巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな

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 ポカンとした表情でルイの宣言を聞いたミカエルは段々と理解が追いついてきたのか、次第に理解できないと言った表情に変わっていった。
 「は、はああ!?終わらせるって……。終わらせられるならとっくにおれ一人で終わらせてるよ!それができないからこんなことになってるんだろ!!」
 感情を爆発させたように言葉遣いすら乱してそう叫ぶミカエルに決して気後れすることなく、むしろ前のめりになりながらルイへと勢いのままに説得を開始するルイ。
「一人だったから無理だったのかもしれないでしょ!二人いたら何とかなるかも!」
 そう言って、力強くミカエルへと詰め寄るルイに、もはやある種の恐怖すら覚えながらミカエルはヤケクソのように叫ぶ。
「そもそも、なんか考えがあるわけ!?まさか考えなしにそんなこと言ったんじゃないだろうな!!」
「そのまさかですけど!とりあえず今日は一旦解散!明日またここで作戦会議するよ!絶対来てね!!!!」
「ちょっ……!」
 ミカエルもヤケクソならルイもヤケクソであったらしい。いつにない強引さを発揮したルイは、明日の作戦会議をそれはそれは強く念押しして、ぐるりと踵を返して歩き出す。
 何やら後ろの方でワーワーと喚くような声がした気もするが、怒りが燃え上がっているルイはその全てを聞かなかったことにして、早足に校舎裏から去っていった。






