うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 黒煙

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午後2時。重機ファイターの活躍は続いていた。並み居るモンスターに突撃し、鋼鉄の腕を振り回しての大激闘。

だがその後に続くオレ達は連戦に次ぐ連戦。スーツにも熱が籠り、3人も肩で息を切らしていた。

(不味いな…、調子に乗って攻め過ぎだ…)

重機を操るオッチャン達は飲酒運転なうえにモンスターを軽々と倒せることに興奮し、まるで周囲が視えてない。それに輪をかけて後ろからついて来ている避難民たちが、また好き勝手をやって混戦の度合いを深めていた。

具体的には迂闊にモンスターへと手を出したものの、やっぱり手に負えないとこちらにトレインしてくる。そんな感じで休む間もなく戦い続けているので、オレ達の疲労は極致へと近づいていた。

(くそう、どこか建物にでも入って粘液交換に休憩をさせないと…!)

いくらダンジョンで鍛えたからといっても、こちらは生身。機械のようにずっとは動き続けてはいられない。3人はまだ気丈に戦い続けているが、明らかに足元がふらついている。

そこで隙を見て走るローラー車に飛び乗ると、運転するオッチャンに声をかけた。

「出過ぎだ!抑えてくれ!後ろが持たないぞッ!!」

ガンガンと攻めたてて進むものだから、すでに合流した場所から1キロ近くも進んでしまっている。その間コッチはずっと後ろで、カバーし続けてきたのだ。

「あ、なんだってぇ!?」
「進むのを抑えろ!オレ達がいなくなれば、重機だって運転手を狙われやられるぞ!」

それだけ伝えて飛び降りると、また他の車両を目指して走る。だが重機の隙間を抜けてきたモンスターの数が多く、ぜんぜん前に進めない。

(クソッ!なんだってこう面倒なバッタやハイエナが多いんだ!)

巨大バッタは長距離を跳ね飛んで体当たりをかましてくるし、ハイエナが隙を狙ってすぐには襲いかかってこない。その為遠近両方を気にしなければならず、その情報の処理が忙しない。

が、だというのにここでさらに問題発生。

近場のビル群から溢れ出た人達が、救いを求めてこちらに押し寄せてきた。重機を先頭に快進撃している光景を見て、あのなかに混じった方が安全だと踏んだのだろうが、実際には酷い混戦状態だというのに…。

「邪魔だ、どけぇ!」
「きゃああぁ!」

(アッ…!!)

するとあろうことか急に人が押し寄せてきたことに戸惑っていた瑠羽を、先頭を走ってきた男が突き飛ばした。そのせいで瑠羽はふらつき、攻撃の隙を窺っていたハイエナに襲いかかられてしまう。

「あ、瑠羽ッ!?くそぉ!!」

今すぐ助けに行きたいのに、モンスターが邪魔で進めない。視界を埋め尽くすモンスターに片っ端から金テコを叩きこみ、やっとの思いで瑠羽の元へと辿り着いた。

「瑠羽!だいじょうぶか!瑠羽ッ!!」
「ハァ…ハァ…!は、はい…でも重い…です…!」

なんとか自力でハイエナを倒すことが出来ていた瑠羽。でもすでに息が切れてしまっていてとても苦しそう。圧し掛かったまま死んだハイエナを押し退けるのを手伝って、その身を助け起こす。

(…あの野郎ッ!!)

下手をすれば、瑠羽が死んでしまっていたかもしれない。それを思うと瑠羽を突き飛ばした男に激しい怒りを覚え、どうにも納まりがつかない。

しかし怒りの目を避難民の方へと向けてみても、後から押し寄せる人波で瑠羽を突き飛ばした男の姿は消えてしまっていた。

(このッ!だが見てろ…。絶対このままじゃ済まさないぞッ!!)

…。

瑠羽が転倒したことで、戦線に穴が空いてしまった。

オレ達を抜けたモンスターが、そのまま避難民に襲いかかる。モンスターも弱い獲物の方が組しやすいと、そちらに流れたのだ。だがそれは瑠羽のせいではない。トレイン上等で押し寄せてきた連中が悪いのだ。

