巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな

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 「そんな……。」
「え、え?でも、ミカエルも二周目って言ってたし、その、げーむ?でも僕の記憶はあるんじゃないの?」
「ない!言ったでしょ。二周目は一周目とほとんど変わらないって。ルイの首元に傷はあるけど、その傷跡だってルイは気にしたそぶりをゲームの中じゃ見せない。主人公だけが見える二周目の目印みたいなものだよ。……そうだ、そこから変だった。なんでルイが傷跡を自分で見ることができてる?それに、一週目と違って主人公への嫌がらせもここ最近全く無くなってた……。、」
 遠ざかっていっていたのが嘘のようにルイへと距離を詰めたミカエルは、今にも掴みかからんばかりの勢いでルイに問いかける。
「ねえ、いつから記憶がある!?」
 その勢いに押されたようにルイは思わず馬鹿正直にこれまでの経緯を説明した。
 卒業パーティーでアーノルドから断罪され、処刑されたこと。目が覚めたら処刑される一年前に戻っていたこと。それから、処刑を回避することを諦めて、せめてありのままの自分として生きていこうと思ったこと。
 つらつらと話してしまって、一部余計なことまで言ってしまった感も否めないが、ミカエルは気にしたそぶりもなくルイの話を一通り聞くとぶつぶつと一人考え込んでしまっていた。
 それからはルイが問いかけようが何をしようがうんともすんとも反応しなくなってしまったミカエルは、結局日が傾いてあたりが夕陽に照らされるまで考え込んでいた。
 手持ち無沙汰になってしまったルイはしばらく考え込んでいるミカエルの横顔を眺めていたが、それも飽きてしまい、このまま帰ってもバレないかなと思い始めた頃。
「……ねえ、ルイ。」
「ひゃい!」
 ルイの企みを見透かしたようなタイミングで微動だにしていなかったはずのミカエルから突然呼びかけられる。
 それに驚いたルイは完全にひっくり返ってしまった声で素っ頓狂な返事をしてしまうが、ミカエルはそんなこと歯牙にもかけず淡々とルイへ問いかける。
「カミルとはどこで出会った?」
「え?カミル?えーと、カミルとはここで出会ったよ。道に迷ってこんなところに辿り着いたって言ってた。」
「……エミリーとは?どこで会った?なんて言われた?」
 ミカエルの質問とルイに二周目の記憶があることに一体なんの関係があるのかは分からないルイは内心で首を傾げていたが、彼の顔は真剣そのものだし、決してふざけているようにも見えないため、とりあえず素直にルイは答えていった。
「エミリーともここで出会ったよ。その時は、確か……ざっくり言うと、カミルとこれ以上仲良くするのはやめてほしい……みたいな。」
 ルイとしても自分の弱さを直視することになったあまり思い返したくない苦い記憶のため、なんとなく歯切れが悪くなってしまう。
 けれど、ミカエルはその答えを聞いて、もともと黒目がちの大きな瞳をさらに大きく見開いていった。
「イベントだ……。」
「いべんと?」
 聞きなれない言葉に鸚鵡返しをするルイだが、ミカエルはボソリと呟いた後から放心したように呆けているだけだった。何が何だか分からず、混乱がピークに達したルイはずいとミカエルへと近づき、思いっきり彼の両肩を揺らした。
「ねえ、ミカエル!僕にもわかるように説明してよ。」
 ガクガクと揺らされたミカエルはようやく正気を取り戻したように目を瞬かせる。
「あ……。」
「イベントって何?カミルとエミリーが僕のこの記憶と何の関係があるの?もしかして、僕もミカエルと同じように繰り返すことになるの!?」
「わ、わかった、分かったから!ちゃんと答えるから、揺さぶるのやめて!」
 何とかミカエルの正気を取り戻した頃には二人揃って息を切らしていた。
「……ゲームの中で初めて主人公とカミルが出会うのは、ここなんだ。」
「え?」
「カミルが初めての場所で道に迷ってるところに、この校舎裏でお昼を食べてる主人公と出会う。その後、道案内をしてくれた主人公にカミルが感謝をして、二人の交流は始まっていく。」
「ちょ、ちょっと。」
 息を整えて、静かに語り出したミカエルの言葉が身に覚えがありすぎてルイは困惑する。
 ルイもカミルとこの校舎裏で初めて出会った。学園で道に迷っている時に、たまたまここでお昼を食べていたルイへとカミルが声をかけた。そしてルイは下心を持っていたとはいえ、カミルを目的地まで案内した。
 ルイの静止の言葉を聞かず、ミカエルは話を続ける。
