エセ陰陽師と猫又の不自由気ままな散歩旅~飼い猫から魂を分けてもらったので、二度目の人生はウチの子と異世界を謳歌してみせる~

虎柄トラ

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第一章 ティタニアル大陸編 アライア連邦国

第29話  駆けっこはマジでご遠慮したい

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 食事を終えた僕は丘の頂上からメトゥス帝国方面を眺めていた。

「苦しい……ナルガスさん張り切り過ぎだろ……うっぷ」

 食事をする時はいつも猫泊亭と決めていたこともあってか、ナルガスさんは僕の食べる量を完全に把握していた。その上で、ガレスとリンが食べる量も計算して、今回のお弁当を用意してくれたんだろうけど、それでも明らかに量が多かった。
 紙袋にお弁当入れて手渡してくれた時には、それほど多いようには思えなかった。長方形の三段重ねの弁当箱で蓋を開けてみると、一段目に野菜と肉を挟んだサンドイッチ、二段目に一口サイズに切り分けた料理の数々、三段目には新鮮な果物がそのまま入っていた。

 少しでも気を抜いたら食べたものが全部出てきそうだ……。

 それでも僕はまだマシな方だ、その証拠に僕はいまこうして二本の足で大地を踏みしめ立つことができている。
 ガレスとリンは食べ過ぎで完全にノックアウトしている。ただ見る角度を変えればモニュメントを日除けにして寝転がりくつろいでいるようにもとれる。
 ただそれよりも気になることがあった。ガレスがスカートがめくれても直さずに、そのままずっとゴロゴロしていることだ。

 目のやり場に困るとか以前に、女性としてそれはどうなんだ。一応僕も性別学上では男性のはずなのだが……。

 景色を眺めはじめた理由は彼女を視界に入れないようにするためだった。

 彼女から離れるために、また少しでも遠方を見るため僕はできるだけ崖沿いに立つことにした。足を踏み外したところで一、二メートル下には例のバリアフリーな坂道があるので、大ケガをするということもない。
 この辺りにはこの丘以外に高台と呼べるような場所はなかった。そのため高所を住処とするワイバーンがここを選んだのも納得できる。だからこそ、この丘をワイバーンが選んだこと自体がどう考えてもおかしい。

 ここから国境までどれぐらいかかるのかは分からないが、ソレイユよりもはるか遠くにあるのは確かだ。その道中にはこの丘を軽く凌駕するような高台が数多く見える。

 僕がおかしいと思ったのはそこだった。はぐれたとはいえ目先に住み心地よさそうな山地があるのに、あえてそれを全てスルーしてまで、この丘をどうして選んだのかということだ。
 魔物がどれほどの知性をもっているのは不明だが、ワイバーンが自らこの丘を目指して南下しない限りあり得ないのではないか。このワイバーンも先のゴーレムと同じ特殊個体なのか……。



 一時間ほど食後休憩をしたことで、走ったりするのはまだ厳しいが歩くだけとか軽い運動であれば、問題なく行える程度には消化できた。

「僕はもうそろそろいけそうだけど、そっちはどうだ? もう動けそうか?」

 いくら待っても返事がない……。

 まさかと思った僕はリンたちの様子を確認するためモニュメントに近寄った。
 飼い猫と同行者が体を寄せ合って、仲良くスヤスヤと寝息を立てていた。

 今の季節は日本でいうところの仲秋……九月中旬あたりだろうか。野宿するには心地よい季節だが、昼間に活動するにはまだ日差しが少し強い。
 地面に直接横になり、暖かいどころか暑いなかでの昼寝。すこぶる寝心地が悪そうな環境にも思えるが、通り抜ける秋風と日陰のおかげで予想以上に昼寝に最適な環境になっていた。

「確かにこれは……それにしても気持ちよさそうに寝てるな」

 少しでも気を抜けば僕もこの誘惑に引きずりこまれそうになる。
 目の前でこんなに気持ちよさそうに寝ている人を見れば、誰だってそう思うに違いない。

「さて、どうしようかな……」

 もう少し寝かせておくべきか、それとも起こすべきか……。

 朝の七時頃に町を出たのでそれを逆算すれば、一分一秒と正確な時刻を知ることはできないが、大体の時刻は推測できる。

「食事休憩に一時間だから……たぶんいまは十二時から十三時の間だな」

「惜しいわね、今は十二時二十七分と四十秒よ!」

 寝ていたはずのガレスはパチリと目を見開き、僕の独り言に対して正確な時刻を告げてきた。
 ふと彼女の隣に目を向けると、リンもまたつぶらな瞳でこっちを見ていた。

「秒単位で答えるとか……ガレスの体内時計って本当にどうなんってんだよ」

「あんたも冒険者をやってれば、そのうち自然とできるようになるわよ、ねぇリン?」

「じゃといいじゃがのぉ~」

「善処するよ……それはそうと、さっきまで熟睡してたのに二人ともよく起きれたな」

 僕がそう言うと、一人と一匹は不思議そうに首を傾けた。

「冒険者ならこれぐらいできて当然じゃない?」

「我は冒険者ではないが、この程度容易いことじゃ。誰がそちを毎朝起こしておると思っておるのじゃ?」

 二人から投げかけられた何とも思いやりのある言葉に僕の心はズタボロになった。
 僕は顔に出ないように平静を装いつつ再度確認をとった。

「ソウデスネ……で、もうそろそろ出発しようかと思っているんだけど、リンもガレスもお腹の感じはどうだ? もう歩けそうか?」

「仮眠したからもう全然行けるわよ。何なら登った時のように、また駆けっことかする?」

「問題ないのじゃ」

 そのふたりの返答に僕は心の中で『消化するのが早すぎるだろ』とツッコミをいれた。
 丘を駆け登った時の記憶を思い出しただけでも気分が悪くなる……というか、思い出させるなよ、また気持ち悪くなってきた。

「駆けっこはマジでご遠慮したい。きっと、たぶんリバースするから……」

 僕は口元を押さえながらガレスの提案を拒否した。すると、彼女は「そっか~」と残念そうに答えると、さっきまで日よけにしていたワイバーンに見ながら思いもよらない言葉を口にした。

「あ~ね、分かったわ。あれも運ばないといけないし、帰りは許してあげるわ」

「……ワイバーンを運ぶ?」

「何を驚いているのよ、メグル。あんたもその予定だったから、この方法でワイバーンを倒すことにしたんでしょ?」

「そうだけど、そうじゃないというか……素材を傷めずに倒すことしか頭に無くて、持って帰る時のことなんて何にも考えてなかった」

「な~るほど……? あんたらしいわ。しかたないわね、今回は私が運んであげるわ。次からは自分でやんなさいよ」

 ガレスは失笑しながらワイバーンの首根っこを掴むと、片手で軽々と引っこ抜いた。
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