そこでオレは襲われてる連中を無視し仁菜さんと瀬来さんを集めると、逆に押し寄せてきたのが潜んでいたビル群に向かい休息を取ることにした。

それでようやく援護を受けられなくなったことに気付き、重機も速度を緩めたようだ。よし、モンスターの勢いも弱まった今なら、休息が取れるだろう。

…。

金色ぴかぴかのモンスターと戦える存在が戦場からいなくなったことで、重機も動きを止め休憩に入ったようだ。それに釣られ避難民もまたぞろぞろとビルに戻ってくる。

だが、休息の時間まで邪魔されては堪らない。

そこですでに扉が破られ荒らされてしまっている喫茶店の入り口を岩塩でガッチリ固めて塞ぎ、ゆっくり休憩を取らせてもらうことにした。

「フゥ~~ッ!あっつ~いッ!!」
「はぁ~、生き返るなぁ~」

無人の店内で、スーツの上を外した瀬来さんと仁菜さんが息をつく。

「さ、瑠羽も熱かったろう。今脱がしてやるからな」
「おねがいします」


マスクと碗部を外した後、万歳する瑠羽から『ぐぱっ』とスーツの上半身を脱がしてやる。

「もぉ~、なんなのよあの人達ぃ…!私5回もモンスター擦り付けられたんだけどぉ~…」


テーブルに突っ伏しながら、ジト目で唇を尖らせる瀬来さん。うん、文句を言いたくなる気持ちはよく解る。オレんとこには15回くらい来たかな。

「せやねぇ…、こっちのことなんかお構いなしやもんなぁ。ホンマ参るわぁ…」

気怠そうに首元を濡れたおしぼりで拭う仁菜さん。ホント、おっしゃる通りです…。

「でも、コーチ…。私たちみたいにモンスターと戦う人を見かけませんね?」
「ん~…。まぁ急に起きたスタンピードだ。準備が出来ていなかったっていうのもあるだろうし、モンスターの恐ろしさを知っているからこそ、そういう人はこういう時に出歩かないんじゃないか?」

ただ、それはオレも不思議に思っていた。

ダンジョンスタンピードだ。前のスタンピードの時には、ダンジョン能力者が人の命を救ったなどとニュースでもだいぶもてはやしていた。なので人を救いたいという高潔な精神を持っていたり、はたまた有名になりたいという売名行為でダンジョン能力者がスタンピードの起きた街中をうろつくことは、充分予想をしていた。

だけど、ぜんぜん見かけなかったな。


……。


こうして荒らされた喫茶店で休息を終えたオレ達。

だがそんなオレ達が外に出ると、またぞろ後をついてくる避難民。えぇ~、なんでそんなについてくる気満々なの?

さらに呆れてその様子を眺めていると、「どこまで行きますか?」とか「どっち方面には行かないですか?」などと訊いてくる始末。

はぁ…、オレたちゃアンタらのお守りじゃないんだぜ。

だがこちらが動かないので、避難民たちもオレ達の動きに注視して動かない。そこで、この機に先ほど瑠羽を突き飛ばした男を見つけ出すことにした。放置車両の上に飛び乗ると、避難民に向け声を張る。

「聞けぇッ!さっきの戦闘で仲間を突き飛ばしたヤツがこのなかにいる!そのせいで戦線が崩壊するところだった。そいつを今すぐオレの前に連れてこい!でなければこの先一切ついて来る事は許さんッ!!」

怒りの激オコプンプンモード。蟲王マスクの赤い目玉もビカビカと光らせながらそう宣言する。

と、その宣言を受けた避難民のなかで、「へッ!」と笑ってオレの視界からコソコソと身を隠そうとする男の姿を捕捉。

(あのバカクソが…ッ!ダンジョン能力者の視力と、このオレの悪意レーダーを舐めんなよッ!!)

「ミューカスロープッ!」

『びゅばっ!』と粘液ロープを伸ばすと、男を捕えて引き摺り出す。

男は引き摺られながらも「痛ぇな!ふざけんな!」などと咆えているが、知ったことではない。おまえが瑠羽を突き飛ばした事は、この蟲王アイがしかとお見通しだ!

「なんだオラァ!離せよてめぇッ!そんな証拠どこにもねぇだろがぁ…!!」
「うるさい黙れ!おまえのせいで何人死んだッ!!」

ガッ!と、怒りのキックが男の顔面を捉える。

鼻は潰れ、うわ顎は砕け、歯と鮮血が舞う。そうして蹲って口元からボタボタと血を垂らす男を指差して、さらに宣言する。

「コイツだ!コイツが戦線を崩壊させた犯人だッ!怪我をした者!知り合いが殺された者!コイツにすべて責任を取ってもらえッ!!」

そう言ってさらにもう一度蹴り飛ばしてからその場を離れると、次第に蹲る男に近づき蹴ったり踏みつけたりする者が避難民のなかから現れだした。

「あの…、金色の兄ちゃん。ちょっといいか…?」

男の蹴られる様子を腕を組んで眺めていると、重機を操縦していたオッチャン達が話しかけてきた。

「ああ、どうも。お疲れ様でした。良い判断でしたね」
「はは…。そりゃまぁ、なんともだな…」

オッチャン達は一塊にまとまってやってきた。

が、オレに話しかけてきたのはシャベルカーのオッチャン。一番に暴れだしたオッチャンだ。労をねぎらいその判断を評価すると、周りの酸鼻極まる景色に目をやって困った顔をした。

ん~…、まぁ少しやり過ぎたかもね…。

放置車両は何台となく潰してるし、ガードレールや電柱なんかの公共設備もボロボロ。暴れた重機が壊した物の被害総額は、相当なモノだろう。酔いが冷めたら責任取るのが恐ろしくなってきちゃったんだろうか。

「で…兄ちゃんたちは、これからどっち向うんだい?」

そう訊かれ、まぁシャークの通ってる学校に行く訳なんだが…。

被害とか犯罪とかの事をものすごく気にしてそうなので、オッチャンたちに「これから女子高向かうんだけど、重機で暴れたのも避難民や前途ある女子高の生徒を守る為だったって事にすれば、もし裁判になってもいろいろ良い事あるかもよ?」的に匂わすと、一緒についてくることに決まった。

重機ファイターのオッチャン達が仲間になったよ。やったね。

そして出発する間際にもう一度蹴り飛ばした男の様子を見に行くと、ボロボロになってアスファルトに横たわっていた。
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