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29-4 完全制覇
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莉緒の失態により魔王像だったものは瓦礫と化した。
「ど、どどどどどうしよう!? これ接着剤とかで直るかな……瞬間のやつ持ってたりしない?」
その場でしゃがみ込み右手をこちらに差し出しながら、哀れな幼馴染は俺に訊ねてきた。
それでどうにかできるレベルの損傷はとうに超えてしまっている。もしこれを完璧な状態に復元できる能力があるのなら、その人は人間国宝と崇められていることだろう。
そもそもこの石像は、ダンジョン産の時点で未知なる戦利品のように、現代の技術では再現不能、修復不能のはずだ。
その証拠にミーナは、莉緒に優しく微笑みかけつつ首を横に振っている。
『諦めなさい、もう直りません』
壊れた玩具を直してほしいと駄々をこねる子供をあやす母親。それでもまだ何か方法があるはずだと、現実から目を背けようとする娘。
そんな構図が脳裏に思い浮かぶ。
ただそれにしてはあまりにも脆すぎる。支給品の刀でさえ、もうちょい頑丈だったというのに。
逆にこんなにあっさり壊れるのなら、なぜあんな危険極まりない祭壇の上に鎮座させたのか。
これじゃまるで、最初から落とすのを目的として壇上に置いたようなもんじゃないか。
「……そうさせるのが目的? なるほどそういうことか……だとしても、本当にこれだけでいいのか?」
「兄さんも気づきましたか。この達成条件は、あまりにも簡単すぎます。ですが、現状……罠も発動していないところをみるに、残念ながらわたくし達の予想は当たっていそうです……」
「な、なに直す方法でも思いついたの!?」
「このやり取りでどうしてそうなる……あれだよ、もしかしたら完全制覇しちゃったかもって話だ」
「は……えっ? あたし達ボスも倒していないし、何にもしてないけど……」
目蓋をパチクリしながら莉緒は困惑気味に訊いてくる。
瓦礫に向かって指を差し「いや、やっただろ。そこに散らばってるやつだよ」と莉緒に告げる。
「……どゆこと?」
「あーいや、だからな。つい先ほどお前が手を滑らせて落とした胸像。それを破壊することが、このダンジョンをクリアする条件だってことだ」
「えっでも? ほんとに? これで終わり? いやいやそんなわけないじゃん!?」
未だに状況を飲み込めない莉緒にヤレヤレとミーナは肩をすくめている。
「いえ、それが莉緒さん。本当にこれで完全制覇のようです。皆さま、あちらのゲートをご覧くださいませ――」
客室乗務員のように手を添えて、俺達が通ってきたゲートを視るよう勧める。
魔王像の成れの果てから視線をゲートに移す。深淵のような真っ黒な靄。他のダンジョンや他階層で何度も通過した、いつものゲート。ただ一点だけ違う箇所があった。
それが視界に入ったことで、俺達は即座に理解した。このダンジョンを完全制覇したと。
「やっぱこれでクリアっぽいな……」
「――マ?」
黒い靄の中央に『完全制覇おめでとう!』と俺達を祝福する文字が浮かび上がっていた。
99階層と同じく目がチカチカするような色鮮やかななゲーミング仕様で。
やる気満々で100階層に訪れたというのに、何とも呆気ない結末。この如何ともしがたいやるせない気持ち、この感情をどこにぶつければいいのか……不完全燃焼にもほどがありすぎる。
それは俺だけじゃなくて、彼女達も同じ心情なようで空虚な瞳でゲートを見つめている。
帰りに他階層に立ち寄り魔物に八つ当たりすることも考えたが、その程度の児戯で心が晴れるような雰囲気ではなかった。
三人揃って肩を落として、トボトボと帰路につくのであった。
「ど、どどどどどうしよう!? これ接着剤とかで直るかな……瞬間のやつ持ってたりしない?」
その場でしゃがみ込み右手をこちらに差し出しながら、哀れな幼馴染は俺に訊ねてきた。
それでどうにかできるレベルの損傷はとうに超えてしまっている。もしこれを完璧な状態に復元できる能力があるのなら、その人は人間国宝と崇められていることだろう。
そもそもこの石像は、ダンジョン産の時点で未知なる戦利品のように、現代の技術では再現不能、修復不能のはずだ。
その証拠にミーナは、莉緒に優しく微笑みかけつつ首を横に振っている。
『諦めなさい、もう直りません』
壊れた玩具を直してほしいと駄々をこねる子供をあやす母親。それでもまだ何か方法があるはずだと、現実から目を背けようとする娘。
そんな構図が脳裏に思い浮かぶ。
ただそれにしてはあまりにも脆すぎる。支給品の刀でさえ、もうちょい頑丈だったというのに。
逆にこんなにあっさり壊れるのなら、なぜあんな危険極まりない祭壇の上に鎮座させたのか。
これじゃまるで、最初から落とすのを目的として壇上に置いたようなもんじゃないか。
「……そうさせるのが目的? なるほどそういうことか……だとしても、本当にこれだけでいいのか?」
「兄さんも気づきましたか。この達成条件は、あまりにも簡単すぎます。ですが、現状……罠も発動していないところをみるに、残念ながらわたくし達の予想は当たっていそうです……」
「な、なに直す方法でも思いついたの!?」
「このやり取りでどうしてそうなる……あれだよ、もしかしたら完全制覇しちゃったかもって話だ」
「は……えっ? あたし達ボスも倒していないし、何にもしてないけど……」
目蓋をパチクリしながら莉緒は困惑気味に訊いてくる。
瓦礫に向かって指を差し「いや、やっただろ。そこに散らばってるやつだよ」と莉緒に告げる。
「……どゆこと?」
「あーいや、だからな。つい先ほどお前が手を滑らせて落とした胸像。それを破壊することが、このダンジョンをクリアする条件だってことだ」
「えっでも? ほんとに? これで終わり? いやいやそんなわけないじゃん!?」
未だに状況を飲み込めない莉緒にヤレヤレとミーナは肩をすくめている。
「いえ、それが莉緒さん。本当にこれで完全制覇のようです。皆さま、あちらのゲートをご覧くださいませ――」
客室乗務員のように手を添えて、俺達が通ってきたゲートを視るよう勧める。
魔王像の成れの果てから視線をゲートに移す。深淵のような真っ黒な靄。他のダンジョンや他階層で何度も通過した、いつものゲート。ただ一点だけ違う箇所があった。
それが視界に入ったことで、俺達は即座に理解した。このダンジョンを完全制覇したと。
「やっぱこれでクリアっぽいな……」
「――マ?」
黒い靄の中央に『完全制覇おめでとう!』と俺達を祝福する文字が浮かび上がっていた。
99階層と同じく目がチカチカするような色鮮やかななゲーミング仕様で。
やる気満々で100階層に訪れたというのに、何とも呆気ない結末。この如何ともしがたいやるせない気持ち、この感情をどこにぶつければいいのか……不完全燃焼にもほどがありすぎる。
それは俺だけじゃなくて、彼女達も同じ心情なようで空虚な瞳でゲートを見つめている。
帰りに他階層に立ち寄り魔物に八つ当たりすることも考えたが、その程度の児戯で心が晴れるような雰囲気ではなかった。
三人揃って肩を落として、トボトボと帰路につくのであった。
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