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第2章 氾濫
第21話 鎧袖
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ひとつ言っておく事がある。
――俺は初めから、むさおっさんが何者か疑っていた。
だから、焼きそばを作って匂いを振りまき、声を掛けやすい状況を作ったんだ。
むさおっさんは狙い通り、それを利用して話しかけてきた。
まぁ。初めは新しい護衛役の人かとも思ったけどね。パーティへの勧誘もしつこかったし。
もともと俺の探知魔法の範囲は人より広い。
通常は10m程で使い続けると徐々に範囲が広がる。
上位職の剣聖とか聖騎士クラスになると100mを超えるそうだ。
それで、器用な俺はちょっとお得な20mだ。
いつも通り貧乏な俺は、発動中のグワングワンする脳みそに慣れるのに苦労した。
パオラさんが言うには、初めてなのに広すぎる範囲に脳の処理が追い付かない為らしい。
探知魔法って言うのは、効果範囲に誰かがいると分かる魔法だ。
気配を消すのに長けた人は上手く誤魔化せるんだが。
くわえて、俺には風のように飛び回るツンツクとオナイギがいる。
あの2羽は飛び回る範囲にある色々を教えてくれた。
その中に探知魔法の範囲外から双眼鏡で俺の事をジッと見ている人物がいたんだ。
それがむさおっさん。
俺が思ったこと?
いやぁ~。きっしょいほうの恐怖を感じたね。
青少年が190cm超えるおっさんに双眼鏡で見つめられてるの想像してみてよ。
――ね? ――事案発生直前よ。
身の安全のために、目的が知りたくてエサくらい捲くでしょ。
場合によっては死ぬ気の全力疾走で逃げないと。
俺の人よりちょっと広めの探知範囲をウロチョロするからいるのが分かる。
それに都市に着いたらついたで、ずっとストーキングしてくるし、かといって工作員との戦闘を手伝ってくれる訳でも無い。
推定無罪だから放っておいただけだからね。
◇
トラクターをアイテムボックスに収納した後。
姿隠しの腕輪で消えた俺の周りを取り囲む工作員。
そして、――誰もいない場所に切りかかる工作員B。
俺がそこにいないと混乱しているね。
むさおっさんに監視されているのに、存在感を消さずに、姿しか隠せないように見せつけたのはミスリードだ。
既に俺は鍛錬により存在感を限りなく消せるようになっている。
それでも師匠のおっさんにはバレてしまうが。。。
達人と俺には越えられない壁がある。俺が器用貧乏たる所以だね。
それに――もうひとつ手品のタネがある。
俺が生み出した道具『存在くん』だ。
俺と背格好が同じくらいの存在感を放つ道具なんだ。
どれも名前がそのままで、くん付けばかりだな?
農家が使う商品は大体そのまんま名が体を表し〇〇くんと相場が決まっているんだ。
古式ゆかしい伝統の様式美なんだよ!
ほらっ! あるだろ?
ひっぱりくんとか粘着くんとかさ。
立つ象くんはさすがにマイナーすぎて知らないかな?
俺はそれを踏襲している伝統の継承者だ。
急に俺が生み出した”プレゼンス”だ!
何て言い出したら、芳ばしい通り越して焦げ臭過ぎるよね?
そう言っているのを想像しただけでほっぺが赤くなるよ。
そして、その『存在くん』をモルトが持って動かしてるから、俺が動いているように相手は感じる。
たったかっ! たったかっ! 走るモルトは可愛いが、良い仕事をしている。
その間に俺は、他の『存在くん』を順番に囲みの外へ転がす。
囲みの外から立ちどころに生じる存在感。
1つ! 2つ!! 3つ!!!
