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第九話 選ばれなかった者たちの、反撃
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暫定統治官エドガー・ハインツ卿の到着は、祝砲ではなく、静かな封鎖と共に始まりました。
王国旗を掲げた兵は少数。
しかし彼らは、要所要所に正確に配置されていました。
倉庫。
街道。
集会所。
「……軍ではなく、行政ですね」
ヨハンの言葉に、私は頷きました。
「ええ。
剣ではなく、規則で首を締めるやり方です」
その日の午前中だけで、三つの通達が出されました。
・交易組合の活動停止
・水路の王国管理下への編入
・代表会議の決定権の一時凍結
——合法です。
完璧なまでに。
「住民の反応は」
「混乱と、恐怖です」
当然でしょう。
声を上げれば反逆。
黙れば従属。
選択肢は、最初から用意されていません。
正午、エドガー卿は集会所に姿を現しました。
痩せた体躯、冷たい目。
感情を削ぎ落としたような表情。
「諸君」
彼は、穏やかな声で言いました。
「王国は、諸君を守りに来た」
その言葉に、空気が凍ります。
「混乱の原因は、外部資本と、
未熟な自治の試みだ」
——私の名は、出しません。
それが、彼のやり方。
「よって」
彼は、書類を掲げました。
「代表権限を、カイル・ミドリアに一任する」
ざわめき。
全員の視線が、カイルに集まります。
彼は、一歩前に出ました。
「……断る」
一瞬、時間が止まりました。
「理由を聞こう」
エドガー卿は、眉一つ動かしません。
「簡単だ」
カイルは、静かに言いました。
「それは、俺たちが選んだ形じゃない」
「民意は、混乱している」
「だからこそ」
彼は、声を強めました。
「混乱したまま、選ばせるべきだ」
——その言葉は、危険でした。
王国にとって、最も。
「理解できないな」
エドガー卿は、淡々と言いました。
「秩序なき選択は、破滅を招く」
「秩序だけの選択は、死を招く」
その瞬間。
私は、前に出ました。
「では、その違いを証明しましょう」
全員の視線が、私に向きます。
「リリアーナ・ヴァルディス」
エドガー卿の声が、低くなりました。
「あなたは、すでに失権している」
「ええ」
私は、頷きました。
「ですが、“発言”までは奪われておりません」
一拍。
「この土地は、王国法に従ってきました。
だからこそ、今も反逆していない」
私は、集まった人々を見渡しました。
「それでも、あなた方は不安でしょう」
誰も、否定しません。
「では、提案します」
私は、深く息を吸いました。
「三日間」
エドガー卿の眉が、初めて動きました。
「三日間だけ、王国は直接介入を控える。
その間に、ミドリアイランド自身で——」
「何を決めると?」
「“誰のもとで生きるか”を」
沈黙。
「無秩序だ」
「いいえ」
私は、微笑みました。
「選挙です」
ざわめきが、爆発しました。
選挙。
王国では、名ばかりの制度。
「王国が認めるかどうかは、問題ではありません」
私は、エドガー卿を見ました。
「結果を無視するなら、
それは“保護”ではなく“支配”だと、
王都中が理解するでしょう」
エドガー卿は、私をじっと見つめました。
——計算している。
「……三日」
彼は、ゆっくりと言いました。
「それ以上は、許可できない」
「十分です」
私は、即答しました。
夜。
屋敷の一室で、私は一人、地図を見ていました。
「……無茶だ」
背後から、カイルの声。
「ええ」
私は、振り返りました。
「成功率は?」
「五割以下」
「それでも?」
「それでも、やる」
彼は、私の前に立ちました。
「なあ」
静かな声。
「怖いか」
私は、正直に答えました。
「はい」
「……俺もだ」
彼は、少し笑いました。
「だが」
彼は、私の手を取りました。
今度は、はっきりと。
「一緒なら、逃げない」
その言葉は、甘い約束ではありません。
戦場で交わす、誓いでした。
「……後悔しませんか」
「するかもしれない」
「それでも?」
「それでも、選ぶ」
私は、そっと彼の手を握り返しました。
「では——」
言葉は要りませんでした。
外では、人々が動き始めています。
