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44-2 実妹部屋
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長話になりそうな気配を感じたので、2時間ほどで話を切り上げて一旦リビングに戻ることになった。そろそろ夕飯の時間でもあったし、俺としても知りたいことは大方聞き終えた。話を中断するタイミングとしては完璧に近かったといえる。
ミーナは夕食の支度をするため一足早く退室していった。
一人、部屋に残された俺は久方ぶりに入った妹の部屋。物珍しさというか、成長した妹が今どういうものに関心を寄せているのか、つい気になり部屋を探索してしまった。完全に悪手だということは頭では理解しているが、身体が言うことを聞かないのだから仕方がない。
妹の部屋もまた俺の部屋同様にシンプルというか、驚くほどに簡素な内装だった。同一品のシャンデリアに絨毯やベッド、本や雑貨が置かれた収納棚。あとは三面鏡を備えた机があるのみだった。棚に置かれた女性雑誌や女性物の雑貨、三面鏡があることで部屋の主が女性だと分かる。
俺の部屋との違いは本当にそこぐらいしかない。さすがは兄妹といったところか。ただ明確に違うところもあった。
それは部屋の匂い。俺の部屋とは違い、果物のような甘い香りが漂っていた。その匂いをかぐだけで心が落ち着くというか、妙にリラックスできる。見えないところに芳香剤でも置いているのだろうか。
「俺もミーナを見習って、部屋に芳香剤おいてみっかな。それにしても……」
話をすり合わせるためにお呼ばれされたはずなのに、客用のイスも座布団の一つすら用意されていなかった。あの時はさすがに度肝を抜かれた。どこで話し合いをするのかと思っていたら、ミーナは足早にベッドへ向かうとそのまま腰かけた。次にこっちを見ながら左手でポンポンとベッドを叩き、真横に座るように促してきた。
幼少期のミーナが絵本を読んで欲しい時や話し相手になって欲しい時に良くしていた仕草。今でも変わらないのだと思い、迂闊にもつい口元が緩んでしまった。
その段階で止まってくれたら良かったんだけど、最終的には全裸でベッドに忍び込むようになるんだよな……本当にどこで進化先を誤った。もしあの時Bキャンセルができたのなら全力で連打していた。いや、結構ガチ寄りで。
「部屋主が居ないのにいつまでも滞在するわけにもいかないな……」
部屋を出て廊下を歩いていると、何やら聞き覚えのある打音が耳に入った。もしやと思い、急ぎ階段を駆け下りてリビングを覗くと、そこにはあの筐体が未だに稼働を続けていた。
「おいおいおい! お前まだ叩いてたのかよ……って、莉緒? マジかよ、そんなになるまで……バカかよ、お前は!?」
音の発生源である莉緒の手は痛々しく赤く腫れあがっていた。即座に彼女の両手を掴んで強制終了させる。例のごとく、犠牲による癒しで即治療。あのまま何もしなければ、その後も動き続けていたかと思うと背筋が寒くなる。
キッチンに向かうにも必ずこの階段を使う。ならば、ミーナもこの状況を把握していたはずなのに、華麗にスルーしたというのか? どうせ俺が治療するから大丈夫だという判断だろうけど、ちょっとぐらい気にかけてあげてもいいんじゃないか。
仲違いをしているようには見えなかった。状況的にどちらかというとミーナが距離を置こうとしているような……。
「何か思うところでもあるのか? まだ訊きたいこともあるっちゃあるし、それついでに訊いてみるか。こっちはどうすっかな……?」
電源を抜かれて停止した機械のように莉緒は動かない。
虚ろな目でテレビを呆然と眺めている。何も映っていない真っ黒な画面を。
肩を揺さぶったり声掛けしても特に反応はなく、なんというか等身大の人形? に話しかけている気分だ。柔らかな艶肌に暖かな人肌の人形か、存外悪くないかもしれない。それに疑似魂でも組み込めば、自分だけのオリジナルゴーレムが作れるな。まっそんな技術は、どっちの世界でもまだ未実装なわけだけど。
「……世迷言はもういいか。ご飯を目の前にしたら、いつもの調子に戻るだろ」
無気力状態で立ち上がろうとしない莉緒を抱きかかえて食堂に向かう。
背もたれや肘置きを巧みに扱い、それっぽい姿勢で彼女を座らせる。
ミーナの手伝いでもしようかと思ったが大人しくここで待つことにした。人形と化している莉緒から一瞬でも目を離すのが怖かった。万が一でも、イスから滑り落ちようものなら大惨事だ。今の状態だと受け身の一つもとらないだろう。せっかく治療したのに、またケガでもされたら目も当てられない。
「料理が並んでからイスに座らせるべきだったか……」
ハラハラしながら莉緒を見守っていると、芳しい香りが食堂に充満していることに気づいた。
食欲をそそる何ともいい匂いだ。この匂いに抗うことはできなかったらしく、莉緒は人形から人間に戻っていた。
ハイライトの消えた瞳は燦爛と輝きを放ち、緩んだ口元からは涎が垂れている。
何ともだらしない顔をしている。これでこそ莉緒なのだが、なぜか虚しく感じてしまった。
天真爛漫な莉緒も良いのだが、生気の抜けた艶冶な莉緒もまたそそるものがあったというか……新たな扉が開きそうだし、考えるのはもうよそう。
ミーナは夕食の支度をするため一足早く退室していった。
一人、部屋に残された俺は久方ぶりに入った妹の部屋。物珍しさというか、成長した妹が今どういうものに関心を寄せているのか、つい気になり部屋を探索してしまった。完全に悪手だということは頭では理解しているが、身体が言うことを聞かないのだから仕方がない。
妹の部屋もまた俺の部屋同様にシンプルというか、驚くほどに簡素な内装だった。同一品のシャンデリアに絨毯やベッド、本や雑貨が置かれた収納棚。あとは三面鏡を備えた机があるのみだった。棚に置かれた女性雑誌や女性物の雑貨、三面鏡があることで部屋の主が女性だと分かる。
俺の部屋との違いは本当にそこぐらいしかない。さすがは兄妹といったところか。ただ明確に違うところもあった。
それは部屋の匂い。俺の部屋とは違い、果物のような甘い香りが漂っていた。その匂いをかぐだけで心が落ち着くというか、妙にリラックスできる。見えないところに芳香剤でも置いているのだろうか。
「俺もミーナを見習って、部屋に芳香剤おいてみっかな。それにしても……」
話をすり合わせるためにお呼ばれされたはずなのに、客用のイスも座布団の一つすら用意されていなかった。あの時はさすがに度肝を抜かれた。どこで話し合いをするのかと思っていたら、ミーナは足早にベッドへ向かうとそのまま腰かけた。次にこっちを見ながら左手でポンポンとベッドを叩き、真横に座るように促してきた。
幼少期のミーナが絵本を読んで欲しい時や話し相手になって欲しい時に良くしていた仕草。今でも変わらないのだと思い、迂闊にもつい口元が緩んでしまった。
その段階で止まってくれたら良かったんだけど、最終的には全裸でベッドに忍び込むようになるんだよな……本当にどこで進化先を誤った。もしあの時Bキャンセルができたのなら全力で連打していた。いや、結構ガチ寄りで。
「部屋主が居ないのにいつまでも滞在するわけにもいかないな……」
部屋を出て廊下を歩いていると、何やら聞き覚えのある打音が耳に入った。もしやと思い、急ぎ階段を駆け下りてリビングを覗くと、そこにはあの筐体が未だに稼働を続けていた。
「おいおいおい! お前まだ叩いてたのかよ……って、莉緒? マジかよ、そんなになるまで……バカかよ、お前は!?」
音の発生源である莉緒の手は痛々しく赤く腫れあがっていた。即座に彼女の両手を掴んで強制終了させる。例のごとく、犠牲による癒しで即治療。あのまま何もしなければ、その後も動き続けていたかと思うと背筋が寒くなる。
キッチンに向かうにも必ずこの階段を使う。ならば、ミーナもこの状況を把握していたはずなのに、華麗にスルーしたというのか? どうせ俺が治療するから大丈夫だという判断だろうけど、ちょっとぐらい気にかけてあげてもいいんじゃないか。
仲違いをしているようには見えなかった。状況的にどちらかというとミーナが距離を置こうとしているような……。
「何か思うところでもあるのか? まだ訊きたいこともあるっちゃあるし、それついでに訊いてみるか。こっちはどうすっかな……?」
電源を抜かれて停止した機械のように莉緒は動かない。
虚ろな目でテレビを呆然と眺めている。何も映っていない真っ黒な画面を。
肩を揺さぶったり声掛けしても特に反応はなく、なんというか等身大の人形? に話しかけている気分だ。柔らかな艶肌に暖かな人肌の人形か、存外悪くないかもしれない。それに疑似魂でも組み込めば、自分だけのオリジナルゴーレムが作れるな。まっそんな技術は、どっちの世界でもまだ未実装なわけだけど。
「……世迷言はもういいか。ご飯を目の前にしたら、いつもの調子に戻るだろ」
無気力状態で立ち上がろうとしない莉緒を抱きかかえて食堂に向かう。
背もたれや肘置きを巧みに扱い、それっぽい姿勢で彼女を座らせる。
ミーナの手伝いでもしようかと思ったが大人しくここで待つことにした。人形と化している莉緒から一瞬でも目を離すのが怖かった。万が一でも、イスから滑り落ちようものなら大惨事だ。今の状態だと受け身の一つもとらないだろう。せっかく治療したのに、またケガでもされたら目も当てられない。
「料理が並んでからイスに座らせるべきだったか……」
ハラハラしながら莉緒を見守っていると、芳しい香りが食堂に充満していることに気づいた。
食欲をそそる何ともいい匂いだ。この匂いに抗うことはできなかったらしく、莉緒は人形から人間に戻っていた。
ハイライトの消えた瞳は燦爛と輝きを放ち、緩んだ口元からは涎が垂れている。
何ともだらしない顔をしている。これでこそ莉緒なのだが、なぜか虚しく感じてしまった。
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