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第3章 進窟
第7話 従窟
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――不意に成り出す警戒音。
緩やかな静寂を切り裂いて響いた。
猫のように丸く眠っていた少女は、意識を覚醒させて、面倒くさそうにベッドの上に起き上がる。
「ヌクレオ。映像を出して」
ベッドにペタンと座ったまま、少女は気だるげに命じた。
ピュインという音と共に空中に展開する映像と警戒音の理由。
(ダンジョンが侵略されてる? しかも低層の2階を? 何の意味があるの?)
映像に映し出されたのは成人したてに見える男の子。
どうやら小規模の土魔法でダンジョンを攻撃しているようだ。
「ヌクレオ。対抗と保全をお願い」
ダンジョンにより攻撃への対抗処置と現場復元処置が開始されるが――拮抗する。
「強度を高めて」
ゆっくりと修復が進みおよそ10分ほどで保全処置が完了した。
(何者なの? 侵略アラームなんて初めて鳴ったわ。それに……何か近くにいるわね)
揺らめくような、かげろうが映像を揺蕩う
「ヌクレオ。エネルギー体に相をあわせて」
ぼやけた画像から焦点を合わせるようにモルトの姿が映像に現れた。
(精霊? ――エルフとは盟約があるはず。……妖精かしら)
「ヌクレオ。あれは何?」
(コルンキント? 畑の妖精? ――なんでこんな場所に居られるの?)
意味の分からない低層への侵略行為と居れる筈のない畑の妖精。
少女は男の子がダンジョンから出るまでずっと映像を監視した。
§
――――王都
レオカディオはウェンからノアが『暴発くん』と呼んだ兵器を基に作られたダンジョン抗体アイテムを受け取る。
親指の先ほどまで最小化した魔道具が王都内のダンジョン数を上回る数用意してある。
ウェンは厳しい表情でレオカディオへ伝える。
「ノアから届いた兵器はプロトタイプね。道理で扱いが雑な訳だわ。失敗しても問題が無いんだから。ただ、制作者の意図は見えたわ。違ったアプローチの兵器と掛け合わせてハイブリッド兵器を生み出す思想のようね」
「バイシャオウェン師、その兵器は一体何を起こすのでしょうか?」
「――私が伝えられる事は少ないわ。今言った言葉を忘れずに備えなさい。10年――いえ5年ほどで動きがあるかもしれない。レオカディオ。その時の為に怠らず準備をしておくのよ」
レオカディオはウェンに謝辞を伝え部屋を出てゆく。
部屋には司書長のルル、イーディセル、ウェンが残る。
「今のでは備えようがないのではないか?」
弟子扱いのレオカディオの為にルルは言葉を紡ぐ。
「知っているでしょ。エルフの中でも錬金術師が”盟約”の縛りが強い事をあれでも抵触スレスレよ。少なくともスタンピード+αが起こることは伝わったでしょ。時期も教えたし、プロトタイプがマスプロダクションタイプになる過程で改善されない訳がない。大規模で破滅的なスタンピードが起こるわ」
イーディセルが口を開く。
「例の思想団体じゃな?」
「そうね。錬金とは違うアプローチの兵器だったわ。あいつらは免業兵器と呼んでいたかしら。あの兵器は”ファギティーヴォ”。暴走、逃走者、はかないを意味する言葉だけど。私の解釈では”脱獄”ね。あいつらの流儀では神のくびきからの解天といったところかしら」
ルルが尋ねる。
「もう一つのアプローチとはなんだ?」
「たぶん”暴走”ね」
「スタンピード自体が暴走ではないのか?」
「通常のスタンピードはそうかもしれないけれど。今回はダンジョンから切り取られた、結果暴走したのよ。ダンジョンからの”脱獄”を強制する兵器と対をなすのは”暴走”を強制する兵器よ。その形跡があるの。いずれにしても私たちが手伝えることはないわ」
エルフには”盟約”と呼ばれる古い仕来りがある。その1つにダンジョンに関わるなというものがある。
既にその理由は廃れてしまったが、頑なに守られてきた。
(弟子がやる分には良いのよね)
ウェンは知識と技術を伝えた一番弟子に期待をかける。
(それに弟子の弟子は身内みたいなもんよ)
この頃少し元気のない。表情の乏しい寂しがり屋の背中を少し押してやろう。
時間をかけてゆっくりと飛ぶ力をつければ良い。
飛び立つ勇気が持てるその日まで、雛鳥は巣で守られる権利があるのだから。
◇
5階から出てくるでかい狼型のモルモー。
灰色の体は筋骨隆々としてライオンぐらいの大きさがある。毛が生えていないので少しグロテスクだ。
脚力もあり壁を駆けあがって頭上から襲ってきたりする。
パワーもあり体当たりと噛みつきに爪の打ち下ろしは強力だが、そこはこちらの間合でもある。
歯を食いしばって楯で受け止めて、呼び込んでカウンターの一撃を食らわせる。一番想定しやすい敵だ。
数匹までは1人で対応できる。
だがな……一度に20匹も出てきて取り囲むとはどういうことだ!
