運命を破り捨てないで。

ますじ

文字の大きさ
上 下
6 / 8

千晴の場合――5

しおりを挟む
 濡れた身体のまま部屋になだれ込み、そのままの勢いでベッドに押し倒された。案の定シーツまで湿ったが、構わず脱がされて濡れた服は床に投げ捨てられた。
「あ、の、ちょっと……っ」
「今日は親帰ってこないし、爺も勝手に俺の部屋覗いたりしねえよ」
「そういうことじゃ……!」
 ぎしりとベッドが唸り、服を脱いだ芦田が覆い被さってくる。完全な捕食者……雄の顔をしていたが、どこか余裕のなさも滲んで見えて、それがより一層千晴を興奮させた。
「……だめか?」
 ただでさえ微熱に苛まれていた体が、一瞬にして激しく発熱する。熱に浮かされたまま、千晴は首を振ることしかできなかった。だめなんて言えるわけがない。もうこんなに、体はこの人を欲している。
「すげえ、美味そうな匂いすんな」
「……ただのヒート、です。オメガならみんな、おなじ……んぅっ」
 芦田の熱い舌が首筋を這う。それだけで快感が駆け巡って、下半身が濡れる感覚がした。
「千晴だけだ、こんなに美味そうな匂いすんのは」
「……ばか」
 他とは違う匂いを感じ取っていたのは自分だけではなかったらしい。まるで本当の運命のようで嬉しくなった。
 芦田がそっと項に手を添えてくる。視線で促されたので、大人しく四つん這いになった。背後から強く抱きしめられ、項をべろりと舐められる。噛まれるのとはまた違う刺激に、腰が疼いて勝手に揺れてしまった。はしたないと思われたらどうしよう。それでも身体が反応してしまうのだから仕方がない。
「……噛むぞ。いいんだな?」
「うん……いっぱい、噛んで、愛してくださ、~~っ!!」
 ぷつりと尖った歯の食い込む感覚がする。あの時の鋭い痛みとは違って、その刺激はひどく甘い快楽を運んできた。相手が芦田だというだけでこんなにも違うのか。くらりと眩暈がして倒れ込むと、体をひっくり返され正面から抱きしめられた。どうにもあの一瞬で射精したらしく、股の間はべとべとだ。羞恥のあまり膝を閉じようとするが、すかさず芦田に阻止され大きく開かれてしまった。
「ちょ、っと……!」
「かわいいな……早く、ぐちゃぐちゃにしてぇ」
「あっ……」
 熱のこもった低い声で囁かれ、背筋に甘い痺れが走った。芦田の太くてしっかりした指が体中を這って、つんと尖った乳首を食まれる。舌先で優しくくすぐられると、押し付けるように背中が浮いてしまった。
「ひ、ぁ、だ、だめ、や、ぁ、ひゃんっ……!」
 勝手に甲高い声が洩れて止まらない。腹の奥も先程からずっときゅんきゅんと疼いている。早く、早く欲しい。奥まで埋めて、いっぱいにしてほしい。頭の中はそればかりだ。
「も、やぁ……はやく、いれて、いれてくださ……」
「っだめだ、ちゃんと解してから……」
「でももう我慢できない……っ」
 芦田の腰に自分のぐちゃぐちゃになったそこを擦り付ける。煽るつもりというより、ただ本当に早く芦田が欲しい一心からだった。芦田がぐっと表情を険しくする。何か堪えるように眉間に皺を寄せて、低く長く息を吐きだした。
「……まずは、指からな」
「ぅ、う、はやくぅ……」
 宣言通り芦田の指がゆっくりと入ってくる。中はすっかり愛液で濡れそぼっていて、挿入された指の間から溢れ出るほどだった。芦田の長い指が、中を広げるように円を描きながら抜き差しを繰り返す。
「ぁ、あ、あ、きもち……っ、ひ、ぁ、ぁんっ……!」
「……っはー、やべ」
 最初は優しく慣らすような動きだったのが、次第に激しいものに変わって、じゅぼじゅぼと卑猥な音を立てはじめた。指でされているだけなのに飛んでしまいそうなほど気持ちよくて、それでもやっぱり何かが少し足りなくて。どうしても視線は芦田の勃起した性器に向かって、無意識に生唾を呑んだ。芦田も千晴の視線に気づいたらしく、どこ見てんだよ、と低い声を絞り出す。
「も……もぉ、ほしい、おねが……おねがい、いれてぇ……っ」
「……っお前はァ!!」
 小さな舌打ちの後、ずるりと指が抜け落ちる。喪失感に少し切なくなってぼんやり腹を撫でていると、宥めるように優しく唇を食まれた。何度も角度を変えながら押し付けられ、やがてぬるりと舌が入り込んでくる。他人の唾液なんて気持ち悪いだけだと思っていたのに、芦田とのキスは不思議なほど甘くておいしくて、気持ちよかった。
 キスをしながら芦田が器用に枕元から何かを取り出す。四角いパウチに包まれているのはゴム製の避妊具だ。慣れた手つきでくるくると装着したあと、長いキスが終わって見つめあった。
「……煽ったのは、千晴だからな」
「ぇ、あ、……~~っっ!?!?」
