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ダンジョンスタンピード第二波 飛行
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『びゅおぉぉおお~…!びゅううぅぅうううぅう~…!』
午前10時、今日は風がとても強い。
そんな吹き荒さぶ風がさりげなく良く似合うオレは、巨大赤蠍の外殻で要塞化された糧品宅のベランダに陣取り、同じく大きな赤蠍の脚から身をほじくりだしていた。
ある程度の時間経過は熟成で済むが、それ以上は腐らせてしまうしね。
うん、なんだかんだでモンスターの肉は、美味い。脂がのってモノすごく柔らかいA5ランクの肉とは比べるべくもないが…、いや、そもそもモンスターの肉は食用に飼育されている家畜とはベクトルが真逆。
肉質はとても硬く、脂とてほとんどのっていない。だがしかし、それが良い。
こういうのをジビエというのだろう。その大変に野趣あふれる味わいは、まるで身体の奥底に眠っていた野生の本能を呼び覚まされるような感覚を覚える旨味がある。ああ、ちなみにジビエとはフランス語で、領地で狩りをする貴族の伝統料理が元々のようだ。
それに工夫をすれば、こういったモンスターの肉だって美味しく頂ける。
今もほじくりだした巨大赤蠍の身は、キッチンにて瑠羽たちがせっせと肉団子にしてくれている。あとはじっくり焼いてハンバーグにするもよし。お鍋に入れて煮込むもよしだ。
まぁ作った端から瑠羽ママがご近所に配りに行ってしまうのが、難点と言えば難点か。
とはいえ、こういった状況下でも助け合いの精神をもって動けることは素晴らしい。うむ、さすがは瑠羽のお母さんだな。
モンスターの肉とはいえ、電気もガスも水道もアウトになってしまったこのマンション。貰った方もなんだかんだ言いつつも、結局は食うだろう。瑠羽ママも教えられた時には面喰ってたけど、すぐに慣れてくれたし。
と、そんなことを考えていると、ベランダでビニールシートの上に胡坐をかき巨大赤蠍の脚を抱えていたオレの耳に風に乗って発砲音が。
『(タァーーン!)』
『(パパパ…ッ!)』
(ムッ!これは銃声…!?)
そこで一旦巨大赤蠍の脚を脇に避けると、そっとバリケードの隙間から外の様子を覗いてみる。
『びゅおぉぉおお~…!びゅううぅぅうううぅう~…!』
…だが、追加の銃声はなし。
ふむ、一度きりか。どうやら距離的にはまだ遠く、川向うから聞こえてきた銃声のようだ。方角から察するに、松戸の自衛隊かな。もしかしたら先行した偵察部隊かもしれない。
ここに辿り着くまでに散々頭上を飛び回っていた自衛隊のヘリは、到着してからはその姿を視ていない。あくまでも希望的観測ではあるが、恐らくは危険度の高かったボス級モンスターを駆除し終えたのであろう。
(とすると、ここらが頃合いか…)
松戸駐屯地に詰めていた部隊も近隣を平定して都内入りしてくれるのであれば、この辺りもだいぶ落ち着くだろう。しかしそうなると今度は、移動に制限がかけられてしまう。であれば、そうなる前にコソッと神社に隠した残りの巨大赤蠍外殻を回収しておきたい。
うん、今回の行程では仁菜さんも瑠羽もだいぶスーツを傷めてしまった。
しかしそれがスーツの役目なので、十分に使命を全うしたともいえる。が、そんな状態なので今後の事も考えると、上質な防具の素材は在り過ぎて困るという事は無い。
「ん、どないしたんコォチ?」
「ああ、仁菜さん。それにみんなも聞いてくれ。オレはこれからまた外に出て、巨大赤蠍の外殻を回収してこようと思う」
キッチンに出向いてそのことを告げると、当然の如く驚かれた。
「えっ!?ちょっと江月さん!ここまで来るのにあんなに大変だったんだよ!?それなのになんでまた危険な外へ行くなんて言い出すのよッ!?」
「ああ、それなんだが、今さっき外で銃声が聞こえたんだ。たぶん松戸の自衛隊が来てくれたんだろう。だからもう少しすれば、ここら辺も状況が落ち着くはずだ」
「あの…それがどうしてコーチが出ていくことに繋がるんですか?」
「うん。自衛隊が来てくれたのなら、すこし警戒レベルを落としてもいいだろう?あれだけ飛んでいたヘリも見かけなくなったしね。ただその一方で自衛隊が来たら、一般人は自由に移動ができなくなる恐れがある。裁判所じゃ、ひどく立て込んでたから見逃してもらえたけどね」
