うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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Ceremony Concert

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今日は物販イベントのセレモニーで、曲を披露する予定のファングレディ。

『なんと!今日はお忙しいなかあの方たちが、この会場へ応援に駆けつけてくれました!』的な紹介で3人がステージ上に姿を現すと、大きな歓声と拍手で迎えられる。なぜならこの物販イベントは、ダンジョン関連企業の集合体であるマジダスがスポンサー。それ故にお客の大半がダンジョン能力者であり、ダンジョン能力者アイドルとして売り出しているファングレディにとっては、まさにホームともいえる環境であるから。

そんな会場で歌われるファングレディーの曲は、マッチュのイメージソング。

スポンサーからの意向で、『あ~なんていったかな。元気でさ、すごく弾けた感じの娘がいるでしょ。…マッチュ?あ、そうそう、その娘!その娘の曲でさ、ワッと会場を盛り上げてよ!』といった会話があったとかなかったとか。

ともあれ会場にビートの効いたロックな導入が流れ出すと、マッチュをセンターに3人はキレのある動きで歌いだす。

「さぁみんな!いっくよォォー!」
「「「うおおおおォー!」」」


「お尻に 火がつくぜ 燃えあがるぜ」 
            「「燃えあがるぜ」」

「のっぴき な~らない ピンチが迫る」


「そんな時にただ 信じられるは」
            「「信じられるは」」

「鍛えた スキルとォ 己が肉体」

アップテンポな曲なだけに動きもまた激しく、3人は素早く立ち位置を変えながら演武さながらに組み手を交え踊ってみせる。

「「「荒ぶ風がァ 向かい風でもォ~」」」

「目を 凝らし」
   「「目を凝らし」」

「前を向けェ ahhhhhhh!」


そしてサビへと入る前には、一際声を張ってシャウトもしっかり決めてみせるマッチュ。

元々ノリがよく物怖じしない性格だけに、こうした場には滅法強い。そういった意味では、3人の中で一番芸能活動に向いているのが万智であった。しかし歌っている歌詞の内容はというと、これは単に江月が普段口にしていた事の羅列だったりする。

瑠羽に作詞作曲の話が来た際に『じゃあどうせなら、3人それぞれで作ってみようか!』なんていつもの調子で言いだしたものの、結局いい歌詞が思い浮かばずそうした仕上がりになってしまった。けれどそれに瑠羽が曲をあててくれると存外気に入って、自身でもよく口遊んでいる万智であった。


「みんな~ ありがとぉ~!」
「「「ワアアアアアァ~!」」」


こうして無事に歌いきり、観客たちの拍手と歓声に送られながら退場。これでこの場での仕事は完了となるが、人気の出てきた彼女達にはこの後も分刻みのスケジュールが待っている。

「お疲れ様でした。すみませんが急いで着替えに入ってください!」

と、控室に戻る途中の廊下でも、時間を気にしたマネージャーから声がかかる。

「…もぉ、ホントに息つく暇もないわねェ」
「まぁ、しゃあないやろ。そういう商売やしな」

などとボヤきつつも、ステージ上であれだけ派手に飛び回り歌っていたにも関わらず息ひとつあがっていない3人はここでも速歩で移動。そこはやはり、ダンジョン能力者の面目躍如といったところ。

そして控室に戻るとすぐさま神業のような速さで着替え、シーチュはステージ衣装からパリッとしたビジネススーツ姿に変身。これでインテリに見える伊達眼鏡をかければ、それでもう経済番組に出演する準備を終えてしまう。さらには得意分野の経済関連。情報は頭の中にまるっとインプット済みで、カメラ映りを意識した余裕の笑みすら鏡の前で浮かべている。

一方でマッチュとルーチュは、一旦私服姿に。これは此処からそれぞれが別の現場に赴き、その場で仕事の衣装に着替える為。しかしそうした控室の片隅で着替えが済むのを待っていた新米マネージャーのひとりが、電話を受けると素っ頓狂な声をあげ、戸惑いながらそれに応じていた。

