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第十話 三日目の前夜、すべてが試される
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ミドリアイランドの三日間は、
歴史の書き換えではなく、確認作業でした。
誰が、何を信じ、
どこまで耐え、
そして——誰と立つのか。
王国の兵は街路を巡回しましたが、介入はしません。
それ自体が、圧力でした。
「投票所は三十七箇所」
ヨハンが淡々と報告します。
「妨害は?」
「王国側は沈黙。
ただし——」
一拍。
「商人ギルドの一部が、
“王国支持”を表明しました」
私は、頷きました。
「想定内です」
買収は、王国だけの専売特許ではありません。
ですが今回は、こちらが“買わない”ことを選んだ。
それが、賭けでした。
二日目の夜。
私は、屋敷の中庭で立ち止まりました。
空気が、張り詰めています。
「眠ってないな」
カイルの声。
「ええ」
正直に答えました。
「あなたもでしょう」
「まあな」
彼は、私の隣に立ちました。
二人で、同じ方向を見ます。
「……もし、負けたら」
私が言うと、彼はすぐに答えませんでした。
「その時は」
静かに。
「王国は、容赦しない」
「ええ」
「俺たちは、追放か、
象徴として飼われるか」
「……はい」
沈黙。
「それでも」
彼は、少し間を置いて言いました。
「後悔はしない」
私は、胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じました。
「政治的には、最悪の判断です」
「恋愛的には?」
私は、少しだけ微笑みました。
「……悪くありません」
彼は、声を殺して笑いました。
「それで十分だ」
夜風が、私たちの間を抜けていきます。
触れてはいない。
ですが、距離は確実に縮まっていました。
三日目。
投票は、静かに終わりました。
暴動も、演説も、英雄もいません。
ただ、人が紙に印をつけ、
箱に入れただけ。
——それが、何よりも恐ろしい。
正午。
集会所に、全ての票が集められました。
エドガー・ハインツ卿も、
無言で立ち会っています。
「開票を」
彼の短い指示。
一枚、一枚。
空気が、重くなっていきます。
結果は、
圧勝ではありませんでした。
ですが。
「自治継続派——過半数」
その瞬間。
誰も、声を上げませんでした。
喜びは、遅れてくる感情だからです。
エドガー卿は、長い沈黙の後、言いました。
「……王国は、この結果を“記録”する」
「それは」
私が口を開きました。
「尊重する、という意味でしょうか」
彼は、私を見ました。
「即座ではない」
「承知しております」
政治とは、常に遅れて動くもの。
「ただし」
彼は、続けました。
「条件がある」
——来ました。
「王国は、
この地に“王国連合特区”を設置する」
自治でも、独立でもない。
共存という名の、綱渡り。
「代表は?」
「……リリアーナ・ヴァルディス」
一瞬、空気が揺れました。
「副代表」
彼は、カイルを見ました。
「カイル・ミドリア」
私は、息を吸いました。
これは、勝利ではありません。
妥協です。
ですが。
「受け入れます」
私は、即答しました。
カイルも、頷きます。
——これ以上、良い着地点はありません。
その夜。
屋敷の灯は、控えめでした。
私は、書類を置き、深く息をつきました。
「……終わった、わけじゃありませんね」
「始まっただけだ」
彼は、私の前に立っていました。
「なあ」
少し、照れたように。
「今なら、言ってもいいか」
私は、彼を見上げました。
「……どうぞ」
「俺は」
一拍。
「政治のために、あんたを選んだわけじゃない」
胸が、少しだけ、痛みます。
「だが」
彼は、まっすぐに言いました。
「政治を選んだ結果、
あんたが隣にいた」
私は、言葉を失いました。
「それは——」
彼は、そっと私の手を取りました。
逃げ場のない、しかし優しい強さで。
「恋だと思ってる」
私は、目を伏せました。
「……即答は、できません」
「知ってる」
「ですが」
私は、顔を上げます。
「逃げません」