 固いものが押し当てられ、一気に奥まで突き立てられた。急な圧迫感と強い快楽に着いていけず、目の前が真っ白になる。仰け反ってはふはふと荒い呼吸を繰り返す千晴を、芦田は容赦なく激しく揺さぶった。
「ア゛っ、ぁ、や、はげしっ……! ぁ゛ッ、だめ、ぇ、あっ、あ゛っ、あっ!!」
「なにがっ、ダメなんだよ、なあ? 言ってみろ? 本当に嫌なら、やめるから……っ」
 膝を折り曲げられ肩に掛けられる。そのまま密着してきた芦田に強く抱きしめられ、より結合が深まった。だめ、なんかじゃない。ただ気持ちよすぎて、訳が分からなくなって、少しだけ怖くなっただけだ。
「や、め、んな……ばかっ! き、きもち、きもちいからあ゛っ、ぁ゛、あっ、い、いっぱい、ほし、ぃ、あぅ、う゛、~~っ!!!」
「っく、は……おまえ、なぁ……!」
 芦田の余裕のない吐息が耳に触れる。それだけで腹の奥がきゅうっと疼いて中を強く締め付けてしまった。たまらなくなってキスを強請ると、すぐに口を塞がれ舌を絡められた。上も下もどろどろになって溶け合って、一つの塊にでもなってしまったみたいだ。
「ん、んぅ、ぅ、ふぁ、ぁ、え、んん……っ?」
 ふと千晴は違和感に気付き、そっと芦田の胸を押し返した。結合の深さはそれほど変わっていないはずなのに、先程まではなかったコツコツと奥に触れるような感覚がするのだ。何かおかしい。そう思っても芦田は動きを止めず、その場所を執拗に責め立てる。
「ぁ、え、え、なに、そこっ、だめ、おくぅっ、おくやだ、ぁ゛、あっ、やらあっ!」
「っは……、はは、マジか、これ」
 その場所を叩かれると、四肢の先端まで痺れるような強烈な快感が走り抜けて、どうにかなってしまいそうだった。気持ちいい、けれど怖い。怖いけれど、やっぱりものすごく気持ちいい。少し休ませてほしいと思うのに、もっと激しくそこを抉ってほしいとまで思ってしまう。
「子宮が降りてきたんだな……ここ、コリコリしてる」
「ふ、ぇ? しきゅ……? ぁ、あ゛っ、いっ、もぉだめ、いくっ、いっ、いっちゃう゛ぅ……ッ、~~~~ッッ♡♡」
 芦田の背にしがみつきながら、声にならない悲鳴を上げる。一気に全身を深い絶頂感が走り抜け、一向に余韻から抜け出せない。それでも芦田は休ませてくれず、いまだ快感で痺れる体内を容赦なく突き上げた。
「はひっ、ひぃっ、も、らぇ、も、いけな、いけないっ、ぁ、あっ、あぁあ゛あぁっ!!」
 イけないとは口では言っても、身体はまた次の絶頂に向かって上り詰めていた。子宮の入り口を芦田のそれが突いてくれている、そう思うだけでも脳が蕩けて絶頂してしまう。もはや何度達しているのかさえ分からない。もしかしたらずっとイきっぱなしなのかもしれない。
「き、もひっ、きもちい、こわ、こわいぃ、あしださ……っ」
「……だいじょうぶだ。な? いっぱい、気持ちよくなって……」
 揺さぶられながら優しく頭を撫でられる。腰を打ち付けられるたびに激しい水音と肌のぶつかる音がした。甘やかす芦田の声がどろりと脳に溶け込んできて、体中から力が抜けた。
 こんなに気持ちよくて幸せなことがあっただなんて、知らなかった。
「……っ、いく、でる……っ」
「ぁ、あ、ぼくも、また、またイっちゃ、あ、あ、あ……!!!」
 縋りつきながら何度目かも分からない深い絶頂に落とされる。腹の中で芦田の性器がどくどくと脈打つのが分かった。薄い膜越しに吐き出された精子のことを、ぼんやりした頭の隅で「もったいないなあ」なんて思う。
「んぅ……あ、しだ、さん……」
 すきです、掠れた声で囁けば、芦田が優しく笑みを浮かべた。すぐに唇が塞がれて、分厚い舌が入り込んでくる。芦田とのキスは気持ちが良くて幸せな気持ちになるから、何度でもいつまででも貪りあっていたい。
「あ、の……ゴム、なしで、いいですよ」
 芦田が二枚目のゴムを手に取ろうとしたのを見たら、咄嗟にそんなことを口走っていた。芦田は一瞬きょとりと目を丸くしたが、ひどく真剣な顔をして「だめだ」と強く言い切った。
「え……」
「俺もお前もまだ子供だ。少なくとも、千晴が高校生のうちはゴムはちゃんと着ける」
 芦田の言うことは正しい。自分達はまだ、万が一があっても責任を取れるような年齢ではない。分かってはいるものの、なんとなく気分が落ち込んだ。これもヒートによる情緒不安定のせいなのだろうか。難儀な身体だ。
「……でも、千晴が高校卒業したら」
 新しいゴムを装着して、芦田が再び覆い被さってくる。
「そのときは絶対孕ませる。お前が本気で拒否しない限り、やめねぇし逃がさねぇからな」
「……ッ、ぁ……!」
 びりりと体中に電流が走り、甘い快楽の底に落とされた。芦田のその発言でどうやら達してしまったようだ。これが噂の脳イキというものだろうか。そんなことを考える余裕もなく、再び芦田の熱が打ちこまれた。