「なるほど…、それで今のうちに『お宝を取りに戻りたい』って言うんやね」
「そういうことだよ仁菜さん。後から取りに行って先に自衛隊や警察に発見されてたら、面倒だからね」
「でも…、どうやって行くんですか?あそこまで戻るのって、とっても遠いですよ?」
「ああ、そこはちゃんと考えてるよ瑠羽。粘液のボートを使って、川を下るんだ」
そう、東京都と千葉県の境には江戸川が流れている。だからこの川を下ってしまえば、なんの邪魔を受けることもなくノンストップで南下することだって可能という訳だ。
「え~、でも大丈夫?川にだってモンスターが出るかもしれないじゃない?」
「そこは粘液ボートに覆いをつけてさ、砂や枯草でもまぶせばいい。そうして気配を殺してただの漂流物を装えば、流れているゴミをわざわざ確かめにくるモンスターもそうはいないだろう」
「ふぅん…、そらええ手かもしれんねェ」
「ちょっとぉ、シズまでぇ!?」
「もちろんここが手薄にならないように、ピクシー達も残すしファイヤーワンドも置いていく。と、使い方は大丈夫だよね?仁菜さん」
「うん、大丈夫やで」
「コーチ…」
「心配しないで瑠羽、オレなら大丈夫。それにここにはもうすぐ自衛隊が来るだろうし、シャークの方も気になるからついでに視て来るよ」
「…解ったわ!そういうことなら私が江月さんについて行くッ!」
「「「ええ~ッ!?」」」
うむむ…。なにやらまた…、またしても瀬来さんが言い出しましたな。
…
「「「ぴぴぃ~~!」」」
「ああ、ローズ、アジュール。瑠羽たちの事、しっかりと頼むな」
糧品宅防衛のために、念の為ローズとアジュールを含めたピクシーたち7名を残していく。
「万智ちゃん、気をつけてね…」
「うん、だいじょうぶよルウ。それに江月さん一人だけってのも、危ないでしょ?」
「ほんまこの子は言い出したら聞かないんやから…。コォチの言う事ちゃんと聞くんやで、万智?」
「ちゃんと解ってるって。…ふたりも気を付けてね」
うん、仲良しな3人が別れの時を惜しんでいる。
結局ふたりの説得も聞かずに、瀬来さんはオレについてくることになった。ほんとは3人いっしょにここに残ってくれていた方がオレとしては安心だけど、反面『いっしょについて行く!』と言ってくれたことが嬉しかったり…。いやぁ、照れちゃうね。
「よし、じゃあそろそろ行こうか瀬来さん。ここは時間短縮で、ベランダから飛ぶよ」
「え、ベランダからって…、江月さんそれどういうこと??」
「うん、では説明しよう。今現在、西から東に向かって強い風が吹いている。だからピクシークィーンのサポートを受ければ、ここから川までひとっ飛びで行けると思うんだ」
「ゴメン、ちょっと意味が解んない…」
「グライダーだよ。こう…手足の間に粘液で皮膜を作れば、風をはらんで滑空することが出来るだろ?クィーンのエアカタパルトで撃ちだしてもらって上空の風に乗れば、余裕で川まで行けるはずだ」
「それ…降りる時はどうするのよ??」
「降下の時は粘液をもっとたわませてパラシュートみたいにしてもいいし、粘液ボートを生み出してそのまま着水してもいい。いずれにしろピクシークィーンがいてくれれば、墜落して地面に真っ逆さまって事にはならないから安心して。さ、クィーン」
『ぱぁあああ!』
「う~ん、まぁじゃあ、よろしくねクィーンちゃん…」
「……(スン)」
七色の輝く光と共にピクシークィーンが姿を現すと、渋々といった感じで頷く瀬来さん。まぁそう心配しなさんな。計算上は大丈夫なはずだからさ、うん。何事も挑戦だよ。
…。
「よし、それじゃ先に行くよ。スキル【跳躍】ッ!!」
『ボッ!!』
ベランダに設置した巨大赤蠍の外殻を蹴って空へと飛び上がると、後追いでピクシークィーンのエアカタパルトが発動し一気に加速する。
『びゅうううぅぅううぅう~…!』
(…よし、この辺かな)
風を切って上昇していた勢いが弱まり放物線の頂に届く前に、大きく手足を開いて粘液の皮膜に風をはらませる。
「忍法ムササビの術ッ!」
『バッ…!ぴゅううぅうぅう~…!!』
すると粘液の皮膜が風を受け、ブワッと身体が浮き上がった。
(おお、スゴイ…!素晴しい、子供の頃の夢が叶った瞬間だ!)
