うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 川面

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空を飛ぶことで、一気に川へ出ようとしたオレと瀬来さん。

計算では200メートルほどの高度で東に1キロほど滑空し、川へと辿り着く予定であった。が、実際には300メートルほどの高さまで急上昇。そして今度は100メートルほどの高度にまで二人そろって急降下。『あわや墜落するのでは!』と危ぶまれたその時、なぜか蠅の女王スーツの背中から翅が生えて飛行は安定。

そんな未知の力によって導かれたオレ達は、今まさに江戸川着水フェーズへと移行しつつあった。

(うむむ…、進路を南に取ったことでだいぶ横風を受けるようになったか…。当然といえば当然だが、左手には高速道を支えるズ太い支柱が並んでいる。横風に煽られてアレに激突でもしたら、無傷では済まないぞ…)

さらには高度を下げたことで、より速度を感じるようになってくる。風は強くうねり、逃がすように皮膜を斜めにしてやらねば飛行が安定しない。

(瀬来さんは…よし、大丈夫だな。相変わらず母猫に咥えられた子猫のポーズではあるが、粘液ロープで牽引されてしっかりと後ろを付いて来ている。ならば着水に集中しよう…)

初めて空を飛んだことで、ワクワクもしたしドキドキもしている。だがオレは生粋のオタであり、何もエロゲばかりをしてきたわけではない。

なかには実在する戦闘機を駆って戦う精巧な3Dシミュレーションゲームだって、何十時間とプレイしてきたのだ。つまりたとえ初飛行でも、シミュレーション的にはバッチリだとも言える。後部座席の相棒は、よく『Bull's-eye!』とオレを褒めてくれたしな。 だから…、大丈夫だ。

すでに高度は30メートルを切っている。そして再び加速する推進力は無いので、やり直しはきかない。

「ゆくぞ…、それっ!」
『ぼふっ…ッ!!』

両脇の粘液皮膜をたわませ空気をはらませると、一気に速度が落ちていく。

と同時に空気をはらませて大きく膨らませた股下粘液皮膜の口を閉じ、バナナボートのような粘液風船を生み出す。これが粘液ボートの元だ。このバナナ状の粘液風船に、魔力を注いで平たく潰してゆき楕円形に。

コレを肉厚にしつつ足裏へと持っていけば、今度は粘液ボートの方が風を受け空気抵抗が大きくなる。そこでバランスを取るために脇を閉じ粘液ボートを押え込むような姿勢を取れば、そのままの態勢で着水することとなる…。

『びゃッ…!びゃびゃッ…!じゃばッ!じゃばざざぁ~~…!』

(ふぅ…着水成功!風にあおられて高速道路が間近に迫って来た時はヒヤヒヤしたけど、どうにか上手くいったな)

紺というよりも深緑に近い色をした江戸川に無事着水すると、粘液ロープを手繰って瀬来さんを引き寄せる。

「さ、手を伸ばして!…もうちょっと!…よしきた!…ふぅ、だいじょうぶ?怪我はない?」

ゴムボートそっくりの形となった粘液ボートの上に、瀬来さんはストンと正座姿勢で着地。うむ、実に綺麗なソフトランディング。

「………」
「もしかして、どこか痛くした?」

「も…」
「ん?」


「も、ものすごく怖かったんだからねッ!江月さんのバカァ~っ!!」
「ぐえぇッ!?」

小さな声を聞きとろうと顔を近づけたら、ギャン泣きの瀬来さんが首を締めつつ激しく揺すってくる。ちょっ!瀬来さん…!入ってる!はいってるから…ソレ!!

