エセ陰陽師と猫又の不自由気ままな散歩旅~飼い猫から魂を分けてもらったので、二度目の人生はウチの子と異世界を謳歌してみせる~

虎柄トラ

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第二章 ティタニアル大陸編 クラーク共和国

第49話  魔邪香ちゃんと焚いておくんだった

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 フォルス大森林に足を踏み入れてから一か月、僕は終わりの見えないこの絶望的な環境に辟易していた。

「あーもう、いつになったら首都にたどり着けるんだよ……つうか、この森どこまで続くんだよ! 僕はもう限界なんですけど⁉」

「そうボヤくでないメグル。馬車ではなくて徒歩で行こうと言ったのはそちじゃろ?」

「そ、それはそうだけどさ。リンは辛くないのか、この環境が……アーってならないのか?」

「ふむ……そうじゃの。強いて言うなら~あれじゃな、ベッドで眠れないのが辛いの。あ~それとちゃんとした食事がとりたいの。そこいらのものをただ焼いたり煮たりじゃなくて、もっと手を加えたものを食したいの」

 こういう環境でサバイバルをするのは今後冒険者としてやって行くためにも必要な経験。忍耐力や精神力を鍛えておけば、これよりも過酷な環境に放り込まれたとしてもやっていけるようになる。

 とはいっても、四次元袖下に詰め込まれた数々の品によって、正直なところ耐えられないほど辛いと思ったことはあまりない。

 ゴール地点が存在しないんじゃないかと疑いたくなるほどの、見渡す限りの緑の中をずっと彷徨うのは話が違うというか、頭がおかしくなりそうだ。リンと一緒じゃなければ、正気度SAN値チェックをしていた可能性まである。

 僕と話す気がなくなったのか、リンは身体を丸めて急に眠り始めた。器用にも僕の頭に乗った状態のままで。
 てっきり袖下に潜り込むかと思っていたが、町中の綺麗な道とは異なるためリンなりに僕がこけないように考慮してくれたのだろう。

 まあだからどうしたって話ではある。どちらにしても、リンの体重分を上乗せして移動することにはかわらない。これが平坦な道であれば、何時間でも乗ってくれていて構わないのだが、状況が状況なだけにちょっとだけしんどい。

 フォルス大森林内には枝分かれた道が多数ある。どのルートが目的地に続いているか分からなくなりそうだが、分かれ道ごとに親切に行先の看板が立っているおかげで、初回でも迷わずに目的地に行ける。
 国境町から首都に向かうルートは、それらの大元となる道をただ真っすぐ突き進むだけなのだが、驚くほど一向に着かないのだ。

 それどころか誰とも会わない、一番良く使うであろうメインルートのはずなのに、馬車で追い抜かれたりとか、すれ違うこともなくこの一か月間、ただひたすら北西に向かって歩き続けている。

 馬車もスムーズに通れるように道は石畳で舗装されている。ところどころデコボコな箇所もあるため歩行する分には問題はないが、馬車の場合だと速度を上げすぎると、乗り物酔いまっしぐらなのは確実だろう。それでもぬかるんだ泥道を進むよりかは数段マシだといえる。

 出発前にイシュラは確かこう言っていた。徒歩で向かったとしても一か月もあれば首都に到着するはずだと。実際のところ、首都メルフィンの影すらまだ発見できていない。



 そこで僕はとある仮説を立てた。

 獣人族と人族では身体能力が異なる。彼女の言う一か月は獣人族が歩いた場合であり、人族だとそれ以上かかるのでは? というものだ。つまり、妖力によって身体能力も向上している僕もまた獣人族と同じように一か月でたどり着けるはずだった。

 まあ今現在まだこの森にいるため仮説は脆くも崩れ去ったわけだけど、後半部分はあれだけど前半部分は強ち間違ってはいない気がする。
 ずっとこの地で生活してきたことで、獣人族はこの環境に適応している。それに対して環境に適応できていない人族は無駄に時間を要する。

 僕もまたその例外に漏れず環境に馴染めなかったというわけだ。

 フォルス大森林は高温多湿の熱帯雨林。

 ただここにいるだけで不快感はマックスになる。僕ですらそんな状況なのに、一般人なら心身ともに疲弊してそれどころではないだろう。
 しかも、ちょっと道から外れるだけで鬱蒼と生い茂る樹林に、ぬかるんだ沼地や濁った水たまりがあり、そこにはもれなく人に害する魔物や虫が棲みついている。

 その中で最も厄介なものが魔物ではなくて虫、特に僕をイラつかせた相手が蚊である。魔物は確かに脅威ではあったし、這いより血を吸ってくるヒルも相当に鬱陶しかったが、まとわりついて耳元で羽音を鳴らし、お礼と称して痒みを送りつけようとしてくる。あの害虫に比べたら数億倍マシだ。

「ジメジメしてるし、虫に蛇にヒルに……あ~もうイライラする。蚊に刺されたところも痒い。こんなことになるなら魔邪香まじゃこうちゃんと焚いておくんだった……」
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