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17.それはよくある、そういう本みたいなやつです?

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「――エ、クロエ!」

 気付いたら、家に帰っていたようだ。
 自室のソファに深く身体をうずめていたクロエは、心配そうに顔を覗き込んできていたユーゴの声で、はっと我に返った。

 目をぱちぱちさせて辺りを見回すクロエを見て、兄はほっとしたように深く息を吐いた。
「大丈夫?」
 こくりと頷くと、フィンが水を持ってきてくれた。
「どうしたの、ねえさま。ふらふらしながら帰ってきたと思ったら倒れ込むように座ってさ。いくら声かけてもぼんやりしててさ」
「……本屋に行ったんじゃなかったのか?」

 そういえば、そうだった。
「い、かなかった」
「え? じゃあ何しに行ったの?」
「何かあったのか」

 ぎゅっと服の胸元を握り締めて、小さく頷いた。じわりと視界が涙で歪む。

「どうしよう、兄さん」
「ん?」
「困ったことに、なってしまった」

 何をどう話したらいいのか。混乱している頭を整理するように、クロエは今日あったことを順番に言葉にしていった。

 本を買いに街に行ったこと。
 曲がり角で、出会い頭に男の人とぶつかったこと。
 支えてもらった腕が力強かったこと。
 クロエを見つめる目がとっても優しかったこと。
 それから何だか胸が苦しいこと。

「……」
「……」
「……何で二人とも、だまってるの」

 沈黙に耐えきれずにクロエが抗議の声を漏らすと、ユーゴとフィンは顔を見合わせて同時に首を振った。
「クロエ、それは……」
「チョロエねえさま」
「チョロって何!?」

 ユーゴの戸惑った顔とフィンの呆れたような目に、出かけた涙も引っ込んだ。
 抗議の声を上げようとしたとき、フィンがそれを遮るように大きくため息をついて話し始めた。

「あのさ、ねえさんがいつも読んでるじゃない、そういう本」
「そういう?」
「そういう本だよ、曲がり角でぶつかってキュンとか、目と目が合う瞬間~みたいなやつの本」
「え、何ちょっとバカにしてるの?」
「そうじゃなくて、さ。さっきねえさまが言ってたことをもうちょっと落ち着いて考えてみてよ」

 僕はもう行くね、とフィンは軽く手を振って部屋を出て行った。
 背中を見送ってから、クロエは自分とフィンの言葉を順番にたどる。と、急速に顔が熱を持って行くのが分かった。

「――え……」
「その、ぶつかった相手っていうのは知ってる人?」

 頭の中が混乱していて、兄の言葉に脊髄反射で「ラインハート様」と答えてしまった。
 はっと気づいた時にはもう遅い。ユーゴはそうかとばかりに頷いて、にっこり微笑んだ。

「だったら問題ないじゃないか」
「え」
「だって、彼はクロエに求婚してくれているんだろう?」

 そうだけど、そうだけど!

「可愛い妹が……何だか複雑だな」

 微笑ましげにそう呟かれた。むずむずする。
 ――でも、何か引っかかる。
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