こんな時に空を自由に飛びたいなの夢が叶ってしまったオレ。
高度はどんどんと上がり、視界はひらけていく。お、遠くに視えるあの山は筑波山だな。左手を視れば他にもたくさん山々が視えるし、右手には東京湾も視えてきた。
次いで眼下へと目を向けると、凧の糸のようにして一本のなが~い粘液ロープが下に伸びている。
これは瀬来さんと繋がっていて…と、小さくなったマンションから瀬来さんも飛び立ったようだ。よし、そばにピクシークィーンがついてるから大丈夫だとは思うが、こちらからも引き上げてやろう…。
そうして瀬来さんを近くまで持ち上げたのだが。
「キャッ!ちょっ!?わっわっ…!?」
急に高度があがったことが事が余程怖かったのか、瀬来さんは怯えて思わず股と脇を閉めてしまった。だがそれでは揚力を失い、宙ぶらりんの状態になってしまう。
「わ、瀬来さん落ち着いて…!しっかり手足を開かないと!」
「そ、そんなこと言ったってぇ~ッ!!」
「ウ、ウワ…ッ!?」
「きゃああ~!」
ピクシークィーンが瀬来さんを懸命にサポートしてくれている。が、手足を閉じて風がはらめない状態ではどうしようもできない。さらには粘液ロープで繋がった瀬来さんがクルクルと回り出してしまい、オレまでバランスを崩してしまう。
「クッ、不味い!」
が、その時。瀬来さんの背中から…いや、蠅の女王スーツの背中からうす白く発光する小さな翅が生えた。
『ぽわわ~…ッ!』
「きゃあああ!?…って、あれ??」
うす白く発光する小さな翅が生えた途端、なんだか急に色々と飛行が安定する。その間に急いで粘液ロープを引き寄せると、瀬来さんに声をかけた。
「だ、だいじょうぶ瀬来さん!?」
「う、うん…」
というか首根っこを母猫に咥えられた子猫みたいな姿勢で空を飛ぶ瀬来さん…。
えぇ~!?ありえないでしょ!!いったいなによソレ!?
午前10時、今日は風がとても強い。
そんな吹き荒さぶ風がさりげなく良く似合うオレは、巨大赤蠍の外殻で要塞化された糧品宅のベランダに陣取り、同じく大きな赤蠍の脚から身をほじくりだしていた。
ある程度の時間経過は熟成で済むが、それ以上は腐らせてしまうしね。
うん、なんだかんだでモンスターの肉は、美味い。脂がのってモノすごく柔らかいA5ランクの肉とは比べるべくもないが…、いや、そもそもモンスターの肉は食用に飼育されている家畜とはベクトルが真逆。
肉質はとても硬く、脂とてほとんどのっていない。だがしかし、それが良い。
こういうのをジビエというのだろう。その大変に野趣あふれる味わいは、まるで身体の奥底に眠っていた野生の本能を呼び覚まされるような感覚を覚える旨味がある。ああ、ちなみにジビエとはフランス語で、領地で狩りをする貴族の伝統料理が元々のようだ。
それに工夫をすれば、こういったモンスターの肉だって美味しく頂ける。
今もほじくりだした巨大赤蠍の身は、キッチンにて瑠羽たちがせっせと肉団子にしてくれている。あとはじっくり焼いてハンバーグにするもよし。お鍋に入れて煮込むもよしだ。
まぁ作った端から瑠羽ママがご近所に配りに行ってしまうのが、難点と言えば難点か。
とはいえ、こういった状況下でも助け合いの精神をもって動けることは素晴らしい。うむ、さすがは瑠羽のお母さんだな。
モンスターの肉とはいえ、電気もガスも水道もアウトになってしまったこのマンション。貰った方もなんだかんだ言いつつも、結局は食うだろう。瑠羽ママも教えられた時には面喰ってたけど、すぐに慣れてくれたし。
と、そんなことを考えていると、ベランダでビニールシートの上に胡坐をかき巨大赤蠍の脚を抱えていたオレの耳に風に乗って発砲音が。
『(タァーーン!)』
『(パパパ…ッ!)』
(ムッ!これは銃声…!?)