「エミリーと主人公の初めての出会いも、この校舎裏。」
「まって。」
「エミリーは最初は主人公に平民上がりが国の賓客でもあるカミルと必要以上に親しくするなっていちゃもんつけてくるモブ令嬢。でも、その場面の選択次第でお助けキャラになって、カミルの好感度をあげる手助けをしてくれるようになる。」
「待ってってば!」
 ルイもエミリーとこの場所で出会った。その時は、カミルとこれ以上親しくすることをやめてほしいと直談判され、その後紆余曲折あって友人となった。
 エミリーがいてくれたおかげでカミルと冷静に話し合うことができたし、互いに信頼が深まった。
 ミカエルが話す主人公とカミルたちの話があまりにもルイと彼らの出会いと酷似していた。確信に至らずとも嫌な予感が止まらないルイはそれ以上話の続きを聞きたくなくて、耳を塞いで叫ぶ。
 しかし、淡々と、それでいて残酷なほどにミカエルの言葉は塞いだはずの耳によく聞こえた。
「ルイは今、主人公だ。」
「そんなの!」
 その言葉をとにかく否定したくて咄嗟にルイはミカエルの声に被せるようにして叫ぶ。めちゃくちゃでもいい、わけが分からなくてもいい、ただミカエルの言ったことを否定できれば、それでいい。そんな気持ちに突き動かされるようにして、ルイは必死に声をあげる。
「そんなの、ただの憶測だ!そもそも、君が言ったんじゃないか!僕はだって!!」
「そうだよ。ただの憶測でしかない。」
「だったら!」
「けど、今はもうただの悪役令息じゃないってことは分かってるでしょ。」
「……っ!」
 こんな時でもルイの頭の冷静な部分は、勝手にミカエルの話から類似点を挙げ連なっていく。そうして嫌になる程、ただ事実のみをルイに伝えてくるのだ。
「おれが記憶してるゲームの出来事とルイのこれまでの話があまりにも一致してる。ルイが今カミルルートを攻略してると考えれば辻褄が合う。それに、二周目のことを覚えているのは主人公でしかあり得ない。ただのゲームのキャラクターである悪役令息が覚えてるはずがないんだ。」
「……じゃあ、僕がこれまでカミルとエミリーと過ごしてきたのは全部、ぜんぶ、そのゲームであらかじめ決まってたってこと……?」
 体中から力が抜けて、膝から崩れ落ちそうなほどの無力感がルイを苛む。
 囁くようにポツリと吐き出した言葉にそれまで澄ました顔をしてルイへと接していたミカエルが初めて気まずそうな顔をする。
「そうかもしれない……ってこと。」
 あんまりだとルイは呆然とそう思った。
 あんまりだ。あんまりじゃないか。ルイはこの短い人生の中で初めて心から笑い合うことのできる友人を得たのだ。
 初めてだった。
 友達と話しながら昼食を食べたのは。
 初めてだった。
 友達と全てを曝け出しながらぶつかり合って喧嘩をしたのは。
 初めてだった。
 友達と街に遊びに出かけたのは。
 全部全部初めてだったのだ。ルイのことを心から思ってくれる友達を、ルイ自身のことを受け入れてくれるかけがえのない友達ができたことは。
 その全てが楽しくて、嬉しくて、死んでもいいって思えるほど幸せだった。
 それが……全て決まっていたこと?
 所詮、ルイはゲームの主人公として、カミルとエミリーと決まっていた出会いを果たし、決まっていた困難を乗り越えて、決まっていた幸せを享受していた?
 ごちゃ混ぜになった感情の中でもっともルイが強く感じたものは、酷く純粋な怒りの感情であった。
「そんなの、許せない。」
「ルイ?」
 呆然と魂が抜けてしまったように佇むばかりだったルイが突然拳を握りしめて小刻みに震え始めたことで、訝しげにルイの表情を覗き込んだミカエル。そうして彼が目にしたものは般若であった。
「え……。」
「そんなの、許さない。絶対に認めない。僕が、カミルが、エミリーが!自分で選んできたその全部が誰かに決められていたものだなんて、絶対に認めない!」
 ミカエルがてっきり泣いているのだと思いこんでいたルイの表情は怒りで歪んでいた。眉は吊り上がり、そのサファイアの瞳に激しく燃え上がる怒りの炎を宿し、きつく拳を握りしめている。
「ミカエル!」
「はい!」
 その鬼の形相のまま名前を呼ばれたミカエルは、咄嗟にとってもいい返事をしてしまう。思わず両手をぴしりと体に沿わせ、気をつけの姿勢をとったミカエルはルイの言葉に目を見開くこととなる。
「そのゲームとやらの好き勝手になんかさせないよ!僕とミカエルで、この繰り返しを終わらせよう!!」
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