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第二章 ティタニアル大陸編 クラーク共和国
第48話 あー、なんでいるの?
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国境町で寝泊りするようになって八日目、僕は朝六時を告げるアラームが鳴るよりも早く起床した。ここ一週間のルーティンで、僕の体内時計はこの時間帯に目覚めるように設定されてしまったようだ。
慣れとは不思議なもので、自然と身体が動いてしまう。洗面台に向かい軽く身だしなみを整え扉を開ける。
そこでやっと僕は気づいた。もうイシュラは迎えに来ないことを。
「こっわ……」
それが僕の第一声であった。
「じゃの……」
背後から嘲笑する声が聞こえると、銀色のもふもふは僕の股を潜り抜けて部屋を出て行った。
僕は忘れ物がないか最終確認を済ませると、小さな先導者のあとを追った。
もう一つの故郷ですと胸を張っていえる程度には、この町の全貌を把握した。もう思い残すことはない。十日にも満たない僅かな期間ではあったけど、はじめての異国を体験した町として記憶に一生残るだろう。
次に僕たちが向かう場所はここから北西にある首都メルフィン。イシュラの話では徒歩で一か月ぐらいかかるらしい。首都に向かう行商人の馬車に乗せてもらえれば、一週間ほど短縮されるらしいが彼らのタイミングに合わせていると、出発するのがいつになるか分からない。なので、ここに来た時と同じように歩いて移動することにした。
宿屋を出て北門に向かうと、そこには昨日ぶりの彼女の姿があった。
「おはようございます」
「……おはよう。あー、なんでいるの?」
僕はまた昨日に引き続きノンデリ発言をした。だが、昨日とは異なり今回はポロっとではなくて、意識的にそう口にした。
気兼ねなく話せる知り合いが冒険者の町以外にもできたのが、嬉しかったんだろうな。第三者的な立場で意見するとしたら、そんな感じである。
「酷い言いぐさですね。わたし一人だけで見送られるのはそれほど嫌なのですか。暇な騎士ですいません」
「そういうわけじゃ、そこまで言ってないだろ。って、なんだ……昨日の三文芝居未だに継続中なのか?」
「それに騙された人が良く言いますね。こんなこと言うために待っていたわけないじゃないですか」
「あー、それもそうか。ほんと色々と助かった。で、騎士団のみんなは休みか?」
「そんなわけないじゃないですか……ふふふ。姉たちは遠征に向けて作戦会議中です。なので、わたしが代表して見送りに来ました」
買い言葉に売り言葉と言うには大層過言、子猫同士による喧嘩並みの火力の無い争いが勃発。火力がないのだから、消化も秒で終わる。
仲間内の他愛無い会話というやつだ。先の芝居からうんと距離が縮まった気がする。これもそれも全てはリン大先生の手腕によるものか。別れ際に今さら仲良くなってもなと思ってしまうが、それでも嬉しいものはやっぱり嬉しいんだな。第三者……はもういいか。
「そっか、遠征か……それは朝から忙しそうだな。ありがとうな、イシュラ。ほんと色々と世話になりました」
「我からも礼を言うぞ。あとじゃの、そちの演技もなかなか良かったぞ。再会した暁にはまた共演しようぞ」
「はい、必ずや……では、いってらっしゃい。メグル、リン良い旅を……」
「僕の前で何を物騒な話をしている。まあいいか、いってきます」
「にゃはは~、じゃ~の」
こうして僕たちはイシュラと別れて、それぞれ反対方向に歩き出した。
前方に広がるフォルス大森林の脅威がどれほど恐ろしいものかとも知らずに――。
慣れとは不思議なもので、自然と身体が動いてしまう。洗面台に向かい軽く身だしなみを整え扉を開ける。
そこでやっと僕は気づいた。もうイシュラは迎えに来ないことを。
「こっわ……」
それが僕の第一声であった。
「じゃの……」
背後から嘲笑する声が聞こえると、銀色のもふもふは僕の股を潜り抜けて部屋を出て行った。
僕は忘れ物がないか最終確認を済ませると、小さな先導者のあとを追った。
もう一つの故郷ですと胸を張っていえる程度には、この町の全貌を把握した。もう思い残すことはない。十日にも満たない僅かな期間ではあったけど、はじめての異国を体験した町として記憶に一生残るだろう。
次に僕たちが向かう場所はここから北西にある首都メルフィン。イシュラの話では徒歩で一か月ぐらいかかるらしい。首都に向かう行商人の馬車に乗せてもらえれば、一週間ほど短縮されるらしいが彼らのタイミングに合わせていると、出発するのがいつになるか分からない。なので、ここに来た時と同じように歩いて移動することにした。
宿屋を出て北門に向かうと、そこには昨日ぶりの彼女の姿があった。
「おはようございます」
「……おはよう。あー、なんでいるの?」
僕はまた昨日に引き続きノンデリ発言をした。だが、昨日とは異なり今回はポロっとではなくて、意識的にそう口にした。
気兼ねなく話せる知り合いが冒険者の町以外にもできたのが、嬉しかったんだろうな。第三者的な立場で意見するとしたら、そんな感じである。
「酷い言いぐさですね。わたし一人だけで見送られるのはそれほど嫌なのですか。暇な騎士ですいません」
「そういうわけじゃ、そこまで言ってないだろ。って、なんだ……昨日の三文芝居未だに継続中なのか?」
「それに騙された人が良く言いますね。こんなこと言うために待っていたわけないじゃないですか」
「あー、それもそうか。ほんと色々と助かった。で、騎士団のみんなは休みか?」
「そんなわけないじゃないですか……ふふふ。姉たちは遠征に向けて作戦会議中です。なので、わたしが代表して見送りに来ました」
買い言葉に売り言葉と言うには大層過言、子猫同士による喧嘩並みの火力の無い争いが勃発。火力がないのだから、消化も秒で終わる。
仲間内の他愛無い会話というやつだ。先の芝居からうんと距離が縮まった気がする。これもそれも全てはリン大先生の手腕によるものか。別れ際に今さら仲良くなってもなと思ってしまうが、それでも嬉しいものはやっぱり嬉しいんだな。第三者……はもういいか。
「そっか、遠征か……それは朝から忙しそうだな。ありがとうな、イシュラ。ほんと色々と世話になりました」
「我からも礼を言うぞ。あとじゃの、そちの演技もなかなか良かったぞ。再会した暁にはまた共演しようぞ」
「はい、必ずや……では、いってらっしゃい。メグル、リン良い旅を……」
「僕の前で何を物騒な話をしている。まあいいか、いってきます」
「にゃはは~、じゃ~の」
こうして僕たちはイシュラと別れて、それぞれ反対方向に歩き出した。
前方に広がるフォルス大森林の脅威がどれほど恐ろしいものかとも知らずに――。
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