緩やかな静寂を切り裂いて響いた。
猫のように丸く眠っていた少女は、意識を覚醒させて、面倒くさそうにベッドの上に起き上がる。
「ヌクレオ。映像を出して」
ベッドにペタンと座ったまま、少女は気だるげに命じた。
ピュインという音と共に空中に展開する映像と警戒音の理由。
(ダンジョンが侵略されてる? しかも低層の2階を? 何の意味があるの?)
映像に映し出されたのは成人したてに見える男の子。
どうやら小規模の土魔法でダンジョンを攻撃しているようだ。
「ヌクレオ。対抗と保全をお願い」
ダンジョンにより攻撃への対抗処置と現場復元処置が開始されるが――拮抗する。
「強度を高めて」
ゆっくりと修復が進みおよそ10分ほどで保全処置が完了した。
(何者なの? 侵略アラームなんて初めて鳴ったわ。それに……何か近くにいるわね)
揺らめくような、かげろうが映像を揺蕩う
「ヌクレオ。エネルギー体に相をあわせて」
ぼやけた画像から焦点を合わせるようにモルトの姿が映像に現れた。
(精霊? ――エルフとは盟約があるはず。……妖精かしら)
「ヌクレオ。あれは何?」
(コルンキント? 畑の妖精? ――なんでこんな場所に居られるの?)
意味の分からない低層への侵略行為と居れる筈のない畑の妖精。
少女は男の子がダンジョンから出るまでずっと映像を監視した。
§
――――王都
レオカディオはウェンからノアが『暴発くん』と呼んだ兵器を基に作られたダンジョン抗体アイテムを受け取る。
親指の先ほどまで最小化した魔道具が王都内のダンジョン数を上回る数用意してある。
ウェンは厳しい表情でレオカディオへ伝える。
「ノアから届いた兵器はプロトタイプね。道理で扱いが雑な訳だわ。失敗しても問題が無いんだから。ただ、制作者の意図は見えたわ。違ったアプローチの兵器と掛け合わせてハイブリッド兵器を生み出す思想のようね」
「バイシャオウェン師、その兵器は一体何を起こすのでしょうか?」
「――私が伝えられる事は少ないわ。今言った言葉を忘れずに備えなさい。10年――いえ5年ほどで動きがあるかもしれない。レオカディオ。その時の為に怠らず準備をしておくのよ」
レオカディオはウェンに謝辞を伝え部屋を出てゆく。
部屋には司書長のルル、イーディセル、ウェンが残る。
「今のでは備えようがないのではないか?」
弟子扱いのレオカディオの為にルルは言葉を紡ぐ。
「知っているでしょ。エルフの中でも錬金術師が”盟約”の縛りが強い事をあれでも抵触スレスレよ。少なくともスタンピード+αが起こることは伝わったでしょ。時期も教えたし、プロトタイプがマスプロダクションタイプになる過程で改善されない訳がない。大規模で破滅的なスタンピードが起こるわ」
イーディセルが口を開く。
「例の思想団体じゃな?」
「そうね。錬金とは違うアプローチの兵器だったわ。あいつらは免業兵器と呼んでいたかしら。あの兵器は”ファギティーヴォ”。暴走、逃走者、はかないを意味する言葉だけど。私の解釈では”脱獄”ね。あいつらの流儀では神のくびきからの解天といったところかしら」
ルルが尋ねる。
「もう一つのアプローチとはなんだ?」
「たぶん”暴走”ね」
「スタンピード自体が暴走ではないのか?」
「通常のスタンピードはそうかもしれないけれど。今回はダンジョンから切り取られた、結果暴走したのよ。ダンジョンからの”脱獄”を強制する兵器と対をなすのは”暴走”を強制する兵器よ。その形跡があるの。いずれにしても私たちが手伝えることはないわ」
エルフには”盟約”と呼ばれる古い仕来りがある。その1つにダンジョンに関わるなというものがある。
既にその理由は廃れてしまったが、頑なに守られてきた。
(弟子がやる分には良いのよね)
ウェンは知識と技術を伝えた一番弟子に期待をかける。
(それに弟子の弟子は身内みたいなもんよ)
この頃少し元気のない。表情の乏しい寂しがり屋の背中を少し押してやろう。
時間をかけてゆっくりと飛ぶ力をつければ良い。
飛び立つ勇気が持てるその日まで、雛鳥は巣で守られる権利があるのだから。
◇
5階から出てくるでかい狼型のモルモー。
灰色の体は筋骨隆々としてライオンぐらいの大きさがある。毛が生えていないので少しグロテスクだ。
脚力もあり壁を駆けあがって頭上から襲ってきたりする。
パワーもあり体当たりと噛みつきに爪の打ち下ろしは強力だが、そこはこちらの間合でもある。
歯を食いしばって楯で受け止めて、呼び込んでカウンターの一撃を食らわせる。一番想定しやすい敵だ。
数匹までは1人で対応できる。
だがな……一度に20匹も出てきて取り囲むとはどういうことだ!
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