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25. わがままテオドール

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 家に着き、ユーゴをベッドに寝かせてジェシカに任せた二人は、リビングに移って一息ついた。
 テオドールから渡された契約書をテーブルに広げて、ポーリーンは細い指を組んだ。

「テオ」

 声をかけると、テオドールは軽く姿勢を正して眼だけで返事をする。
「この件、とてもありがたいけれど」
「ポーリーンは、自分自身の、自分だけの城を持ちたかった、ですよね?」

 その通りだった。
 どこかできちんと働いたこともなく、親の手伝いや友人の手伝いくらいしかしたことのない自分の、自分だけの居場所を作りたかった。
 自分の力で運営し、ジョアンと自分、……願わくばユーゴとクロエの家となる店。

 テオドールが見つけてきてくれた場所は、確かにとても魅力的でこれ以上望めないくらいの良物件だった。2階3階は居住スペースになっており、住むにも貸すにも広々していてよい。
 ただ、借主がテオドールとなってしまっていることが気になる。

「確かに、店を構えるには資金が必要よ? 当然、それはわたくしの力で集めようと思っているの」
「わかります」
「時間はかかるかもしれないけれど、わたくしの希望の店を構えるためにはいくらでも頑張るつもり」
「それも、わかります。……だから、これは私のわがままだと思ってください」
「え」

 目元を赤くして、テオドールは組まれたポーリーンの指へと視線を落とした。

「新しい店を開くには、初期資金がかかります。それを誰かから借りるおつもりですよね?」
「えぇ」
「だったら、それは私でありたい」

 意を決したように、テオドールはポーリーンの目を見つめた。

「他の人からは借りないでほしい。私がすべて用意したい。店も、家も、人手も。すべて私にしてほしい」
「テオ、」
「――私のわがままです。きいていただけ、ますか?」

 一瞬、時間が止まったかと思った。
 目の前の青年からの目から視線を外せない。
 これほどにまっすぐに見つめられたら、頷くしかない。と苦笑いするポーリーンに、テオドールは慌てたように付け加えた。

「も、もちろん、負担に感じさせるようなことはしません。オーナーは私、と言いはしましたが、あくまでも貸店舗。資金がたまったらあの物件をそのまま購入することも可能で、その際にポーリーンに名義を代えることも、」
「テオ」
「……はい」

 一生懸命取り繕うテオドールの言葉を遮ると、叱られた子犬のような顔をする。
 初めて、彼の年下らしいところを見た気がして、なんだかおかしかった。

「ありがとう。お言葉に甘えるわ、軌道に乗るまでは」
「! ありがとうございます!」
「わたくしがお礼を言っているのよ」
「私のわがままですから」

 何の遠慮の試合なのかわからないような会話を交わし、ひとしきり笑いあった。

 そして、ポーリーンは書類を横に置いて切り出した。
「……ユーゴのことも、聞かせてくれるわね?」

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