うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 交錯

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「ぶふぉ…!ぶおぉぉ!」
『ガリッ!ガリリ…!』
「きゃあああッ!」

マッサージ店に勤める利賀都奈美は、ピンチに陥っていた。

「と、利賀さん!もっとしっかり引っ張って!」」
「…はい!」

場所はスーパー銭湯の非常口、同僚とふたり必死にドアノブを引っ張っていた。扉の隙間からは黒い毛の生えた熊のような前脚が伸び、その鋭い爪で鉄扉にも深い傷を刻んでいた。

(どうしてこんなことに…!)

懸命に頑張る彼女らの背後には、背にひどい怪我を負った若者が立ち上がることも出来ずに蹲っている。『外の様子をみてくる』と言って出て行った彼が、モンスターにみつかり襲われながら戻って来たのだ。

「ぐぉぉおお!」
「「きゃああああ!」」

鉄扉一枚を挟んでの攻防が続く。モンスターは建物内に侵入しようとしきりに扉を押しているが、この扉は外開き。だがその事に気付かれてしまえば、たちまち侵入されてしまうだろう。

都奈美たちに出来る事といえば、扉が開ききってしまわないように必死に引っ張って踏ん張るだけであった…。

ダンジョンスタンピードの第二波が発生して以降、都奈美たちは施設内に籠り事態の収束するのをジッと待っていた。幸いにしてスーパー銭湯には飲食店が入っていた事もあり、飢えに苦しめられる事も無く数日を何事もなく過ごすことが出来た。

父や弟にも連絡を入れてみたが、返事はない。でもふたりの性格は良く知っている。きっと今の事態に対処する為に懸命に戦っているのだろう。

ひたすら息を殺し、なにも情報の入ってこない状況で恐怖に怯えながらも耐えていたのだが、時が経つごとに焦燥感に駆られたお客や従業員が次第に騒ぎ出した。

そうして『外の様子をみてくる』と言って出て行った軽率な行動が、現在の状況だ。

「ぶふぉぉ!ぐぉおぉ!」

頭の上から生臭い獣のような息を吹きかけられ、全身に怖気が走る。

(な、鳴人さん…ッ!)

そんな生命の危機に瀕して心に思い浮かんだのは、好意を寄せた男性の名と強い後悔の念。


都奈美が好きになった男性は、急に全く連絡が取れなくなったと思ったらある日突然女性となって彼女の前に姿を現したのだった。その時は余りのショックに言葉を失い、何も話せなかった…。

その後に会う機会があったものの、また仕事中なうえなぜか従妹のるりが一緒にいて、鳴人さんがどうして女性の姿からまた男性に戻ったのか詳しく訊けなかった。

(あんなに夢中になったのに…ッ!)

鳴人さんが旅行に出かけると聞けば、偶然を装い浮かれて後を追った。悪かったかなと思ったけど…、逢えた時はとても嬉しかった。それで連絡先を交換して、初めて電話を掛ける時はものすごくドキドキと…。

でも、その後は気不味くて、申し訳なくて連絡が取れなかった。

しかし死ぬ思いで走馬灯のように鳴人さんとの思い出が浮かんでくると、胸が悲しくて…愛おしくて堪らない…。

(もう一度逢いたい!)
『タタターンッ!』

けたたましい炸裂音がした途端、鉄扉を搔いていたモンスターの前脚がグッタリと垂れて動かなくなる…。都奈美と同僚が訳も解らず放心していると、『ドカドカ』いう靴音が近づいて来て外から太い男の声が聞こえた。

「自衛隊です!だいじょうぶですか!?中の状況を教えてください!!」

自衛隊…、助かった。

返事をしようと口を開くも、喉がカラカラで舌が回らない。同僚もおなじ状態だったらしく、隣から『たすけて…』と掠れた声が聞こえた。

命がある…。ああ、もう一度…鳴人さんと話したい。


……。


シャーク女子高の守りは硬い。

なぜならばダンジョンに入りステータスを取得した重機ファイターのオッチャンたち。彼らが「さぁ強くなるぞ!」と重機を乗り回し、学校近隣に出没するモンスターを狩りまくったから。

その一方でそんな頼もしい重機の姿を目にした近隣住民が保護を求めて殺到。そのため、シャーク女子高はさらなる飽和状態に陥っていた。

「…ですから!これ以上の受け入れは学校の規模的に無理なのです!どうかご了承ください!」

「そこをなんとか!」
「助けてください!またモンスターに襲われたら、一体どうすればいいんですか!」

詰めかけた避難希望者に対し、これ以上の受け入れが困難であることを事務職員が説明する。が、なかなか聞き入れてもらえずに押し問答が続いている…。

一度目のダンジョンスタンピードがあって以降、政府や各地区の行政は避難所になる建物には食糧と水、そして毛布などの備蓄を指導していた。が、それにも限度というものがある。建物内に納まりきらず校庭内でも車中泊で寝起きをしている避難民が多数いる現状で、さらに避難者を増やすことはそのまま崩壊を意味していた。