…。

無事江戸川への着水を終えた訳だが、その一方で瀬来さんがすこぶる不機嫌になってしまった。空で死ぬ思いをしたのが、とても怖かったらしい。

「瀬来さん…?」
「……」

うむむ、反応がない。これは完全に怒らせてしまったようだ。

「ねぇ瀬来さん…?」
「………」

むぅ、仕方ない。ではここは少々、子狡い手を使わせてもらおう。

「万智…。そんなに怒るなんて、よっぽど怖かったんだね。怖い思いをさせて、本当にすまない」
「………」

「でもオレは、万智だから一緒に飛びたいと思ったんだ」
「……え?」

「子供の頃の夢って…誰にでもあるだろ?すこし恥ずかしいけど、オレは空を飛ぶのが子供の頃の夢だったんだ」
「…だから?」

「でも仁菜さんは理性派だし、瑠羽は臆病。だからオレの冒険心を理解してこの特別な瞬間をいっしょに過ごしてくれるのは、万智だけしかいないと思ったんだよ」
「私だけ…?」

「ああ。初めて空を飛ぶなんて経験、独りだけで経験するなんてもったいないじゃないか!?だからそんな特別な瞬間を、万智と共有したかったんだ…」
「え、江月さん…」

「でもオレの勝手な思いで万智にとても怖い思いをさせてしまって、本当にすまない!」
「う、ううん!私もすこし怒りすぎたかも!ホントは、そんなに怒ってないからね…?」

「そうか…、ありがとう!怖い思いもあったけど、この特別な瞬間は万智とオレだけの思い出だろ」
「うん…そうね、今思い返してみると案外楽しかったかも!ふたりだけの初飛行だもんねッ!」

「ああ、そうだよ万智ッ!」
「江月さんッ!」

フェイスオープンした万智が抱きついてキスを迫ってくる…。おっと、ここからは先に、粘液シートを被せておくかな。

…。

こうして、流れにまかせ粘液ボートはゆるゆると川を下って行く。

そんな粘液シートで覆われたボートの中で、オレと瀬来さんは横並びに寝そべりイチゃついていた。それはまるで、舟遊びを愉しむ公園デートのよう。

しかしこれはオレのなかに眠る数々のエロゲ主人公たち力ではなく、実は仁菜さんの助言に因るモノ。ズバリ…!オレは仁菜さんから、結構恋愛に関するダメ出しを受けていたのだ。

年下の女性から恋愛に関するダメ出しを受けるなんて、なんとも恥ずかしい話。だがしかし、それでオレはおもいっきり助けられていたのだった。

なにせコミュ障ボッチで彼女達と出会うまでは、一度も女性と付き合ったこともないオタ。それがオレだ。

そんなオレが合意の上とはいえ、肉体関係と恋愛感情を伴う女性ふたりと初の恋愛で付き合っている。うん…、これはビギナーが初っ端から高難度ダンジョンに挑むような無謀ムーブに他ならない。

それ故に恋愛したことがないのをバレないようにと黙ってはいたものの、恋愛巧者の仁菜さんにはそんなオレのダメっぷりや朴念仁ぷりが、激しく見過ごせないモノだったらしい。

そんな訳で仁菜さんからは度々、『コォチ、こういう時はこうせなアカンよぉ?』とか、『もっとこうせんと…』なんてダメ出しでありつつも暖かいアドバイスを貰い、それに従い今までなんとかなってきた次第。しかもまたそのタイミングが絶妙で、まだ十分にリカバリーの効く状況で色々と教えてくれるという優しさ。

まったく、何度そういったアドバイスに助けられたことか…。

「江月さん…、好き…」
「オレもだよ…万智」

なのでこうして瀬来さんの機嫌を直す方法も、実は仁菜さん仕込みだったりする。

故にオレが仁菜さんにそれとなく敬意を払い、一目も二目も置いている理由はそんなところにあったりする。うん。彼女がいなければ、今の円満な関係は維持できなかっただろう。

「もぉ…今シズのこと考えてたでしょ!?わかるんだからね!」
「い、いや!オレ達ふたりだけがこうして幸せなのもちょっと申し訳ないなって…。あと仁菜さん達の方も問題ないだろうかって、すこしね」

「ふ~ん、ならいいけど…」

そう言うとまた瀬来さんはオレの胸へとしなだれて、ニマニマとした満足気な表情を浮かべはじめる。

ホッ…。ていうか蟲王マスクの口の部分しか開いてないのに、よく解るね瀬来さん。でもなんだかこの状況をひどく愉しんでるみたいだから、もうしばらくはこのまま好きにさせてあげようか。
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