そこで一旦巨大赤蠍の脚を脇に避けると、そっとバリケードの隙間から外の様子を覗いてみる。
『びゅおぉぉおお~…!びゅううぅぅうううぅう~…!』
…だが、追加の銃声はなし。
ふむ、一度きりか。どうやら距離的にはまだ遠く、川向うから聞こえてきた銃声のようだ。方角から察するに、松戸の自衛隊かな。もしかしたら先行した偵察部隊かもしれない。
ここに辿り着くまでに散々頭上を飛び回っていた自衛隊のヘリは、到着してからはその姿を視ていない。あくまでも希望的観測ではあるが、恐らくは危険度の高かったボス級モンスターを駆除し終えたのであろう。
(とすると、ここらが頃合いか…)
松戸駐屯地に詰めていた部隊も近隣を平定して都内入りしてくれるのであれば、この辺りもだいぶ落ち着くだろう。しかしそうなると今度は、移動に制限がかけられてしまう。であれば、そうなる前にコソッと神社に隠した残りの巨大赤蠍外殻を回収しておきたい。
うん、今回の行程では仁菜さんも瑠羽もだいぶスーツを傷めてしまった。
しかしそれがスーツの役目なので、十分に使命を全うしたともいえる。が、そんな状態なので今後の事も考えると、上質な防具の素材は在り過ぎて困るという事は無い。
「ん、どないしたんコォチ?」
「ああ、仁菜さん。それにみんなも聞いてくれ。オレはこれからまた外に出て、巨大赤蠍の外殻を回収してこようと思う」
キッチンに出向いてそのことを告げると、当然の如く驚かれた。
「えっ!?ちょっと江月さん!ここまで来るのにあんなに大変だったんだよ!?それなのになんでまた危険な外へ行くなんて言い出すのよッ!?」
「ああ、それなんだが、今さっき外で銃声が聞こえたんだ。たぶん松戸の自衛隊が来てくれたんだろう。だからもう少しすれば、ここら辺も状況が落ち着くはずだ」
「あの…それがどうしてコーチが出ていくことに繋がるんですか?」
「うん。自衛隊が来てくれたのなら、すこし警戒レベルを落としてもいいだろう?あれだけ飛んでいたヘリも見かけなくなったしね。ただその一方で自衛隊が来たら、一般人は自由に移動ができなくなる恐れがある。裁判所じゃ、ひどく立て込んでたから見逃してもらえたけどね」
「なるほど…、それで今のうちに『お宝を取りに戻りたい』って言うんやね」
「そういうことだよ仁菜さん。後から取りに行って先に自衛隊や警察に発見されてたら、面倒だからね」
「でも…、どうやって行くんですか?あそこまで戻るのって、とっても遠いですよ?」
「ああ、そこはちゃんと考えてるよ瑠羽。粘液のボートを使って、川を下るんだ」
そう、東京都と千葉県の境には江戸川が流れている。だからこの川を下ってしまえば、なんの邪魔を受けることもなくノンストップで南下することだって可能という訳だ。
「え~、でも大丈夫?川にだってモンスターが出るかもしれないじゃない?」
「そこは粘液ボートに覆いをつけてさ、砂や枯草でもまぶせばいい。そうして気配を殺してただの漂流物を装えば、流れているゴミをわざわざ確かめにくるモンスターもそうはいないだろう」
「ふぅん…、そらええ手かもしれんねェ」
「ちょっとぉ、シズまでぇ!?」
「もちろんここが手薄にならないように、ピクシー達も残すしファイヤーワンドも置いていく。と、使い方は大丈夫だよね?仁菜さん」
「うん、大丈夫やで」
「コーチ…」
「心配しないで瑠羽、オレなら大丈夫。それにここにはもうすぐ自衛隊が来るだろうし、シャークの方も気になるからついでに視て来るよ」
「…解ったわ!そういうことなら私が江月さんについて行くッ!」
「「「ええ~ッ!?」」」
うむむ…。なにやらまた…、またしても瀬来さんが言い出しましたな。
…
「「「ぴぴぃ~~!」」」
「ああ、ローズ、アジュール。瑠羽たちの事、しっかりと頼むな」
糧品宅防衛のために、念の為ローズとアジュールを含めたピクシーたち7名を残していく。
「万智ちゃん、気をつけてね…」
「うん、だいじょうぶよルウ。それに江月さん一人だけってのも、危ないでしょ?」
「ほんまこの子は言い出したら聞かないんやから…。コォチの言う事ちゃんと聞くんやで、万智?」
「ちゃんと解ってるって。…ふたりも気を付けてね」
