…!)」

ふと風に乗って、駅員の声が聞こえてきた。

メガホン越しの機械を通した音声。うん、『大規模なダンンジョンスタンピードが起きた際には、一切の公共交通機関が不通になる』というのは、以前から言われていた事。だがそれでも解ってないもしくはどうにかなると思ってる人達が集まってしまっているようだ。

「どうする…?」
「うむ、ここは迂回していこう。おまわりさんに職質されても面倒だ」

呼びかけを行わないといけない程に人が集まっているのなら、当然そこにモンスターも寄ってくるはず。だがそれでも大きな騒ぎになっていないという事は、近くで警察官や戦える人間がモンスターを抑えているのだろう。

「普通の時やったら、こないな恰好しとるウチらはただの不審者やもんなぁ」
「そういうことだ。おまわりさんに見つかる前に移動しよう」

……。

そうして二駅ほどモンスターや人目を避けて進んでいたのだが、遂に路地裏で挟み撃ちに遭ってしまった。モンスターとの戦闘、待ったなしである。

「来るぞ!前は鼠が3匹、けっこうデカいな」
「なにあれ!後ろはワニみたいなトカゲだよぉ!」

「よし、後ろは任せろ。みんなは前を頼む!」

行く手を阻む獣鼠は以前見たものよりもデカい。でも今の瑠羽たちならば平気だろう。ポジションをチェンジして、オレはワニみたいなトカゲを相手にする。

(うわ…ほんとにワニみたいなサイズだな。顎はまだワニ程に大きくはないが、鋭い爪も太い尻尾の攻撃も、貰ったら不味そうだ)

『どちゃちゃっちゃっちゃっ…!』

アスファルトに鋭い爪音を鳴らしながら迫るワニ並みのトカゲ…。

「金テコ…スラッシュ!」
『ずばんッ!(べしゃッ…!)』

に対しロンギヌスの金テコの一番端を持って天高く振りかぶり、タイミングを図って遠心力を効かせた一撃を振り下ろす。それを躱そうともせず向かってきたワニトカゲは真面に浴び、背にくっきりと叩かれた跡が穿たれる。

『げぱぁ…ッ!(ずるぅずるぅ…)』

血を吐き、アバラが折れたことで動かしにくくなった脚を搔いて、ワニトカゲは逃げようとする。

「悪いな、放っとく訳にもいかないんだ…」

そんなワニトカゲにトドメの一撃を見舞い、絶命させる。

コモドオオトカゲみたいな立派な姿をしていて、動物園で飼われていたならきっと人気者だったろう。だが地上に出たモンスターを、手負いで放置するわけにもいかない。

程なくして、瑠羽たちも獣鼠との戦闘に勝利。

足元に近い位置からの攻撃には若干戸惑いつつも、基本的にはお化けアロエと同じ戦法が通じたので危な気なく倒せたようだ。

「コーチ、おわりました」
「植物ダンジョンの時も思ったけど、地上だとほんとに消えないんだね。不思議ぃ…」

「お疲れさま、怪我はないようだね」
「モンスター消えへんけど、どないするん…?」


みんな植物モンスターの時は山の中だから気にしてなかったけど、獣系のモンスターを街中で倒すとさすがにその後が気になるようだ。

「邪魔にならないよう端にだけ寄せておこうか。食べてみたいならビニールに入れて持っていくけど?」
「う…、それはやめよ!トカゲってばい菌いっぱい持ってるらしいよ!」

「はは…、もちろん冗談だ。さて、この辺もだいぶ怪しくなってきたし、先を急ごうか」

商店のシャッターは閉ざされ、民家も雨戸がしっかりと閉められている。

だが時折視線を感じて目を向けると、小さな窓からこちらを覗いている顔がちらほら見受けられる。大通りは暴走する車が現れるかもしれないから、念のため避けているのだ。

さて、シャークの通う女子高はまだまだ先。何も起きてなきゃいいけど…。
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