うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 重機

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正午。徒歩での移動を重ね、シャークの通う女子高まではあと5キロほど。そんな放置車両あふれる車道で、オレ達はモンスターと戦っていた。

「右手!また新手が来るぞ、気を付けろ!」
「え…、ま、またぁ!?」

戦闘中に再びモンスターのおかわりが現れ、瀬来さんが愚痴を零す。

『早くシャークのとこに行ってあげようね。あの子って災難体質だし』
『ははは、そうだな。ヒロインて柄でもないのに、よくモンスターに襲われるもんな~アイツ』

な~んて、ついさっきまでは呑気に軽口も叩けていたというのに…。

「時間は稼ぐから丁寧に処理していこう!…高粘性粘液領域ハードミューカスフィールドッ!」

モンスターの迫る方向に粘液の霧を撒いて、行動阻害を試みる。そこに駆け迫っていた四足のモンスターが突っ込んで足を取られ、つんのめって転倒…。そのままベタリと地面に張り付いて、身動きが取れなくなる。

「やだぁ!なんか飛んでるのもいるじゃん~!」

上空をひらひらと舞いながら近づいてくるのは、蝶のモンスター。

ウチの冷蔵庫ダンジョンにいる巨大蛾に良く似ているが、柄が派手なので違うモンスターのようだ。ヤツ等はオレがせっかく霧状に散布した粘液の、さらに上を飛んで迫ってきていた。

「アシッドォ!」
「万智ッ!下手な事やめぇ!気ぃ使いすぎたら戦えなくなるやろ!」

「だってぇ!」

瀬来さんが蝶のモンスターにスキル【酸】で攻撃したが、ヒラリと躱されてしまった。そしてそれをすぐ隣で戦う仁菜さんに窘められている。

「むぅ温存したいがここは仕方ない…。岩塩散撃ソルトブラストッ!」
『びゅばばばば…!』

無数の細かな塩礫が左から右へと機銃のように宙を薙ぐ。すると迫っていた巨大蝶が弱点である脆い羽根をやられて、ボトボトとアスファルトの上に落ちてきた。

「コーチ!また後ろの人が増えてます…ッ!」
「またか!ええい面倒な…ッ」

ダンジョンから溢れ出たモンスターは、以前より深い階層からも這い出て来たのか強力だった。以前は1~3層ほどだったのに、今回は1~6層くらいに相当するモンスターが出てきている気がする。

地下1~2層までのモンスターなら、まだ常人でもなんとかなる。強さ的にもイノシシとドッコイだろう。が、3層以下のモンスターは、ほぼ間違いなく人を殺せるレベルの強さ。

そんなモンスターを相手に快進撃を続けるオレ達を視た人達が、これは丁度いいとばかりに後をついてきてしまったのだ。しかも「危ないからついてくるな!」と言っても、「邪魔しないから!」と言って離れない。

(くっ、オレ達を露払いに使いやがって…!)

そうして大勢ひとが集まると当然ざわめきも生まれてしまい、また余計にモンスターも寄ってきてしまうという悪循環に陥っていた。

とその時。

『ぐばぁんッ!がしゃしゃしゃ~~ッ!!』

突然行く手の先に見えていた黄色いシャベルカーが、周囲に停まっていた放置車両を邪魔だとばかりに押し退け盛大に暴れ出した。

「みんな!あれを見ろ!!あのシャベルカーと合流するぞッ!!」

シャベルカーがデカい音を立てて暴れ出したので、一瞬だけ周囲にいるモンスターの注意が逸れた。その機を逃さず叩き伏せると、急いでそちらへ向かう。

『ぐわぁん!ずどどどど…ッ!どがしゃ~~~ッ!!』

アームを振り降ろして普通乗用車の天井を突き破ると、ソレを振り回してモンスターを攻撃するシャベルカー。うぅむ、さすが重機…。あんな風に使うと、機械の恐竜のようでデタラメに強い。

と、ほかに停まっていた工事車両も次々に動き出した。

小さいユンボにデカいシャベルを掲げたブルドーザー、それに重たいローラー車まで。それぞれに工事現場のおっさん達が幾人も乗り込み、運転手を守っている。そして皆、手に手にビール缶やウイスキーの小瓶を持っていた…。

なるほど、『こんなの素面でやってられっかッ!!』という事なのだろう。

オレ達が近づいてきたことで周囲にいたモンスターが移動し、その隙に避難していた建物から抜け出て重機に飛び乗ったようだ。

「※※※※※※※※ッ!!」

黄色いクレーンシャベルカーを運転するオッチャンが、なんか叫んでいる。

が、重機の動く音でまるで聞こえない。だが運転しながらしきりにウイスキーの小瓶を呷っているのが解る。『戦い方を教えてやるッ!』とでも言ってるのだろうか。

うぅむ…、平時においては飲酒運転はダメ絶対!であるが、命を守るためにも乱においては乱の断というのが時には必要…。きっとあの工事現場のオッチャン達は、『今がその時だ!』と、断じたのだろう。

だが普通に生活していた人がいきなりモンスターとの殺し合いなんて、当然できる訳がない。

それを考えれば、『重機を使うのも、酒の勢いを借りる』というのも、この場合は非常に良い判断だったといえよう。おかげでこちらも助かった。

「※※※※※※※※ッ!!」
「※※※!※※※※※ッ!」

重機ファイターと化した工事現場のオッチャン達はあんな騒音のなかでも会話ができているのか、目顔で言葉を交わすと隊列を組んでモンスターの群れに挑みかかって行く。すごいな、さすが重機。圧倒的じゃないか。

