13 / 40
第13話
しおりを挟む
帰宅すると、我が家のヒロイン様はロゴTシャツにパンティーだけという無防備な姿ですぅすぅと寝息を立てている最中だった。俺のベッドはすでにほたる専用の寝床と化している。
それにしても部屋の散らかり方が半端でない。
脱ぎ捨てられた服たち、特に下着を部屋のど真ん中に放置するのやめてもらえませんか。使い終わったバスタオルも置きっぱなし、テーブル上が定位置だったテレビリモコンは電池が飛び出して転がってるし、ゴミ箱は中身をまき散らしながら転がってるし、こんな部屋を姉ちゃんに見られたら――
「そうだ、今度の土曜は姉ちゃんが来るんだった!」
和風おろしチキン弁当をレンジでチンしながら叫ぶと、奥の部屋でほたるが目を覚ましたようだ。
俺の声で目覚めたのか、チキンの匂いで目覚めたのかは、まあ後者だろう。
「和馬、腹が減った」
寝起き一番で言うセリフがこれである。さらに、
「それはチキンか? 和風おろしソースの匂いだな」
匂いでソースの種類まで当ててくるエロゲのヒロイン様である。和風はともかく、おろしまでわかるか?
「ほたるさん、ちょっとお願いがあるんですが」
「嫌だ」
まだ何も言ってねえ。
「その言い方はあたしが嫌だっていうお願いだろ」
かもしれないが、ここは構わずに話を続けてしまおう。
「今度の土曜は俺の姉ちゃんが来るんだ。月に一度の様子見ってやつで、食材を持ってきてくれたり部屋の掃除をしていくんだよ」
ここで「チン!」と温まった和風おろしチキン弁当を、ほたるは無言で強奪していく。
「だからその日だけでいい、姉ちゃんが帰るまでどこか出掛けてくれないか?」
ほたるは熱々のチキンをはふはふ言いながら口に運ぶ。
「たぶん午前中には来ると思う。で、夕方には帰るから……」
「嫌だ」
「このアパートは親父の名義で契約してるから、人を連れ込んでると怒られるんだよ」
「嫌だ」
「まして女の子と同棲してるなんて知れたら、真面目な姉ちゃんは絶対許してくれない」
「い~や~だ」
ほたるはあっという間にチキン弁当を平らげて、
「別に居てもいいじゃん、あたしはゲームのキャラなんだから」
「だから、こんな有様を姉ちゃんに見せられるかっての」
部屋は散らかすし、下着は脱ぎっぱなし、てか何着持ってるんだよ。それにこの脱ぎ散らかしっぷりはいくら何でもズボラすぎだろ。
バスルームにはどこから手に入れたんだか女性モノのシャンプーや歯ブラシまで並んでいるし、よく見るとベッドや床には長い金髪の髪の毛が何本も。
「これじゃ、まるっきり同棲じゃないか」
こんなんで尻をかきながらテレビを見てるほたるがいたら、姉ちゃんは卒倒するぞ。姉ちゃんはお堅い性格なんだ。
俺の必死の説得もほたるにはまったく届いている様子がない。これで無理やり追い出そうものなら、逆に俺が追い出されるのは火を見るよりも明らかだ。
よし、ならば……
俺は自分の弁当を持ってテーブルに着く。
「ゲームで勝負だ。俺が勝ったら土曜日は外出してもらう」
「エロゲ展開はいいのか?」
「姉ちゃんに見つかったら、ほたるとのエンディングを見る前に俺の人生がエンディグを迎えてしまう。エロゲをやっていることは姉ちゃんには内緒なんだ」
「普通に恋人が遊びに来てますって言えばいいじゃん」
と言って、俺のチキン弁当に手を伸ばすほたる。まさかこっちも食べる気か?
