巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな

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 あの後、自分の考えにゾッとしたルイは、それ以上深く考えることをやめてしまった。
 ただでさえ、自分で選んできたと思ってきた選択肢が誰かから用意されて、選ばされていたものかもしれないのである。それに加えて、そもそも自分の存在自体が誰かに置き換わってきているかもしれないなんて考えることはできなかった。かつて公爵令息のルイ・コレットとして自分を押し殺して理想の人物を演じていたルイにとって、自分が自分でないかもしれないなんて、この世で1番嫌なことである。
 悶々と考え込みながら、その日の疲れもあってストンと寝落ちてしまったルイは、あまり晴れない気分と共に学園で1日を過ごした。
 結局、解決策を見つけるどころか、新たな問題を抱えただけとなってしまったが、昨日あれだけ盛大に啖呵を切って、ミカエルへと念押ししたのだ。ルイに放課後に校舎裏へ行かないと言う選択肢はなく、あれだけ意気込んでいた気持ちなど少しもなくとぼとぼと校舎裏へと向かった。いっそのこと、ミカエルがルイの言ったことなど無視して来ていなければ良いのにと願いながら。
「おっそい。」
 そんなルイの願い虚しく、ふわりと揺れる銀色の髪を見たルイは彼が本当に来てくれて嬉しい半分、今は来てほしくなかった気持ち半分の何とも複雑な感情を抱いた。
 そして、今日もミカエルの方がルイより早くついており、抜け道でもあるのかとルイは疑ってしまう。哀愁すら漂っているように感じるほど気の抜けた足音を聞いて振り返ったミカエルは、ルイの沈んだ表情を見たのち、ふんっと鼻を鳴らしてルイを見下したように話し始める。
「その顔見ると、特に解決策とか浮かばなかったんでしょ?そりゃそうだろ。一人増えたくらいで解決してたら、おれはこんなに苦しんでない。」
「……おっしゃる通りで……。」
 ぐうの音も出ないほど言い負かされたような気分を味わったルイはしおしおと萎えていった。
 何とも気まずい沈黙が二人の間を満たしたあと、それでもこのまま解散などできないと思い直したルイは意を決したように口を開く。
「……あ、のさ。」
「……何。」
「えー、と、その。……と、とりあえず、ミカエルの知ってる情報をまとめてみても良い?」
 昨日のルイの色がミカエルの色へと変わった何とも不思議な現象を言うべきか否かたっぷり10秒ほど悩んだルイは、ミカエルからの言葉にはしないものの、早く言えといわんばかりの圧に負けて話を逸らした。
 何とも情けない結果ではあるが、情報をまとめたいと思っていたことも事実なので、どうにか自分を励ましてミカエルとの対話を試みる。
「まあ、聞いてあげないこともないけど。」
 どこまでも上から目線のミカエルではあったが、おそらく素の方であるその態度の方がアーノルドといる時の変に媚びた態度よりよっぽどルイにとってはマシに思えたため、特に指摘することはなかった。
「えーと、まず、この世界は物語がある程度決まっている創作物のゲームってやつの世界で、僕たちはチェスの駒みたいにそれぞれに役割が与えられていて、ある程度役割に沿った行動や選択を無意識にしている。……ここまでは合ってる?」
「悪くはないんじゃない?強いて言うなら、ある程度じゃなくて、特定の行動に関しては役割を強制させられるってことかな。ルイも覚えはあるでしょ。自分でも驚くほど、絶対にそのことをしなきゃいけないっていう強迫観念じみた行動をとったこと。」
 ミカエルの言葉にルイは思わず驚きで目を丸くする。
 彼のその言葉があまりにも身に覚えがありすぎたためである。それは、彼とアーノルドが一緒にいるところを目の当たりにした時。
 自分でも驚くほどの怒りが湧き上がってきて、気づいたら体裁も何も考える暇もなくミカエルを呼び出して詰め寄っていた。常に公爵令息として周りの目を気にしながら生きていたルイにとって、今考えるとあの行動はあまりにも軽率であったと言える。そのことに考え至ったルイは思わずポツリと言葉がこぼれ落ちる。
「え、まさか……。」
「そう、そのまさか。ルイが主人公のミカエルを問い詰めるのはどのルートでも必須の強制イベント。選択肢によって物語の結末は変わるけど、ある程度の筋書きに沿わせるために強制的に起こる出来事がある。その出来事はどんなに回避しようとしても自分の意思で何とかできるようなものじゃない。ああ、ルイの処刑シーンもそうだね。」
