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第3章 進窟
第15話 黒点
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ギルドの闘技場は100人に迫る数のやじ馬で騒めいている。
「絶界の弟子の武器はなんだ? ――棒か? 剣士じゃないのか?」
「棒で戦えるのか?」
「俺はあいつが槍を持って歩いているの見たぞ!」
「槍士? じゃあ槍の代わりに棒でケガをさせずに決闘に望むってことか? なめてんのか。余裕なのかどっちかね」
「もう始まる。じきに分かるさ」
開始の合図とともにシュバインが間合いを詰める。
だがノアの操る杖の間合いは長く、懐が深いため容易には剣の間合いに入れない。
強引に杖を剣で払い近づこうとして、手痛い一撃を受けている。
ノアはシュバインの死角を突くようにシュバインを中心に回るように体を捌く。
業を煮やしたシュバインはノアから這うように距離をとると炎魔法の詠唱を始める。
対魔法のセオリーなら距離を縮めて詠唱の破棄を狙うが、ノアはそのまま静観する。
放たれた炎の球体をひらりと躱すと挑発するように杖を両肩に載せて両手を置いた。
怒りの叫び声をあげてシュバインが間合いを詰める。
――瞬間
放たれた杖の一撃がシュバインの眉間に突き刺さり、崩れるように倒れた。
B級冒険者が何も出来ずに負けた。
圧倒的な結果に闘技場は静寂に包まれる。
――――すると。
シュバインの首元に右手を置いて、左手で彼の手首を握るノアが弾かれたように飛び回り出す。
右に左に飛び退り、前転するように転がったかと思えばバック走でジグザクに走り回る。
杖を振るったかと思えば、楯を取り出して突き出し、魔法で攻撃までしている。
シュバインとの戦いが、本気ではなかったと一目で分かる。先程とは比べ物にならない素早さだ。
それは見えない何かから逃げようとするかのように。
彼は必死の形相で飛び回る。
その場へシュバインの相棒。バステンが姿を現した。
ノアの様子に驚いた顔をするが慌てて周りを見回しシュバインを発見する。
まろびつように駆け寄ると相棒に息があるのを確認して安堵の表情を示した。
◇
――――決闘開始直後。
兄ちゃんの速さは普通だな。
杖の利点である長い間合いで翻弄しよう。
俺の得物の小手からの突きで剣の間合いに入れさせない。
兄ちゃんはあの発言に似合わず剣筋はしっかりとし鍛錬を重ねた真面目なものだな。
だからこそ対処しやすいともいうが、師匠のおっさんの太刀筋が変態すぎるんだよ。
俺に剣の道を断念させるくらいのレベチだった。
体捌きも異常で相手の錯覚を利用しろとか、呼吸を読めとか、なんかの極意とか奥義の話だよね。
一応基礎は習ったが気が付くと間合いに入られてる的な技術だった。
まぁ。この試合ではあまり手札を晒さなくても乗り切れそうだな。
兄ちゃんが無理に杖を払って剣の間合いをこじ開けようとする。
その払われた力さえ利用して逆側の杖を兄ちゃんにぶち当てる。
おっ! 今いいのが入ったぞ。ちょっとふらついた。
兄ちゃんが上段に構えれば、がら空きの胴体へ突きを放ち、崩した体制のアゴをかち上げる。
このままコツコツいっても勝てるが、今後違う冒険者に絡まれないようにある程度インパクトを持たせて試合を終わらせるか。
おっ! 丁度良い。距離を取って魔法を放つみたいだな。
でも此処の魔法ってなんで手元から放つんだろうな?
相手の顔の前に出現させてぶつけた方が効果的だと思うんだが、初見ではあの目潰しのお湯は師匠のおっさんにも通用したし。
2度目からは察知されたが、それはあのおっさんがおかしいんだよ。
遠くから放たれる時速100キロの炎の塊……誰が当たるんだろう?
