うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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skill tournament / second match 4

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球対球!そして塩対蔓の熱い戦い。それは互いに加速し、リングのほぼ中央での大激突。

しかしその瞬間、オレはハッチを蹴破り岩塩ボールから脱出した。

「とおッ!」

いや…、だって普通に危ないんだもん。

教習所や免許の更新で、プロジェクターで映し出され何度も観せられた動画。それで正面衝突の事故が一番大惨事になるのは、幾度も学んだこと。そして自身でもバイクで事故に遭ったことで、その痛みも身をもって経験している。

よってそんな学習と経験を積んだオレに、隙は無かった。

故にここではボールと運命を共にするのではなく、脱出を選択した次第。そして脱出後はにゃんぱらりと軽やかに空中回転を決めると、スタリとリングの端に着地した。

その間にも激しい衝撃波に襲われ、岩塩ボールが砕ける音を聞く。

うむ、ムケーレのおっさんも蔓球に相当な魔力を注いでいたらしく、音だけ聞いたらコンクリートの塊同士をおもいきりぶつけ合ったような響きに思えた。

が、そんな大激突でも、オレは素早く脱出し蟲王スーツに身を包んでいたので無傷。鋭い破片が飛んできたりもしたが、それらは全てスーツが防いでくれた。

しかし一方ムケーレのおっさんは、おもいっきりその衝撃を受けて血だるまに。

「ギャヒィィ~~ッ!!」

深く身を沈め高速回転したままでの大激突。

だったのだが、巨大な蔓球も岩塩ボールとの相打ちで粉砕され、ダメージをモロに蒙ってしまったようだ。それにより蔓の硬化で木質化した破片や岩塩の欠片がおっさんの身体中に突き刺さり、って、だからなんで裸で出てきたんだよ。全身傷だらけジャンか…。

ともあれこの大激突により、両者の生み出したボールは砕け散ってしまった。

が、無傷でスクリと立ち上がったのはオレの方で、相手は血だるまで悲鳴をあげ転げまわっている。うむ、勝った。これは誰の眼からどう見ても、オレの勝利間違いなしだ。

『ピピィーーッ!』
「ゴールドインセクト選手!反則攻撃により失格ッ!!」

(ファッ!?)

な、なしてオラが負けるだかッ!?

「おい主審!いったいどういうことだッ!」

「わからんのか!持続ダメージを与えるような危険なスキル攻撃は、反則だッ!」
「な、持続ダメージだとッ!?」

するとオレの足元にまで血だるまになったインド人のおっさんが、咽び泣きながら転がってきた。

「ギャピィィィ~~ッ!!」
「そうだ!そんなに苦しんでるじゃないか!この様子も全国放送されてるんだぞ!早く、早くスキルを解除せんかッ!!」

いや…、だって塩だもの…。そりゃ滲みるさ。それもオレのせいなのか…??

…。

結局、オレはこの反則負けを受け入れた。いやだって、これ以上ここでゴネてもしょうもないし。

だがこれは敗北ではない。

運営サイドの『ほどよくスキルを披露しつつ、観客を楽しませるいい感じのプロレスやって』という意向に、【塩】のスキルとオレの戦闘スタイルがまったく合わなかっただけのこと。だから試合には負けたとしても、敗北だとは思っていないのだ。

ま、ともあれ他にもいろんな縛りのあることだし、このへんが潮時だろう。

と、リングから退場しようと背を向けたオレを、対戦相手のムケーレ・ムベンベが呼びとめた。

「ゴールドインセクト…!」
「ん?」

その声に振り返れば、そこには救護班からもらった回復薬ですっかり傷の癒えたインド人のおっさんの姿が。しかしその瞳は先ほどまでとは打って変わり、深く澄んだ聖者のような遠い眼差しをしている。

(おわ、なんだ…?試合中はあんなに怖い顔ばかりしてたのに…。塩揉みされて心が洗われでもしたのか??)

「ワタシ、ウレシイ…。ハジメテ、ワタシトオナジ、オナジヒトニ、アエマシタッ…!」
「なっ…!?」

ということは、オレがおっさんに精霊の気配を感じたように、おっさんもまたオレから精霊の気配を感じ取ったということか。。

「ワタシトアナタ、オナジ。コレ、トテモウレシイデス…!」
「む、そうか!」

そういって握手を求めてくるのに応じ、硬い握手を交わす。

「ゴールドインセクト…、アナタ、ワタシとオナジ…」

深く澄んだインド人のおっさんの眼差しが、オレをみつめる。そしてその瞳の色には、一点の曇りもない…。

(なるほど、そういうことか…)

そこでようやくオレは理解した。

精霊と繋がるには、心にピュアな部分を持っていなければならない。つまりこのインド人のおっさんもまた、心にピュアな部分を持ったおっさんだったのだ。

「そうか、オレも逢えて嬉しい。そして、ひどい怪我をさせて済まなかった。おっ、そうだ。お詫びにコレをプレゼントしよう」

オレとムケーレのおっさんは、精霊繋がりである種の仲間といえよう。なにせオレも自分以外で精霊と繋がっている人間と出会ったのは、初めてのこと。

そこで怪我のお詫びと友情の印として、万能回復薬の入った小瓶をプレゼントだ。

「コレは…?」
「それは万能回復薬。毒にも効果があるから、何かの時に役立ててくれ」

そんなモノをいったいどこに持っていたのかというと、蟲王スーツのトゲトゲに偽装した収納スペースに隠し持っていた。ふふふ、そういうトコには知恵の回るオレなのだ。

「オオ。ドーモ、アリガトウ」
「いやいや、ではまた会おうムケーレ」

すると、ガッチリ握手で語り合っていたオレ達に向け、会場からは拍手が湧く。

ガチンコ真っ向勝負での激突は観客にも解りやすく、見応えがあったらしい。まぁオレは激突前に脱出したけど。けどこれもまたアクション映画ではよく使われる手だ。そして試合後の両者の硬い握手をみて、ここは拍手を送るべきだと思ってくれたのだろう。

「「「パチパチパチパチ!!」」」

ふ~む、試合には負けた。が、まぁコレも悪くないか。

「アリガトウ。ゴールドインセクト…」

こうして新たな友も、できたようだし。

しかしそうしっかりと手を握ったままなかなか離そうとしないムケーレのおっさんに、いったい何時までオレの手を握ってるつもりなのだろうと思ったのだった。
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