――あら不思議。なんちゃって分身の術の完成。
そして、モルトが囲いの外にそれを持って逃げるように動き回る。
混乱する中で、むさおっさんが指示を出す。
「全ての気配に攻撃を加えろ、特に動いてる気配を見逃すな」
俺に背を向けてそれらに攻撃を仕掛ける工作員たち。
無防備な背中に『昏倒くん』を順番に当ててゆく。
糸の切れたように倒れる工作員達。
「――ちくしょう! どうなってやがる」
叫ぶむさおっさん。
うろちょろと少し鬱陶しかったが、仲間と合流するまで仕掛けてこない慎重な奴だ。
アイテムボックスからミスリルで出来たガンソ印の杖を取り出す。
そして、それを手に姿を現す。
じーさまの教えを思い出しながら、怒りで思考が濁らないように心を静めて声を放つ。
「やっと仕掛けて来たね。ヘタレの冒険者さん? マグスオン・ミーシャスって呼んだ方がいいかい?」
俺はマグスオンと対峙する。
うちのじーさまは杖術を修めていた。
杖術は農民の武術だ。
帯刀が許されなかった時代に身を守り、飢饉の荒れた時代に野盗やならず者から仲間を救った。
俺はじーさまからしっかりと習った訳ではないが、いくつか型を覚えている。
師匠のおっさんとの稽古で我流ながらいろいろ試してみた。
マグスオンが剣を構えて話しかけてくる。
「風颶をテイムしたお前は祖国にとって危険だ。――ここで殺す」
「マグスオン。あんたがこのクソみたいな計画を立てたのか?」
「あぁ。そうだ。おまえを殺して――作戦は続行だ」
俺が姿を消さないのは、相手を舐めてるからじゃない。
――――頭に来ているからだ!
人が死ぬかもしれないスタンピードを暴発させて、畑を荒らし小麦を無駄にした。
農家にケンカ売ってただで済むとは思うなよっ!
こいつの事は痛めつけてぶん殴らないと気が済まない。
俺は杖の中心をもち左手を突き出す。
右手でアイテムボックスから道具を出し、マグスオンに下手でスナップを効かせて放る。
「それは見たぜ。――気絶させる魔道具だろう」
そう言ってマグスオンは剣で道具を払う。
瞬間、――稲妻が走りマグスオンの腕から煙が立ち上る。
「ぐっっ」
――残念。
それは――『電撃くん』だ。
一度見せた手札はそれさえもフェイクになる。俺だったら怖いから触らずに避けるね。
――卑怯?
剣で殺しに来てる大男の前に、棒持って立ってる穏健派の俺が?
――俺は初めから、むさおっさんが何者か疑っていた。
だから、焼きそばを作って匂いを振りまき、声を掛けやすい状況を作ったんだ。
むさおっさんは狙い通り、それを利用して話しかけてきた。
まぁ。初めは新しい護衛役の人かとも思ったけどね。パーティへの勧誘もしつこかったし。
もともと俺の探知魔法の範囲は人より広い。
通常は10m程で使い続けると徐々に範囲が広がる。
上位職の剣聖とか聖騎士クラスになると100mを超えるそうだ。
それで、器用な俺はちょっとお得な20mだ。
いつも通り貧乏な俺は、発動中のグワングワンする脳みそに慣れるのに苦労した。
パオラさんが言うには、初めてなのに広すぎる範囲に脳の処理が追い付かない為らしい。
探知魔法って言うのは、効果範囲に誰かがいると分かる魔法だ。
気配を消すのに長けた人は上手く誤魔化せるんだが。
くわえて、俺には風のように飛び回るツンツクとオナイギがいる。
あの2羽は飛び回る範囲にある色々を教えてくれた。
その中に探知魔法の範囲外から双眼鏡で俺の事をジッと見ている人物がいたんだ。
それがむさおっさん。
俺が思ったこと?