「あ~、なんだ。また来ちまったのか…」
「参りますねぇ…」

重機という圧倒的パワーを武器にバリバリとレベルアップしたオッチャンらが、集まってきた近隣住民の声にやれやれといった表情で顔を見合わせる。

これだけの人数が一箇所に集まれば、水や食料が不足するのは目にみえている。

そこで彼らなりに気を利かせ近所のスーパーから食料を調達してきたのだが、それで先日彼らを担当するツンツン女子高生から大目玉を貰ったばかりだった。

「学校を守る人が強奪なんて真似しないでください!!」という至極まっとうな意見に、「いや今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ」と思いつつも、言い返せなかったのだ。

そこには『現実はそんな綺麗ごとだけじゃ済まない』という思いがありつつも、『若者には清くあって欲しい』という子を持つ親の心も見え隠れ…。ともあれそんな若者の意向を汲んで、おとなしくしているオッチャンらであった。

…。

裏門近くの駐車スペースでは、ジャージ姿に武装をした女子高生が戦闘訓練を行っていた。

「オラァ!もっとしっかり腰いれて振れぇ!!」
「「「はいッ!」」」

武器は、ソフトボール部の備品であるバット。そして学校の机を分解して作った盾。これは手先の器用な美術部の生徒らが、がんばって加工してくれたモノ。

みな一丸となって、この学校を守るために頑張っていた。

そして学校の周囲を囲う鉄柵に差してあった椅子は、今も急ピッチで自転車への変更が為されている。椅子だけだと、容易く校内へと侵入してきた身軽なモンスターがいた為だ。

今訓練を受けている生徒たちは、まだステータスを持っていない者達。ステータスを取得した生徒らはすでに何度かの防衛戦闘によりレベルアップを果たし、起きている者は鉄柵の周囲を見まわったり警備の任に就いている。

「よぉし終了!風邪ひかないようにしっかり汗拭いとけよ!」
「「「はいッ、ありがとうございましたぁ!」」」


戦闘訓練の指導をしていたのは、シャークこと利賀るり。物怖じしない性格でかつ面倒見のいいところもあって、次第に校内のカリスマ的存在になりつつあった。

「利賀さん。あの、ちょっといい…?」

「なんだ、品行方正か。そんなに近づくなよ、アタシみたいなのと話すと、雑なのが移っちまうぞ?」
雛形、結月ひながた ゆづきよ…」


訓練の終わるタイミングを見計らってるりに話しかけたのは、合気道同級生こと雛形結月だった。

るりを先頭に、そのまま休憩場所まで歩くふたり。といっても校舎の壁に沿って学校の椅子を並べただけの休憩場所。そこに辿り着くと、椅子の上に置いてあった水筒を取ってるりは水を飲んだ。

「はぁ…。それで、またピクシーが欲しいって話か?ジャングに断られたんだろ?ならもう諦めろよ」

休戦はしたが、決して仲が良い訳ではない。るり的には、一時休戦はどこまでも一時休戦なのだ。

「そんな事言わないで、ヴェールちゃんと少しでいいからお話しさせてよ…」

だがピクシーを視て以来。なんだかしつこくあれこれ訊いてくるようになってしまった相手に、るりはうんざりとした視線を返す。

「つったって、今ヴェールは昼寝してるぞ?ピクシーたちは人間よりも感覚が鋭いから、夜警に回すって防衛会議で話しただろ?」

そう言ってるりは、校庭に植わっている背の高い木の方に目を向ける。どこにいるのか遠目には解らないが、あの木の上でピクシー達は固まって休んでいるはずだ。

「……」

それを聞いて、しょんぼりと肩を落とす雛形結月。

「重機のおっさんたちはどうだ?」

「知らない…。またどっかから盗ってきた食べ物でも食べてるわよ」
「………」

重機のおっさんたちが、どこからか食料を手に入れてきた事は知っている。

るりもこれで食糧事情が良くなると喜んだのだが、目の前にいるこの同級生がそんなおっさんたちを大声で叱ったため、それっきりになってしまった…。

るりは警察官のおじさんの家に厄介になっている。だからやって良い事と悪い事のあるのは解っている。それでもこんな時にまで杓子定規に考えるのは、どうかとも思う。

でも相手の言っていることは、たしかに間違っていない。なのでさほど仲の良くない相手にこれ以上なにかを口にしようとは、るりも思わなかったのだった…。
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