うん、仲良しな3人が別れの時を惜しんでいる。
結局ふたりの説得も聞かずに、瀬来さんはオレについてくることになった。ほんとは3人いっしょにここに残ってくれていた方がオレとしては安心だけど、反面『いっしょについて行く!』と言ってくれたことが嬉しかったり…。いやぁ、照れちゃうね。
「よし、じゃあそろそろ行こうか瀬来さん。ここは時間短縮で、ベランダから飛ぶよ」
「え、ベランダからって…、江月さんそれどういうこと??」
「うん、では説明しよう。今現在、西から東に向かって強い風が吹いている。だからピクシークィーンのサポートを受ければ、ここから川までひとっ飛びで行けると思うんだ」
「ゴメン、ちょっと意味が解んない…」
「グライダーだよ。こう…手足の間に粘液で皮膜を作れば、風をはらんで滑空することが出来るだろ?クィーンのエアカタパルトで撃ちだしてもらって上空の風に乗れば、余裕で川まで行けるはずだ」
「それ…降りる時はどうするのよ??」
「降下の時は粘液をもっとたわませてパラシュートみたいにしてもいいし、粘液ボートを生み出してそのまま着水してもいい。いずれにしろピクシークィーンがいてくれれば、墜落して地面に真っ逆さまって事にはならないから安心して。さ、クィーン」
『ぱぁあああ!』
「う~ん、まぁじゃあ、よろしくねクィーンちゃん…」
「……(スン)」
七色の輝く光と共にピクシークィーンが姿を現すと、渋々といった感じで頷く瀬来さん。まぁそう心配しなさんな。計算上は大丈夫なはずだからさ、うん。何事も挑戦だよ。
…。
「よし、それじゃ先に行くよ。スキル【跳躍】ッ!!」
『ボッ!!』
ベランダに設置した巨大赤蠍の外殻を蹴って空へと飛び上がると、後追いでピクシークィーンのエアカタパルトが発動し一気に加速する。
『びゅうううぅぅううぅう~…!』
(…よし、この辺かな)
風を切って上昇していた勢いが弱まり放物線の頂に届く前に、大きく手足を開いて粘液の皮膜に風をはらませる。
「忍法ムササビの術ッ!」
『バッ…!ぴゅううぅうぅう~…!!』
すると粘液の皮膜が風を受け、ブワッと身体が浮き上がった。
(おお、スゴイ…!素晴しい、子供の頃の夢が叶った瞬間だ!)
こんな時に空を自由に飛びたいなの夢が叶ってしまったオレ。
高度はどんどんと上がり、視界はひらけていく。お、遠くに視えるあの山は筑波山だな。左手を視れば他にもたくさん山々が視えるし、右手には東京湾も視えてきた。
次いで眼下へと目を向けると、凧の糸のようにして一本のなが~い粘液ロープが下に伸びている。
これは瀬来さんと繋がっていて…と、小さくなったマンションから瀬来さんも飛び立ったようだ。よし、そばにピクシークィーンがついてるから大丈夫だとは思うが、こちらからも引き上げてやろう…。
そうして瀬来さんを近くまで持ち上げたのだが。
「キャッ!ちょっ!?わっわっ…!?」
急に高度があがったことが事が余程怖かったのか、瀬来さんは怯えて思わず股と脇を閉めてしまった。だがそれでは揚力を失い、宙ぶらりんの状態になってしまう。
「わ、瀬来さん落ち着いて…!しっかり手足を開かないと!」
「そ、そんなこと言ったってぇ~ッ!!」
「ウ、ウワ…ッ!?」
「きゃああ~!」
ピクシークィーンが瀬来さんを懸命にサポートしてくれている。が、手足を閉じて風がはらめない状態ではどうしようもできない。さらには粘液ロープで繋がった瀬来さんがクルクルと回り出してしまい、オレまでバランスを崩してしまう。
「クッ、不味い!」
が、その時。瀬来さんの背中から…いや、蠅の女王スーツの背中からうす白く発光する小さな翅が生えた。
『ぽわわ~…ッ!』
「きゃあああ!?…って、あれ??」
うす白く発光する小さな翅が生えた途端、なんだか急に色々と飛行が安定する。その間に急いで粘液ロープを引き寄せると、瀬来さんに声をかけた。
「だ、だいじょうぶ瀬来さん!?」
「う、うん…」
というか首根っこを母猫に咥えられた子猫みたいな姿勢で空を飛ぶ瀬来さん…。
えぇ~!?ありえないでしょ!!いったいなによソレ!?
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