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第3章  進窟

第9話  不明

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 男の子が苦も無くダンジョンを攻略する中、少女は指示を出す。

「ドロップ率がおかしいわ。どうなっているの? ヌクレオ。アイテムのドロップ率を出して」

(ダンジョンのドロップ率は変化がない。……何故あの子だけ全てのモンスターからドロップするの? 因果律に干渉しているということ?)

「ヌクレオ。あの子だけドロップ率がおかしい原因は何?」

(――ダンジョンとの親和性が100%! どういうこと? ……何なのこのイレギュラー。こんなこと今までなかったのに!)

「ヌクレオ。パーソナルスキャン! ドロップ率を20%に制限できる?」

 ヌクレオから処置完了の声が脳内に響く。

「ヌクレオ! サァル解決ヴモード!」

 ベッドの前方の空間がスポットライトのように光で切り取られる。

 そこには重厚な机と25インチの空中に浮かぶ映像。そこに男の子が映し出された。

 少女はベッドから降りて歩み寄る。

 その瞬間にベッドは音もなく消え、そこには暗い空間だけが残った。

 少女はゆっくりと広くガッチリとした机に歩み寄る。

 机の前に立つと足の後ろに机と同じあつらえの重厚な椅子が現れる。
 
 少女が腰を下ろすと机には待っていたかのように湯気がたつ紅茶が忽然と現れ良い匂いを漂わせた。

 少女は落ち着かせるようにゆっくりと紅茶を口に含み、味と香りを楽しんだ。

 頭を落ち着かせて、目の前の訳の分からない人物を観察する。

 肘を付き左手の指先をコメカミの辺りに当てる。そして、人差し指だけを一定の間隔で動かした。

 男の子は4階層までのモンスターを苦も無く倒してゆく。

 少女は5階のモンスターを通常より3段階強化した。知能と力とスピードが通常のモルモーとは段違いになっている。

 この階層はドロップアイテムが微妙で新人が通り過ぎるだけだ。一度通り過ぎればもう来ることもない。

 その間だけ強化型をあてがってやれば本人が気付くこともないだろう。

 1層から9層はドロップアイテムに旨味が少ない。定期的にギルドクエストで確認巡回の冒険者は来るが、それ以外はこの階層にあまり冒険者がいることはない。

 10層から20層のドロップアイテムの方が価値が高い。
 
 だから冒険者はその階層に集中している。


 ――そのほうが管理しやすい。

 ――少女がそうなるように設定している。


 2階層から下っているという事はこの男の子は初めてこのダンジョンに来たという事だ。

 この時期に低層の攻略を開始するのは非常に珍しいので癇にさわる。

 このダンジョンは他でC級に上がった冒険者が上を目指し挑戦するダンジョンだ。

 わざわざ、このダンジョンに王国の騎獣車の混む旅立ちの時期に来るなら、その以外の空いている時期のほうが宿も騎獣車も空いて移動しやすい。

 1人で攻略というのも気になる。通常の冒険者は2~5人でパ-ティーを組みダンジョンを攻略する。

 人数が少なければ少ないほど、報酬は増えるがリスクが高くなる。

 3人組が標準的だ。

 これらの情報はヌクレオに冒険者がダンジョン内で話した会話をまとめさせて得た情報だった。

 少女は5階層に降りた少年の映像を観察する。

 複数の強化型モルモーも男の子は問題なく対処している。

 そこで少女は罠を張る。男の子の警戒度を確認するために。

 この罠で死んだら儲けもの、逃げ出せたら警戒度を下げて観察。
 
 戦って生き残ったら細心の注意が必要になるかもしれない危険人物確定だ。

 十字路に男の子がたどり着いた時、囲むように20体の強化型モルモーを放つ。

 C級の1人では生き残れない。B級でも1人では大半は飲み込まれるだろう。

 戦闘の開始当初は知能を高め、素早いモルモーに翻弄されているが、負傷せずにしっかりと対応していた。

 30秒ほどで立て直し、1体ずつきっちり仕留め出した。

 微笑みを見せる余裕があるようだ。

 飛び掛かって来たモルモーを足場にして飛び上がり、後ろのモルモーを切り付けて倒し囲みを抜け出した。


 ――そして


 ガタリッと音を立てて椅子が倒れた。

 少女が立ち上がったのだ。

「せっ……精霊! ――しかも2霊もっ!」

(何。ナニ。なに。何。なに。――なにっっっ! 精霊っ! あの見た目でエルフなの?)

「ヌクレオ! あの子はエルフなの?」

 否の回答がもたらされる。

「そう――盟約が破られたのかと思ったわ。人間なのに精霊に気に入られたの。それで精霊使いの凶悪さが軽くなる訳じゃないけど……」

 これも非常に珍しいことだが、嘘か本当まことか物語には契約したものがいるとヌクレオが集めた情報にあった。

 ――ただし。

 
 ヌクレオからの回答は――否だった。


「えっ? ――あの子人間よね?」

 再度の確認にもヌクレオからの回答は否だった。

「――じゃあ。あれは何なのよっ!」



 ヌクレオの回答は――不明アンノウン


「……」

 少女は脱力したように椅子にドカッと腰かける。

 倒したはずの椅子はいつのまにか正しい位置に据えられていた。

 5階層を引き返す男の子にさっさと出て行けとばかりに階層のモンスターを全て消した。





 個室に連行された俺だ。

 なんかまた余計な注目を集めた気がする。

 う~ん? エレナさん絡みで得をしていない。

 やっぱチェンジかな?
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