噂ではなく、意思として。
ミドリアイランドは、
“買われた土地”でも、
“守られるだけの土地”でもありません。
選ぶ土地です。
王国旗を掲げた兵は少数。
しかし彼らは、要所要所に正確に配置されていました。
倉庫。
街道。
集会所。
「……軍ではなく、行政ですね」
ヨハンの言葉に、私は頷きました。
「ええ。
剣ではなく、規則で首を締めるやり方です」
その日の午前中だけで、三つの通達が出されました。
・交易組合の活動停止
・水路の王国管理下への編入
・代表会議の決定権の一時凍結
——合法です。
完璧なまでに。
「住民の反応は」
「混乱と、恐怖です」
当然でしょう。
声を上げれば反逆。
黙れば従属。
選択肢は、最初から用意されていません。
正午、エドガー卿は集会所に姿を現しました。
痩せた体躯、冷たい目。
感情を削ぎ落としたような表情。
「諸君」
彼は、穏やかな声で言いました。
「王国は、諸君を守りに来た」
その言葉に、空気が凍ります。
「混乱の原因は、外部資本と、
未熟な自治の試みだ」
——私の名は、出しません。
それが、彼のやり方。
「よって」
彼は、書類を掲げました。
「代表権限を、カイル・ミドリアに一任する」
ざわめき。
全員の視線が、カイルに集まります。
彼は、一歩前に出ました。
「……断る」
一瞬、時間が止まりました。
「理由を聞こう」
エドガー卿は、眉一つ動かしません。
「簡単だ」
カイルは、静かに言いました。
「それは、俺たちが選んだ形じゃない」
「民意は、混乱している」
「だからこそ」
彼は、声を強めました。
「混乱したまま、選ばせるべきだ」
——その言葉は、危険でした。
王国にとって、最も。
「理解できないな」
エドガー卿は、淡々と言いました。
「秩序なき選択は、破滅を招く」
「秩序だけの選択は、死を招く」
その瞬間。
私は、前に出ました。
「では、その違いを証明しましょう」
全員の視線が、私に向きます。
「リリアーナ・ヴァルディス」
エドガー卿の声が、低くなりました。
「あなたは、すでに失権している」
「ええ」
私は、頷きました。
「ですが、“発言”までは奪われておりません」
一拍。
「この土地は、王国法に従ってきました。
だからこそ、今も反逆していない」
私は、集まった人々を見渡しました。
「それでも、あなた方は不安でしょう」
誰も、否定しません。
「では、提案します」
私は、深く息を吸いました。
「三日間」
エドガー卿の眉が、初めて動きました。
「三日間だけ、王国は直接介入を控える。
その間に、ミドリアイランド自身で——」
「何を決めると?」
「“誰のもとで生きるか”を」
沈黙。
「無秩序だ」
「いいえ」
私は、微笑みました。
「選挙です」
ざわめきが、爆発しました。
選挙。
王国では、名ばかりの制度。
「王国が認めるかどうかは、問題ではありません」
私は、エドガー卿を見ました。
「結果を無視するなら、
それは“保護”ではなく“支配”だと、
王都中が理解するでしょう」
エドガー卿は、私をじっと見つめました。
——計算している。
「……三日」
彼は、ゆっくりと言いました。
「それ以上は、許可できない」
「十分です」
私は、即答しました。
夜。
屋敷の一室で、私は一人、地図を見ていました。
「……無茶だ」
背後から、カイルの声。
「ええ」
私は、振り返りました。
「成功率は?」
「五割以下」
「それでも?」
「それでも、やる」
彼は、私の前に立ちました。
「なあ」
静かな声。
「怖いか」
私は、正直に答えました。
「はい」
「……俺もだ」
彼は、少し笑いました。
「だが」
彼は、私の手を取りました。
今度は、はっきりと。
「一緒なら、逃げない」
その言葉は、甘い約束ではありません。
戦場で交わす、誓いでした。
「……後悔しませんか」
「するかもしれない」
「それでも?」
「それでも、選ぶ」
私は、そっと彼の手を握り返しました。
「では——」
言葉は要りませんでした。
外では、人々が動き始めています。
噂ではなく、意思として。
ミドリアイランドは、
“買われた土地”でも、
“守られるだけの土地”でもありません。
選ぶ土地です。
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