「あ、いつもお世話になっております。…え?え?ハイ!そうなんですか。ハイ、分かりました。では、変更した日取りが分かりましたら、またご連絡ください。ハイ、ハイ、よろしくお願いします」

自分を担当するマネージャーのそんな様子を鏡越しに目にし、ニットの上着の袖に腕を通しつつマッチは振り向いた。

「え~と、今のって私の仕事のことだと思うけど、どうしたのかな?」
「あ、ハイ。実は天候の関係で、今日の屋外ロケは中止と連絡がありまして…」

「あ~…、そうね。たしかに歌ってる時も、ちょっとカミナリ鳴ってたかも」

歌っていたのは屋内ステージであり、かつ大勢の人の出す音と曲の大音量のなか。しかしそうした音の合間にも、僅かながらに外の気配を万智は感じ取っていた。

「ほんなら雨で混みだす前に、サッサと移動せなアカンね」
「うん、そうだねシーチュ」

マッチュの仕事は中止。けれども次の仕事先に急がなければならないシーチュとルーチュは、準備を終えると鏡の前を立って扉へ向かう。

「ほしたらマッチュ、ウチらもう行くな」
「いってきます」

「あ、うん。いってらっしゃい。ふたりとも気を付けてね」

こうして静かになった控室には、マッチュとマネージャーだけが残された。

「「……」」

「あ~、そしたら私達はさ、一旦事務所戻ろうか。クルマ、手配してもらってもいい?」
「あ、ハイ。いま手配してきます!」

そういってパタパタと控室を出て行くマネージャー。その後ろ姿を見送り、扉が閉まると軽く息を吐いて肩を落とすマッチュ。

(ウ~ン…、頑張ってるのも分かるし間違ってもないんだけど、どうもテンポが合わないのよね…)

しかしコレは、決して口にはできないこと。相手は荒事などとは無縁の一般人で、ダンジョン能力者でもなんでもない。そんな相手にダンジョン能力者と同じようにテンポよく動けなど、それはもうパワハラでしかない。

なまじ普段いっしょにいるふたりが息ピッタリのダンジョン能力者なだけに、ふたりと離れると途端にやり難さを感じてしまう。

なんてことを考えていると扉がノックされ、それに応じると背広姿のスポンサーらしき人物を連れた舞台関係の上役が入ってきた。すると即座に営業スマイルを浮かべ、丁寧にお辞儀をし謙りムーブに入るマッチュ。この辺は持ち前の場当たり力と、事務所の教育がしっかりと活きていた。

「あ、どうもォ!今日はありがとうございました!」
「お疲れ様。いや良かったよマッチュの曲。会場も大盛り上がりでね、コチラの方が是非直接お礼を言いたいと」

「そうでしたか。本来ならコチラからご挨拶に行かなければいけないところ、わざわざお越し頂いてすいません」
「うん、紹介しよう、コチラはマジダスの広報部長であられる大橋さんだ」

「まぁ!マジダスの広報部長さんでしたか。お会いできて光栄です。はじめまして、マッチュです!」
「あ~、うん。大橋だ。いや、うん。良かったよ、実に。いや今後もね、キミたちみたいな元気な娘に頑張ってもらいたいと、そう思ってね」

「応援ありがとうございます!ご期待に沿えるよう、3人で力を合わせて頑張ります!」

お礼と共に握手を求め、しっかと握ると下から相手の目を見て、オーラ放射のとびきりスマイル。その攻撃を真面に浴びてしまった広報部長さんは、ドッキドキのデレデレに照れ蕩けながら去っていた。

(うわぁ、あんな風になっちゃうんだ…)

もしこうした場面に出くわしたら使うようにとシーチュに言われてた、オーラ放射のとびきりスマイル。その威力の程を目の当たりにし、改めて一般人とダンジョン能力者との差を意識したマッチュであった。
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