魔法を躱して、”霞段”の構えをとる。
両肩に杖載せ両手で左右にテンションをかける。
兄ちゃんは「なめやがって」と叫びながら近づいてくる。
左手を外すと弾かれたように放たれた杖を右手で打ち込み、すかさず左手で絞る。
8の字を描いたそれは受け止めようとかざされた剣をすり抜けるように眉間を打ち抜いた。
兄ちゃんは崩れ落ちる。
手加減したから大丈夫だと思うが念のため近づき、首筋で脈と手首をつかんで体内検査魔法をかける。
――問題……ありだな。
脳が真っ黒に濁っているようだ。
なんだ? ……これ? その場所の嫌悪感が凄い。
――――すると。
シュバインの頭から真っ黒なドットが飛び出てくる。無数に。
1円玉程度の大きさでペラッペラだ。
影みたいに艶がなく、だが輪郭ははっきりしている。
そして――それらが俺に向かって音もなく飛んできた。
良い予感がしない。俺は吹き飛ぶような速度で距離を取る。
右左に避ける。
前転して躱しそのまま逃げる。
杖をドットに振るったが手応えはない。
しかも振るった杖にドットがペタペタと貼りつく。
それによりミスリル製の白金のそれは鈍色に変わり光沢が消えてゆく。
防御と面攻撃を見込んでアイテムボックスから楯を取り出しぶちかます。
こちらにもペタペタと貼りつき楯が艶消しにかわる。
俺は動きやすいように杖を手首のアイテムボックスへ仕舞った。
それが見えなくなると同時にホコリでも払うようにドットが弾かれ広がる。そして再び舞いただよう。
近づいてくるドットを楯に張り付けながら、魔法で攻撃する。
……魔法は有効のようだ。
炎魔法、光魔法を使うと紙みたいにメラメラ光って消えてゆく。
100程のドットはアニメの蜂の大群のような動きで追ってきていたが、徐々に数を減らした。
全てのドットが消え辺りが見渡せるようになると俺は黒に近い色になり、変わり果てた楯を地面に置いた。
兄ちゃんの連れが闘技場に入って来ているのは気付いていた。
何か出来る余裕はなかったが。
両膝を付いた態勢でいるので、余計な事を言わないように人差し指を口に当てて黙らせる。
「絶界の弟子の武器はなんだ? ――棒か? 剣士じゃないのか?」
「棒で戦えるのか?」
「俺はあいつが槍を持って歩いているの見たぞ!」
「槍士? じゃあ槍の代わりに棒でケガをさせずに決闘に望むってことか? なめてんのか。余裕なのかどっちかね」
「もう始まる。じきに分かるさ」
開始の合図とともにシュバインが間合いを詰める。
だがノアの操る杖の間合いは長く、懐が深いため容易には剣の間合いに入れない。
強引に杖を剣で払い近づこうとして、手痛い一撃を受けている。
ノアはシュバインの死角を突くようにシュバインを中心に回るように体を捌く。
業を煮やしたシュバインはノアから這うように距離をとると炎魔法の詠唱を始める。
対魔法のセオリーなら距離を縮めて詠唱の破棄を狙うが、ノアはそのまま静観する。
放たれた炎の球体をひらりと躱すと挑発するように杖を両肩に載せて両手を置いた。
怒りの叫び声をあげてシュバインが間合いを詰める。
――瞬間
放たれた杖の一撃がシュバインの眉間に突き刺さり、崩れるように倒れた。
B級冒険者が何も出来ずに負けた。
圧倒的な結果に闘技場は静寂に包まれる。
――――すると。
シュバインの首元に右手を置いて、左手で彼の手首を握るノアが弾かれたように飛び回り出す。
右に左に飛び退り、前転するように転がったかと思えばバック走でジグザクに走り回る。
杖を振るったかと思えば、楯を取り出して突き出し、魔法で攻撃までしている。
シュバインとの戦いが、本気ではなかったと一目で分かる。先程とは比べ物にならない素早さだ。
それは見えない何かから逃げようとするかのように。
彼は必死の形相で飛び回る。
その場へシュバインの相棒。バステンが姿を現した。