 暖かい腕の中で目を覚ます。もぞりと顔を上げれば、口を半開きにして熟睡する芦田が見えた。規則的な寝起きを立てるその顔は、なんだか普段よりも幼い気がして可愛らしい。思わずふふっと笑いが洩れてしまった。
「ん……」
 ゆっくりと芦田の瞼が持ち上がる。まだ寝ぼけているらしい彼は、二度三度と瞬きしたあと、苦しいくらい強く抱きすくめてきた。
「あの……痛いんですけど。寝ぼけてますか?」
「いや。こうやって千晴と抱き合って眠れんの、幸せだなって」
 急にそんなことを言われて、千晴も思わず黙り込んでしまう。これじゃあ茶化すにも茶化せない。そういう少しきざったらしいことを言うのは、わざとなのか無意識なのか。この男のことなら十中八九無意識だろうから、余計にたちが悪い。
「む……天然ジゴロめ」
「はあ? どういうことだよ」
「自覚がないから天然なんですよ」
 芦田は少し不満そうな顔はしたものの、それ以上文句は言わず千晴の頭を撫でていた。芦田の頼もしい胸に抱かれている安心感と、全身を包み込む優しい匂いに安心して、次第にまた眠気が襲ってきそうになる。
「ねえ……芦田さん」
 芦田の胸元に額を押し付け、汗の混じった甘い匂いを大きく吸い込む。さっきまで散々していたのに、まだ千晴の中には発散しきれない熱がくすぶっていた。まだ当分のうちは落ち着かなさそうだ。それでも身体は疲弊して睡眠を欲しているので、いっそ寝ているうちに抱いてくれたらいいのになんて、自分勝手なことまで考えてしまった。
「僕、今が一番幸せです。……だから、いつか芦田さんが僕のこと不要になったら、ちゃんと切り捨ててくださいね。中途半端は、一番つらいから……」
 芦田は何も答えず黙り込むと、千晴を撫でる手も止めた。なんとなく不安を覚えて、芦田の胸から頭を上げる。
「あの……?」
「千晴」
 地を這うように低い声で名前を呼ばれ、千晴は本能的に竦み上った。身体が震えるのは恐怖のせいか、それとも膨れ上がった情欲のせいだろうか。アルファの匂いが急激に強くなって、千晴の本能を粉々にしていった。
「なんも分かってねえんだな」
「あ、え、えっと……」
「いいよ。言葉じゃ足りないなら身体で、それでも足りないなら、命かけて分からせてやる」
 視界がぐるりと回って芦田が覆い被さってくる。裸のまま眠っていたせいで、期待に濡れたところがすぐ丸見えにされてしまった。険しい顔のまま芦田がスキンの梱包を破る。手早く装着されたそこは、触ってもいないのにぎちぎちに勃起していた。
「言ったろ、逃がさねえって。……俺の全部をやるから、千晴の全部も、俺にくれよ」
「あ……」
 捕食される。雄の匂いが濃くて、息もできないくらいで、体も心もどろどろに溶かされて。こんなのに捕まってしまったら、もう無事ではいられない。期待と恐怖と……そして運命の雄に喰われる悦びで、千晴はいとも簡単に理性を手放した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

七曜学園高等部

BL / 連載中 24h.ポイント:888pt お気に入り:14

クラス転移で、種族変換されちゃいました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:2

わたしはお払い箱なのですね? でしたら好きにさせていただきます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,574pt お気に入り:2,540

待っていたのは恋する季節

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:20

異世界にきたら天才魔法使いに溺愛されています!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,589pt お気に入り:930

処理中です...