「いや、お前は恋人じゃない」
「え……?」
ここでほたるの手が止まる。ピクっと反応した手が固まるのを見て、俺はこう続けた。
「俺はまだほたるを攻略できていない。いいか、エロゲの攻略ってのは、まずは相手の舞台で戦うんだ。それが勉強でもスポーツでも趣味でも、相手のことを知らないと自分を知ってもらうことができない。俺はまだ、ほたるのことを何も分かってない。だからほたるのことを恋人とは呼べない」
「あたしにゲームで勝ててないから?」
「ほたるの舞台はゲームなんだろ? 俺はまだほたるの舞台に立てていないんだ。ギリギリしがみついてるだけで、ほたるの中身が見えていない」
ほたるはなぜかほっとしたように、俺の弁当を手前に引き寄せた。
「和馬はゲームが下手だからな」
「ちげーよ! 俺が下手なんじゃなくてお前の強さがバグって……いや、難易度が高すぎなんだって」
「あたしはメインヒロインだからな」
熱々のチキンに、ふぅふぅと息を当てる。和風ソースと紫蘇の匂いが、ほたるの息に乗って俺の鼻孔をくすぐった。
「ちぇ、エラそうに」
「和馬は一緒にゲームやる女の子とかいないのか?」
苺のような愛らしい唇の奥に肉厚のチキンをパクリ。ついでにご飯もパクリ。
「いるわけないだろ、ゲーム好きな女の友達なんて」
「ふうん……」
「だいたい俺に女の友達なんていない。自慢じゃないが、携帯のアドレスだって母ちゃんと姉ちゃん以外は全員男だ」
チキンとご飯が残り僅かになった。ねえ知ってる? それ俺のだよ?
「チュリー君だもんな」
「うっさい!」
和風おろしの「おろし」までも余すことなく食べ尽くされた。
「わかった。じゃあ今回の勝負は和馬の姉さんにバレないようにあたしが協力するってことだな。和馬が勝ったらついでにチューも付けてやる。でもあたしが勝ったら、この間のレタスチャーハンを作ってくれよ」
って、まだ食べるのかよ。
「ああ、食べた食べた」
と、ほたるは幸せそうな顔をしている。良かったな、俺の分までしっかり食べて、さぞご満悦だろう?
「ん? まあ、ね」
それにしても部屋の散らかり方が半端でない。
脱ぎ捨てられた服たち、特に下着を部屋のど真ん中に放置するのやめてもらえませんか。使い終わったバスタオルも置きっぱなし、テーブル上が定位置だったテレビリモコンは電池が飛び出して転がってるし、ゴミ箱は中身をまき散らしながら転がってるし、こんな部屋を姉ちゃんに見られたら――
「そうだ、今度の土曜は姉ちゃんが来るんだった!」
和風おろしチキン弁当をレンジでチンしながら叫ぶと、奥の部屋でほたるが目を覚ましたようだ。
俺の声で目覚めたのか、チキンの匂いで目覚めたのかは、まあ後者だろう。
「和馬、腹が減った」
寝起き一番で言うセリフがこれである。さらに、
「それはチキンか? 和風おろしソースの匂いだな」
匂いでソースの種類まで当ててくるエロゲのヒロイン様である。和風はともかく、おろしまでわかるか?