ノアの様子に驚いた顔をするが慌てて周りを見回しシュバインを発見する。
まろびつように駆け寄ると相棒に息があるのを確認して安堵の表情を示した。
◇
――――決闘開始直後。
兄ちゃんの速さは普通だな。
杖の利点である長い間合いで翻弄しよう。
俺の得物の小手からの突きで剣の間合いに入れさせない。
兄ちゃんはあの発言に似合わず剣筋はしっかりとし鍛錬を重ねた真面目なものだな。
だからこそ対処しやすいともいうが、師匠のおっさんの太刀筋が変態すぎるんだよ。
俺に剣の道を断念させるくらいのレベチだった。
体捌きも異常で相手の錯覚を利用しろとか、呼吸を読めとか、なんかの極意とか奥義の話だよね。
一応基礎は習ったが気が付くと間合いに入られてる的な技術だった。
まぁ。この試合ではあまり手札を晒さなくても乗り切れそうだな。
兄ちゃんが無理に杖を払って剣の間合いをこじ開けようとする。
その払われた力さえ利用して逆側の杖を兄ちゃんにぶち当てる。
おっ! 今いいのが入ったぞ。ちょっとふらついた。
兄ちゃんが上段に構えれば、がら空きの胴体へ突きを放ち、崩した体制のアゴをかち上げる。
このままコツコツいっても勝てるが、今後違う冒険者に絡まれないようにある程度インパクトを持たせて試合を終わらせるか。
おっ! 丁度良い。距離を取って魔法を放つみたいだな。
でも此処の魔法ってなんで手元から放つんだろうな?
相手の顔の前に出現させてぶつけた方が効果的だと思うんだが、初見ではあの目潰しのお湯は師匠のおっさんにも通用したし。
2度目からは察知されたが、それはあのおっさんがおかしいんだよ。
遠くから放たれる時速100キロの炎の塊……誰が当たるんだろう?
魔法を躱して、”霞段”の構えをとる。
両肩に杖載せ両手で左右にテンションをかける。
兄ちゃんは「なめやがって」と叫びながら近づいてくる。
左手を外すと弾かれたように放たれた杖を右手で打ち込み、すかさず左手で絞る。
8の字を描いたそれは受け止めようとかざされた剣をすり抜けるように眉間を打ち抜いた。
兄ちゃんは崩れ落ちる。
手加減したから大丈夫だと思うが念のため近づき、首筋で脈と手首をつかんで体内検査魔法をかける。
――問題……ありだな。
脳が真っ黒に濁っているようだ。
なんだ? ……これ? その場所の嫌悪感が凄い。
――――すると。
シュバインの頭から真っ黒なドットが飛び出てくる。無数に。
1円玉程度の大きさでペラッペラだ。
影みたいに艶がなく、だが輪郭ははっきりしている。
そして――それらが俺に向かって音もなく飛んできた。
良い予感がしない。俺は吹き飛ぶような速度で距離を取る。
右左に避ける。
前転して躱しそのまま逃げる。
杖をドットに振るったが手応えはない。
しかも振るった杖にドットがペタペタと貼りつく。
それによりミスリル製の白金のそれは鈍色に変わり光沢が消えてゆく。
防御と面攻撃を見込んでアイテムボックスから楯を取り出しぶちかます。
こちらにもペタペタと貼りつき楯が艶消しにかわる。
俺は動きやすいように杖を手首のアイテムボックスへ仕舞った。
それが見えなくなると同時にホコリでも払うようにドットが弾かれ広がる。そして再び舞いただよう。
近づいてくるドットを楯に張り付けながら、魔法で攻撃する。
……魔法は有効のようだ。
炎魔法、光魔法を使うと紙みたいにメラメラ光って消えてゆく。
100程のドットはアニメの蜂の大群のような動きで追ってきていたが、徐々に数を減らした。
全てのドットが消え辺りが見渡せるようになると俺は黒に近い色になり、変わり果てた楯を地面に置いた。
兄ちゃんの連れが闘技場に入って来ているのは気付いていた。
何か出来る余裕はなかったが。
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