それだけで、十分でした。
二人の距離は、
政治よりも慎重に、
それでも確実に、縮まっています。
歴史の書き換えではなく、確認作業でした。
誰が、何を信じ、
どこまで耐え、
そして——誰と立つのか。
王国の兵は街路を巡回しましたが、介入はしません。
それ自体が、圧力でした。
「投票所は三十七箇所」
ヨハンが淡々と報告します。
「妨害は?」
「王国側は沈黙。
ただし——」
一拍。
「商人ギルドの一部が、
“王国支持”を表明しました」
私は、頷きました。
「想定内です」
買収は、王国だけの専売特許ではありません。
ですが今回は、こちらが“買わない”ことを選んだ。
それが、賭けでした。
二日目の夜。
私は、屋敷の中庭で立ち止まりました。
空気が、張り詰めています。
「眠ってないな」
カイルの声。
「ええ」
正直に答えました。
「あなたもでしょう」
「まあな」
彼は、私の隣に立ちました。
二人で、同じ方向を見ます。
「……もし、負けたら」
私が言うと、彼はすぐに答えませんでした。
「その時は」
静かに。
「王国は、容赦しない」
「ええ」
「俺たちは、追放か、
象徴として飼われるか」
「……はい」
沈黙。
「それでも」
彼は、少し間を置いて言いました。
「後悔はしない」
私は、胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じました。
「政治的には、最悪の判断です」
「恋愛的には?」
私は、少しだけ微笑みました。
「……悪くありません」
彼は、声を殺して笑いました。
「それで十分だ」
夜風が、私たちの間を抜けていきます。
触れてはいない。
ですが、距離は確実に縮まっていました。
三日目。
投票は、静かに終わりました。
暴動も、演説も、英雄もいません。
ただ、人が紙に印をつけ、
箱に入れただけ。
——それが、何よりも恐ろしい。
正午。
集会所に、全ての票が集められました。
エドガー・ハインツ卿も、
無言で立ち会っています。
「開票を」
彼の短い指示。
一枚、一枚。
空気が、重くなっていきます。
結果は、
圧勝ではありませんでした。
ですが。
「自治継続派——過半数」
その瞬間。
誰も、声を上げませんでした。
喜びは、遅れてくる感情だからです。
エドガー卿は、長い沈黙の後、言いました。
「……王国は、この結果を“記録”する」
「それは」
私が口を開きました。
「尊重する、という意味でしょうか」
彼は、私を見ました。
「即座ではない」
「承知しております」
政治とは、常に遅れて動くもの。
「ただし」
彼は、続けました。
「条件がある」
——来ました。
「王国は、
この地に“王国連合特区”を設置する」
自治でも、独立でもない。
共存という名の、綱渡り。
「代表は?」
「……リリアーナ・ヴァルディス」
一瞬、空気が揺れました。
「副代表」
彼は、カイルを見ました。
「カイル・ミドリア」
私は、息を吸いました。
これは、勝利ではありません。
妥協です。
ですが。
「受け入れます」
私は、即答しました。
カイルも、頷きます。
——これ以上、良い着地点はありません。
その夜。
屋敷の灯は、控えめでした。
私は、書類を置き、深く息をつきました。
「……終わった、わけじゃありませんね」
「始まっただけだ」
彼は、私の前に立っていました。
「なあ」
少し、照れたように。
「今なら、言ってもいいか」
私は、彼を見上げました。
「……どうぞ」
「俺は」
一拍。
「政治のために、あんたを選んだわけじゃない」
胸が、少しだけ、痛みます。
「だが」
彼は、まっすぐに言いました。
「政治を選んだ結果、
あんたが隣にいた」
私は、言葉を失いました。
「それは——」
彼は、そっと私の手を取りました。
逃げ場のない、しかし優しい強さで。
「恋だと思ってる」
私は、目を伏せました。
「……即答は、できません」
「知ってる」
「ですが」
私は、顔を上げます。
「逃げません」
それだけで、十分でした。
二人の距離は、
政治よりも慎重に、
それでも確実に、縮まっています。
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