巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな

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 ルイの言葉にしばらく呆気に取られていた様子のミカエルだが、何かに気づいたように目を伏せると力無く首を振った。
「……別に、そんなにおかしなことじゃない。あの時、ルイにはまだ記憶が戻っていなかった。おれはルイが主人公になったのは、本来一周目の記憶がないはずの悪役令息が二周目の記憶を取り戻したことによるバグみたいなものだと思ってる。記憶のない状態のルイは正しく悪役令息の役割を持ってたはず。」
「そっか……そんな都合よくはいかないよね……。」
 ミカエルの言葉に何となくルイも釣られて落ち込んでしまう。何か、解決の糸口になりそうな予感がしたのだが、記憶を取り戻してからゲームの主人公になったということならば、別に記憶のない状態のルイがミカエルに詰め寄っていても不思議ではない。
 振り出しに戻ってしまったような気持ちに、気分が沈んでいく。
 しかしその時、今度はミカエルがぶつぶつと考え込み始めた。
「都合よく……そうだ、今はルイが主人公のはず。だったら、何で今だにルイの噂が無くならない?それに攻略対象たちだって、ルイのことを嫌ってる……。」
「ミカエル?」
「ルイ、もしかしたら、まだルイはこのゲームの主人公じゃないのかもしれない。」
 そう言ってルイの方を見たミカエルは何とも複雑な表情をしていた。その言葉に仰天したのはルイである。ルイが主人公であると言われたその口で今度は主人公ではないと言われた。矛盾しすぎてどっちが本当かわからない。
「え、ええ?でも、ミカエルが言ったんじゃないか。僕が主人公だって。」
「そうなんだけど、ルイが主人公だとしたらこの状況がおかしいんだよ。このゲームは最後こそバッドエンドのオンパレードだけど、それまでは割と主人公に都合よく物語が進む。攻略対象たちからは軒並み好感度が高いし、学園でも皆から人気者で、ハプニングが起きてもいいタイミングで都合よく助けがくる。」
 そこまで言われて、ルイはあれ?と首を傾げる。
 攻略対象たちと言うのにはアーノルドを含まれているだろうが、彼からの好感度は最底辺どころか突き抜けて嫌われているし、学園でもルイは悪名轟く孤立しまくりの公爵令息である。
「ルイは記憶が戻ってから、おれへの嫌がらせをやめたでしょ?それなのに、まだルイの噂は無くならない。それどころか、どんどん尾鰭がついて内容は酷いものになってる。それに、攻略対象たちは相変わらずおれに付き纏ってくるし、ルイのことなんか眼中にもない。主人公にしてはルイにとってこの世界は都合が悪いんだよ。」
 そう言って一度言葉を切ったミカエルは軽く考え込む様子を見せた後、確信を持ったようにルイにこう告げた。
「ルイは主人公になったんじゃなくて、主人公にのかも。」
「なりかけてる?」
「うん。仮説ではあるけど、ルイが今主人公であり、って考えたら、この状況にも説明がつく。」
 ルイはその言葉にやけに納得してしまった。
 悪役令息であるから、今だに主人公を害すものとしてアーノルドからは蛇蝎のごとく嫌悪感を向けられ、周りからも冷たい目を向けられる。
 そして、同時に主人公であるから攻略対象であるカミルや主人公のお助け役であるエミリーと出会い、友情を育むことができた。
 何だか全てそのゲームとやらにお膳立てされているようでなんとも癪ではあるが、そう考えると辻褄が合うような気がした。しかし、それと同時にある不安がルイを襲う。物語であれ、チェスであれ、与えられる役割は基本的に一つしかない。そんな中、対極にいると言っても過言ではない二つの役割を一人の人間が担うことになったら?