「ほたるさん、ちょっとお願いがあるんですが」
「嫌だ」
まだ何も言ってねえ。
「その言い方はあたしが嫌だっていうお願いだろ」
かもしれないが、ここは構わずに話を続けてしまおう。
「今度の土曜は俺の姉ちゃんが来るんだ。月に一度の様子見ってやつで、食材を持ってきてくれたり部屋の掃除をしていくんだよ」
ここで「チン!」と温まった和風おろしチキン弁当を、ほたるは無言で強奪していく。
「だからその日だけでいい、姉ちゃんが帰るまでどこか出掛けてくれないか?」
ほたるは熱々のチキンをはふはふ言いながら口に運ぶ。
「たぶん午前中には来ると思う。で、夕方には帰るから……」
「嫌だ」
「このアパートは親父の名義で契約してるから、人を連れ込んでると怒られるんだよ」
「嫌だ」
「まして女の子と同棲してるなんて知れたら、真面目な姉ちゃんは絶対許してくれない」
「い~や~だ」
ほたるはあっという間にチキン弁当を平らげて、
「別に居てもいいじゃん、あたしはゲームのキャラなんだから」
「だから、こんな有様を姉ちゃんに見せられるかっての」
部屋は散らかすし、下着は脱ぎっぱなし、てか何着持ってるんだよ。それにこの脱ぎ散らかしっぷりはいくら何でもズボラすぎだろ。
バスルームにはどこから手に入れたんだか女性モノのシャンプーや歯ブラシまで並んでいるし、よく見るとベッドや床には長い金髪の髪の毛が何本も。
「これじゃ、まるっきり同棲じゃないか」
こんなんで尻をかきながらテレビを見てるほたるがいたら、姉ちゃんは卒倒するぞ。姉ちゃんはお堅い性格なんだ。
俺の必死の説得もほたるにはまったく届いている様子がない。これで無理やり追い出そうものなら、逆に俺が追い出されるのは火を見るよりも明らかだ。
よし、ならば……
俺は自分の弁当を持ってテーブルに着く。
「ゲームで勝負だ。俺が勝ったら土曜日は外出してもらう」
「エロゲ展開はいいのか?」
「姉ちゃんに見つかったら、ほたるとのエンディングを見る前に俺の人生がエンディグを迎えてしまう。エロゲをやっていることは姉ちゃんには内緒なんだ」
「普通に恋人が遊びに来てますって言えばいいじゃん」
と言って、俺のチキン弁当に手を伸ばすほたる。まさかこっちも食べる気か?
「いや、お前は恋人じゃない」
「え……?」
ここでほたるの手が止まる。ピクっと反応した手が固まるのを見て、俺はこう続けた。
「俺はまだほたるを攻略できていない。いいか、エロゲの攻略ってのは、まずは相手の舞台で戦うんだ。それが勉強でもスポーツでも趣味でも、相手のことを知らないと自分を知ってもらうことができない。俺はまだ、ほたるのことを何も分かってない。だからほたるのことを恋人とは呼べない」
「あたしにゲームで勝ててないから?」
「ほたるの舞台はゲームなんだろ? 俺はまだほたるの舞台に立てていないんだ。ギリギリしがみついてるだけで、ほたるの中身が見えていない」
ほたるはなぜかほっとしたように、俺の弁当を手前に引き寄せた。
「和馬はゲームが下手だからな」
「ちげーよ! 俺が下手なんじゃなくてお前の強さがバグって……いや、難易度が高すぎなんだって」
「あたしはメインヒロインだからな」
熱々のチキンに、ふぅふぅと息を当てる。和風ソースと紫蘇の匂いが、ほたるの息に乗って俺の鼻孔をくすぐった。
「ちぇ、エラそうに」
「和馬は一緒にゲームやる女の子とかいないのか?」
苺のような愛らしい唇の奥に肉厚のチキンをパクリ。ついでにご飯もパクリ。
「いるわけないだろ、ゲーム好きな女の友達なんて」
「ふうん……」
「だいたい俺に女の友達なんていない。自慢じゃないが、携帯のアドレスだって母ちゃんと姉ちゃん以外は全員男だ」
チキンとご飯が残り僅かになった。ねえ知ってる? それ俺のだよ?
「チュリー君だもんな」
「うっさい!」
和風おろしの「おろし」までも余すことなく食べ尽くされた。
「わかった。じゃあ今回の勝負は和馬の姉さんにバレないようにあたしが協力するってことだな。和馬が勝ったらついでにチューも付けてやる。でもあたしが勝ったら、この間のレタスチャーハンを作ってくれよ」
って、まだ食べるのかよ。
「ああ、食べた食べた」
と、ほたるは幸せそうな顔をしている。良かったな、俺の分までしっかり食べて、さぞご満悦だろう?
「ん? まあ、ね」
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる