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48-3 宵闇逢引
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「――それであんな挙動不審な感じだったってわけね?」
「そりゃそうだろ。じゃあ逆に訊きますけど! 深夜に独り言を吐きながら刃物を振り回しているやつを見たら、お前はどう思うよ?」
「あーまあそれは確かにそうね。でもさぁ、声であたしって分かんないもんかなぁ?」
隣に座る莉緒はジト目で問い詰めてくる。声でも目でもハッキリと分かるぐらいに、自分は不機嫌だと全面に出してきている。この状態で『ごめん気づかなかった』なんて言おうものなら、火に油を注ぐどころの話ではない。そこの石塔並みに髪が逆立つに違いない。
「悪かったって、ちょっと思うところがあってな。なあ……莉緒、爺ちゃんのこと、どこまで覚えてる?」
「凪のお爺ちゃん……無心さんか。どこまでって難しいわね。う~ん、そうねぇ……」
記憶を呼び起こすため莉緒は一連の動作を行い始めた。両腕を組み双眸は右斜めを向き首を左に右へと交互に傾ける。暫くすると鼻唄を歌うように祖父との思い出を口ずさむ。
この世界の莉緒は俺に関係する記憶しか保持していない。祖父に限定すると必然的に思い出す場面も限られる。予想どおりその記憶の大半は道場、そこで師範として門下生を指導する厳格な祖父の姿だった。
記憶の齟齬はなさそうだ。俺の知っている祖父の印象とバッチリ合致する。というか、俺もその側面の祖父のことばかり思い出す。道場は桜川家から数分の距離。ご近所なのだが祖父は顔を見せることはほとんどなかった。正月などの行事についても家族揃って道場に出向いていた。
道場で質素倹約な一人暮らし。門下生に自分の業を教え込むだけが生き甲斐。子供ながらにして近寄り難いと思わせる人だった。だけど猛烈に憧れてもいた。文明が発達した現代において、未だなお刀を置かずに心技体を極めようとする侍。
「――ってな感じかな? って聞いてる凪? 聞いてそうね……で、なんでいきなりそんなこと訊いてきたの?」
「あーいやな。爺ちゃんって凄かったんだって改めて痛感したといいますか……」
「うん、うんうんうん? あっれぇ~? もしかして、あんた師範と自分を比べて凹んじゃった?」
首を傾けるどころか上体ごとを傾けて嬉々として訊ねてくる。
その目は猫のようにまん丸く口角は上がりにあがっている。
あの様子からして機嫌は直ったようだが、今度は少々良くなりすぎた。幼馴染特有のずけずけと土足で踏み込んでくるパターンへと移行してしまったようだ。
「……悪いかよ?」
「いいえ悪くないわよ。そういうところもあたしは好きよ♪」
真っすぐと俺の目を見ながら莉緒は恥ずかしげもなく告げてきた。
さっきまでの表情から一変した彼女からの告白に心臓が飛び跳ねる。
「……ち、ちゃ茶化すなよ。そういやなんで俺がここにいるって分かったんだ? つうか、こんな深夜に付き添いもなく家から出るなよ……」
悟られないように平常心を装い、無理くり話をすり替える。あからさますぎたこともあり、莉緒は手首を返しサムズダウンをしながら抗議してきた。
「ブゥー! 乙女の告白をスルーするなんて最っ低……くちゅん……」
小鳥のさえずりのような可愛らしい鳴き声が耳に入った。
7月半ばに入ったとはいえ日が落ちると普通に肌寒い。半袖短パンに気持ち程度のフーディーで外出。屋外で風よけもない場所に地べたで座り夜風にさらされる。身体が冷えてクシャミの一つも出るのは自明の理。風邪でもひかれたら厄介だ。状況確認もできたことだし、もう帰るとするか。
「はあ……しゃーねぇやつだな。これでも着てろ」
嘆息しつつ脱いで折り畳んでいた上着を拾い上げ莉緒の肩にかける。
パーカーの上からパーカーのような異様な着こなし。ウインドブレーカーのクリアブルーにフーディーのグレーが重なり、独特な色合いとなっている。見た目がともかく風よけ目的としては申し分ないはずだ。
「風通さないしこれで多少はマシだろ?」
「……あ、うん……ありがとう凪……」
莉緒は愛おしそうにクリアブルーの袖を撫でる。
「あ、おう……」
うるんだ瞳にたおやかな声、見るだけで聞くだけで鼓動が一段と速くなる。素っ気なく返事をするのが精一杯で、その続き『風邪をひく前にさっさと家に帰るぞ』が言えなかった。
普段とは違うギャップにやれてしまったのか。彼女の一挙手一投足が輝いて見える。後方腕組をして遠目から応援していたあの頃とは確実に異なる見え方。莉緒を異性として意識している。そのことを再認識させられてしまった。
「そりゃそうだろ。じゃあ逆に訊きますけど! 深夜に独り言を吐きながら刃物を振り回しているやつを見たら、お前はどう思うよ?」
「あーまあそれは確かにそうね。でもさぁ、声であたしって分かんないもんかなぁ?」
隣に座る莉緒はジト目で問い詰めてくる。声でも目でもハッキリと分かるぐらいに、自分は不機嫌だと全面に出してきている。この状態で『ごめん気づかなかった』なんて言おうものなら、火に油を注ぐどころの話ではない。そこの石塔並みに髪が逆立つに違いない。
「悪かったって、ちょっと思うところがあってな。なあ……莉緒、爺ちゃんのこと、どこまで覚えてる?」
「凪のお爺ちゃん……無心さんか。どこまでって難しいわね。う~ん、そうねぇ……」
記憶を呼び起こすため莉緒は一連の動作を行い始めた。両腕を組み双眸は右斜めを向き首を左に右へと交互に傾ける。暫くすると鼻唄を歌うように祖父との思い出を口ずさむ。
この世界の莉緒は俺に関係する記憶しか保持していない。祖父に限定すると必然的に思い出す場面も限られる。予想どおりその記憶の大半は道場、そこで師範として門下生を指導する厳格な祖父の姿だった。
記憶の齟齬はなさそうだ。俺の知っている祖父の印象とバッチリ合致する。というか、俺もその側面の祖父のことばかり思い出す。道場は桜川家から数分の距離。ご近所なのだが祖父は顔を見せることはほとんどなかった。正月などの行事についても家族揃って道場に出向いていた。
道場で質素倹約な一人暮らし。門下生に自分の業を教え込むだけが生き甲斐。子供ながらにして近寄り難いと思わせる人だった。だけど猛烈に憧れてもいた。文明が発達した現代において、未だなお刀を置かずに心技体を極めようとする侍。
「――ってな感じかな? って聞いてる凪? 聞いてそうね……で、なんでいきなりそんなこと訊いてきたの?」
「あーいやな。爺ちゃんって凄かったんだって改めて痛感したといいますか……」
「うん、うんうんうん? あっれぇ~? もしかして、あんた師範と自分を比べて凹んじゃった?」
首を傾けるどころか上体ごとを傾けて嬉々として訊ねてくる。
その目は猫のようにまん丸く口角は上がりにあがっている。
あの様子からして機嫌は直ったようだが、今度は少々良くなりすぎた。幼馴染特有のずけずけと土足で踏み込んでくるパターンへと移行してしまったようだ。
「……悪いかよ?」
「いいえ悪くないわよ。そういうところもあたしは好きよ♪」
真っすぐと俺の目を見ながら莉緒は恥ずかしげもなく告げてきた。
さっきまでの表情から一変した彼女からの告白に心臓が飛び跳ねる。
「……ち、ちゃ茶化すなよ。そういやなんで俺がここにいるって分かったんだ? つうか、こんな深夜に付き添いもなく家から出るなよ……」
悟られないように平常心を装い、無理くり話をすり替える。あからさますぎたこともあり、莉緒は手首を返しサムズダウンをしながら抗議してきた。
「ブゥー! 乙女の告白をスルーするなんて最っ低……くちゅん……」
小鳥のさえずりのような可愛らしい鳴き声が耳に入った。
7月半ばに入ったとはいえ日が落ちると普通に肌寒い。半袖短パンに気持ち程度のフーディーで外出。屋外で風よけもない場所に地べたで座り夜風にさらされる。身体が冷えてクシャミの一つも出るのは自明の理。風邪でもひかれたら厄介だ。状況確認もできたことだし、もう帰るとするか。
「はあ……しゃーねぇやつだな。これでも着てろ」
嘆息しつつ脱いで折り畳んでいた上着を拾い上げ莉緒の肩にかける。
パーカーの上からパーカーのような異様な着こなし。ウインドブレーカーのクリアブルーにフーディーのグレーが重なり、独特な色合いとなっている。見た目がともかく風よけ目的としては申し分ないはずだ。
「風通さないしこれで多少はマシだろ?」
「……あ、うん……ありがとう凪……」
莉緒は愛おしそうにクリアブルーの袖を撫でる。
「あ、おう……」
うるんだ瞳にたおやかな声、見るだけで聞くだけで鼓動が一段と速くなる。素っ気なく返事をするのが精一杯で、その続き『風邪をひく前にさっさと家に帰るぞ』が言えなかった。
普段とは違うギャップにやれてしまったのか。彼女の一挙手一投足が輝いて見える。後方腕組をして遠目から応援していたあの頃とは確実に異なる見え方。莉緒を異性として意識している。そのことを再認識させられてしまった。
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