いやぁ~。きっしょいほうの恐怖を感じたね。
青少年が190cm超えるおっさんに双眼鏡で見つめられてるの想像してみてよ。
――ね? ――事案発生直前よ。
身の安全のために、目的が知りたくてエサくらい捲くでしょ。
場合によっては死ぬ気の全力疾走で逃げないと。
俺の人よりちょっと広めの探知範囲をウロチョロするからいるのが分かる。
それに都市に着いたらついたで、ずっとストーキングしてくるし、かといって工作員との戦闘を手伝ってくれる訳でも無い。
推定無罪だから放っておいただけだからね。
◇
トラクターをアイテムボックスに収納した後。
姿隠しの腕輪で消えた俺の周りを取り囲む工作員。
そして、――誰もいない場所に切りかかる工作員B。
俺がそこにいないと混乱しているね。
むさおっさんに監視されているのに、存在感を消さずに、姿しか隠せないように見せつけたのはミスリードだ。
既に俺は鍛錬により存在感を限りなく消せるようになっている。
それでも師匠のおっさんにはバレてしまうが。。。
達人と俺には越えられない壁がある。俺が器用貧乏たる所以だね。
それに――もうひとつ手品のタネがある。
俺が生み出した道具『存在くん』だ。
俺と背格好が同じくらいの存在感を放つ道具なんだ。
どれも名前がそのままで、くん付けばかりだな?
農家が使う商品は大体そのまんま名が体を表し〇〇くんと相場が決まっているんだ。
古式ゆかしい伝統の様式美なんだよ!
ほらっ! あるだろ?
ひっぱりくんとか粘着くんとかさ。
立つ象くんはさすがにマイナーすぎて知らないかな?
俺はそれを踏襲している伝統の継承者だ。
急に俺が生み出した”プレゼンス”だ!
何て言い出したら、芳ばしい通り越して焦げ臭過ぎるよね?
そう言っているのを想像しただけでほっぺが赤くなるよ。
そして、その『存在くん』をモルトが持って動かしてるから、俺が動いているように相手は感じる。
たったかっ! たったかっ! 走るモルトは可愛いが、良い仕事をしている。
その間に俺は、他の『存在くん』を順番に囲みの外へ転がす。
囲みの外から立ちどころに生じる存在感。
1つ! 2つ!! 3つ!!!
――あら不思議。なんちゃって分身の術の完成。
そして、モルトが囲いの外にそれを持って逃げるように動き回る。
混乱する中で、むさおっさんが指示を出す。
「全ての気配に攻撃を加えろ、特に動いてる気配を見逃すな」
俺に背を向けてそれらに攻撃を仕掛ける工作員たち。
無防備な背中に『昏倒くん』を順番に当ててゆく。
糸の切れたように倒れる工作員達。
「――ちくしょう! どうなってやがる」
叫ぶむさおっさん。
うろちょろと少し鬱陶しかったが、仲間と合流するまで仕掛けてこない慎重な奴だ。
アイテムボックスからミスリルで出来たガンソ印の杖を取り出す。
そして、それを手に姿を現す。
じーさまの教えを思い出しながら、怒りで思考が濁らないように心を静めて声を放つ。
「やっと仕掛けて来たね。ヘタレの冒険者さん? マグスオン・ミーシャスって呼んだ方がいいかい?」
俺はマグスオンと対峙する。
うちのじーさまは杖術を修めていた。
杖術は農民の武術だ。
帯刀が許されなかった時代に身を守り、飢饉の荒れた時代に野盗やならず者から仲間を救った。
俺はじーさまからしっかりと習った訳ではないが、いくつか型を覚えている。
師匠のおっさんとの稽古で我流ながらいろいろ試してみた。
マグスオンが剣を構えて話しかけてくる。
「風颶をテイムしたお前は祖国にとって危険だ。――ここで殺す」
「マグスオン。あんたがこのクソみたいな計画を立てたのか?」
「あぁ。そうだ。おまえを殺して――作戦は続行だ」
俺が姿を消さないのは、相手を舐めてるからじゃない。
――――頭に来ているからだ!
人が死ぬかもしれないスタンピードを暴発させて、畑を荒らし小麦を無駄にした。
農家にケンカ売ってただで済むとは思うなよっ!
こいつの事は痛めつけてぶん殴らないと気が済まない。
俺は杖の中心をもち左手を突き出す。
右手でアイテムボックスから道具を出し、マグスオンに下手でスナップを効かせて放る。
「それは見たぜ。――気絶させる魔道具だろう」
そう言ってマグスオンは剣で道具を払う。
瞬間、――稲妻が走りマグスオンの腕から煙が立ち上る。
「ぐっっ」
――残念。
それは――『電撃くん』だ。
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