「みんな!オレ達はあのオッチャンらのケツについて援護しよう!」

さて、今度はオレ達がコバンザメ作戦だ。


…。


アタック・オブ・工事車両。鋼の恐竜の進撃が始まった。

鋼鉄の爪がモンスターどもを押し潰し、キャラピラや重いローラーが動けなくなったモンスターをさらに容赦なく踏みしだく。一方でモンスターの持つ牙や爪がどんなに鋭かろうと、頑丈な鋼の恐竜たちには一切通らない。

それでも運転席に座るオッチャンを襲おうとするモンスターには、どこからともなく岩塩が飛んできて、それを粉砕した。

まさに快進撃、流石は科学文明が生み出した工業機械の結晶。そんな人機一体となった重機ファイターの援護をしながら、オレ達は戦っていた。


が…そのインパクトが余りに鮮烈で強烈だったのか、後ろをついてくる避難民のなかからもおかしな行動をとる者が現れる。我も我もと、放置車両に乗り込みだしてしまったのだ。

まず飛びだしたのは、中学生くらいの少年。

なぜこんな時間に中学生が独りでという疑問をよそに、「ちくしょう!相手がモンスターなら人間じゃないんだッ!」などと口走りつつ工事トラックに飛び乗った。

「おい、何してる!だれかその少年を止めてくれ!」
『ぎゅばばばあ…!どごごっががぁああ!』

だがその声は重機の暴れる騒音に掻き消され、誰の耳にも届かない。くそう、オレも目の前に迫るモンスターを相手するので手一杯だってのに…!

「コイツ…動くぞッ!」
(そら動くわッ!工事車両ってのはすぐ動かせるようにたいてい鍵が挿しっぱになってるもんだ!)

『ぎゅきゅきゅきゅきゅ…ブロンッ!』
(あ、不味い…!エンジンかけちまいやんの!)

そして遂に、暴走少年が工事トラックを発車させてしまった。

「おい、だれか…!」
『ガチャ…ず…ガックンッ!!』

が、工事トラックは盛大に『ガックン!』して停止。

運転席に座る暴走少年はその衝撃で強かに顔をハンドルにぶつけ、涙目でなんで?どうして!?と慌てふためいている。

「ふははバカめ!運転免許舐めんなッ!マニュアル車ってのは適正な回転数でギアを繋がないと、走らないモンだ!そんなことも知らないで運転しようなんてするなッ!!」

モンスターの勢いが弱まった隙をついてトラックに駆け寄ると、暴走少年を引き摺り降ろす。そして「下手な真似しないよう見張っとけ!」と避難民のなかに放り返した。

(まったく、やれやれだな…)

が、そうしている間にも、また別の少年が飛び出して行ってしまう。

「あ、おい待て!」

視界の端で、なにやらうつむいてブツブツ言ってるのがいるなぁと思ったら、「逃げちゃダメだ…!」的なことを口走って走り出したのだ。

(いや逃げろよ!危ないだろ、前出てくんな!)

今度はその少年を止めようをするも、再び重機の合間を抜けてモンスターが襲いかかってくる。やむなくその相手をする為に、暴走少年その2への対応が遅れてしまった。

「ええぃ!邪魔だッ!!」

その隙に暴走少年その2は、放置されていた軽自動車に搭乗。先の騒動をみていたのか、自分でも扱いやすそうな小さくてオートマチックな車を選んだようだ。

『きゅきゅきゅきゅ…!きゅきゅきゅきゅ…!』

だが乗りこんだ紫の軽自動車はすでに衝突事故を起こしていたらしく、フロント部分は凹みエンジンがかからない。それに対し「動けッ!うごいてよ…ッ!」と運転席で懇願涙目の暴走少年その2。

(いや、そんなに怖けりゃ後ろに下がってりゃいいのに…)

しかしそんな少年の思いが通じてしまったのか、紫の軽自動車は息を吹き返しエンジンがかかってしまう。

『ブロンッ!ぎゅきゅきゅ…ギュウゥゥン!ドがああぁ…!!』

しかしエンジンがかかると同時に、アクセルべた踏みの急発進で走り出してしまう紫の軽自動車。

そうして勢いよく縁石に乗り上げると、モンスターを一匹も轢くことなく派手にガードレールへと突き刺さった。暴走だ…。

その衝撃に『ばふんッ!』とエアバッグが膨らみ、運転席に座る暴走少年その2の頭が受けとめられる。が、シートベルトしていなかったが為にフロントガラスを突き破り、そのままエドモンド〇田みたいに飛んでってしまった。

「ああ…なにやってんだアイツ!」

幸い暴走少年その2が飛んでいった先は緑地帯だったので、大怪我しないで済んだようだ。だがヨロヨロを立ち上がったその姿は全身枝葉塗れになり、頭部からも出血して顔は真っ赤に染まっている。

「仁菜さん!少し抜ける!」
「ええよ!ちょっとだけなら、だいじょうぶや!」

飛んだ暴走少年だが、あのまま死なせてしまうには惜しい。自分と同じ匂いのする者には、ちょっぴり優しいオレなのだ。

だが、ここでまたしてもモンスターに向け駆け出して行ってしまう男の姿が…。

「うおぉぉぉ~ッ!おれのこの手が真っ赤に燃えてッッ!!」

(おい待てッ…!燃えてない!平熱ッ…!どっちかつぅと熱があるのは、頭の方じゃないのかッ!?)

まったくなんなんだよコイツらはッ!!
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