 こともなげにそう言い放ったミカエルは平然としており、ルイだけが混乱している。
 しかし、混乱する一方で納得する部分あった。あの時、ルイはかつてない剣幕で詰め寄っていたにも関わらず、やけにミカエルは平然としていた。それが繰り返しの中で必ずルイに詰められていたとしたら、あの興味のなさそうな顔にも納得ができる。一言一句違わず同じ言葉を何度も言われていれば、いやでも興味は無くなるし、怒鳴られている恐怖などかけらも感じなくなるだろう。
 そこまで考えたことで、ルイはふと最近エミリーから聞いた話を思い出して、ハッとする。
「……ねえ、ミカエル。他にもその、強制いべんと?ってやつはあるの?」
「他にも?あー、全ルート共通の強制イベントって意外と少ないんだよね……。カミルルートだけに限って話すなら、街の散策イベントとか……あ、あと、エミリーとの出会いは強制イベントだったかな。お助けキャラとして主人公と親しくなるか、主人公に嫌味を言うだけのモブ令嬢になるかの選択はあるけど、どっちを選択するにしろ主人公と出会うイベントは強制だったかな。」
 その言葉を聞いて、ようやくルイの中でストンと納得できることがあった。
 先日街に出かけた次の日の学校で、やけにエミリーが暗い顔をしていたことが気になってその理由を問いただした時のことを思い出す。最初は頑なに何でもないと言い張っていたエミリーだったが、カミルの説得と最終的にはルイの泣き落としに陥落した彼女がぽつぽつと話し出した内容はこうだった。
「……わたくし、昨日ルイが殿下と対等に話しているのを見て、何と愚かな真似をしていたのかを改めて突きつけられたような気がしましたの。ルイとカミル様の仲がいいと聞いた時にわたくしが何とかしなければいけないと、今思えば不思議なほどにその考えに突き動かされていましたわ。あの時は何故だか無敵のような気持ちでいましたが、ルイの言葉一つでわたくしなどどうにでもできることに何故考え至らなかったのか……。」
 そう言って、しゅんとしてしまったエミリーをカミルとルイはそれはそれは言葉を尽くして慰めたのだが、彼女の様子にばかり気が取られていて、その時はその言葉をあまり深くは考えていなかった。
 しかし、ここにきて強制イベントという本人の意思すらねじ曲げてしまうほどの強制力のあるものがあることをルイは知った。そして、エミリーと主人公の出会いもその強制イベントの一つであることも。
 今考えるとルイと出会った時の彼女の行動はかなり無謀なものだった。男爵の身分で遥か格上の公爵に喧嘩を売り、処分など恐れないと啖呵を切る。まるで処刑してくれと言わんばかりの行動を軽率にエミリーが行ったことに違和感を持たなかったと言えば嘘になる。
 ルイはエミリーと関わっていくうちに、彼女が負けん気が強くも思慮深く、慎重な性格であることを知った。ルイが庶民街にいくといった時にはそれはもう正論に次ぐ正論でルイは諌められた。結局ゴリ押ししたルイに渋い顔をしながらも同意してくれたが。
 少し話が逸れたが、元々エミリーが苦言を呈しに行くのが公爵家であるルイではなく、同じく元平民のミカエルだったのだと言うのであれば納得できる部分がある。
 同じく元平民であるという立場から、彼女がミカエルへと軽率に身分の高いものと関わってはいけないことを忠告しに行くことが本来のルートなのであれば、彼女の発言にも納得ができた。伯爵家とは言え、養子入りしたばかりのミカエルがその権力を振り翳し、エミリーへと制裁を与えると言うのは考えにくいところがある。
 それが、中途半端にルイが主人公となっていたために、一歩間違えれば破滅の道へと進むような行動をエミリーは軽率にとってしまったのだろう。
 うんうんと一人納得し、頷いているルイをミカエルが怪訝な目で見つめていることに気づき、誤魔化すようにへらと笑ったルイは改めて強制イベントとやらの恐ろしさを実感した。
 本来の性格を捻じ曲げてまで、筋書き通りに物語をすずせようとするなんてめちゃくちゃだなと考え、自分があんな激情を持っていたのかと実は恐ろしかったことが、この世界のせいかもしれないことに少し安堵したところで、ふと疑問が湧いた。
「ミカエルは僕のことを主人公だって言ったけど、この二周目の世界でも僕から問い詰められたの?」
「そうだけど?それがなに。」
「いや、それだと少しおかしくない?僕が主人公だって言うなら、ここで問い詰められるのはじゃない?」
 ルイの言葉にポカンと口を開けたミカエルの顔はそれまでの刺々しさが薄れて、年相応の幼さが際立っていた。
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