 そんな不安を顔一面に分かりやすく浮かべて、ルイはミカエルを見つめる。
「でも、それだとこの物語はどうなるの?悪役と主人公が兼役の物語なんて、聞いたこともないよ?」
「分からない。もしかしたらこの繰り返しが終わるかもしれないし、逆にバグが多すぎて物語自体が無くなるかもしれない。最悪なのは、エンディングに辿り着く前にゲームがリセットされることだね。ルイの記憶もカミルたちとの出会いも無かったことにされて、また一周目が何食わぬ顔して始まる可能性だってある。」
「そんな……。」
 まるで袋小路に迷い込んでしまったかのような不安感がルイを襲う。
 これならまだルイが主人公であると言われた方がマシだったと思うほど、今の状態が今にも落ちそうな綱渡りをしているようなものであったことをルイは理解してしまった。
 ミカエルも難しい顔をして黙り込んでしまい、ここにきて二人の作戦会議は完全に手詰まりとなってしまった。
 もしかしたら今この瞬間にも、二つの役割を持つルイのせいでこのゲームがリセットされてしまうかもしれないと言う不安から、ルイは無意識に首元を触っていた。
 すっかり癖になってしまったこの動作に心の中で苦笑しながら、手に触れる革の滑らかな感触にざわざわと不安にさざめいていた心が少しづつ落ち着いていくのを感じた。そして、ふと、ルイはミカエルがこのチョーカーについて言及していたことを思い出す。
 今は少しでも何かこの状況を好転させるきっかけが欲しいルイは、藁にもすがる思いでミカエルに尋ねた。
「ミカエル、前にこのチョーカーはゲームではすごいものだって言ってたよね。どんな効果があるの?」
「……え?ああ、そのチョーカーは低確率でエミリーから渡されるアイテムで、でしか効果はないんだけど、起死回生のチャンスを、つくることが……で、きて……。」
 ルイの質問に虚を突かれたように目を丸くしたミカエルはそれでも澱みなくチョーカーの説明を始めた。
 しかし、最後まで説明をすることはなく、だんだんと目を見開いていったかと思うと、次の瞬間何とも言えない苦い顔をして黙り込む。
「ミカエル?」
 不思議に思ったルイがミカエルに呼びかけたのと、彼が口を開いたのはほぼ同時だった。
「……この繰り返しを抜ける方法を一つ、思いついたかもしれない。」
「え!?」
 突然の提案にぱあっと光が差し込んだかのように喜色の色を浮かべるルイとは対照的に、ミカエルの表情は何とも晴れないものであった。
 彼にとっては悲願といっても過言ではない繰り返しからの脱出の方法がわかったかもしれないと言うのに、そんな表情をする理由がわからないルイはこてんと首を傾げる。なかなかその重い口を開こうとせずにもごもごとしているミカエルはチラチラとルイの様子を伺っており、これまで高飛車に話していた様子とは似ても似つかない。
 その様子に何となく察するものがあって、ルイはぶるりとひとつ体を震えさせた。
 おそらく、ミカエルの言う繰り返しを抜ける方法とはルイの存在が重要な役割を担う。それにかなりの負担も。
 それでも、このまま黙って全てを無かったものにされるくらいなら、出来ることをしてから精一杯抗っていきたいとルイは覚悟を決める。
 震えそうになる体を無理やり押さえ込んで、やけに出にくい声を絞り出すようにしてミカエルに問いかけた。
「……教えて。どうやったら、この繰り返しから抜け出せる?」
 ルイの瞳に宿る強い覚悟の色を見つめたミカエルはその瞳から逃げるように視線を下へと伏せ、静かにその口を開く。
「まだ、仮説でしかないし、これで確実にこの繰り返しを終わらせることができるって断言はできない。それでも、おれはこの方法ならこの現状をどうにかできるかもって思った。」
 そこで一度言葉を区切ったミカエルは、何かを振り切るようにかぶりを振った後、伏せていた瞳を真っ直ぐにルイへと向けその方法というのを話し始める。
「ルイにはもう一度、死んでもらう。」
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