 そうして、公爵邸へと帰ってきたルイは酷く後悔していた。
 ベスへとカミルとエミリーと話し込んでしまったと心苦しい嘘をついてしまったルイは、ベスからの生暖かい視線に耐えられず、自室へと引きこもった。できる使用人であるベスは言葉にこそしなかったがその視線は何よりもルイに友達ができたことを喜んでいて、ルイの罪悪感をチクチクどころかぶん殴る勢いで触れていった。
 罪悪感に打ちひしがれながら自室へと辿り着いたルイは、勢いのまま何の考えもなしにミカエルにこの繰り返しを終わらせると啖呵を切ってしまったことを思い出して、さらにズブズブと気持ちが沈んでいった。
 もし少し前に時間を戻せるのなら、殴ってでもその口を塞いでやれたのに……。と、出来もしないことを考えながら、ぼーっと考え込むルイ。
 確かに勢いに任せて口から飛び出てしまった言葉の数々ではあったが、全て本当にルイがそう感じたことだった。
 ようやく、ありのままの自分を受け入れてくれる友人ができて、公爵令息という立場上なかなか口に出すことができなかった前からやってみたかったことを思うがままに口に出せるようになってきたのだ。
 これまで必死に自分を守るように被ってきた分厚い猫をようやく脱ぎ捨てることができて、ルイは自分が自由になったかのように感じていたのだ。
 それが全て誰かが考えた通りのストーリーをなぞるだけのものだったかもしれないなんて、怒らない方が難しい。
 もしかしたら、ルイの人生を変えることになったあの出会いも、あの出来事も、あらかじめ決められていたもので、そこにルイたちの意思など関係ないと言われて、黙ったままで入れるほどルイは大人にはなれなかった。
 しかし、だからと言ってこの繰り返しを終わらせるような方法も、いるかもしれない"誰か"に抗う方法がすぐに思いつくことができるかと言われてしまうと、それは否である。
「どうしよう……。」
 思わず弱々しくそう呟いてしまうルイ。ベスも誰もいない、ルイ一人だけでは広すぎるこの部屋でやけに頼りなく聞こえたその呟きに何だか悲しくなってしまったルイ。
 お行儀悪くベッドへと寝転んだルイはうー、と唸りながら枕に顔を押し付けるものの、時間ばかりがすぎていくだけで、アイデアが浮かぶわけでもない。
 そうして悶々と考え込んでいたルイは、次第にミカエルと話していた内容のことを思い出していく。そういえば、ルイがゲームの主人公になっているかもしれないと言われたことに対する怒りで目が眩んでいたが、今日は色々と情報量が多い1日だったのだ。
 とりあえず、明日の作戦会議ではミカエルの情報を整理してみて、それからでも何か作戦を考えるのも悪くないかもなとルイはぼんやりと考える。そしてふと、どうしてこんなにミカエルに対してあまり悪い気持ちが湧いてこないのだろうかと気になった。
 ルイの執着具合に悪い点が大いにあれど、言ってしまえば元平民であるミカエルが王族であるアーノルドと親しげにしていたことが全ての始まりと言ってもいい。酷い他責思考ではあるが、彼の存在によってルイは首と胴が泣き別れるほどの罪を犯し、本人の意思とは若干異なるが、全てが順風満帆に行くはずであったルイの人生はめちゃくちゃになった。
 ルイだって、ミカエルといざ対面したら正直自分がどんな行動に出るかなんて分からなかった。もしかしたら、またかつての時のようにめちゃくちゃに罵ってしまうかもしれない、また、前のように嫌がらせを始めてしまうかもしれないと。そういった不安を覚えなかったかと言うと嘘になる。
 しかし、今日実際に会ってみたルイはミカエルに何か悪い感情が湧いてくるようなことはなかった。
 自分でも驚くほど冷静にミカエルの話を聞くことができたし、あの時のように自分がぐちゃぐちゃになってしまうような激情など一つも湧かなかった。
 それはエミリーとカミルと出会っていたからとか、一回死んで猫を脱いだことでアーノルドへの執着心が薄れたから、などの理由があったのかもしれないが、ルイは今日彼と会った時からぼんやりと感じていた親しみような感情の理由がようやくはっきりとした輪郭を持ったような気がした。
「……そうか、似てたんだ。」
 ミカエルはかつてのルイに似ていた。
 公爵令息として恥ずかしくないようにと常に気を張って周りの目を気にして、少しの感情の揺らぎすら見せないように猫をかぶって、何も楽しくないのに微笑んでいた。
 そうして、理由もわからないまま見せかけの感情だけを表に出しながら、自分を制御できていると思い込みあぐらをかいていた。
 それが、ある日自分の体がバラバラになるほどの怒りを初めて感じたことで、それまで張り詰めていた糸が切れてしまったかのように完璧にコントローできていたはずの自分に振り回される羽目になった。
 そんなルイと似ていた。
 ゲームを知っているからこそ、ゲームの中の主人公として振る舞いを常に考えて、死の恐怖に怯えながら自分を殺すかもしれない相手に媚を売る。
 周りの望む正しい役割をただひたすらに演じて、そこに自分の意志など一切必要とされない虚しさをルイは知っている。
 ミカエルのあの感情の起伏の激しさも、ストンと表情が抜け落ちたような顔も、かつての猫を被ることに限界がきてしまったルイに似ているような気がした。
 ミカエルはかつてのルイ悪役令息に似ているのだ。
 そこまで考えて、ルイはふと何かが引っかかった。
「あ、れ……?」
 何か嫌な予感に突き動かされるようにして、ベッドから起き上がったルイはふらふらといつも身支度を整える鏡の前に立つ。
 そこにはいつも通りのルイがいた。
 父と同じサファイアのような輝きを持つ深い青色の瞳にさらりと揺れる烏の濡れ羽色の髪、母親に似たまだ丸みの残る幼く見える顔立ち。そして、視線を下に少し下げると目に入るサファイアをトップにしたエミリーからもらったチョーカー。これの下には、首を切られたような傷跡が生々しく残っている。
 ルイはいつも通りの自分がいることに理由はわからないが、酷く安堵した。なんてことないただの日常の一部のことなのに。鏡をみて、そこに自分が映ることなんて当たり前のはずなのに。
 なぜだろうと不思議に思って首を傾げたその時。
 ふわりと視界の端にふわふわとした銀色が見えた。
「え。」
 思わず声を出してしまったルイは咄嗟に鏡に視線を移して、驚愕に目を見開く。
 ふわりと揺れる銀色の髪に見開かれたペリドットのような新緑色の瞳。瞬きの間に消えたそれは確かにミカエルの持つ色彩だった。
 顔立ちはルイそのものであったのに、色だけがミカエルのようになっていたその姿に、ルイはバクバクと心臓がなり始め、動いてもいないのに呼吸が浅く、早くなっていく。
 そうだ、ルイが主人公になっていると言うのなら、本来の主人公であるはずのミカエルはどうなっている?
 ルイはさっきまで、ミカエルとルイが似ていると考えていた。それがもし、としたら?
 ルイは自分でも自覚するほどに考えが前向きになってきたと思っている。明るく、溌剌とし、ちょっとやそっとのことでは挫けない。
 まるでどこかの主人公のようである。
 もし、ルイの肩書きが主人公になっているのではなく、ルイが主人公へといるのだとしたら?
「僕とミカエルが、入れ替わってきてる……?」
 
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